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第二十章 王都の民の憩いの場を造ったよ

第702話 天井の装飾にしては変だと思ったよ…

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 冒険者ギルド『カゲベー会』の地下、総帥チープンがコソコソ隠れていると言う地下宮殿に踏み込んだら。
 何と、そこにいたチープンも影武者だったよ。
 内偵に入っていたチランの情報が外れて途方に暮れていたら、意外なところから情報提供があったの。
 地下宮殿に捕らわれていた女給さんが、チープンらしき人物を目撃したと言うの。
 宮殿の奥にあるトイレ、その掃除用具入れから出てきたんだって。

 早速、そこへ行って壁を壊してみると、そこには更に地下に続く階段があったの。
 真っ暗な空間に『妖精の宝珠』を浮かべると、階段はそう長くは無いことが分かったよ。
 普通の建物一階分くらい降りたところで、横穴が伸びていた。

 階段を降りたところにある横穴は、逃亡用の通路かと思わせる狭い通路だった。

「チープンって普段からこんな狭い通路を使っているんだ。
 地下宮殿を見る限り、もっと広くて高価な彫刻とかを飾ってある廊下を想像してたんだけど。」

 地下宮殿の廊下は広々としていて、彫刻やら壺やらが両脇に飾ってあったからね。

「いや、チープンの用心深い性格が表れているんだろうな。
 敵対する勢力から襲撃を受けた時に、敵が大挙して押し寄せるのを防ぐためだろう。
 天井が低いのも剣を振るうことが出来ないようにだと思うぞ。」

 先頭を歩く父ちゃんはそんな推測を口にすると、廊下に罠が仕掛けてないか用心深く探っていたよ。
 いかな用心深いチープンでも、普段自分が通り道に使っている廊下に罠は仕掛けないようで。
 注意しながらしばらく進むと、重厚な木製の扉に突き当たったんだ。

 父ちゃんが毒針など仕込まれていないことを確認してドアノブを回すと、施錠はされておらずあっけなく扉が開いたの。
 扉を開けるといきなり眩い光が目に飛び込んできたよ。そこは金ぴかの空間だった。
 さして狭くないその部屋の壁には彫刻による複雑な装飾がなされ、そこに金箔が張られてたんだ。
 部屋の至る所になされた金箔張りの装飾が、ランプの光を反射してキラキラと輝きを放っていたの。

 そんな派手な装飾がなされた部屋の一番奥に置かれた重厚な机。
 そこにこの部屋の主と思しき一人の老人を見つけたよ。
 その机に足を放り出して椅子にふんぞり返った老人は、横柄な態度でこちらを睨んでた。

「お前らはいったい何者だ。ノックもせずに失礼な者共だ。
 ここが誰の部屋か分かっているのだろうな。」

 蛇のような執念深さを感じさせる目をこちらに向けて、不機嫌そうな口調でおいら達を誰何する老人。

「俺は、冒険者管理局長のモリィシーだ。
 お前はカゲベー会総帥のチープンで間違いないな。」

「おお、俺がここの総帥チープンだ。
 管理局の者がこの俺に何の用だ。
 俺は管理局に踏み込まれるようなことをした覚えはないぞ。」

 父ちゃんが冒険者管理局の局長だと聞いても、チープンには全く臆した様子は見られなかったよ。
 それどころか、やましい覚えは無いとまで言い張ったの。
 いや、あの言い方はやましい覚えが無いんじゃなくて、尻尾を掴まれるようなドジを踏んだ覚えはないってことかな。

「そいつは残念だったな。
 カゲベー会が経営する『メンズサロン・ワグネール』、風俗営業法違反の現行犯で摘発したぜ。
 ついでに摘発中に、人身売買と禁止薬物の取引の証拠も掴んだ。
 二年前に出された冒険者ギルドの管理に掛かる勅令は知っているだろうな。
 冒険者ギルドの犯した犯罪は、ギルド代表者にも連帯責任を問うことになっている。
 取り敢えずは風俗営業法違反の現行犯で捕縛させてもらうぜ。」

 父ちゃんがここへやって来た目的を告げると。

「さて、何の事だろうか? 
 このギルドじゃ、『メンズサロン・ワグネール』なんて店は経営してないが。
 何処か他のギルドの間違いではないか?
 それとも、俺に言い掛かりを付けて金でもせびろうと言うのか?」

 しゃあしゃあとシラを切るチープン。うん、チランから聞かされたイメージ通りの人物だよ。
 例え証拠があっても、知らぬ存ぜぬで通すふてぶてしさがね。

「やだな~、そんなシラを切らなくても良いじゃん。
 俺っち、『メンズサロン・ワグネール』で働いてたんだぜ~。
 三ヵ月連続指名トップ、売上トップの二冠を収めてこの本部に呼ばれたし~。
 支配人のプリジーゴンから手渡しで、金一封もらったし~。」

 そう言いながら、チランは懐から布製の巾着袋を取り出したの。
 その巾着袋には『チープン総帥賞』って記されたタグが縫い付けられてた。
 ご丁寧にもタグは金糸で縁取られていて、金一封が総帥からのモノだと印象付けてるようだった。

 それを目にして、チープン一瞬だけ忌々しげ表情を見せたよ。
 だけど直ぐに何事も無かったかのような表情を取り戻すと。

「何か、誤解があるようだな。
 まあ、良い。立ち話もなんだ。
 部屋に立ち入ることを許可する故、腰を落ち着けて話そうではないか。」

 この期に及んで部屋に立ち入ることを許可するだなどと、不遜な態度を改めようとしないチープン。
 部屋の奥、向かって左側に置いてあるテーブルにおいら達を招いたんだ。

         **********

 部屋に入ってテーブルに着席するように促されたおいら達だけど。

「なあ、マロン、お前、大砲って武器の弾を持っていただろう。
 今持っているなら、出してもらえないか。
 一つ、一つ、俺が手を出したら、手のひらに載せてくれ。」

 父ちゃんがそんな指示と共に、おいらの目の前に手のひらを上にして腕を差し出したの。

「うん、持っているよ。
 全部地金にしようかと思ったんだけど、漬物石に丁度良かったから幾つか取っておいたの。」

 父ちゃんの指示通り、大砲の弾を差し出すと…。

「どりゃっ!」

 父ちゃんはチープンが背にする壁の招かれたテーブルの辺りを狙って大砲の弾を力任せに投げつけたの。
 レベル四十を超える父ちゃんの腕力で投擲された弾丸は風切り音を上げて飛んで行き…。

 ドガシャーン!

 大きな破砕音を上げて壁の一部を粉砕したよ。

「おい、こら、何をするんだ!
 やめろ、やめるんだ!」

 父ちゃんの突然の暴挙にさしものチープンも血相を変えて文句を言ってたよ。
 そんなチープンの抗議を無視して、父ちゃんは再びおいらの目の前に手のひらを差し出して弾を要求したの。
 弾を受け取った父ちゃんはまた同じ壁を目掛けて弾を放り投げ、それを何度か繰り返したんだ。

 部屋の中に何度も破砕音が響くと、その度に壁が粉砕され部屋の中に埃が舞ったんだ。
 父ちゃんが投擲を止めた時には、チープンが背にした壁と両脇の壁は粉砕されて壁の向こう側が剥き出しになってたよ。
 
「えっ、壁の裏側に空間があったの?」

 部屋の中には扉の一つも無いのに、隣に空間があるなんて予想もしなかったよ。
 しかも、良く目を凝らすと壁の向こうの部屋には長い槍らしきものが大量に転がってたの。

「絡繰り仕掛けの槍衾とは恐れ入ったぜ。
 俺はてっきり、刺客を潜ませていると思っていたんだが。
 考えてみれば、部下を誰一人信用してないお前が得物を持った人間を側に置く訳ないか。」

 どうやら、隣の部屋にある槍はバネ仕掛けで一斉に飛び出して来る仕組みになっているらしい。
 侵入者対策として設置してあったようだね。
 
 隠し部屋に用心棒を潜めておくのはギルドの親玉が良く使う手だと、父ちゃんは言ったの。
 用心深いチープンがやらないはずが無いと予想していたみたい。

「まっ、まて、話し合おうじゃないか。
 なあ、話せばわかるから。」

 さしものチープンも虎の子の絡繰りを台無しにされて自分の不利を悟ったらしい。
 手のひらを返すように、強気な姿勢を改めたよ。

「そうだな、話しはゆっくり聞かせてもらうぜ。
 但し、騎士団の詰め所でな。
 よし、あの野郎を捕縛するぞ。
 暗器を持っているかも知れんから、みんな気を付けろよ。」 

 もう大きな障害は無いと判断したのか、父ちゃんは部屋に踏み込むことにしたんだ。

        **********

 迂闊に近寄って反撃されないように慎重にチープンに近付く父ちゃんと指揮下の騎士達。
 おいらも部屋に足を踏み入れたんだけど、その時、違和感を感じたの。
 チープンのいる部屋は廊下とは打って変わって、地下空間とは思えないくらい天井が高かったんだ。
 確か、父ちゃんは言ってた。侵入者が剣を振り回せないように廊下の天井を低くしているんだろうって。

 ならば、この部屋だって天井が低くても良いはずなのに。
 そう思って天井を見上げると、ランプの灯りは天井までは届かず薄暗くて良く見えなかったんだ。
 それでも、良く目を凝らして見ていると天井に不思議な装飾があるのが見えたよ。

 天井にびっしり生えた円錐状の突起物、何であんなものがと思っていると。

「ふふふ、馬鹿め。
 アレで終わりだと思うなんて浅はかな。
 この部屋に汚い足を踏み入れた自分の愚を呪うのだな。」

 おいら達の全員が部屋に入ったことを確認すると、チープンは勝ち誇ったように声を上げたの。
 すると、天井が凄い勢いで落ちて来たよ。
 この時、父ちゃんを含めておいら以外の全員が天井の落下に気付いていなかったんだ。

 父ちゃんなんて、「何を言ってんだこいつ?」みたいな怪訝な顔をしてたよ。

 でも、おいら、それを知らせる事なく、無言で降って来る天井を『積載庫』に収めたの。
 天井が降って来るなんて言ったら、みんな、パニックを起こすかも知れないからね。
 その間にチープンを取り逃がすことになったら困るもん。

「うん? お前、一体何を企んでいるんだ?」

 何も起こらないことに、ますます怪訝な顔になって尋ねる父ちゃん。

「げっ、天井は何処へ行った!
 大枚叩いて人間など一たまりも無い重さの吊り天井を作らせたのに。」

 何時まで待っても振ってこない天井に、痺れを切らして天井を見上げたチープンはアゴが外れんばかりに驚いてた。
 どうやら人を殺すには天上の重みだけで十分らしい。円錐状の突起はより確実にるためにあるのかな?

        **********

「残念だったね。吊り天井はおいらが処分させて貰ったよ。
 父ちゃん、チープンの奥の手はおいらが封じたから安心して。
 もう、そいつには抵抗する手段はないだろうから捕まえちゃって。」

 その場にいる全員が状況を理解できずに呆然としてたので、おいらは父ちゃんに声を掛けたの。

「何だかわからんが、どうやらマロンの手を煩わせたようだな。
 よし、そいつを捕縛しろ。」

 父ちゃんはおいらの言葉を全面的に信用してくれて、チープンの捕縛を命じたんだ。

「ふふふ、これで終わりだと思うなよ。
 お前らには絶対に復讐してやるからな。
 月夜の晩ばかりだとは思わないことだ。
 サラバダー!」

 復讐って、闇討ちと決まっているんだね。さすが、陰に隠れてゲバ棒振るう無頼者(K・G・B)だよ。
 それはともかく、チープンは捨て台詞を吐くと忽然と消えたんだ。

 父ちゃんが慌てて近付くと、チープンが座っていた椅子の下には滑り台のようなスロープがあったの。
 どうやらチープンの座る椅子はソリのようにスロープを滑走する仕組みになっていたらしい。
 ホント、どこまで用心深いんだか…。

「しまった、早く追わないと!」

 焦ってスロープに飛び込もうとする父ちゃん。
 そんな父ちゃんにおいらは。

「待って、父ちゃん。
 もう追いかけっこは止めようよ。
 ここでヤツを取り逃がす訳にはいかないから。
 おいらが決着をつけるよ。」

 スロープに入ろうとする父ちゃんを制止すると、その抜け道に向けて。

「おい、マロン、それじゃ奴は助からんぞ。」

「どうせ、死罪なんだからかまわないよ。
 それより、逃げられたらことだもの。
 あいつ、蛇のように執念深いみたいだから。
 逃がしたら絶対に報復してくるよ。
 ミンミン姉ちゃんやミンメイが狙われるかも知れないし。」

 おいらはスロープに向かって『積載庫』に溜め込んであった海水をぶちまけたの。
 凄い勢いで海水は吸い込まれていき、ソリくらいの速さならあっという間に飲み込むと思うんだ。
 しばらく海水を流し込んでいると、程なくしてスロープの入り口まで水で満たされたよ。

 しばらく様子を見て、入り口の水位変化から抜け道全体が海水で満たされたのを確認すると。
 おいらはスロープ状の穴の入り口を塞いだんだ。
 絶対に退かせないように、積載庫から出した吊り天井を置いたよ。

 確実に仕留めるため、そのまま一週間ほど放置して…。

「あったよ。水死体が一つ。
 積載庫の説明にはこう書かれている。」

『水死体。生前チープン(本物)と名乗った者の遺体。死後約一週間。』

 おいらが積載庫の情報をそのまま紙に書き出すと。

「どうやら、これで一件落着のようだな。
 カッコイイところを見せると意気込んだのに。
 最後にはマロンの手を煩わせてすまなかったな。」

 父ちゃんが面目なさそうに言ってたよ。

「そんなことはないよ。戦斧を振り回す父ちゃん、格好良かったし。
 最後はチープンが想像以上に姑息だっただけだよ。
 それに手間と言っても、『積載庫』に溜めてあった海水を注ぎ込んだだけだし。」

 その日、チープンの抜け道を満たした海水を全部抜いたんだ。
 その際、海水に浮かんでいるモノ、沈んでいるモノも全て回収するようにと念じたの。
 おいらの予想通り水死体が一つ積載庫に収められたよ。

 おいらが有無を言わさず海水をぶち込んだものだから。隠し部屋に女の人でも監禁されてたらと父ちゃんが心配したけど。
 おいらは絶対にチープン以外はいないと確信してたの。
 だって、最後の逃走経路だもの。
 人間不信のチープンが他人に教えたり、ましてや他人を入れたりする訳がないじゃない。

 チープンは押し寄せた海水になす術もなく溺れ死んだみたいだった。

 それと、今回も余禄があったよ。
 チープンの奴、地下の抜け道に逃走用の資金をたんまりため込んでいたんだ。
 銀貨にして十万枚以上。
 そんな重量物を持って歩けるはずないんだけど、大方、ほとぼりが冷めたら回収しにくる腹積もりだったんだろうね。

 もちろん、その銀貨はおいらの積載庫の肥やしになっているよ。 
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