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第二十章 王都の民の憩いの場を造ったよ

第698話 文明の利器をそんなことに使うなんて…

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 次に連れて来られたのは、『新開地レジャーランド無料案内所』と看板が掲げられた部屋だった。
 開業は明日だと言うのに、その部屋はお客さんでごった返していたよ。
 ホント、この人達、こんなところで仕事をサボっていて良いんだろうか。何度も言うようだけど、まだ真っ昼間なんだよ。

 街路に面した入り口を入ると、『ご案内』と記されたバッチを着けたお姉さんが立っていたよ。
 丁度、そこへお客さんが一人入って来て…。

「よう、姉ちゃん、店の予約を取るにはどうすりゃ良いんだ?」

 案内係のお姉さんに尋ねたの。

「はい、ご利用のお店、ご指名の女の子がお決まりでしたら。
 こちらの番号札を持って、一番から五番までのご予約カウンターの近くでお待ちください。
 順番にお呼びしています。
 まだお決まりで無いのなら、予約カウンター横に各お店のパンフレットがございます。
 ご自由にお手に取って、お好みに合ったお店、女の子をお探しください。
 お決まりになりましたら、こちらで番号札を取ってお待ちください。
 また、花街のご利用経験の浅い方向けにご案内窓口もございますので。
 総合案内一から五の空いている窓口にお気軽にご相談ください。
 そちらでご希望されるサービスや好みの女性のタイプをお伝え頂ければ。
 ご要望に沿った候補を多数ご案内できるかと思います。」

 笑顔で対応した案内係のお姉さんは、すぐ横にある番号札置き場、それぞれのカウンターを指差して丁寧に説明してた。

「おう、手間取らして悪かったな。
 良く分かったぜ、この番号札を取ってあの辺に座ってりゃいいんだな。」

 お客さんは馴染みのお店がある様子で、番号札を取ると予約カウンターの方に歩いて行ったよ。
 今の説明を聞いて改めて広い部屋の中を見渡すと。
 スペースの大部分を占める長椅子では、お客さんが熱心に冊子を見ていたよ。

「ここには全てのお店のパンフレットが備え付けてあるの。
 それぞれの冊子にはお店のサービス内容やアピールポイントが書かれていて。
 詳しい料金表と在籍する女の子の写真とプロフィールも載っているの。
 女の子がお客様に個別のサービスを提供するお店では、気に入った娘の指名予約もできるわ。」

 そんな説明と共に、一冊のパンフレットを手に取ってシフォン姉ちゃんが手渡してくれたの。
 それは『きゃんぎゃるカフェ』のパンフレットでシフォン姉ちゃんの言葉通りの内容が記載されたいたよ。
 在籍する女給さんの紹介ページでは、一ページに四人、顔写真と名前、出勤日などが書かれていた。
 この店はお客さん毎に女給さんが付く訳では無いので、指名は受け付けていないんだって。
 ただし、プロフィール欄に『店外デート』オプションの諾否だけはしっかり記されていたよ。

「さっきも尋ねたけど、予約ってどうやっているの?
 重複予約をやったらお客さんもお店も困っちゃうでしょう。」

 ここでも指名予約を受け付けると言うから、再度尋ねると。

「そうね、そっちを最初に見て貰いましょうか。」

 シフォン姉ちゃんはそう言って、予約カウンターの背後にある衝立の後ろに連れて行ってくれたの。

       **********

 すると。

「本部、応答願います。こちら、港支部リンゴです。予約の空き状況、照会をお願いします。」

 いきなり机の上に置かれた縦長の四角い箱から声が聞こえて来たの。
 すると、待機していたギルド職員のお姉さんがそれを手に取り、上部を耳に掛かるように構えると。

「はい、こちら本部。照会お受けします。どうぞ。」

「ファーストレディー、ナギサさん、明日、最終からオール。空いていますか?」

 そんな会話を始めたんだ。

「ファーストレディー、ナギサさんですね。お調べします。」

 お姉さんは四角い箱を手にしたまま、表紙にファーストレディー予約管理簿と書かれた台帳を持ってきて。

「ファーストレディー、ナギサさん、明日、最終からオールナイト、お受けできます。
 ただし、ナギサさんはNプレがNGになっています。
 その旨、お客様のご了承は取れていますか?」
 
「はい、予めNGプレイについてはご説明し、ご了解を得ています。
 明日、最終からオールでご予約を入れてください。
 お客様のお名前と会員番号は…。」

「承知しました。
 確認致します。
 ファーストレディー、ナギサさんで、明日、最終からオールナイト。
 この内容でご予約をお受けします。
 照会係アンズがお受けしました。」

「はい、予約内容は間違いございません。
 よろしくお願いします。」

 照会係のアンズさんは、台帳の明日の予約ページに何やら書き込んでたよ。
 覗き込むと、ナギサさんのタイムスケジュールの欄の予約した時間帯を塗り潰してた。
 その予約台帳は一日毎に一ページになっていて、その日出勤するお姉さんの名前が縦に並べられてた。
 お姉さん一人一人について、営業開始から終了時間まで一本の帯になってて予約の入った時間を黒く塗り潰す仕組みになっているみたい。
 それとは別に予約受付票と書かれた用紙に、お客さんの名前と会員番号、そして予約の内容を書き込んでいたよ。
 予約受付票って紙は、別のお姉さんの所に持って行ってた。

 その様子を見ながら、おいらはシフォン姉ちゃんに尋ねたの。

「ねえ、あの声が出る箱はなに?
 最初に港支部とか言ってたけど。」

 声が出る箱なんて初めて見たよ、アレはいったい…。

「あれが、秘密兵器第二弾よ。
 離れた場所にいる人と会話が出来る機械。
 あれもマリアさんから融通してもらったの。
 無線機とか、トランシーバーとか言ってたわ。」

 離れている場所の人と会話出来る便利な機械だそうで、マリアさんの住んでいた研究所に大量に備蓄されていたそうだよ。
 なんでも、都会から離れた丘陵地帯にあった研究所は緊急時には避難所になる想定だったそうで。
 緊急時に必要となる物資が大量に備蓄されていたらしい。
 そういえば、エアマットの時もそんなことを言ってたね。

 そんな訳で、ひまわり会の本部と港の武器預り所、それにひまわり会の直営店に無線機を置いてリアルタイムで予約状況を把握できるようにしているんだって。

「でも、この事務所で直営店以外の予約も受け付けているんだよね。
 それはどうしているの? そこにもトランシーバーを置いているの?」

「そんな訳ないじゃない。
 台数が限られている貴重な機械よ。
 信頼できる人にしか預けられないわ。
 レジャーランドの中にひまわり会の事務所があるから。
 そこの事務員がトランシーバーを持って駆け回るのよ。」

 今日の段階では『新開地レジャーランド』はまだ開業前なので、この事務所で一括して予約の管理ができるらしの。
 テナントとして入居するお店は、どこも一週間くらい前から引っ越しのため休業してるそうで。
 休業中の予約受付をこの事務所に委託してもらったそうなんだ。

 そして明日以降だけど、テナントのお店の予約希望が入るとレジャーランド内の支部に無線で連絡し。
 事務所職員は無線機を抱えてすぐにそのお店を訪ね、予約の可否を尋ねるらしいの。
 お店の返事を聞いたら、その場で無線機を使って予約の諾否を伝えるんだって。
 それを見越して、テナントが多い区画のど真ん中に事務所を開設したらしいよ
 一番遠い店でも、お客さんに予約の可否を伝えるのに五分程度の待ち時間で済むようにしたみたい。

 凄いとは思うけど…。それ、何百年も進んだ惑星テルルの技術で作られた貴重な機械だよね。
 色街の指名予約を入れるためなんかに使っちゃって良いのかな。

        **********

 その後、おいら達は実際に予約を受け付けている様子を眺めてみたんだ。

 丁度、予約カウンターの一つでは。

「この『リフレッシュサロン』って商売は、今まで聞いたことが無いだが。
 どんなことして貰えるんだい。
 ぶっちゃけ、この店は抜いてもらえるんかい?
 このプチトマトちゃんに抜いてもらえるものなら予約したいんだが。」

 お客さんが冊子のページを指し示しながら尋ねてた。
 どうやら写真を見て気に入った娘さんがいたようで、希望のサービスが受けられるのかを質問してたよ。
 お客さんの問い掛けに、受付のお姉さんは顔を赤らめ…。

「そちらのお店、基本サービスは肩や腕、腰や足などのマッサージとなっていますが。
 それ以上のサービスをご希望されるお客様のために各種オプションをご用意しております。
 ただし、コンパニオン毎にお受けできるオプションが異なっておりまして。
 プロフィール欄にNGと記載のあるオプションはお受けできませんのでご了承ください。」

 恥ずかしそうに、オプションについては自分の口からは説明致しかねると言い。
 お客さんが手にしている冊子の中に詳しい説明があるので、それを読んで欲しいと伝えてた。

「悪かったぜ。若い娘さんには口にし難いことを聞いちまったな。
 細かい文字を読むのは苦手なんで、つい読み飛ばしちまったぜ。
 これがオプションってやつか…。
 なるほど、オプションを付ければ抜けるんか…。
 銀貨五枚はイマイチだけど、銀貨十枚はまあこんなもんか…。
 うん? 銀貨五十枚? いやに高いが…。
 って、おい、こんなこと本当に出来るんか?」

 すると、受付のお姉さんはプチトマトさんのプロフィール欄を指差して。

「はい、オプションリストに記載がある以上可能かと。
 プチトマトさんはNGプレイ無しと登録されていますので。」

「そりゃ、凄いや! 是非、お相手してみたいもんだぜ。
 明日開業だろう、開店一番のプチトマトちゃんを予約したんだが。
 まだ空いているかい?」

 そのオプションが余程お気に召したのか、お客さんは身を乗り出すように開店一番の予約を希望したんだ。
 その様子に受付のお姉さんはドン引きしてたけど…。
 気を取り直して衝立の後ろから例の予約台帳を持って来たよ。

「開店一番であれば、ご予約がお取りできます。
 ただ…、よろしいのですか? 開店一番は正午でございますが…。
 ちなみに、プチトマトさん、人気の様子で。
 夕方以降の時間帯は一週間先までご予約がお取りできません。」

 まあ、普通の人なら仕事中だものね。お姉さんが念入りに確認するのはもっともだと思うよ。

「おうよ、仕事なんてほっぽり出しても来るぜ。
 じゃあついでに、開店一番から夕方予約が入っている時間までの延長も頼んでおくぜ。
 ゆっくり、ご奉仕して欲しいからな。
 それとオプション、これとこれを頼むぜ。 全部で幾らになる?」

「はい、基本料金が三十分銀貨十枚で、延長が三十分毎に銀貨十枚ですから。
 三時間延長で銀貨七十枚。
 それにオプションが銀貨十枚と銀貨五十枚で、合計銀貨百三十枚となります。
 よろしいでしょうか?」

 銀貨百三十枚って、それだけあれば一家四人の一月分の生活費になるよ…。
 昼から仕事もせずに、色街でそんな大判振る舞いして本当に大丈夫なの。

「おお、銀貨百三十枚な。わかったぜ、キッチリ用意しておくから。
 予約を入れてくれ。」

「承知しました。では、会員証をお預かりします。
 会員番号…。」

 お姉さんは会員証の提示を受けると、予約受付票に会員番号と名前を記入し。

「『リフレッシュサロン』のプチトマトさん。
 明日正午の開店から午後四時半までご予約を受け付けいたしました。
 無断キャンセルは違約金として代金全額を申し受けしますのでご注意ください。
 では、明日のご来店をお待ちしております。」

「キャンセルなんて勿体ないことしねえよ。
 開店初日の一番に、可愛い娘とあんなことが出来るんだからな。
 銀貨百三十枚なんて安いもんだぜ。」

 お客さんは余程明日が楽しみなのか、足取りも軽く立ち去って行ったよ。

 その後も予約カウンターではお客さんが途切れることは無く、予約がどんどん埋まって行ったよ。
 『新開地レジャーランド』、もしかしたら王都の名所になるかも知れないね。
 
 そうそう、こんな会話も聞こえて来たよ。

「何だって? 年間パスポート売り切れだって?
 やっと、銀貨千二百枚かき集めて来たんだぞ。」

「申し訳ございません。
 『ミュージックホール』の年間パスポートはご好評を頂きまして。
 想定外のお申し込みとなってしまいました。
 余りに人数が多いと、マル秘特典が会員様全員に行き渡らないと言うことで。
 昨日告知しました通り、急遽定員を二百名様とさせて頂いたところです。
 現時点で、既に定員を超えてしまいまして…。」

「ちくしょう、一歩遅かったか…。」

 昨日、おいらがそんなモノを買う物好きが居るのかと言った年間パスポートだけど。
 売れ行き余りに好調なため定員を設けたそうで、昨日それを告知板に貼り出したんだって。
 そしたら駆け込みで申し込みが殺到したそうなの、五十ほどあった残枠が今日の数時間で完売したって。

 銀貨千二百枚詰まった布袋をぶら下げて来たお客さんは、お目当ての物が売り切れと聞いて項垂れてた。
 しかし、何であんなものを欲しがるんだろう。 マル秘特典って、ホント、謎だよ…。
   
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