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第二十章 王都の民の憩いの場を造ったよ

第694話 シフォン姉ちゃん、よくもまあ色々と考え付いたよ…

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 『きゃんぎゃるカフェ』の視察を終えて大通りにでてくると…。
 入る時には気付かなかったけど、壁に求人ポスターが貼ってあったよ。

『オシャレな制服を着て楽しく働きませんか。
 好きな時間に出勤して、一時間から自由に働けます。
 簡単な接客のお仕事で、時給銀貨二枚。
 十五歳から二十歳までの女の子ならどなたでもOK。
 応募及びお問い合わせは冒険者ギルドひまわり会で受け付けています。
 気軽に応募してくださいね。』

 隅っこに描かれた可愛い二頭身のちびキャラ女給が、そんなことを言ってるポスターだった。
 時給銀貨二枚が売りなのか、その部分だけ太文字で記されていたよ。
 いや、おシャレな服って、アレ、ほとんど隠せてないじゃん…。

「ねえ、これって大丈夫なの?
 これって、にっぽん爺が若い頃にしたことを真似ているんでしょう。
 トアール国の王都は、風紀が乱れて大変なことになったって聞いたよ。
 おいらのお膝元で問題を起こしてもらったら困るよ。」

 トアール国の王都では、平民から貴族に至るまで若い娘さんの貞操観念が崩壊して大混乱になったって。
 特に子女に貞淑を求める貴族達の間では、婚約解消が頻発したり、嫁の貰い手の無い子女が続出したそうだよ。

「マロンちゃんに迷惑は掛けないわ。
 その点は対策を講じているから心配無用よ。
 後で説明するね。
 そもそも、王都の風紀を維持するために、そういうお店をここに集めたのよ。
 お爺ちゃんが招いたような事態になったら、本末転倒だもん。」

 シフォン姉ちゃんは言ってたよ。
 この一画は色街として隔離してるのだから、王都に居を構える家のお嬢さんが立ち入れる訳がないって。
 門を潜って中に入るところを顔見知りに目撃されようものなら、あっという間に噂になっちゃうし。
 それと同時に家族の耳にも届いちゃうから。

 ここの求人に応募してくるのは、王都に身寄りのない女性だけだって。
 特に先日捕縛した『パパ活』娘達みたいな、何のアテも無く田舎を飛び出して来たチャランポランな娘さん。
 放って置くと悪い人の食い物にされ、悲惨な目に遭う恐れがあるからここで働いてもらうつもりだって。 
 
「マロンちゃんは気付いて無いかも知れないけど。
 この半年間でも、結構な人数の若い娘さんがアテも無く田舎を飛び出してきてるのよ。
 私、『パパ活』娘ちゃん達を預かってから、直ぐに駅馬車の停留所前に求人をポスターを張ったの。
 良からぬことに手を出す前に、こちらで保護しようと思ってね。」

 半年前に『新開地レジャーランド』構想に着手したと同時に、働いてくれる娘さん達を集めに掛かったそうだよ。
 もっぱら王都への憧れだけでなんのアテも無くやって来た娘さん達を中心にね。
 チャランポランな娘さん達が給金に釣られて応募してきたそうで、想定したより沢山採用しちゃったそうだよ。
 その人数は百人を超えちゃったそうで、売り上げが無いのにその数の娘さん達を養うのは大変だったって。
 まあ、それなりに研修は出来たみたいだけど。

         **********

 『きゃんぎゃるカフェ』の視察を終えたおいら達は中央通りを半島の先端に向かって進んだの。 

「基本、この街区は門に近い方がライトなお店になっていて。
 手頃なお金で、比較的健全なお遊びが出来るようになっているの。
 半島の先端に向かって進むほど、予算が高くなってディープなサービスが受けられるのよ。」

 シフォン姉ちゃんは大まか店の配置の規則性について説明してくれたよ。
 最初は手頃な娯楽と言うことで、きゃんぎゃるカフェの隣に店に案内されたんだ。

 そのお店の入り口には『新開地ミュージックホール』という看板が掲げられていたよ。

「ミュージックホール?
 聞き覚えの無いお店だけど、どんなことをしているの。」

「うーん? しいて言うなら劇場かな?
 踊り子さんが音楽に合わせて踊る? みたいな?」

 いや、何で自分が企画したお店の事業内容が疑問形なの…。
 でも劇場か、それなら入り口に掲げられた料金表が観賞料になっているのも納得だよ。
 観賞料一公演銀貨三枚だって。
 耳長族のお姉さんが組んだ楽団の定期公演のチケットが銀貨五枚らしいから、銀貨三枚なら安いのかな。
 でも…。

「一公演銀貨三枚ってのは良いけど…。
 この年間パスポート銀貨千二百枚ってのはおかしいんじゃない。
 こういうのって年間で買えばお得ってのが売りでしょう。
 これじゃ、買う人いないんじゃない?」

 パスポートを買わずに毎日公演を観に来ても、銀貨千百枚にならない計算なんだ。
 何が悲しくて千二百枚もするパスを買わないといけないんだよ。

「ちっ、ちっ、良く見てよ。
 ここに書いてあるでしょうマル秘特典付きって。
 特典目当てで買う人が結構いると思うわよ。」

 シフォン姉ちゃんが指差す先を見ると確かに小さくマル秘特典付きと記されているよ。
 その横には年間パスポートの購入、特典の詳細については、ひまわり会までお問い合わせくださいと注書きされてた。

「ねえ、マル秘特典って?」

「それは、ナイショ。 だから、マル秘なの。」

 シフォン姉ちゃんはおいらの質問に答えずに、建物の中に入って行ったよ。
 ショーを行うホールは一つしかなくって、それが不思議な形をしていたんだ。
 劇場と聞いて『STD四十八』が剣舞を舞うような舞台を想像していたんだけど。

 そのホールの舞台は奥の方から半島状に突き出していて先端部分が円形の舞台になっているの。
 観客席は粗末なベンチシートで、円形の舞台を取り巻くように配置されてたよ。

「何か、狭い舞台だね。
 大人四、五人乗るのがやっとだよ。
 ここで踊るんだと一人が精一杯だと思う。
 『STD四十八』の剣舞みたいな踊りは出来ないね。」

「良いのよ、ここで踊る踊り子さんは基本一人だから。
 若くて色っぽい踊り子さんが、殿方の目を楽しませるの。
 基本、専属の踊り子さんがショーを披露するんだけど。
 毎回、同じ踊り子さんだとお客さんに飽きられちゃうでしょう。
 そこで、この街のお店で働く新人さんのお披露目もすることになっているの。
 広く顔を知ってもらば、ご指名も付き易くなるから。」

 この劇場が専属で雇っている踊り子さんがローテーションでショーを披露するそうなんだけど。
 それと同時にこの劇場は『新開地レジャーランド』で働くお姉さん達の宣伝広告の場にもなるらしい。
 新人さんを中心に、お店の方から出演させて欲しいと希望のあったお姉さんに踊ってもらうんだって。

「ふーん。でも、にわか仕込みで踊りなんて披露できるの?」

「良いのよ。
 お客さんだって、誰も踊りなんて期待してないから。
 新人さんの品定めをするのがお客さんの目的だもの。
 踊りの代わりに、サービスの一端を披露してもらうことにしてるわ。
 そのお相手となる権利が、マル秘特…。
 あっ、いや、何でもない。忘れて。」

 シフォン姉ちゃんは何か言い掛けて、言葉を切っちゃった。
 とにかく、売れっ娘にしたい新人さんをお披露目する場として、この劇場を確立させたそうなんだ。
 最初はひまわり会が経営する風呂屋から率先して、踊り子さんを出す予定にしているんだって。

        **********

 そして、更に中央通りを奥に進み…。

 今度は『リフレッシュサロンひまわり』と看板が掲げられた店に来ている。
 入り口に掲げられた料金表には、『首、肩、腰、腕、脚のマッサージ三十分銀貨十枚』と記されていて。
 そこがマッサージのお店だってことは分かったよ。

 ただ、沢山オプションサービスが記されていて、おいらには理解不能な言葉ばかりだったよ。

「ねえ、延長料金三十分銀貨十枚ってのは納得だけど。
 このオプションって奴の値付けはどうなの?
 銀貨十枚から始まって一番高いのなんか銀貨五十枚もするよ。
 基本料金の五倍っていったいどんなオプションなの?
 しかも初めて目にする言葉ばかりだけど、お客さんは意味が分かるの?」

「ああ、まあ、マロンちゃんには聞き慣れない言葉かもね。
 遊び慣れている人には分かる言葉だからそれでいいの。
 それにオプションは、高いと思わないお客さんが選ぶのだから気にしなくて良いわ。
 高いと思う人は付けないから。」

 オプションの内容も分かる人だけ分かっていれば良いと言って教えてくれなかったよ。
 でも、おいら、これだけはツッコんだね。

「まあ、細かいことは聞かないことにするけど…。
 流石にこれは納得がいかないよ。
 同じオプションなのに、頭文字にNが付くと何で値段が倍もするの?」

 二段書きになっているオプションが幾つかあって、同じ品名なのに値段が倍も違うんだもの。

「ああ、それ、大人の事情なの。
 マロンちゃんも、大きくなれば分かるわ。」

 シフォン姉ちゃんはシレっとはぐらかしたよ。
 もうこの話はお終いって感じで、その後は取り合ってくれなかった。
 便利な言葉だね、『大人の事情』って。
 マッサージの施術室も見せてもらったけど、狭い部屋に狭いベッドが一つ置いてあるだけだった。
 そんな部屋が何十も並んでいたよ。

 その部屋の壁には禁止事項が大きな文字で書かれた貼り紙があり、違反したら出禁にすると記されてた。
 その横には。

『そこ!それは禁止です!
 このお店では、一線を越えるサービスは厳禁です!
 違反したらお仕置きですよ!
 ルールを守って楽しく遊びましょうね♡』

 可愛い二頭身のちびキャラ女の子がそう言って、貼り紙を見ている人を指差していたんだ。
 これって、どこかで聞いたことがあるような…。

       **********

 他にも『ハッスルサロン』とか言う時間制の飲み屋とか、初めて耳にするお店があったりして。
 半島の一番奥には、ひまわり会が経営する『風呂屋』が三件並んで建っていたの。
 三件はグレードが違うそうで一番手前が基本料金銀貨三十枚で、一番奥が基本料金銀貨百枚だって。
 それぞれの価格表にはオプションが記されていて、全部乗っけると一番安いお店でも銀貨百枚になるの。
 当然、一番奥の店なんて考えたくもない金額になっちゃうよ。

 シフォン姉ちゃん曰く。

「まあ、サービスがグレードによって違うのは当たり前だけど。
 最高級店は蒸し風呂じゃなくて、本当のお風呂があるのよ。
 だから、お爺ちゃんが『男女和合の極意』に記した技の全てが再現できるの。
 マリアさんが、本物のエアマットを提供してくれたし。」

 何と、ひまわり会の『風呂屋』は独自に浴槽付きのお風呂を造ったらしい。
 マリアさんが協力してくれたんだって。
 マリアさんの『積載庫』で真水と木炭を作ることで、コストを抑えて本物のお風呂を実現したって。
 ただし、マリアさんの負担を考慮して最高級店だけなんだって。

 シフォン姉ちゃんは店による差別化が出来て丁度良かったと言ってたよ。

 それと、マリアさんが大量のエアマットを惑星テルルから持ち込んでいたみたい。
 防災用品として研究所の地下倉庫に大量備蓄してあったそうだよ。
 マリアさんの『積載庫』の中に眠っていたんだって。
 辺境の街の『風呂屋』で使っているエアマットの話をしたら、もっと良い物があると言って提供してくれたらしい。

 それと、マリアさんがアルトに頼んで『サルナシトレント』の苗木を譲ってもらったそうだよ。
 『新開地レジャーランド』の開業に当たって、『ゴムの実』の『皮』を普及させるつもりみたい。
 『妖精の泉』の水で病気は予防できるけど、赤ちゃんが出来ないようにするには『皮』がいるからって。
 ヤバい依存性がある果肉の部分は絶対に外に出さないって条件で、アルトは苗木を譲ってくれたらしい。

 タロウの屋敷の裏庭で大量に栽培して、『ゴムの実』と『トレントの木炭』を大量に手当てしたんだって。
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