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第二十章 王都の民の憩いの場を造ったよ

第686話 酷いお父さんも居たものだ…

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 さて、家出娘の仮初めのパパになっていたことが奥さんにバレた男達だけど…。

「さあ、あんた、帰るわよ。
 今から覚悟しときなさい。
 帰ったら死んだ方がマシって目に遭わせてあげるからね。」

 旦那さんの耳を引っ張って家に連れ帰ろうとする奥さん。
 すると、その奥さんをこの部屋まで案内してきたひまわり会のお姉さんが。

「奥様、少々お待ちください。
 このお部屋、『宿泊プラン』の代金が既にお支払い済みとなっておりますが。
 お部屋に入られた後ですので、お客様のご都合による返金には応じかねます。
 ご予約のディナーコースも既に食材の手配済みですし、公演会のチケットも付いております。
 ここはご夫婦で『宿泊プラン』を楽しまれて行かれたら如何でしょうか?」

 代金を返せとごねられたら面倒だと思ったのか、先回りするようにそんなことを勧めたんだ。

「あら、そうなの?
 その『宿泊プラン』って幾らするのかしら?」

 奥さん、『宿泊プラン』の値段を知らない様子だったよ。
 奥さんがその質問を口にした時、旦那さん、ピクっと体を震わせて恐怖に怯える表情を見せてた。

 そんな旦那さんに、ひまわり会のお姉さんが忖度そんたくするはずも無く…。

「はい、三食その他諸々込みで、一泊銀貨二百枚頂戴しております。」

 ニッコリと営業スマイルを浮かべて答えるお姉さん。
 一方、それを聞いた奥さんは顔を真っ赤にして憤怒の形相を浮かべたよ。
 奥さんが怒るのも当然だよ。
 銀貨二百枚あれば四人家族で一月ひとつき贅沢な食事が出来るもの。
 それどころか、節約すれば四人家族がそれで生活できちゃう。

「あんた、私には服の一枚も買ってくれないってのに。
 月の物も来てないような小娘を、一晩買うのにそんな大枚叩いたんかい。
 日頃節約に気を配っている私の努力を無にしてくれるとは、良い度胸してるじゃないか。」

 奥さん、そう言ってマジで旦那さんの首を絞め始めたよ。
 自分の言葉で刃傷沙汰が起こったら拙いと思ったのか、ひまわり会のお姉さんは慌てて止めに入ってた。

「お客様、お怒りはごもっともですが。
 この場で暴力沙汰は困ります。どうか、お気を鎮めてください。
 ほら、あちらで陛下がご覧になっていますよ。」

 あっ、あのお姉さん、おいらをダシに使いやんの…。

「こりゃ、私としたことが…。
 つい頭に血が昇っちまってね。
 騒がせちまって、悪かったね。」

 奥さん、謝りながら旦那さんの首を絞めている手の力を緩めていたよ。

「それで如何なされますか?
 貸し切りの家族風呂もございますし。
 ゆっくりお湯に浸かれば気分も落ち着くのではございませんか。」

 ひまわり会のお姉さん、いきなり旦那の首をマジ絞めした奥さんにドン引きした様子だったけど。
 それにもめげずに、『宿泊プラン』の利用を勧めてたよ。

「そうだね、ここで怒っていても金は返ってこないしね。
 せめて、その『宿泊プラン』ってのを堪能するとしようか。
 ところで、泊まる者の変更って出来るのかい?
 この宿六はうちに帰して娘と交代させたいんだけど。」

「部屋の転売を防止するために、宿泊者の変更はご遠慮頂いているのですが…。
 今回の場合、事情が事情だけに…。
 ご家族の中の変更であれば特別にお受けさせて頂きます。」

 流石に空気を呼んだのか、ひまわり会のお姉さん、杓子定規に規則を通す真似はしなかったよ。

「そりゃ助かるよ。
 今やっている記念公演ってやつ。
 うちの娘が観たがっていたんだけど…。
 チケット一枚、銀貨二十枚もすると聞いてね。
 そんな高いもん買ってやる金は無いないと我慢させてたんだよ。
 それをこの宿六ったら、見ず知らずの娘に…。」 
 
 このおっさん、酷い父親だね。
 自分の娘には公演チケットすら買ってあげないと言うのに。
 『トー横』で知り合ったお姉さんには、泊まる処と豪華な食事付きで公演を観せてあげるなんて。

 結局、目の前のおっさん、家に帰って自分の娘にここに来るよう伝えることになったよ。
 月々の給金をちょろまかしていたか、博打かなんかで稼いだかは知らないけど。
 おっさん、奥さんに隠して結構なへそくりを持っていて、それを全部巻き上げられた。
 ついでに、今晩はメシ抜きだと言われていたよ。

 そして、このあと六回、おいら達は似たような光景を目にすることになったんだ…。

       **********

 場所は変わって、ウレシノ父ちゃんを尋問するために借りた空き部屋。
 ウレシノ父ちゃんと最初の『パパ活』娘に加え、スルガの父ちゃんと八人の『パパ活』娘が並んでた。

「さて、あなた達、まだ『ルナ』からのお客さんが来るようになったばかりでしょう。
 そんな歳で、こんなことして稼ぐなんて恥ずかしくないのですか?
 あなた達がしていることは立派な犯罪ですよ。」

 ウレシノが『パパ活』娘達にお説教をすると。

「なにこのオバサン、チョーうざいんですけど。
 お袋みたいな事を言って感じ悪い。」

「私が何、悪いことをしたって言うの。
 誰にも迷惑なんて掛けてないじゃない。
 お金持っていそうなパパにご馳走になって、泊めてもらって。
 そのお礼にパパが喜ぶことをしてあげているだけなんだから。
 私も、パパもハッピーで何も問題ないでしょう。」

「そうよね、パパが喜ぶことしてあげるとお小遣いもいっぱい貰えるしね。
 何が悪いのか分からないわ。」

 『パパ活』娘達は口々に不満をぶつけて来たんだ。
 あっけらかんとして、全く悪びれるところの無い姉ちゃん達に、ウレシノは頭を抱えていたよ。

「あなた達、それで誰の子か分からない赤ちゃんを身籠ったらどうするつもりなの?
 それに質の悪い病気持ちの男に引っ掛かるかも知れないのよ。」

「なにそれ?
 何で、赤ちゃんとか、病気なんて話が出てくるのよ。
 そんなの今は関係ないでしょう。」

 ウレシノのお説教に反抗的な言葉を返したのは、ウレシノ父ちゃんが連れ込んだ娘さんだったの。

「へっ? もしかして、あなた、教えて貰って無いの?
 何をしたら赤ちゃんが出来るのかって。」

 ウレシノは自分の父ちゃんを睨んで、いったいこの娘は幾つなんだと視線で問い掛けてた。
 ウレシノ父ちゃんったら、気拙そうに目を背けてたよ。

 そう言えば、赤ちゃんってどうすればできるんだろう?
 ウレシノは然るべき時が来たら、懇切丁寧に指導してくれると言ってたけど…。
 おいら、まだ、何も教えて貰って無いよ。 

「なにそれ、知らないよ。
 私がしていることと何か関係あるの?」

「呆れた…。
 あなた、そんな事も知らないでこんなことしてたの。」

 その返答を聞いて、ウレシノはまた頭を抱えちゃったよ。
 そして、おいらの方へ視線を向けると…。

「タルトさん、申し訳ございませんが。
 マロン陛下を何処か休憩できる所へお連れ頂けませんか。
 オラン殿下もご一緒にお願いします。」

「はい、はい、年少組にはまだ早いですね。
 任せておいてください。
 マロン様、あちらでイチゴ牛乳でも飲みましょうね。」

 何故か、おいら達二人は部屋から追い出されちゃった。

       **********

 しばらく、ロビーでイチゴ牛乳を飲んで寛いでいると…。

「マロン様、ウレシノさんの話に区切りが付いたので部屋にお戻り頂けますか。
 あの娘達の処分について、話しに加わって欲しいそうです。」

 トルテがおいら達を迎えに来たの。
 部屋に戻ると、さっきとは雰囲気が様変わりしてたよ。
 さっきまで威勢の良かった『パパ活』娘達がどんよりと落ち込んでいたよ。

「嘘…、あれで赤ちゃんが出来るなんて…。」

 ウレシノ父ちゃんが連れ込んだ娘さんがショックを受けてたよ。
 どうやら、おいら達を追い出した後、ウレシノは赤ちゃんの作り方を知らせていたみたい。
 この娘さん、何か思い当たることがあるようだね。

 一方で。

「確率三分の一か…。
 いざとなったら、一番お金を持ってるパパに責任取らせよう。」

 アイ、マイ、レイって三つの名前を使い分けて三人のパパさんを常連にしてた娘さんが、そんなことを口にしていたよ。
 他にも…。

「どうしよう、王都へ出てきてから毎日してた…。」

「あれ、そう言えば…。
 前にルナからのお客さん来たのっていつだっけ…。」

「ヤバいって、もしデキてたら父親が分かんねえじゃん。」

「子供より、病気がヤバいって…。
 アタイが一昨日、ここに泊まったオヤジ。
 傷口が膿んだような臭いがしたんだよ、アソコから。
 それって、さっき、このメイドの姉ちゃんが言ってた…。」

 そんな呟きが聞こえて来たよ。
 一番最後の言葉の主は、マジに顔が青褪めていたよ。ヤバい病気を貰ったかもしれないって。

「やっと、理解して頂けたようですね。
 あなた方がどれだけ危ない橋を渡っていたかと言うことが。
 それでは、ダメ押しにもう一つ、知っておいてください。」

 ウレシノはそう言うと、自分の父親を睨んで…。

「ところでお父様、今日は随分と無知な娘さんを連れ込んでいたようですが…。
 当然、いたす気満々だったのでしょう。
 もし、この娘さんが身籠ったらどうなさるおつもりですか?
 赤ちゃんを引き取って育てますか?」

 そんなことを問い詰めたんだ。

「いや、儂、この娘さんとは今日知り合ったばかりで…。
 まだ、手を付けていないし。」

 ウレシノは『もしも』のことを尋ねたんだけど、ウレシノ父ちゃんはそれに答えようとはせず。
 まだ手を付けてないからと言って、自分の心づもりを誤魔化そうとしてたよ。

「そうですか。では質問を変えましょう。
 お父様、『トー横のパパ』などと呼ばれ随分と人気者のようですが。
 さぞかし、タネを蒔かれたのでしょうね。
 一夜を共にした娘さんが身籠ったと訪ねてきたらどうされるおつもりですか?」

「どうも、こうも、儂の子供かどうかわからんだろうが。
 儂以外にも沢山のパパがタネを蒔いておるのだぞ。
 誰の子供か分からんもん、なんで儂が面倒を見ないとならん。
 そもそもこういうのは、そんなことを気にせず、後腐れなく遊ぶから楽しいのだ。」

 端から責任取るつもりなんてないと言い切るウレシノ父ちゃん。
 ウレシノはそんな実の父親を蔑むような目で睨み。

「すがすがしいほど、下衆なことを…。
 実の娘の前で、よくも臆面無くそんなことを言えたものです。
 とは言え、模範解答有り難うございました。
 それが『パパ活』娘などに現を抜かすスケベ親父の本音でしょうね。
 その一言で、ここに居並ぶ娘さん達の目も覚めたことでしょう。」

 吐き捨てるように言うと、今度は『パパ活』娘達に向かって。

「これが、あなた達にチヤホヤしてくれる『パパ』の本性ですよ。
 あなた達の無知に付け込み、自分達のどす黒い欲望をぶつけるケダモノ達です。
 あなた達が孕もうが、病気になろうが責任取るつもりなんて端からないんですよ。
 たかだか一時楽をして稼ぐために、あなた達は一生を棒に振るつもりなのですか。」

 ウレシノは思いっ切り現実を突き付けたの。
 ウレシノ父ちゃん、普段『トー横』では善人の仮面を被っているんだろうね。
 そんなウレシノ父ちゃんの醜い本性を目の当たりにして、『パパ活』娘達はシーンとしちゃったよ。
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