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第二十章 王都の民の憩いの場を造ったよ

第676話 少々誤解があるみたい…

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 その後、モグラ生活を続けること一月ほどして。

「凄いです。たった一月でこれだけの地下空間を造ってしまうなんて…。」

 おいらの後で、役人さんが感嘆の声をもらすのが聞こえたよ。
 その時のおいらはと言うと、王都の一画、南西側の丘に面した空き地に立っていて。
 おいらの後ろの斜面には、人一人が通れるような穴が開いてたの。
 おいらは暗い地下から外に出たばかりで、陽の光が目に染みたよ。

 そう、王都の西南に作った地下貯水池から水路になる空間を掘り進んで、やっと王都に辿り着いたところなの。

 役人さんはたった一月で出来たなんて喜んでいるけど、おいらは一月もモグラのような生活をさせられてうんざりしてたよ。
 
 おいら達が出て来た空き地は、王宮の所有地で公衆浴場の建設予定地なんだ。
 この後は宰相に任せて、おいらが掘り抜いた水路の出口に給水用の施設を造ってもらい、公衆浴場を造ってもらうの。
 地下貯水池に水を入れるのはそれからだよ。
 少なくとも水路の出口を開閉できる施設を造ってもらわないと、水を入れても無駄に流れちゃうからね。
 宰相に大至急造るように指示しておいたよ。
 
 結局、丸一月かけて地下貯水池となる空間を造り上げたのだけど。
 結構な余禄はあったよ。

 先ずは『花崗岩の石材』、せっかくだからこれを使って公衆浴場を造ることにしたよ。
 マリアさんの話では惑星テルルにあった古代国家では、公衆浴場が街のシンボル的な建物だったそうで。
 遺された当時の遺跡からは、市民の憩いの場として一際立派な建物が建てられていたことが分かるんだって。
 その話を聞いて、おいらも王都の人の憩いの場になるような立派な施設にしようと思ったんだ。
 硬くて見た目にキレイな『花崗岩の石材』は、公衆浴場を造るのにうってつけの建材だと思ったよ。
 それに加えて、これを使えば建設費用も大幅に圧縮できるから一石二鳥だね。

 そしてガーネット、この一月で同じような大きさのものが沢山出て来たんだ。
 どれも最高級品質のカラーチェンジ・ガーネット。
 これはおいらが駄賃代わりに貰うことで、宰相と話を付けたよ。
 特別手当も無しに女王に穴掘りをさせたんだもの、そのくらいの余禄はあっても良いよね。

 希少価値の高いものらしいから、色々と使い道はあると思ってるの。
 アクセサリーに仕立てても良いし、臣下への褒美に使っても良いし、他国への贈り物に使うのもありかな。
 
       **********

 そして、数か月後。
 
「それじゃ、地下貯水池に水を注ぐよ!」

 おいらは合図と共に『積載庫』から地下貯水池の中に真水を注いだよ。
 そう、この前日、公衆浴場の施設が完成したんだ。
 公衆浴場の他にも、生活用水の水汲み場を王都の各所に造ったの。
 井戸みたいに汲み上げなくても、栓を捻れば水が出てくる仕組みを『山の民』の工房主チンに作ってもらったよ。

 前日、宰相から計画通り施設が完成したと報告を受けると、おいらはさっそく海に水汲みに行ったの。
 何と言っても、王都で必要とされる真水を一月分以上溜めておける貯水池だからね。
 海辺に行って海水を汲んでは真水にしてを何度も繰り返したよ。
 多分、一息に汲むことも出来ただろうけど、それをしたら瞬間的に周囲の海水面が下がりそうだからね。
 港から十分に離れたつもりだったけど、おいらが原因で港の船が座礁しちゃったら大変だし。

 そして、地下貯水池に大量の真水を注ぎ込むのにもそれなりの時間が掛かり…。
 積載庫に用意した真水を全て注ぎ終えると、注水口の限界スレスレまで真水で満たされていたよ。

 おいらの隣にいた設計担当の役人さんは、溢れんばかりの真水に目を丸くして。
 
「凄い…。これだけの規模の貯水池を満タンにしてしまうなんて…。
 『妖精さんの不思議空間』とはいったいどの位の容量があるのか。」
 
 またまた感嘆の言葉を漏らしてたの。
 驚くのは無理もないか。水を入れたおいら自身が驚いているんだもの。

 貯水池に水を注いで王都に戻り、広場を通り掛かった時のこと。

「わっ、水だ! 凄い、凄い!
 地面から水が噴き出してるよ!」

 そんな子供の声がしたの。そちらに視線を移すと…。
 広場のど真ん中で勢いよく水が噴き出してたよ。
 これもマリアさんの提案で造った噴水って施設なんだ。
 何でも、貯水池とこの広場の高低差を利用して水が噴き上げているんだって。

 広場の真ん中に石組みで膝丈ほどの高さで丸く囲った空間。
 その中央にやはり石組みで造られた腰丈ほどの台座から勢いよく水が噴き上げてるの。
 噴水もチンに依頼したのだけど、想像以上に良い出来栄えだったよ。

 やがて、丸く囲った空間に水が溜まって小さな池になると…。

「きゃ、冷たい!」

 ちびっ子が一人、水の中に入ってパチャパチャやり出したの。
 天気が良かったせいか、後に続く子供が出てきて…。

「エイッ!」

「やったな!」

 数人の子供が水の掛け合いを始めたよ。

「陛下から、噴水を造ると聞かされた時。
 真水が貴重なこの街で、そのようなものは水の無駄遣いではないかと思いましたが。
 幼子があのようにはしゃぐ姿を目にすると、心が和みますな。
 陛下の仰る人々の憩いの場と言う意味では、噴水も悪くはございませぬ。」

 はしゃぐ子供達を目にして宰相がそんな事を呟いてたの。
 宰相、おいらが噴水を造ろうとしたら無茶苦茶反対したんだ。水の無駄だって。
 でも、おいらは譲らなかったよ。
 この広場は憩いの場だものね、王都の人々が少しくらい贅沢な気分を味わっても良いと思ったの。
 それに貯水池を掘ったのも、水を汲んだのも、ついでに石材を提供したのもおいらだもの。
 宰相の希望を容れておいらが汗をかいたのだから、このくらいの我が儘は聞いてもらわないと。

        **********

 はしゃぐ子供達を見ていると。

「おやまあ、なんだい、これは?
 これはマロン陛下がお造りになったものですかい?
 って、これ、真水じゃないかい。
 良いのかい、貴重な真水の中に入って子供が遊んでて?」

 顔馴染みのオバチャンが尋ねてきたの。
 オバチャン、最初は海水だと思ってたようだけど、口に入った水飛沫が塩辛く無いので真水だと気付いたみたい。

 普段、市井の人々と言葉を交わすことの無い宰相は、気安くおいらに話し掛けてきたオバチャンに渋い顔をしたけど。
 おいらは宰相を無視して、オバチャンに答えたよ。

「これ、噴水って言うんだって。
 物知りなマリアさんに教えてもらったんだ。
 涼し気で良い感じでしょう。
 今日、王都の外に造ってた地下貯水池が完成してね。
 この水はそこから引いているんだ。
 子供達が池に入って遊ぶのは許可しているよ。
 それと台座の中ほどから突き出だしてる管。
 管の先から水が出ているでしょう。
 あの水は飲めるから、自由に飲んでかまわないよ。」

「何だい、随分と気前が良いね。
 この水、飲むのはタダなのかい。」

「うん、但し、この水を桶とか樽に汲んで持ち帰るのは無しね。
 交易船にタダで積み込まれちゃったら困るから。
 禁止事項はそこの告知板に掲示してあるから厳守してね。
 それと王都の住人向けには新しい水汲み場を造ったよ。
 水場は町内会毎に設置してあるから、水汲みは自分の町でしてね。」

「なに、新しい水汲み場だって? それもタダなのかい?」

「もちろん、お金なんて取らないから安心して。
 但し、水を汲めるのは町内会に属している住民だけだよ。
 管理は町内会の世話役にお願いしてあるから。」 

 水が貴重なこの街では、交易船相手の水の補給も重要な収入源なの。
 なので、この噴水や給水所から勝手に汲んで持っていかれたら困っちゃうんだ。
 だから、住民以外が水を汲むのは厳しく取り締まるよ。
 もっとも、交易船相手の水の補給は王都の商人が組合を作って一手に引き受けていて。
 港を出て直ぐの場所で水樽の販売をしているんだ。
 そのため、従来から交易船の乗組員が水樽を街中に持ち込むことは許可してなかったんだ。
 今回も従来からのやり方できっちり取り締まることが出来ると考えているんだ。
  
「へえ、新しい水汲み場はあんな風に水が出て来るのかい。
 そりゃ助かるよ。井戸から水を汲み上げるのは重労働だからね。
 でも、マロン陛下は本当に住民想いの良い王様だね。
 税金が安くなっただけでも有り難いのに。
 水場まで整備してくれるなんてね。」

 チンに作ってもらった水汲み場の話をしたら、オバチャン、水汲みが楽になるって感激してたよ。

「でも今回、貯水池建設の目玉は水汲み場じゃないんだよ。」

「うん? 他にも何か造りなさったので?」

「公衆浴場を造ったんだ。誰でも利用できるお風呂。」

「『風呂』って、あのギルドがやっているいかがわしい店かい?」

 お風呂に入る習慣の無いこの街では、『風呂』といったらギルドが経営する『風呂屋』を思い浮かべるみたい。
 街の人がみんなそんな先入観を持ってたら、せっかく造った公衆浴場に誰も来てくれないかも。
 ここはまた、オバチャンネットワークに頼ることにしようかな。

「違う、違う。
 お風呂ってのは、体をキレイに洗って、お湯に浸かる場所。
 体を清潔に保てば、皮膚病なんかの予防になるし。
 お湯に浸かると体の疲れが取れるんだよ。
 ちゃんと男女別になっているから安心して。
 今日の午後、オープンだから。
 入浴料はタダだし。
 近所の人と誘い合わせて行ってみてよ。」

「そうなのかい。
 まあ、タダなら誰も文句言わないだろうし。
 マロン陛下がそうおっしゃるのなら、仲間内に声を掛けて行ってみるかね。」

 オバチャン、『風呂』はいかがわしいものだって先入観が中々抜けなくて。
 お風呂は健康に良いと言っても、余り乗り気じゃなかったの。
 でも、オバチャンと呼ばれる人種のサガなのか、『タダ』という言葉に食い付いたよ。
 今日、早速行ってみるって。
 オバチャンが公衆浴場を気に入ってくれれば良いね。
 オバチャンの評判って、口コミに乗って直ぐに王都中に広まるから。

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