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アイイロモンペ

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第二十章 王都の民の憩いの場を造ったよ

第665話 人は見かけによらないって…

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 『試練の塔』と呼ばれる施設を訪れたおいら達。
 一階のカウンターに居たお姉さんはおいら達を見て、ここを展望台だと思って訪れたものと勘違いしたみたい。
 それで、あからさまに不機嫌な態度を見せたけど、『ライブラリー』を訪ねて来たと答えたら急に態度が軟化したよ。

「いらっしゃいませ。
 ここは王立ライブラリー。
 誰もが等しく人類の英知に触れることが出来る場所です。
 私はミネルヴァ男爵家の三女ピタコと申します。
 この階の司書にして、二階へ上がる扉の番人です。」

 そんな自己紹介をしたピタコ姉さん。
 聞けばミネルヴァ男爵家という貴族家は、このライブラリーの創設時から運営を任されているらしい。
 創設時ってことは四十万年前だよね。
 よくもそんなに長い期間、お家が存続したものだと感心しちゃったよ。

「あっ、おいら、マロン。
 一応、この国の女王ってことになっているから、よろしくね。」

 おいらが名乗ると、ピタコ姉さんはメガネの奥の目をまん丸にして。

「あら、王族の方がこちらにいらっしゃるなんて珍しい。
 十三の時の時にここを任されて早十年になりますが。
 王族の方がお見えになったのは初めてでございます。
 あっ、私、貴族と申しましても宮廷には一度も上がったことで御座いませんで。
 言葉遣いにご無礼がありましたら、ご容赦くださいませ。」

 ピタコ姉さんの一族はこのライブラリーに引き籠っていて、貴族の付き合いは無いに等しいらしい。
 王宮に大きな書庫があることもあって、王侯貴族がライブラリーを訪れることも皆無とのことで。
 勢い相手をするのは平民ばかりとなり、貴族らしい言葉遣いは苦手だと言ってたよ。

「ああ、そんなの気にしないで良いよ。
 おいらも平民育ちだから、堅苦しい言葉遣いは苦手なんだ。」

「これは、寛大なお言葉有り難うございます。
 それで陛下は何の御用でしょうか?
 ここの蔵書は大抵のものが王宮の書庫にもあるはず。
 こんな街外れまで、お越しにならなくても。」

 調べごとなら王宮の書庫で事足りるから。
 おいらに何か特別な目的でもあるのかと、ピタコ姉さんは思ったみたい。
 ピタコ姉さん、何か警戒するような言い振りだったよ。

「昔、この大陸にある全ての国にライブラリーって施設が創られたって。
 たまたま、そんな話を耳にしてね。
 おいらが育ったトアール国じゃ、王都に一つだけ残っていることを知ってたけど。
 この国に残っているのか知らなかったものだから。
 ライブラリーが残っているかを、宰相に尋ねてみたの。
 そしたら、宰相、ライブラリーって名称を聞いたことが無くて。
 もしかしたら、ここがそうじゃないかと言うものだから。」

「確かに、先ほど申し上げた通り、ここをライブラリーと呼ぶ者は居りませんね。
 平民の文官登用に際して、この塔の試練を突破していることが条件付けられたため。
 一般には『試練の塔』と呼ばれるようになってしまいましたからね。」

 おいらの返答を聞いたピタコ姉さんは、ため息を吐いて肩を落としていたよ。
 仮にも一国の宰相が、国の施設の正式名称も知らないとは嘆かわしいって。

        **********

「そもそも、塔の試練は文官登用のためにあるのではないのです。
 文官の登用にしても、元々は平民に限られたものではなく。
 等しく貴族にも課されていたそうですし。
 その当時は、この塔は向学心に燃える若者で賑わっていたらしいのですが…。」

 そんな説明をしてくれたピタコ姉さんは、ガランとした閲覧室を見てまた肩を落としていたよ。
 ピタコ姉さんは幼少の頃からこの塔に入り浸っていたらしいの。
 この一階にある子供向けのお伽話の絵本なんかを、夢中で読み耽っていたみたい。
 ピタコ姉さんの子供の頃は、この閲覧室にも本を読む人がそこそこ居たと言ってたよ。

 その頃はおいらの爺ちゃんの治世で、平民からの文官登用も稀にあったらしくて。
 官僚になって功績を残し、やがては貴族になって見せると。
 そんな向学心と向上心に燃える若者が、ここで試練に挑んでいたそうなんだ。
 ところが、ヒーナルの治世になって以降、貴族が既得権益を守るために平民の登用をしなくなったそうで。
 この十年くらい平民の登用が無くなったものだから、試練に挑もうとする若者は減ったらしいの。

 結果として、この施設の利用者も減って、年中閑古鳥が鳴いている状態らしい。
 ピタコ姉さん、文官登用なんか関係なく、知識を得るのは有意義なことなのにと嘆いてた。
 さっき、おいらが女王だと聞いて、ピタコ姉さん、警戒したらしいよ。
 利用者が減ったものだから、この施設のお取り潰しを宣告しに来たんじゃないかと。

「聞いたよ。
 試練を突破できない貴族のボンボンが増えて。
 貴族の子弟に対しては、試練の突破が免除されたんでしょう。
 本末転倒も良いところだね。
 でも、文官登用のためじゃないとしたら、『試練』は何のためにあるの?」

「この塔は上階へ行けば、行くほど危険な知識について記された文献も増えていきます。
 生半可な知識を持つ者、モラルに欠ける者がそんな知識に触れるとロクなことになりません。
 故に、階層を上がるためには、それを理解するための知識と高いモラルが求められます。
 その資格があるか否かを問うのが、『塔の試練』本来の役割なのです。」

「その試練ってのはどんなものなの?
 まさか、『上に行きたければ、私を倒してみろ』とは言わないよね。」

 おいらの言葉を聞いたピタコ姉さん、白い目でおいらを見て。

「どこのお伽話ですか。
 そんなおバカな事を言う訳ないじゃないですか。
 試練の内容は秘密ですよ。
 これは、陛下にもお教え出来ません。
 試練の内容を知ることが出来るのは、試練に挑む者だけです。」

 ピタコ姉さんは塔の試練について教えるつもりは無いらしい。
 拷問されても口を割らないって雰囲気だったよ。

 すると…。

「百聞は一見に如かずと言うし。
 マロンちゃん、試練を受けてみれば良いわ。
 なんなら、ダーリンやオラン君も一緒にどうかしら?」

 マリアさんがそんなことを言い出したよ。
 タロウやオランの他にも、ウレシノや護衛の騎士達にも進めていたの。

「何、それ、『試練』って危なく無いの?」

「うーん、人によっては危ないかも知れないけど…。
 一階層の試練であれば、心配いらないと思うよ。
 肉体的な危険は一つも無いし。」

 人によっては危ないって…。なに、それ、怖い…。

「ああ、私は遠慮しておこう。
 既に三階層までは突破しているし…。」

 すると、近衛隊長のジェレ姉ちゃんが何やら記念メダルみたいなモノを取り出して言ったの。

「おや、そのフクロウのメダルは、まごうこと無き試練のクリアの証。
 しかも、三階層のものじゃありませんか。これは珍しい。
 それをお持ちで、陛下が試練の内容をご存じないということは。
 どうやら、他言無用の誓いも守ってられるようですね。」

 ピタコ姉さん、ジェレ姉ちゃんが取り出したメダルをマジマジと見ると意外そうな顔をしてたよ。
 三階層の突破者はとても珍しいみたいだね。

「それなら、私とトルテもパスで。」

 意外なことに、護衛騎士のタルトもメダルを差し出して言ったんだ。
 どうやら、この二人も試練の内容を知っているのに、誓いを守って黙っていたらしい。

 この十年、『試練』に挑んだ人はとても少ないそうだけど。
 流石に一人一人の顔までは覚えていなかったようで、突破の証を三つも目にしてピタコ姉さんは目を丸くしてたよ。

「陛下の護衛騎士は中々優秀な方を揃えていらっしゃいますね。
 三階層の試練を突破した方が三人も居るとは…。
 騎士と呼ばれる職業の方は、脳筋な者ばかりかと思っていました。」

 いや、ジェレ姉ちゃんは極め付けの脳筋だと思うけど…。
 書類仕事や頭を使う仕事は苦手だと常々言っているもの。

 でも意外だね。
 貴族は突破を免除されているのに、ジェレ姉ちゃんは試練に挑んでいたんだ。
 いや、そもそも、ジェレ姉ちゃん、文官になるつもりなんか無かったはずなのに何で挑んだんだろう? 
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