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アイイロモンペ

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第二十章 王都の民の憩いの場を造ったよ

第662話 タロウの飼ってるオタマジャクシは弱々らしい…

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 出掛け際に残した言葉通り、マリア(マロン)さんは然したる期間もおかずに戻って来たよ。
 何でも、タロウのことが恋しくて、寝る間を惜しんで子供が出来ない原因を突き止めたとか言ってた。
 その言葉通り、戻って来た時のマリアさんはヨレヨレで、疲労困憊なのが一目瞭然だったの。
 髪の毛ボサボサで目の下には濃い隈を作ってて、何時ぞやの映像記録にあるままの姿だったもの。

「こんなに早く帰って来たところを見ると。
 案外簡単に原因が掴めたみたいだな。」

 顔を見るなり抱き付いて来たマリアさんに、タロウが尋ねると。

「ええ、少しでも早くダーリンの側に戻りたくて。
 不眠不休で頑張っちゃった。
 はいこれ、飲んでちょうだい。
 一日一錠で良いわ。」

 マリアさんは、丸薬らしき物が入った小振りなガラス瓶をタロウに差し出したの。

「何だ、これ?
 姉さん、えらい速さで開発したみたいだが。
 危ない薬じゃないだろうな?」

 そんな問い掛けをしながら、怪訝な表情で瓶を受け取るタロウ。

「私がダーリンに危ない薬を飲ませる訳ないでしょう。
 そもそも、それ、唯のサプリメントよ。薬ですらないわ。」

「サプリメント? 栄養補給みたいなものか?」

「ええ、そうよ。体内のPH調整用のね。
 本当は、この大陸のモノを食べていれば、そのうち順化するんでしょうけど。
 ダーリンから聞いたにっぽん爺って方の事例を考えると、十年以上掛かりそうだから。
 そんなに待ってたら、私、高齢出産になっちゃうもん。」

 サプリメント? PH調整? なにそれ、美味しいの?
 おいらにはチンプンカンプンだったけど…。

「PH調整? 何だ、それ?」

 タロウにも分からなかったらしいよ。

「生体サンプルを分析して分ったのだけど。
 驚愕するほど奇跡的なことに、タロウ君の体って。
 この大陸の民や純粋なテルル人の私とも殆ど違いがないの。
 体を構成する物質も、体の機能もね。
 ただ、少しだけ差異があることも分かったわ。
 それは、体液のPH値。
 タロウ君に比べ、私達の方が少しだけ酸性に偏っているの。
 ぶっちゃけ、タロウ君の元気よく泳ぐオタマジャクシ。
 私達の体液に浸した途端にコロッと逝っちゃっうのよ。
 まあ、Y染色体因子を持つモノは元々酸性に弱いのだけど。
 酸性に比較的強いと言われるX染色体因子を持つものまで全部ね。」

 また、オタマジャクシが出て来た…、タロウったらそんなモノを体の中で飼っているのか。
 なんか、キモい…。
 良く理解できないけど、タロウのオタマジャクシが弱々なのが原因なんだね。

 マリアさん、思ったらしいよ。
 アルトが『魂のあり方が違う』と言ったことに対し、妖精族に魂なんてモノを識別する能力は無いはずだって。
 それで思ったらしい、アルトが知見出来る何らかの相違点があるに違いないと。
 どうやら、それがタロウの全身を流れる血液その他の体液のPH値だったらしい。

 でも、それは後天的に調整できるものらしい、この大陸のモノを食べていれば自然と同じになるって。
 にっぽん爺が遅くになって子宝に恵まれていることから、そんな推測をしたらしいの。
 ただ、マリアさんの言葉にあった通り、食生活を通じた自然順化に任せると結構な時間を要するみたいで。
 手っ取り早くPH値を調整するために、サプリメントなるものを作って来たみたい。
 食品由来の成分だから、危ない物は入っていないって。

 ただ、マリアさんの推測には、見落としが一つあると思うんだ。
 にっぽん爺が子宝に恵まれるのが遅かったのは、女の人に縁が無かったからで。
 隻眼、隻腕の上、ずっと貧乏生活をしていたせいで、非モテだったらしいからね。
 もしかしたら、意外に早くこの世界に順化していたかもしれないよ。

「たぶん、二ヶ月くらいで私達と同じPH値になると思う。
 当然、そこでタロウ君のオタマジャクシも酸性に強くなるはず。
 ほら、PH測定用の試薬と妊娠判定用の試薬も作って来たから。
 これから毎日、チェックしましょう。」

 そう言って、マリアさんは平べったい棒みたいなモノを二本差し出していたよ。
 何か、窓みたいなモノが付いてる棒状のものを。

           **********

 そんな訳で、マリアさんが帰って来て数日後。

「へー、本当に驚きだわ。
 まさか、マロンちゃんのような小さな女の子が、あれを一人で倒すなんて…。
 あれって、大の大人が数人掛かりで協力して倒すことを念頭に創ったのよ。」

 ひまわり会が管理するトレントの林、日課のトレント狩りをしていると後ろからマリアさんの声が聞こえたの。

「マロンさん、おはよう。
 今日はタロウについて来たんだ?」

「ふ、ふ、ふ、いよいよ念願のお風呂造りに着手しようと思ってね。
 ダーリンに風呂焚き用として、トレントを多めに倒してもらうの。
 私が回収して木炭に加工しようと思って、早起きして一緒に来たんだ。」

 今のところ、ひまわり会で外部に販売する『トレントの木炭』の原料は二種類。
 ひまわり会が管理するこの林で冒険者が狩ったものと冒険者実習用の実習施設で実習生が狩ったトレント。
 その両方をおいらの『積載庫』の機能で、回収、加工して『木炭』を作ってひまわり会に販売を委託しているの。

 で、おいらが毎朝狩っているトレントは、主に王宮の風呂焚き用に使っているんだ。
 まあ、それでも余るものだから、王宮の厨房や父ちゃんの家に分けているんだけど。

 それと、タロウが狩った分はおいらが『木炭』への加工を無料で請け負って、ひまわり会が経営する風呂屋の燃料に使っているんだ。
 ひまわり会が経営する風呂屋はとても繁盛していて、四号店まで増えてるから木炭は幾らあっても足りないの。

 なので、タロウの家にお風呂を造ろうとすると、現状では風呂焚き用に回せる『木炭』は無いんだ。
 トレントの木炭を買おうとすると馬鹿高いから、とても風呂焚き用には使えないからね。
 それでタロウが、今までよりも沢山のトレントを狩ることになったみたい。

 しかも、マリアさんは木製の湯船を考えているそうで。
 トレントは風呂焚き用の木炭に加工するだけじゃなくて、材木に加工して湯船の資材として使うつもりみたい。
 その分も余計にトレントを狩るようにと、タロウに頼んでいたよ。

「判ってはいたけど、やっぱりトレントもマロンさんが創り出したんだね。」

「そうよ、みんなで協力して倒せばご褒美に甘味が手に入るようにしたの。
 テルルの歴史では、甘味料は近代になるまで高価で庶民の手に入らないものだったからね。
 この星では、力さえ併せれば誰でも甘味料が手に入るようにしようと思ったのよ。」

 色々と有用なスキルの『実』をドロップするトレント、それに加え沢山の甘味料までなっているから。
 これを手に入れるために人々が協調心を発揮するのではないかと、マリアさんは期待してたそうなの。
 だから、一人では手に負えないものの、数人が協力すれば倒せる強さに調整したらしい。

 まさか、おいら達のように単独でホイホイとトレントを討伐できる人が出て来るとは思わなかったみたい。
 それとマリアさんは、トレントを木炭にすることなど考えてなかったらしい  
 あくまでも、甘味料とスキルの実の供給源として創り出したものなんだって。
 トレントの木炭が他の木に比べて火力が強いとか、火持ちが良いとかまでは気付かなかったみたい。

 二時間ほどタロウにトレントを狩ってもらうと、マリアさんはその全てを『積載庫』に収納してホクホク顔で帰って行ったよ。
 上機嫌なマリアさん、タロウの腕に抱き付いて「今晩はうんとサービスしちゃう」なんて言ってた。
 今晩って…、まだ、早朝なんだけど…。
 
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