ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
651 / 848
第十九章 難儀な連中が現れたよ…

第651話 夢見る乙女はマジだったよ…

しおりを挟む
 教主のオバハンとその取り巻き幹部達を捕縛して、騎士団の騎士達が連行して行ったよ。
 広場に集まった野次馬達も、口々に「良いモノ見せてもらった」なんて話しながら三々五々散っていったの。

「さてと、ダーリン、仕事も一段落したみたいだし。
 ここ数日、余り寝てないみたいで疲れたでしょう。
 おうちに帰ってのんびりしましょうね。
 私が膝枕してあげる。」

 ヨイショと言いながら舞台に上がって来たマリアさんが、タロウを連れて帰ろうとしたよ。
 いや、タロウ、まだ、『ひまわり会』の業務時間だから…。

 と言うよりも。

「マリアさん、いえ、マロンさん。
 何をシレっと帰ろうとしているの。
 おいら、色々と聞きたいことがあるんだ。
 お茶でも出すから、付き合ってちょうだい。」

 おいらは、マリアさんの袖を掴んで引き留めたの。

「あら、嫌だ。私は一般人よ。
 王宮へお邪魔するなんて畏れ多いわ。
 喉も渇いてないから、お気遣いなく。
 楽しい余興を肴に、しこたま昼酒を飲んだし。」

 マリアさん、露骨に嫌そうな顔をして王宮へは行きたくないと拒んだの。

「まあ、まあ、そう言わないで。
 可愛い娘の子孫が、お話を聞きたいとお願いしてるんだよ。
 少しくらい、話を聞かせてよ。」

 おいら、逃がすまじと腕にきつく抱き付いて、お強請りしてみたの。

「うっ、…。」

 マリアさん、無理やり腕を振りほどく訳にもいかず、観念したみたい。

「はっ…。
 本当は素性を明かすつもりは無かったのだけど…。
 まさか、こんなに早く気付かれるなんて。」

 マリアさんは渋々といった感じで、王宮へのお招きを承諾してくれたんだ。

     **********

 王宮の最奥、王族のプライベート区画に招き入れると。

「あら、この辺りは四十万年と変わって無いのね。
 ちゃんと手入していたのでしょうけど。
 良く維持できたものね。
 物持ちが良いにも程があるでしょう。」

 マリアさん、懐かしそうに周囲を見回しながらそんな呟きを漏らしてたよ。
 歴代の王家が大事に使って来たのだろうけど、想像以上に古い物だったので吃驚したよ。

 リビングルームに腰を落ち着けると。

「色々と聞きたいことはあるけど。
 『マロン』さん、まだ生きていたんだね。
 変だと思っていたんだ。
 アカシアさんの森の中にお墓が無いと聞いたから。」

 先日見せてもらった映像で、『マロン』さんはあの施設内で生まれ育ったと言ってたので。
 最期はあの施設内に葬られるのが自然だと思ってたんだ。
 なのにアルトは施設内に墓所は無かったと言ってたから、ずっと気に掛かっていたの。

「そうなのよ。
 あれは、私が五十歳を過ぎた頃のことよ。
 子供達が皆独立して、あの森から出て行った時にね。
 私、ハタと気付いたの。
 十八の時から子育てに忙殺されて、沢山の子供を送り出したけど…。
 自分は、女の子らしいことを何一つしてないじゃないかって。」

 十八歳の時に、アダム、ノア、イブの三人を人工培養で生み出すことに成功したマリアさん。
 その後、二十億年の漂泊を経てこの星に辿り着くと、使命感に駆られ黙々とテルルの民の末裔を作り続けたの。
 この辺の事情までは、アカシアさんから映像を見せてもらったので知ってたけど。

 この星に着いてから十数年経った時、アダムとノアの対立が余りに目に余るので二人の派閥を引き離したんだ。
 アカシアさんに頼んで、二つの派閥の子供達を相互に干渉できないくらい遠くへ捨てて来たんだけど。
 その後も、この森で暮らす人族が一定の数に達すると、新たな場所に集団移住させたらしいの。

 アカシアさんを始め初期に目覚めた妖精族のみんなが、人の居住に適した土地を探し。
 『山の民』の皆の手で、その土地に家や公共の施設を建ててもらって移住させたそうなの。
 パンの木の苗、果樹の苗、野菜の種、それに生活に必要な家財道具や農具一式を与えて自活させたんだって。
 もちろん、アダムやノアのグループも捨てたと言っても、ちゃんと同様の施しはしたそうなの。

 それぞれの集団と集団は十分に距離を取って配置し。
 それぞれの集団を隔てるように、妖精の森や魔物の領域を設けたそうだよ。

 人工培養により生み出した子供を育て、生きていくための知識を与える。
 それを手伝ったのがイブらしくて、イブは最後までマリアさんの助手を務めたらしい。
 そして、人族が一定数産み出され、その後は自然繁殖で増えると確信を持てた時に培養槽での繁殖を止めて。
 十代半ばまで成長した最後の集団を率いて、イブがこの街を拓いたそうなんだ。

 イブを送り出した後、一人ぼっちになってしまったマリアさん。
 寂しさを紛らわすために、『森の民(耳長族)』を生み出したと聞いてたけど。
 歌舞音曲が得意な『森の民』に囲まれてそれなりに楽しい日々を送っていたそうなんだ。
 だけど、ある日、何とも言えぬ虚しさを感じたらしいの。

「虚しさ? 女の子らしいことって?」

「恋よ! 
 そりゃ、テルルにいた時は、同世代の男の子はいないし。
 人類滅亡の危機に瀕していて、恋なんて考えもしなかったわ。
 でもね、私は自分の使命を果たし終えた時に思ったの。
 このまま死んでしまって良いのかって。
 テルルの民の末裔がこの地で根を張り、子孫を増やして行けば…。
 やがて男の子も増えるわ。
 そしたら、自分にだって恋をするチャンスがあるかもって。」

 とは言え、マリアさん、自分がオムツを替えてあげた男の子と恋に落ちる気は毛頭無くて。
 マリアさんの素性を全く知らない、後世の男の子と恋をする事に希望を託したそうなの。

「それで、アカシアさんの『不思議な空間』で寝てたの?
 時間を停めて?
 それじゃ、マロンさんがそんなに若い姿なのって…。」

 今目の前に居るマリアさんはどう見ても二十代半ば、とても五十歳を過ぎてるようには見えないよ。
 さっき教祖のオバハンの時間を進めて見せたけど、まさか『積載庫』の中で時間を巻き戻したとか言わないよね。 

「ええ、だって五十過ぎのおばさんじゃ、無理じゃない。
 素敵な恋をしたいなんて言ったら笑われちゃう。
 それからは自分自身のため、研究に没頭したわ。
 人類のためじゃなくてね。
 そして、究極のアンチエイジングに成功したの。」

 何と、マリアさん、自分の専門分野生命化学の知見を総動員して取り組んだらしい。
 テルメアが何とかとか、細胞の活性化が何とかと言ってたよ。
 自身の若返りのために、あの施設に残されてた資源の大部分を費やしてしまったそうなんだ。
 もう、テルルの民の血を残す使命は果たしたので、資源を使い切ってしまっても問題無いだろうって。

「そのくらい、問題無いわ。
 昔から『命短し恋せよ乙女』と言われてるのに。
 その貴重な半生を人類のために捧げたんだもの。
 余り物の資材を退職金代わりに貰うくらい安いモノよ。
 それより、どう、凄いでしょう。
 外見、身体機能共に、正真正銘の二十代前半の体よ。
 本当はもう少しイケたんだけど。
 流石に、永遠の十七歳は図々しいかと思って。
 このくらいで勘弁してあげたわ。」

 そう言ったマリアさんは、自慢気に張りのある胸を突き出して見せたんだ。
 永遠の十七歳って…。だいたい、誰に勘弁してあげたの。

      **********

 若返りに成功したマリアさん。
 さっき言ってたように、この大陸の人々から自分の記憶が風化してしまうまで眠りに就くことにしたんだって。
 この星に着いたときと同じように、アカシアさんの『積載庫』の中で時間を停めてね。

「まあ、こうして若い姿に戻ったのは。
 自分も人並みな幸せを経験したかったからだけど。
 永い眠りに就いたのは、それだけが理由って訳でもないの。
 やっぱり、自分が生み出したテルル人の行く末が気になるじゃない。
 ちゃんと、この大地に根を張って繁栄している姿を見届けないとね。」

 マリアさんは、およそ百年に一回起こすようにとアカシアさんに指示したらしいの。
 百年毎に数日目を覚まして、アカシアさんからこの大陸の民についての報告を受けていたそうなんだ。
 時には、近くの町まで行って直接人々の暮らしぶりを見聞したりもしていたらしい。

「それじゃ、今がちょうどその百年目のタイミングだったんだ?」

「少し違うかな?
 前回、眠りに就いてからまだ七十年程しか経っていないから。
 アカシアちゃんに、幾つかお願いしてあった起床のトリガーがあったの。
 その一つに、大量殺戮兵器を見つけた場合があって。
 今回、火縄銃が見つかったってことで、起こしてくれたのよ。」

 戦争でテルルを失ったマリアさんは、この星でテルルの惨禍を繰り返さないようにと考えているようで。
 危ない兵器が開発された時は、その普及と発展を阻止するために何らかの対応を取るつもりだったらしい。

「じゃあ、そのためにこの街を訪ねて来たの?」

「いいえ。
 この街の来たのは、その件とは関係ないわ。
 アルトちゃん、ムルティちゃん、それにマロンちゃん。
 あなた達の対応で問題ないと思うから。
 結界で侵入を阻み、現物と資材、それに技術を取り上げたのでしょう。
 後は、向こうの大陸の情報を定期的に入手できるようにしておけば。
 幾らでも対応可能ですもの。」

 マリアさんは言ってたよ。
 それだけやっておけば、鉄砲の発達を何十年か遅らせることが出来るだろうって。
 交易船で情報だけ入手しておいて、拙いと思ったら介入すれば良いって。

「それじゃ、何で?」

「決まっているでしょう。
 ダーリンと会うために来たのよ。
 素敵な恋をするために!」

 そう言って、マリアさんはタロウの腕に抱き付いたんだ。
 いや、それこそ、「なんで?」だよ。だって、タロウだよ…。
    
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...