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第十九章 難儀な連中が現れたよ…

第647話 そんなおバカな話、誰が信じるっての…

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 大規模な詐欺集団『幸福な家庭の光』の教主に面会することにしたおいら。
 指定した広場に出向くと、教主のオバハン、おいらに無礼な言葉を吐いたの。
 それが、王都の人達の癇に障ったようで、広場はオバハンに対する非難でいっぱいになったんだ。

「いったい、何なのざます。
 愚民共のご機嫌窺いをする王など聞いたことが無いざます。
 民から搾取して、贅沢の限りを尽くしてこその王位ざましょ。
 民に慕われる王なんて有り得ないざます。」

 教祖のオバハン、民衆の非難を一身に浴びてタジタジだったよ。
 まあ、おいらに好意的な人が多いのは誤算だろうけどね。
 為政者に対して不満を持っている人が多い方が、何かと付け入る隙が多いらしいから。
 現にオードゥラ大陸では、人々の不満に乗じて勢力を伸ばしたらしいし。
  
「どう? これで納得できたでしょう。
 おいらが女王であることを、王都の皆が証明してくれたよ。
 それで、オバサンはいったい何の御用かな?」

 おいらが再度用件を尋ねると。

「まあ、良いざます。
 妾はあなたに救いの手を差し伸べに参ったざます。
 あなた、その歳で女王の座にあると言うことは。
 先王を早くに亡くすという不幸に見舞われたざましょう?
 女神の化身たる妾がその悪縁を断ち切り。
 この国と王家に永遠の安寧をもたらして差し上げるざます。」

 このオバハン、詐欺師の分際で随分と大きく出たね。
 多少は、悪さもせずに王都の様子を探ってた信徒が居たのか。
 この国の女王が年端のいかない小娘だって情報くらいは掴んだらしい。

 簒奪騒動があった事まで掴んでいるかはともかくとして。
 子供のおいらが即位しているってことは。
 それすなわち、おいら以外の王族が既に他界しているってことだもね。
 このペテン師、それをネタにおいらに集ろうってか。
 大方、おいらの両親が早くに他界したのは、百代前の先祖の悪行とでも言うつもりだろう。
 それで、壺を売りつけるの。

「そう言うのは要らないや。
 おいら、今、ちっとも不幸じゃないもの。
 女神だか、便所紙だか知らないけど…。
 そんな、得体の知れないモノの助けなんて無くても。
 ほら、こうしておいらを慕ってくれる沢山の民がいるから。
 こんな幸せなことなんて無いと思うよ。」

 この国と王家に永遠の安寧をもたらすなんて、大きなお世話だよ。
 国に安寧をもたらすのはおいら達為政者の役割で、神なんて眉唾なモノの出番なんて無いし。
 国が安定して民の安寧さえ維持できれば、王家なんて無くなっちゃっても良いしね。

「うんまっー、何て、失礼なんざましょう。
 妾達が奉ずる神はこの世界で唯一にして絶対な存在なんざます。
 こともあろうに、神を便所紙と一緒にするなんて神罰があたるざますよ。」

 ペテン師がキレたよ。
 神なんて自分達に都合よくでっち上げた空想の産物を貶されたくらいで。
 
「うーん、良く分からないんだけど。
 この大陸には『神』って概念が存在しないんだ。
 おばさんの言うところの神って、いったい何をしたの?」

「ふっ、これだから未開の原住民は嫌ざます。
 良いでしょう、教えて差し上げるざます。
 妾達『幸福な家庭の光』が奉ずる神は、万物の創造神にして。
 この大地を遍く照らす大神ソルざます。
 大神ソルは、最初に伴侶として女神ルナを創ると。
 二柱が協力して、この大地と生きとし生けるものを創り給うたざますよ。
 そして二柱は天に帰り、昼を照らすソル、夜を照らすルナとなり。
 天からこの地上を見守っておられるざます。」

 うん、見事にお伽話だね。タロウの言うラノベとやらの『神様』と同じだ…。

「ふーん、おばさんの脳内設定ではそう言うことになっているんだ。
 まあ、どんなに滑稽な作り話だとしても、おばさんが信じるのは自由だものね。
 でも、おいらは信じないから、関わりになるのは遠慮したいな。」

「ムキー! 生意気な小娘ざますね!
 そもそも、何故、あなたは妾を高いところから見下ろしているざます。
 妾は『幸福な家庭の光』の教主にして、『女神ルナ』の化身ざますよ。
 妾が王宮まで足を運んだというのに、こんな所で立ち話させるざますし。
 平民と対話する時と同じ服装で出て来るとは失礼ざましょ。
 本来ならば、賓客を迎えるに相応しい場所と服装で、妾を出迎え。
 妾の前に跪くのが作法ざますよ。」

 ペテン師の親玉の分際で何を偉そうなことを…。

「でも、オバサン、賓客でも何でもないじゃない。
 外国の賓客なら、王宮の謁見の間で正装して迎えるけど。
 自国の民の陳情ならまだしも。
 何処の馬の骨かもわからない人を王宮へ入れる訳にはいかないし。
 そんな人を迎えるために正装したら。
 ここ居る街の皆の前でも正装しないといけなくなるじゃない。
 税を納めてくれる街の人達の方が、オバサンよりも数段立場が上なのだから。」

 ペテン師の親玉なんかを謁見の間に通したら、後々笑い者になるよ。

        **********

「ウキッー!
 妾を愚民共より下に置くと言うざますか。
 真の母たる妾に向かって、そんな侮辱は赦さないざます。」

 激昂した『女神ルナ』の化身(笑)は、また聞き慣れない言葉を吐いたよ。

「真の母? 何それ?」

「この大地に住まう全ての人は、大神ソルと女神ルナの子孫ざます。
 この地の人は、皆、千代遡ると二柱が創りし同じ祖先に辿り着くざます。
 それは八十八年前のことざます。
 この世の民が苦しんでおるのを見かねて神が降臨したざます。
 その『大神ソル』の化身こそが妾の伴侶ざます。
 伴侶は神の教えを啓蒙べく教団を創ると。
 神の半身たる妾を探し出して、妾こそ『女神ルナ』の化身と宣下したざます。
 現世の両親は仮初めに過ぎないざます。
 全ての人の真の父母にして、魂の父母は二柱の神ざます。
 そして、女神ルナ化身たる妾は、真の母として崇められる存在ざます。」

 何、そう超理論…。馬鹿も休み休み言って欲しいよ。

「ねえ、ウレシノ。
 千代前ってのは、どんな根拠だと思う?」

「あの教団では、神は人の世代にして千代前に全ての生き物を創造した主張しています。
 オードゥラ大陸では一世代を三十年と数える習わしになっていますから。
 今から三万年くらい前にこの世界は創造されたと言ってる訳ですね。
 因みに、オードゥラ大陸で一番古い王朝が八千年くらい前に成立したと言われてまして。
 三万年前の記録など何処にも存在しませんので…。
 どんなに寝言みたいな事でも確実に否定することは出来ません。
 勿論肯定も出来ませんけど。」

 まあ、千代と言うことに深い意味は無さそうだね。
 取り敢えず、人の歴史に残っている記録よりも古いことにしとけば。
 どんな荒唐無稽な話でも、嘘だと断定する事が出来る人が居ないからってだけみたい。

 でも、千代前に人々が創造されたと言っているなら、おいらには好都合だね。

「オバサン達の作り話はもう良いよ。
 真面目に聞くのも馬鹿馬鹿しいし、時間の無駄。
 確認させてもらうけど。
 オバサンの奉じる神が千代前に人を創造したと言うのは間違いないね。」

「その通りざます。
 人は千代前まで遡ると、かつての妾が産みし子に例外無く辿り着くざます。」 

「そう、それでおばさん達の主張が嘘っぱちだとハッキリしたよ。
 これを見てちょうだい。
 この国の王家の家系図だよ。
 ほら、おいらの名前も書き記されてる。
 第一万三千三百三十五代目の王としてね。」

 おいらは、ちょうど『積載庫』に入れてあった家系図を取り出して見せてあげたよ。
 宰相から教えてもらい、書庫から貸し出ししてもらってたの。
 一応、ご先祖様のことを知っておきたかったから。

 オードゥラ大陸とこの大陸で寿命が十分の一ってことは有り得ないから。
 千代前じゃ、この国ではつい最近ってことになるんだ。
 千代前に初めて神が初めて人を創造したなんて、ちゃんちゃら可笑しいね。
 その時既に、この王都では余裕で大勢の人が暮らしてたよ。

「ハァ?」

 第一万三千三百三十五代目と聞いて、自称『女神ルナ』の化身(笑)は目を丸くしてたよ。
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