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第十九章 難儀な連中が現れたよ…
第645話 頭のおかしな人が訪ねて来たらしい…
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酒場を舞台とした茶番劇から数日後。
おいらは、集めた関係者と一緒に、ウレシノからあの晩の報告を受けていたの。
「あの晩捕えた者は、二つの酒場で合計八十二人。
いずれの酒場も取り逃がした者は一人もありません。
捕えた者への尋問によれば。
船に残っているのは、教主を含めて二十一人。
うち教主の世話係五人を除けば、全て教団幹部とのことです。」
酒場で『ネズミ講もどき』の勧誘をしていた者達は、大部分が船乗り達で信徒の中では新参者らしい。
『教団』に騙されて全財産を巻き上げられた挙げ句、ヌル王国からこの港までタダ働きで操船させられた気の毒な人達だね。
どうりで芝居が下手くそだと思ったら、人を騙すのに余り慣れてなかったんだ。
ベテランの詐欺師だと流れるように嘘を言って、簡単に人を騙すと聞くものね。
酒場で捕えられた船乗り達、元々騙されて引き摺り込まれた口だから『教団』に対する忠誠心は欠片も無かったようで。
教団絡みの犯罪は例外なく死罪だと告げたところ、皆一様に「何でも話すから命だけはお助けを」と命乞いしたらしい。
その言葉通り、尋問には素直に応じたとのことで、積極的に教団の内情を暴露してくれたそうなの。
「連中、初っ端から、『歓び隊』の大部分を失ったのが痛かったようですね。
各種『ハニートラップ』は連中の切り札ですから。
それと、この国の人々が例の何語でも流暢に話せると言うのも誤算だったようです。
外国語をタダで学べると言って、誘い込むのも常套手段でしたから。」
『歓び隊』のお姉さん方は、何も『美人局』だけが取り柄では無いそうで。
若くてキレイなお姉さんばかりを集めた『歓び隊』は、人の警戒感を解くのに効果的なんだって。
「外国語に興味はないか」とか、「暇ならお茶でも飲まないか」とか言って、男性を教団の施設に誘い込むのはもちろんのこと。
『慈善活動』や『ダイエットエクササイズ』等をダシに、女性を誘い込むのも『歓び隊』の役目だったから。
そう言えば、オバチャンやトルテを勧誘したのも『歓び隊』お姉さんだったね。
教団の切り札とも言える『歓び隊』が早々に壊滅してしまって、人々を罠に誘い込むのが難しくなったらしいよ。
それで連中、酔っ払いをターゲットに大規模な『ネズミ講もどき』を仕掛けたらしい。
酔っ払いって、正常な判断力を欠いたり、気が大きくなってたりして騙し易いから。
それに詐欺初心者の船乗り達では、シラフの人を騙すのは難しいだろうって判断もあったみたいね。
「今、船に残っているのは『教団貴族』と揶揄される幹部ばかりで。
自分で汗をかいたことなど無い者達のようですし。
ここまでロクに補給も出来なかったとのことで。
既に、食料や水も底を突いている様子です。
また、王都から逃げだそうにも操船できる者がおりませんし。
状況的は詰んでいると見て良いでしょう。
唯、元々が気の狂った連中ですし、素直に降参はしないでしょう。
まだ鉄砲も残ってますし、何らかの悪足搔きをするのではと思います。」
教団の幹部は、一般信徒から搾り取ったお金で贅沢な暮らしをしているそうで。
自分では汗を流さず下から搾取するだけの姿は、しばしば貴族みたいだと揶揄されているんだって。
特に『幸福な家庭の光』の場合、その源泉の多くが『壺』なので『壺貴族』と陰口言われているって。
凄いね『壺』、最強じゃない。『壺貴族』を養って、『壺御殿』や『壺船』まで造っちゃうんだもんね。
連中がヌル王国を追われるように出奔したのが十ヶ月ほど前で、途中ティーポット島を通過したのが半年前らしく。
当然、おいら達がティーポット島を解放する前だったの。
そのため、島にはヌル王国の水軍が駐留していて、連中はお尋ね者なので寄港できなかったそうなの。
更に、サニアール国へ着いてみれば、ヌル王国から来たと申告した途端に問答無用で寄港を拒否されたんだって。
シナモン姉ちゃん、ヌル王国のこと無茶苦茶怒ってたから入港を禁止したんだね。
そんな訳で、この港に着くまでの間に、あの船は食料も水もカツカツになってたらしいんだ。
と言うことで、水も食料も底を突いて働き蟻も失った、他に移動しようにも船を動かせる人もいない。
自分で汗を流そうとしない怠惰な『壺貴族』共は既に詰んでいると、ウレシノは報告をまとめたんだ。
**********
ウレシノの報告が一段落した時のこと。
「陛下、打ち合わせ中のところ失礼いたします。
少々よろしいでしょうか?」
苦虫を噛み潰したような表情の官吏が部屋に入って来たの。
「うん、良いけど。
どうかしたの? 何か、冴えない表情だけど。」
「はい、実は王宮の前に『女神ルナ』の化身を名乗る不審な女が訪ねてきまして。
陛下に謁見したいと申しておるようなのです。
紹介状も、事前のアポイントなく、一国の王に謁見したいなど言語道断ですので。
そんな頭のおかしな女は、追い払うようと指示したのですが…。」
この官吏が苦々しい表情なのは、その女の人が素直に帰ってくれないらしい。
「ああ、王宮の前で騒いでいる悪趣味な服装の女ね。
確かに、あの姿を見たら頭がおかしいと思うのも当然だわね。」
その時、窓からアルトが入って来たんだ。
「アルト、いらっしゃい。
アルトもその女の人を見たの?」
「ええ、見たわよ。
神の化身たる自分を人間風情が門前払いとはけしからん。
派手な姿をした女が、そんな世迷言を喚き散らしていたわね。
それに、周りにいた取り巻き連中が追従してうるさいのなんの。
思わず殺意が湧いて、プチっと殺っちゃおうかと思ったわ。」
アルトに殺意を持たせるなんて、また、難儀な奴らが訪ねてきたものだね。
すると、ウレシノが言ったんだ。
「陛下、『女神ルナ』の化身って。
あの教団の教主に間違いございません。
臆面も無く女神の化身などと名乗れる恥知らず。
あの教主の他にいるとは思えませんから。」
あっ、やっぱり…。
悪の親玉、自ら乗り込んで来るとは、ウレシノの報告通り後が無いんだろうね。
「わかった、その女と会うよ。
但し、王宮へは入れない。
おいらの指定した所でなら会うと伝えてちょうだい。
教主が承諾したなら、トシゾー団長が案内してもらえるかな。」
おいらは、ウレシノの報告を一緒に聞いていたトシゾー団長に、謁見場所を指示をしたの。
もちろん、謁見の段取りもその場のみんなに説明しておいたよ。
教主の来訪を伝えに来た官吏は、トシゾー団長と共に王宮前に向かい。
しばらくして、結果を報告に一人で戻ってきた。
官吏の報告では、教主らしき女は王宮内での謁見を希望してたらしいけど。
トシゾー団長が数十人の騎士を率いて、連中を取り囲んだら渋々従ったらしいよ。
「それじゃ、マロン、私達も行きましょうか。
『積載庫』に乗っけて行くわね。」
アルトはノリノリだったよ。
これ以上、頭のイカレた連中を野放しにしたら鬱陶しいから、今日で決着をつけちゃえって。
おいらは、集めた関係者と一緒に、ウレシノからあの晩の報告を受けていたの。
「あの晩捕えた者は、二つの酒場で合計八十二人。
いずれの酒場も取り逃がした者は一人もありません。
捕えた者への尋問によれば。
船に残っているのは、教主を含めて二十一人。
うち教主の世話係五人を除けば、全て教団幹部とのことです。」
酒場で『ネズミ講もどき』の勧誘をしていた者達は、大部分が船乗り達で信徒の中では新参者らしい。
『教団』に騙されて全財産を巻き上げられた挙げ句、ヌル王国からこの港までタダ働きで操船させられた気の毒な人達だね。
どうりで芝居が下手くそだと思ったら、人を騙すのに余り慣れてなかったんだ。
ベテランの詐欺師だと流れるように嘘を言って、簡単に人を騙すと聞くものね。
酒場で捕えられた船乗り達、元々騙されて引き摺り込まれた口だから『教団』に対する忠誠心は欠片も無かったようで。
教団絡みの犯罪は例外なく死罪だと告げたところ、皆一様に「何でも話すから命だけはお助けを」と命乞いしたらしい。
その言葉通り、尋問には素直に応じたとのことで、積極的に教団の内情を暴露してくれたそうなの。
「連中、初っ端から、『歓び隊』の大部分を失ったのが痛かったようですね。
各種『ハニートラップ』は連中の切り札ですから。
それと、この国の人々が例の何語でも流暢に話せると言うのも誤算だったようです。
外国語をタダで学べると言って、誘い込むのも常套手段でしたから。」
『歓び隊』のお姉さん方は、何も『美人局』だけが取り柄では無いそうで。
若くてキレイなお姉さんばかりを集めた『歓び隊』は、人の警戒感を解くのに効果的なんだって。
「外国語に興味はないか」とか、「暇ならお茶でも飲まないか」とか言って、男性を教団の施設に誘い込むのはもちろんのこと。
『慈善活動』や『ダイエットエクササイズ』等をダシに、女性を誘い込むのも『歓び隊』の役目だったから。
そう言えば、オバチャンやトルテを勧誘したのも『歓び隊』お姉さんだったね。
教団の切り札とも言える『歓び隊』が早々に壊滅してしまって、人々を罠に誘い込むのが難しくなったらしいよ。
それで連中、酔っ払いをターゲットに大規模な『ネズミ講もどき』を仕掛けたらしい。
酔っ払いって、正常な判断力を欠いたり、気が大きくなってたりして騙し易いから。
それに詐欺初心者の船乗り達では、シラフの人を騙すのは難しいだろうって判断もあったみたいね。
「今、船に残っているのは『教団貴族』と揶揄される幹部ばかりで。
自分で汗をかいたことなど無い者達のようですし。
ここまでロクに補給も出来なかったとのことで。
既に、食料や水も底を突いている様子です。
また、王都から逃げだそうにも操船できる者がおりませんし。
状況的は詰んでいると見て良いでしょう。
唯、元々が気の狂った連中ですし、素直に降参はしないでしょう。
まだ鉄砲も残ってますし、何らかの悪足搔きをするのではと思います。」
教団の幹部は、一般信徒から搾り取ったお金で贅沢な暮らしをしているそうで。
自分では汗を流さず下から搾取するだけの姿は、しばしば貴族みたいだと揶揄されているんだって。
特に『幸福な家庭の光』の場合、その源泉の多くが『壺』なので『壺貴族』と陰口言われているって。
凄いね『壺』、最強じゃない。『壺貴族』を養って、『壺御殿』や『壺船』まで造っちゃうんだもんね。
連中がヌル王国を追われるように出奔したのが十ヶ月ほど前で、途中ティーポット島を通過したのが半年前らしく。
当然、おいら達がティーポット島を解放する前だったの。
そのため、島にはヌル王国の水軍が駐留していて、連中はお尋ね者なので寄港できなかったそうなの。
更に、サニアール国へ着いてみれば、ヌル王国から来たと申告した途端に問答無用で寄港を拒否されたんだって。
シナモン姉ちゃん、ヌル王国のこと無茶苦茶怒ってたから入港を禁止したんだね。
そんな訳で、この港に着くまでの間に、あの船は食料も水もカツカツになってたらしいんだ。
と言うことで、水も食料も底を突いて働き蟻も失った、他に移動しようにも船を動かせる人もいない。
自分で汗を流そうとしない怠惰な『壺貴族』共は既に詰んでいると、ウレシノは報告をまとめたんだ。
**********
ウレシノの報告が一段落した時のこと。
「陛下、打ち合わせ中のところ失礼いたします。
少々よろしいでしょうか?」
苦虫を噛み潰したような表情の官吏が部屋に入って来たの。
「うん、良いけど。
どうかしたの? 何か、冴えない表情だけど。」
「はい、実は王宮の前に『女神ルナ』の化身を名乗る不審な女が訪ねてきまして。
陛下に謁見したいと申しておるようなのです。
紹介状も、事前のアポイントなく、一国の王に謁見したいなど言語道断ですので。
そんな頭のおかしな女は、追い払うようと指示したのですが…。」
この官吏が苦々しい表情なのは、その女の人が素直に帰ってくれないらしい。
「ああ、王宮の前で騒いでいる悪趣味な服装の女ね。
確かに、あの姿を見たら頭がおかしいと思うのも当然だわね。」
その時、窓からアルトが入って来たんだ。
「アルト、いらっしゃい。
アルトもその女の人を見たの?」
「ええ、見たわよ。
神の化身たる自分を人間風情が門前払いとはけしからん。
派手な姿をした女が、そんな世迷言を喚き散らしていたわね。
それに、周りにいた取り巻き連中が追従してうるさいのなんの。
思わず殺意が湧いて、プチっと殺っちゃおうかと思ったわ。」
アルトに殺意を持たせるなんて、また、難儀な奴らが訪ねてきたものだね。
すると、ウレシノが言ったんだ。
「陛下、『女神ルナ』の化身って。
あの教団の教主に間違いございません。
臆面も無く女神の化身などと名乗れる恥知らず。
あの教主の他にいるとは思えませんから。」
あっ、やっぱり…。
悪の親玉、自ら乗り込んで来るとは、ウレシノの報告通り後が無いんだろうね。
「わかった、その女と会うよ。
但し、王宮へは入れない。
おいらの指定した所でなら会うと伝えてちょうだい。
教主が承諾したなら、トシゾー団長が案内してもらえるかな。」
おいらは、ウレシノの報告を一緒に聞いていたトシゾー団長に、謁見場所を指示をしたの。
もちろん、謁見の段取りもその場のみんなに説明しておいたよ。
教主の来訪を伝えに来た官吏は、トシゾー団長と共に王宮前に向かい。
しばらくして、結果を報告に一人で戻ってきた。
官吏の報告では、教主らしき女は王宮内での謁見を希望してたらしいけど。
トシゾー団長が数十人の騎士を率いて、連中を取り囲んだら渋々従ったらしいよ。
「それじゃ、マロン、私達も行きましょうか。
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