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アイイロモンペ

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第十九章 難儀な連中が現れたよ…

第639話 タロウ、モテモテだよ。若い女性以外にも…

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 おいら達は、イケメン兄ちゃんをリーダーとする慈善活動を装った悪質な勧誘を摘発したよ。
 昨日捕えた信徒の供述では、『壺船』に乗ってこの大陸に渡ってきた連中は三百人ほどらしいから。
 二日で六十五人捕えたくらいでは、全然安心できないの。まだ、二百四十人近く残っているみたいだしね。

 なので、引き続きおいら達は王都の巡回を続けることにしたんだ。
 中央広場に戻ると、お日様も高くなって人通りが大分増えてたの。

 そんな中で、見慣れない露店が幾つか出店していたよ。
 見慣れない露店の様子を窺ってると。

「よっ、マロン。
 女王陛下自ら連日の市中巡回、ご苦労さん。」

 普段着姿のタロウが、相変わらず冴えない雰囲気を漂わせながら現れたんだ。

「タロウも、見回りご苦労さん。
 いきなり臨時の仕事を押し付けちゃって悪かったね。」

「全くだ、臨時特命捜査官なんて面倒なモノ押し付けやがって…。
 おかげで昨日の晩はほとんど眠れなかったぞ。
 今日は今日で、朝っぱらが『美人局』に遭っちまったし。
 これじゃ、腰がもたないって。」

 タロウは、腰をトントンと叩きながら不満を漏らしてたよ。
 そう、『歓び隊』のお姉さんによる『美人局』を摘発した後、みんなから提案されたんだ。
 『歓び隊』の摘発はチランの申し出で、ノノウ一族に任せた訳だけど。
 初日の働きを鑑みると、タロウにも加わって持った方が良いってね。

 周りのみんなが推した通り、タロウは昨日一日で三件の『美人局』を摘発したらしい。
 そして、今朝も広場に面した冒険者ギルドに出勤する途中で、『美人局』に遭ったんだって。
 腰が痛いのは、初日同様に捕えたお姉さんをお仕置きしたためらしい。

 『歓び隊』のお姉さんは二十人ほどらしく、初日に五人、昨日トルテ達が四人捕えたので。
 タロウが昨日今日で四人捕えたとなると、残りは大分少なくなったよ。
 いっぱい捕まえると張り切ってたから、チランあたりは不満を漏らすかも知れないね。

「思った通り、『教団』ホイホイですね。
 そのパッとしない容姿が、連中にはカモに見えるのでしょう。
 タロウ君を取り締まりメンバーに推薦して良かったです。」

 タロウの成果を聞いて、ウレシノはすこぶる満足気だったよ。 
 タロウを取り締まりに加えろと一番強く主張してたのが、ウレシノだから。
 ウレシノ、ヌル王国に居た頃に『教団』の摘発に協力したことがあるそうで。
 その時の経験で、タロウみたいな雰囲気の若者が一番のカモになると解ったらしいの。

「うるせえ、パッとしなくて悪かったな。
 自分でも自覚してるが、面と向かって言われるとへこむぜ。」

 ウレシノのあんまりなセリフに、タロウが肩を落としたのだけど。

        **********

 その時のことだよ。

「もし、そこの若いの。
 そこの兄さんだよ、肩を落としているあんただよ。」

 しわがれた声が、タロウを呼び止めたの。
 声の主を探ると、それは見慣れない露店の老婆だった。
 まあ実際に老婆かは分からないのだけどね。
 ローブのフードを深く被っているせいで、顔が良く見えないから。

 黒ずくめの不気味な老婆は小さな机の後ろに腰掛けていて。
 机上には、『占い』と書かれた立て札と大きな水晶玉が置かれていたの。
 見るからに怪し気な露店だったよ。

「うん? 俺のことかい?
 なんだ、婆さん、いったい何の用だ?」

 老婆に声掛けされたタロウが用件を尋ねると。

「儂は見ての通り、しがない占い師さ。
 若いの、今、悩みがあるだろう。
 ちょっと、占って行かんかい。」

 老婆は自分を占い師だというと小さな机の前にある椅子を勧めたの。

「占いだって?
 占いって結構な金をとるんだろう。
 パッとしない見てくれ通り、稼ぎもパッとしないもんでな。
 金を払える気はしないぜ。」

 タロウは勧められた椅子に腰掛けずに、お断りしたんだけど…。

「そう言いなさんな。
 儂は、そんじょそこらのぼったくり占い師とは違うぞ。
 ほれ、この通り明朗会計じゃよ。
 今だけ限定、見料銀貨十枚のところを銀貨一枚で占ってる。」

 老婆は机の横に置かれた立て看板を指差して返答したんだ。
 看板には見料銀貨十枚と書かれてて、十枚の上に赤線で×が付されて一枚と訂正されてた。
 その横に、今だけ限定奉仕価格と大書され、追加料金一切無しと書かれてるの。

 正規料金の十分の一なんて、冷静に考えればそっちの方が胡散臭いよ…。

 でも、タロウは…。

「そっか、銀貨一枚なら見て貰おうかな。」

 老婆の誘いに乗ってさっさと椅子に腰かけちゃった。

「流石、タロウ君。
 『美人局』だけじゃなくて、アレにも掴まりますか。
 ホント、冴えない風体の面目躍如ですね。
 まさに、『教団』ホイホイです。」

 そんなタロウを、ウレシノは絶賛してたの。
 でも、それ、全然誉めてないよね…。
 まあ、おいらもタロウも、あの老婆が『教団』の信徒だと解ってるけどね。
 『エセ占い師』によるシノギも、教団の常套手段だと前もって聞かされていたから。
 タロウは、摘発のために敢えてカモ役を演じているんだ。

       **********

 タロウが老婆の正面に着席すると。

「おぬし、最近、何かと悩みが多かろう。
 儂には見えるぞ。
 それは、異性に関係する事じゃな。」

 タロウの心の内を見透かしたように、老婆は断言口調で言ったの。

「おおっ、当たってるじゃないか。
 そうなんだよ。
 俺、ここ数日、大変なことになっててな。」

 老婆の言葉に感心したかのようなリアクションを取ったタロウ。
 そんなタロウを軽蔑の眼で見たウレシノは言うの。

「何が、当たったですよ。
 あんなの誰にだって当てはまるじゃないですか。
 大抵の人は『悩みが多い』ですし。
 やりたい盛りの性少年の悩みと言ったら。
 誰しも異性関係で一つ二つあるでしょうが…。
 タロウ君も、『大変だった』なんてどの口でほざきますか。
 『歓び隊』の生娘をたらふく食っておいて。」

 インチキ占い師の常套手段らしいよ。
 誰にも当てはまる内容を、さも当人だけに起こっているように言うんだって。
 大抵の人に身に覚えがあるので、「当たった」と思い込むんだって。
 もっとも、騙すためには、巧みな話術や間の取り方など相応の技量が要るようだけどね。

 すると、老婆は…。

「おぬし、最近、人生の転機になるような事があったであろう。
 今の悩みも、それに起因しているのではないか?」

「おおっ、それも当たってる。
 俺、突然、見知らぬ土地で暮らすことになってな…。
 それから、色々と女性関係に変化が起こったんだよ。
 今まで、こんなこと経験したこと無かったから色々とな…。」

 またしてもタロウは老婆の言葉に相槌を打ってたよ。

 二人の会話に聞き耳を立ててたウレシノは呆れ顔になり。

「人生の転機なんてのも、誰にもあることじゃないですか。
 大したことじゃなくても、ああ言われると特別なことに思えるような。
 それにタロウ君も迂闊です。
 相槌くらいは良いですが、自分に起こったことを話すなんて…。
 あれじゃ、ペテン師に話の取っ掛かりを与えるようなものですよ。」

 タロウの迂闊さを指摘していたよ。
 そのウレシノの指摘は的を射ていたようで…。

「ふむ、そのおぬしの悩みじゃが…。
 おぬし、女難の相が現れておるぞ。
 しかも、儂には見える。
 葉が剣となっている木が茂る森で…。
 剣の葉に傷付き苦悶の表情を見せる男が…。
 そこは姦淫の罪を犯した者が落ちる地獄。
 苦しむ男は、百代前のおぬしの先祖じゃ。
 これは拙い、これはいかんぞ。」

 老婆はそのしわがれた声に、より不吉な雰囲気を漂わせて告げたんだ。

「なんだ、婆さん。 何が拙いんだよ?」

 老婆の鬼気迫る表情に、タロウの不安気な声が聞こえたよ。
 ペテンだと解っていても、タロウは狼狽えずにいられなかったみたい。
 そのくらい、老婆は迫真の演技を見せてたの。
 流石、熟練の詐欺師とウレシノも感心してたよ。

「今、おぬしに振り掛かっておる女難は先祖の因縁じゃ。
 先祖の罪を、おぬしが贖罪せにゃならん。
 さもなくば、これからも女難が降りかかるぞ。
 そして、おぬしの末路は先祖と同じじゃ。
 姦淫の罪を背負って、先祖と同じ地獄に落ちるじゃろう。」

 出たよ、壺売り教団の専売特許、先祖の因縁。
 しかもお約束、百代前の先祖の悪行だって。いったい、いつの時代の人だよ。

 この詐欺バレバレの言葉を聞いて、タロウも平静を取り戻したみたいだったよ。
 冷めた目で老婆のことを見ていたもの。
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