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第十九章 難儀な連中が現れたよ…

第633話 おとり捜査って…

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 鉄砲を船に戻してきた『教団』の男達は入国手続きを済ませると、早速『歓び隊』のお姉さん方と合流していたよ。

 入国管理事務所のホールにある長椅子に座ると、何やら打ち合わせを始めてた。
 おいらはコッソリと連中に近付いて聞き耳を立てることにしたの。

「なんだい、随分と待たせたけど。
 なんかあったのかい?
 私らと一緒に下船した連中が居ないじゃないか。
 それに鉄砲も持って無いし。」

 『歓び隊』のお姉さん、男達の人数が少ないことを不審に思ったみたい。

「いや、俺にも訳が分からんのだが。
 先発隊の連中が消えちまったんだ。 
 武器預り所を鉄砲で制圧しようとした途端にな。
 先発隊の鉄砲も消えちまったもんだから。
 これ以上、厄介なことになったら堪らんと思ってな。
 一度船に戻って、鉄砲を置いて来たんだよ。
 そんな訳で待たせて悪かったな。」

 男が事情を説明すると。

「あんたら、得物が無くて大丈夫なのかい。
 何時も『神の杖』とか言って虚仮脅しに使っているんだろ。
 神の威光とか騙って、カモをビビらせるのに必需品じゃなかったか。
 一発撃って見せれば、愚民共はひれ伏すとか言ってたじゃん。」

 どうやら人目が無いところへカモを連れ込んで、鉄砲を撃って見せるらしいね。
 壁に穴でもあけて見せて、恐怖でカモを支配するつもりなんだ…。
 それを布教活動だなんて称しているのだから、質が悪いことこの上ないよ。

「まあ、無ければ無いで何とかなるさ。
 それより、さっさとアジトになる空き家を借りに行こうぜ。
 一度連れ込んじまえば、簡単には逃げ出せないような物件を借りんとな。
 それさえ上手くいけばこっちのもんだ。
 多勢に無勢で取り囲んで、たっぷりと過去の因果を吹き込んでやれば良いさ。
 二、三日も監禁してやれば、落ちない奴はいねえよ。」

 手っ取り早く鉄砲で脅すのは諦めて、例の『先祖の悪事』のせいで祟られているってデマを信じ込ませるんだね。

「おや、未開の先住民を相手に随分と迂遠な事をするじゃないかい。
 ちんたらやってたら、司祭連中からせっつかれるだろう。
 原住民が四の五の言うようなら、最初に何人かズドンと見せしめにしろって。
 そう指示されていたと記憶してるんだけどね。
 その方が手っ取り早く、骨の髄まで搾れるからってさ。」

「仕方ねえだろう。
 貴重な鉄砲をこれ以上失う訳にはいかねえんだ。
 そんなに潤沢にある訳じゃないんだからよ。
 司祭にも少し時間が掛かると説明して、許可は貰って来たよ。」

「ちっ、仕方ないね。
 んじゃ、最初は手っ取り早く美人局で稼ぐとするかい。
 非モテの気の弱そうなキモ男でも引っかけて搾り取れば良いさ。」

 どうやら、連中、『先祖の悪事』ネタで壺を売るのは時間が掛かると踏んだようで。
 美人局で金を稼ぐことにしたらしい、カモからは一度金を巻き上げるだけじゃないそうだよ。
 全財産巻き上げた上で、その後は『教団』の手先として扱き使うらしいの。
 親族や友人を騙して連中のアジトへ連れて来いと、カモに強要するんだって。

        **********

 当面の活動方針を決めた連中は、入国管理事務所を出るとしばらくは街を見て回ってた。
 どうやら、繁華街の地理を把握しつつ、カモが居そうな場所を探っていたみたいで。
 「この辺はダイエットに関心を示しそうなオバハンが多い」とか、「この辺は如何にもモテなそうなキモ男が多い」とか。
 そんな風に、一区画、一区画、街往く人達の様子を窺っていたんだ。
 
 おいら達はアルトの『積載庫』に乗せてもらって、連中を尾行したんだけど。
 頭上から監視しているとは思いもしないんだろうね。
 連中、完全に油断して悪事の算段を口に出していたよ。

 そして、繁華街の外れにある人通りの少ない裏路地。
 薄汚れた宿屋の前で、連中は足を止めたの。

「ここなんか良いんじゃないかい。
 あんまり繁盛している様子じゃないし。
 立ちんぼが客を連れ込むにはびったりの宿じゃないかい。
 ここなら、カモも油断するんじゃないかな。」

 お姉さんは、街娼がお客といたすには丁度良さそうな宿だと評していたよ。
 日頃から街娼を利用しているような男なら。
 この宿を利用しておけば、美人局だと警戒されることは無いだろうって。

 お姉さんの提案に異論を述べる人も無く、連中、その宿に入っていったんだ。
 それからしばらくして『歓び隊』の五人が宿から出て来たの。
 どうやら、これからカモを探しに行くみたい。
 僅かに時間をずらして出て来た五人の男が、少し離れて後に続いたよ。
 この男達が、それぞれお姉さんの恋人役となってカモを脅すんだね。
 五人共、如何にもスジ者って雰囲気の厳ついニイチャンだったもの。

 十人が出て行ったので、宿に残っているのは男が十五人だね。

 おいらは護衛のトルテをトシゾー団長のもとに走らせたんだ。
 ここを摘発するため、騎士を十人程手配するようにと言付けたの。
 残りのジェレ姉ちゃん達三人の護衛騎士には、宿の見張りを命じておいた。
 宿に残っている十五人を逃がさないようにね。

 そして、おいらは街に向かった十人を尾行することにしたんだ。
 一緒に行動するのは、ウレシノとカラツ、それにタロウとマリアさんの四人だよ。
 あと、アルトが空を飛んでついて来てくれる。

 そして王都の中央広場まで来ると…。
 『歓び隊』のお姉さん方は、立ち止まって何やら物色を始めたの。

 その時のこと。

「ほら、タロウ君、出番よ。
 しばらく、この広場をブラついてちょうだい。」

 そんな指示を出して、マリンさんがタロウの背中を押したんだ。
 タロウは戸惑いの表情を見せたけど。
 サッサと行けと手の甲で促すマリアさんを見て、指示に従うことにしたみたい。
 如何にも何のアテもないって雰囲気で、タロウは広場をブラつき始めたの。

 すると、『歓び隊』のお姉さんの一人が小走りでタロウに寄って行き…。

「ねえ、君、一人?
 今、暇?
 私、お小遣いが心許なくてね。
 少しだけ援助して欲しいかなって…。
 これだけもらえれば、何でもしてあげる。」

 ガバッとタロウの腕にしがみ付いたお姉さんは、手のひら五本の指を広げて見せたの。 
 何と、『歓び隊』のカモ認定第一号はタロウだったよ…。

「彼女、凄い嗅覚ね…。
 あっという間に喰い付いたわ。」

 おいらの隣でマリアさんが感心してたよ。

「嗅覚?」

「そう、タロウ君てパッと見冴えない風貌だし。
 気弱そうで、ああやって誘われたら断る勇気が無さそうでしょう。
 おとり捜査には適任だと思ったのよ。
 絶対に食い付いてくると。
 でも、餌を撒いた途端に食い付くとは驚きだわ…。
 感心するほど凄い嗅覚…。」

 マリアさん、一応タロウのお嫁さんだよね。そんな身も蓋も無いことを言って…。

 一般の人々に迷惑が掛からないのは助かるけど…。
 『歓び隊』のお姉さん言ってたじゃん、ターゲットは『非モテの気の弱そうなキモ男』だって。
 そのお姉さんが、いの一番に飛びついたのがタロウだよ。 

「マリアさんはそれで良いの?
 あの状況ってさぁ。
 今この広場にいる男の人の中で、タロウが一番の『非モテの気の弱そうなキモ男』。
 『歓び隊』のお姉さんから、そう認定されたようなものなんだけど。」

 その辺をどう思っているか尋ねてみると。

「良いのよ。
 私はヘタレで、気弱なタロウ君が好きなんだもの。
 人を好きになるツボは、人それぞれなのよ。
 蓼食う虫も好き好きって言うじゃない。」
 
 マリアさんはそう答えてカラカラと笑っていたよ。
 まあ、マリアさんが気にしないのなら、おいらはとやかく言わないけどね。
 
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