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第十九章 難儀な連中が現れたよ…

第625話 母娘みたいだって…

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 アルトに付き合ってタロウの家を訪ねたら、見知らぬお姉さんに遭遇したよ。
 スケスケのネグリジェを着て、タロウの膝に座ってた。

 マリアさんって名乗ったそのお姉さん、歳は二十代半ばかな。
 この人、何処かで見たような気がするんだけど思い出せないよ。
 タロウの六人目のお嫁さんになったと言ってたけど、人族のお嫁さんの中では一番年上みたい。
 しかし、昨日の朝、トレントの狩場であった時には、タロウは何も言ってなかったよ。
 いったい、いつの間にマリアさんと知り合ったんだろう?

 マリアさんは前屈みにしゃがんで、おいらの頭を撫でてたんだけど。

「ふーん、マリア殿と申されるか。
 そうやって、マロンの頭を撫でておるとまるで母娘のようじゃ。
 栗毛色したサラサラの髪の毛に、焦げ茶色の瞳がそっくりなのじゃ。
 マロンの母上がご存命なら、そんな感じじゃったのかのう。」

 おいらとマリアさんの様子を目にしてオランがそんな感想を口にしたの。
 そう言えば、髪や瞳の色がおいらと同じだね。
 ついでに、貧相な胸もおいらを彷彿とさせるよ。
 見覚えがあると思ったけど何のことは無い。
 鏡に映った自分の姿が頭に浮かんでただけみたい。

「あら、マロンちゃん、お母さんがいないの?」

「うん。
 おいらが生まれたばかりの頃に、この王都で謀反があって。
 簒奪者に弑逆されちゃったんだって。
 だから、おいら、母ちゃんや父ちゃんの顔も知らないんだ。」

 おいらが隠すことなく返答すると、マリアさんは涙目になって…。

「まあ、マロンちゃん、可哀想。
 その歳でお母さんがいないと寂しいでしょう。
 私で良ければ、お母さんだと思って甘えてくれても良いわよ。」

 そんな言葉と共に、今度はガバッと抱きついて来たの。
 マリアさんは涙もろい性格なのか、泣きながらおいらを抱きしめてくれたんだ。
 おいらの気持ちを思って泣いてくれるのは嬉しいけどね。
 流石に、お母さんだと思って甘えても良いと言われても…。
 それじゃお言葉に甘えてとは言えないよ、おいら、一応この国の女王だし。

「寂しい思いはしてないかな。
 今は何時でもオランが側に居てくれるし。
 アルトも心配してくれて、しょっちゅう顔を見せてくれるから。」

 それにね、正直なところ母ちゃんが居なくて寂しいと思ったことも無いんだ。
 物心ついた時には居なかったし、その分父ちゃんが愛情を注いで育ててくれたから。

 すると、マリアさん、今度はオランに顔を向け。

「そう、オラン君が支えてくれているのね。
 オラン君、マロンちゃんをよろしくね。
 何時までも、仲良くしてね。」

 そんな、おいらの保護者じゃないんだから…。
 
「任せておくのじゃ。
 私はどんな時でもマロンを支えると心に決めたのじゃ。」

 だから、何でオランまでマリアさんに誓うように言うの。

         **********

 アルトがシフォン姉ちゃんと商談を済ますまで、おいら達はマリアさんやタロウと時間を潰すことにしたんだ。

「ねえ、マリアさん。
 マリアさんは何時タロウと知り合ったの?
 おいら、毎日のようにタロウと顔を会わせるけど。
 マリアさんの事は一度も聞いたことが無いよ。」

 おいら、真っ先にそれを尋ねたよ。
 今まで、マリアさんの存在を匂わす事なんて何も無かったから。 

 すると、マリアさんったら、とんでもないことを言ったんだ。

「ダーリンと知り合ったのは昨日の晩よ。
 本当は、こんな関係になる予定は無かったの。
 とある用事があって訪ねて来たんだけど…。
 ダーリンに一目惚れしちゃって。」

 何と、まだ知り合って丸一日経っていないんだって。

「蓼食う虫も好き好きとは良く言ったもんじゃ。
 こんなヘタレに一目惚れとは…。
 他人の好みに口出しするつもりは毛頭ないのじゃが…。
 タロウの何処にそれほど惚れたのか。
 後学のために聞かせて貰えんじゃろうか。」

 オランも信じられないって顔で尋ねていたよ。

「オラン君の言うヘタレた感じが良いんじゃない。
 内気そうで、うだつが上がらなそうで、草食動物系なところ。
 かと思えば、それなりの包容力と財力も兼ね備えているでしょう。
 お嫁さんを五人も抱えているんだもの。
 まさに私の理想通りの男性だわ。」

 何故だろう、全然褒めているように聞こえないんだけど…。
 そう感じるのは、おいらだけかなと思っていると。

「分からんのじゃ。
 マリア殿の惚れるツボが何処にあるのか。
 とんと検討がつかんのじゃ。」

 おいらの隣でオランが呟いていたよ。
 どうやら、疑問に感じてるのは、おいらだけじゃないみたい。

 マリアさんはその後に続けてこんなことも言ってたんだ。

「私、『俺様』タイプの男が大嫌いなの。
 それと、直ぐに手が出る粗暴な男と…。
 筋肉ムキムキの暑苦しい男も大嫌い。
 やっぱり、男性は線が細くて、物静かで控え目な人が良いわね。」

 結核で早死にしそうな、文学青年タイプの男性が好みだとか言ってたよ。
 『俺様』タイプが嫌いというのは同意できるけど、『結核で早死にしそうな』ってのはどうかと思うよ。
 やっぱり、旦那さまには健康で長生きして欲しいと思うもの。

「いったい何なんだ…。
 夜遅くにいきなり訪ねてきたと思えば…。
 六人目の嫁になるとか言って、朝まで搾り取られるし…。
 それに加えて、この言われようだ。
 何処まで本気で言っているのか見当がつかないぜ。
 俺、からかわれているじゃいないのか?」

 マリアさんの言い分を聞いて、タロウが愚痴ってたよ。
 すると、マリアさんは寂しそうな表情をして…。

「ダーリン、そんな悲しいこと言っちゃイヤ。
 からかってなんかいないもん。
 ダーリンのことを本気で愛しているから。
 ずっと大切にしてきた純潔を捧げたんじゃない。
 ちゃんと、シーツにその証が残っていたでしょう。
 面白半分にあんなことはしないわ。」

 半泣きでタロウの首にしがみ付いたんだ。 

「あんたはサキュバスか! 
 一晩中寝ずに搾り取る『初めて』が何処に居るってんだ!」

「だって、お預けを食らっていたんだもの。
 ハゥフルちゃんとシレーヌちゃんとの絡みを見てたら…。
 体が火照って、抑えが利かなかったんだから仕方ないじゃない。」

 何か、タロウとマリアさんが良く理解できない言い争いを始めたよ。
 良く分からないけど、マリアさんが本気でタロウの事が好きなのは間違いないみたい。

      **********

 しばらくすると、アルトとシフォン姉ちゃんが仕事の話を終えて部屋に入って来たの。

「マロン、待たせたわね。
 ゴムの納品も終わったから、街へ行きましょうか。」

 街へ行こうと誘うアルトの言葉に、マリアさんがピクっと反応したよ。
 そして…。

「なに、なに、マロンちゃん、これから街に出るの?」

 そんな風に尋ねてきたの。

「うん、少し前に長期間王宮を留守にしちゃってね。
 仕事が溜まっちゃったもんだから。
 ゆっくり街の様子を視察している時間が取れなかったの。
 やっぱり、街の人達に何か問題が起きてないか心配でしょう。
 少し仕事が片付いたから、街を歩いてみようかと思ってね。」

 おいらの返答がお気に召したのか、マリアさんはニッコリと笑顔を見せて。

「まあ、マロンちゃん、まだ小さいのにちゃんと王様をしているのね。
 感心、感心。
 王権というモノは、民の信託の上に成り立つものだからね。
 王様は常に民の暮らしぶりに気を配り、民の声に耳を傾けないといけないの。
 それを実践するのは素晴らしいことよ。
 マロンちゃんみたいな王様がいて、この国の民は幸せね。」

 そう言うと、またおいらの頭をなでなでしてくれたんだ。
 でも何か不思議、マリアさんから王様の心得みたいな事を諭されるなんて。

 おいらがマリアさんのことを不思議に感じていると。

「ねえ、マロンちゃん。
 私も街の視察について行っても良いかしら?
 この街に来たのは久し振りなんで。
 どんな風に発展したのか見てみたわ。」

 マリアさんは街の視察に同行したいと申し出てきたんだ。

「別に構わないよ。
 公式な視察じゃないし。
 顔見知りのオバチャン達とおしゃべりするだけだからね。」

「まあ、素敵。
 マロンちゃんがどんな王様をしているか見せてもらおうっと。」

 そう言うと、マリアさんは着替えをしに部屋を出て行ったよ。
 スケスケのネグリジェで外に出る訳にはいかないからね。

 しかし、マリアさん、どう見てもまだ二十代半ばの年齢だよね。
 すっごく久し振りなんて言ってたけど。
 年齢から言うと、マリアさんが前に来てから二十年は経ってないと思うんだ。
 子供のおいらが言うのもなんだけど、この街、二十年じゃあんまり変わっていないと思うよ。
 この街、古い街並みがそのままみたいだし…。
 
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