ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十八章【間章】おいらが生まれるよりずっと前のことだって

第619話 ほら、無茶をするから…

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 アカシアさんによって不意打ち的に放たれた電撃を見事に躱して見せたマロンさん。
 でもその後は、格好がつかないことに地面に転がってのたうち回っていたの。
 多分、その理由は…。

「マロン、大丈夫?
 もしかしてアカシアの電撃がかすりでもした?」

 慌ててマロンさんのもとに飛んでいくオリジン。
 一方で、電撃を放ったアカシアさんの方はと言うと。

「ママ、心配しなくても平気よ。
 ちょっと、全身の筋肉に無理な負荷が掛っただけよ。
 普段、デスクワークしかしてないでしょう。
 鈍った体で、いきなりあんな瞬発力を発揮したのですもの。
 体が悲鳴を上げるのは当たり前よ。」

 冷静にマロンさんの状態を説明してたよ。
 うん、うん、おいらも経験あるよ。
 思わぬ方向から不意打ちをくらった時に、完全回避で無茶な動きをして筋肉がつったこと。

 アカシアさんの言葉通り、しばらくしたらマロンさんは立ち上がったよ。

「痛た…、運動不足の体にあの動きは無理ね。
 体中の筋肉が痙攣を起こしちゃったわ…。
 これも、『不思議な空間』の時と同じ対策が必要ね。
 少量ずつ投与して、体を慣らす必要がありそうだわ。」

 マロンさんは、腕やら足やらを揉み解すように撫でながらそんな事を言ってた。

「ねえ、マロン。
 肝心なことを聞いてなかったけど。
 今試したモノはいったい何なの?」

 今更ながら、オリジンがアンプルの中身について尋ねたの。
 マロンさんは何の説明も無しにあれを服用したからね。

「あっ、あれ?
 あれはイブから頼まれてた『スカート捲り』を躱すためのナノマシンよ。
 別にスカート捲りだけじゃなくて、肉体的に脅威となるモノを回避するために開発したの。
 対象の速度や質量、それに運動のベクトルを瞬時に解析して最善の回避行動を取るように作用するの。」

 対象に対する観察力を強化するために、動体視力を始め様々な神経系を強化しているんだって。
 瞬時に解析した脅威を回避するための反射神経なんかも強化してくれるらしいよ。
 驚異となる存在の動きを解析・予測して、反射的に回避行動を取る仕組みになっているらしい。

「呆れた…。
 マロン、あなた、スカート捲りを回避する為にこんなもの開発したの。
 そんなのあの悪ガキ共を叱って、止めさせれば良いだけでしょう。」

「叱っても言うことを聞かないから作ったのよ。
 それに、スカート捲りだけじゃないわ。
 他にも乱暴なことをするし。
 五歳児にしてスカート捲りなんてするのよ。
 もう少し大きくなったら性暴力を働くかも知れないじゃない。
 女の子に身を護る術は必要だと思ったの。」

 呆れた様子のオリジンに対して、マロンさんはそんな抗弁をしていたよ。

      **********

「ママ、マロンの主張ももっともだと思うわ。
 あのエロガキ共、何をしでかすか分からないからね。
 それにね。
 この大陸中を見て回って分かったのだけど。
 トラや熊、それに狼。
 テルルに居た猛獣に似た動物がこの大陸にも生息しているの。
 そいつらに襲われた時にも、この回避能力は有用だと思うわ。」

 この大陸の生態系を良く知るアカシアさんが、マロンさんを擁護したんだ。
 一年ほど早く目覚めてこの大陸を見て回ってそうで、みんなより大陸の動植物に詳しいみたいなの。

「そうそう、危険動物も多いみたいですものね。
 私もこの能力は有用だと思っているの。
 実は、他にも二つほど作ったものが有るのよ。
 ひ弱な女の子でも、屈強な男子に反撃するためのナノマシン。」

 そう言って、アンプルを二本、目の前で振って見せるマロンさん。
 うん、もう、オチは見えたよ。

「なあに、それは?」

 おいらと違い、その時点のオリジンは『クリティカル』のことを知らない訳で。

「一つは相手の急所に的確に攻撃を加える能力よ。
 もう一つは、その能力による打撃力を強化する能力なの。
 いくら急所を突いても、余りにひ弱では無意味かも知れないから。」

 マロンさんは、おいらの予想通りの答えを返したの。
 マロンさん言ってたよ。
 攻撃力を強化すると言っても筋肉ムキムキになる訳じゃなくて。
 瞬発力を発揮できるように筋肉の質そのものを強化するんだって。
 筋肉ムキムキの女の子は可愛くないから嫌だとマロンさんは言ってたよ。
 一見ひ弱そうな外見でも、瞬間的に凄い力を発揮できるようにするんだって。

 そっか、だから貧相な体つきのおいらでも、ワイバーンの首を一撃で刎ね飛ばせるんだ。

「また睡眠時間を削って、そんなものを開発してたの?
 でも、そのナノマシン、どうやって効果を検証するのよ。
 回避に関してはアカシアに攻撃させても良かったけど。
 私の娘の急所に攻撃を加えるなんて許可できないわよ。」

 オリジンは、アカシアさんを実験台には出来ないと主張してたよ。

「そうね、じゃ、実際に危険動物を狩りに行ってみましょう。
 今日の晩御飯は、イノシシのステーキにしましょうか。
 私がイノシシ狩りにチャレンジしてみるわ。」

 そう告げて、マロンさんは手にしたアンプルを二本とも飲み干したんだ。
 そんなマロンさんを、オリジンは「こいつ、大丈夫か?」って目で見ていたよ。

        **********

 そして、壁のモニターに映る光景は一転して草原になったよ。

「ねえ、マロン、本当にやる気なの?
 こう言っては何だけど…。
 マロンって、どんなに贔屓目に見てもひ弱な人間の域を出ないわ。
 イノシシの突進を受けたら絶対に無事では済まないと思う。」

 心配そうな顔したオリジンは止めようとするんだけど。

「大丈夫よ。
 コンピューター上のシミュレーションでは上手くいくはずなの。
 虚弱体質の私でもイノシシくらいは狩れるはずだわ。」

 でもマロンさんは、そんな風に意気込んでオリジンの言葉に耳を貸さないの。
 まっ、普通誰でも制止するよね。
 ひ弱そうなマロンさんが肉切り包丁一本でイノシシに対峙するなんて言ってるんだもん。
 研究所には、剣とか槍とかの武器は無いみたいだよ。

「まあ、良いんじゃないの。
 マロンの気が済むようにすれば。
 いざとなったら、マロンに危害が加わる前に私が狩るわよ。」

 制止するオリジンとは対照的に、アカシアさんはマロンさんを止めようとしなかったの。
 どうやら、最終的にはアカシアさんが電撃でイノシシを倒すつもりのようだった。

 そして…。

「ほら、マロン、イノシシを引っ張って来たわよ。
 そんなに自信があるのなら、やって見なさい!」

 アカシアさんが挑発して、イノシシをマロンさんのもとへ引っ張ってきたんだ。
 怒りを露わにしてアカシアさんに向かって突進してきた大型のイノシシ。

「えっ、イノシシってそんなに大きいの!
 ちょ、ちょっと待った!
 ダメ、来ないで、こっちに来ないで!」

 イノシシの大きさが予想外だったらしく、マロンさんはいきなり怖じ気付いたよ。
 でも、マロンさんの都合なんてイノシシが斟酌してくれる訳もなく…。

 肉切り包丁を遮二無二振り回すマロンさんにイノシシが突進して来たんだ。

「やっぱり、デスクワーカーに狩りなんて無理ね。
 心構えからして出来てないもの。」

 マロンさんの狼狽振りを見て呆れたアカシアさんが電撃で介入する動作を見せた時のことだよ。
 目を閉じて肉切り包丁を振り回すマロンさんに、あわやイノシシが衝突するって場面で。
 マロンさんの体が、目にも留まらぬ速さでスッと一歩横へ退いたんだ。

 そして…。

「イヤーーー!」

 という情けない叫び声と一緒に振り下ろされた肉切り包丁がイノシシの頸部に吸い込まれ…。
 
「ブヒーーーー!」

 イノシシの末期の鳴き声が響き渡って血飛沫が上がったの。
 ドンという地面に激突する音と共に、倒れ伏すイノシシ。
 
「あら、凄いわね。
 あんな無茶苦茶に振り回してた包丁で仕留めるなんて。
 マロンの開発したナノマシン、効果抜群ね。」

 アカシアさんはそんな風に感心してたけど、当のマロンさんはと言うと…。

「痛い!
 腕が千切れる、足がつる!」

 つった足を抱えるようにして、地面に倒れ伏していたよ。
 運動不足の人が無理をするから…。
 少し前に同じ目に遭ったばかりなのに学習しないんだもの。
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