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第十八章【間章】おいらが生まれるよりずっと前のことだって

第616話 実は凄いモノだったとか…

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 さて、また映像の中の画面は切り替わり、マロンさん達は森の中を歩いてたんだ。

「これは枝豆? いえ、大豆と言った方が正確かしら。
 ねえ、アカシア、私に見せたいモノってこれなの?
 こんな森の中まで連れてきて。」

 森の一画、木が疎らになった場所で立ち止まったマロンさんはそんなことを尋ねたの。
 一行の目の前には、マロンさんの膝丈ほどの植物が群生していたよ。

「まあ、ちょっと見ていて。
 そのうち、面白い光景がみられると思うから。」

 それは、アカシアさんがマロンさんの問い掛けに答えて間もなくのことだった。
 一羽の鳥がその植物の実を啄むために降りてきたの。
 地面に降り立った鳥が首を伸ばして草の実を咥えようとした時のことだよ。

 パチ、パチ、パチ。

 そんな音を立てて、鞘に入った植物の実が弾けて鳥に当たったんだ。
 それも実の入った鞘一つではなく、多数の鞘が同時に弾けて鳥に向けて飛んだの。
 あたかも、その植物が意志を持って鳥に攻撃を仕掛けたように見えたよ。

 無数の実を受けた鳥はやがて痙攣を始めて、パタンと地面倒れたの。
 すると今度は地面から根っこが這い出してきて鳥を絡めとったよ。
 そして、絡め捕られた鳥はみるみるうちに干乾びていったんだ。

「なにこれ、気色悪い…。
 この植物、食虫植物なの?
 いえ、虫だけじゃなくて小形の動物まで捕食するのね。
 こんな植物初めて見たわ。」

 見覚えがある草だと思ったら、やっぱ、シューティング・ビーンズだね。
 小さなネズミを捕食するところは見たことあるけど、そこそこ大きな鳥まで捕まえられるんだ…。

「そうなの。
 こんなのテルルの記録には無かったから。
 マロンが興味を示すかと思ってね。」

 テルル人の知識を後世に伝えるアーカイブ的な存在として生み出された妖精族。
 最初の妖精族とも言うべきアカシアさんは、膨大な量の知識を覚え込まされているんだ。
 そんなアカシアさんの記憶の中に動物を捕食する植物なんて無かったそうなの。
 だから、マロンさんに報告しようと思ったらしい。

 アカシアさんの返事を聞くと、マロンさんはその場にしゃがんで鳥に降り注いだ豆粒を一つ摘まみ上げたの。

「あら、これ、表面に何か毒があるのかしら?
 触れた指先が微かに痺れるわ。」

「へえ、神経毒のある実で獲物を麻痺させて。
 動けなくさせてから、根っこで養分を吸収するんだ。
 雑草の癖して中々やるじゃない。」

 マロンさんが豆粒の考察をしていると、それを聞いたオリジンが妙な感心の仕方をしてたよ。

「この草、こんなに大きな動物を捕食してどうするのかしら。
 この草丈の植物が生育する栄養素としては、明らかに過剰な気がするわ。」

 大きな鳥の残骸を目にしてそんな呟きを漏らしたマロンさん。
 少し採取して観察する気になった様子で、アカシアさんに採取をお願いしていたよ。

        **********

 そして、場面はまた転換して。
 今度は研究所の庭で、シューティング・ビーンズを栽培している光景が映っていたよ。

「凄いわ、わずか一週間でこの区画いっぱいに蔓延るなんて…。」

 石で囲われた庭の一画がシューティング・ビーンズでいっぱいになっていて。
 それの前に立ったマロンさんが目を丸くしてた。

「それだけじゃないわ。
 採取した時は結実していなかった個体ばかりなのに。
 昨日芽を出した個体以外は全て実を付けているわ。
 発芽から結実まで僅か二日よ。」

 すると、マロンさんの隣に浮いていたオリジンがそんなことを言ってたよ。

「これ、驚きだわ。
 まさかイチゴみたいにランナーを伸ばして増えるなんて…。
 種を蒔くまでも無くどんどん増えるって食用にするなら理想的よね。」

「で、どうなのこの草の実、食べられるの?」

 これが食べられれば、食糧難になることはないと言うマロンさん。
 そこでオリジンは、この実が食用になるかを尋ねたの。

「結論から言えばイエスね。
 この実、完熟するまでは毒を持っていないの。
 生ったばかりの柔らかい鞘に入った実は枝豆そのものよ。
 塩茹でにしたらとても美味しいわ。
 反面、良く熟して硬くなった実に関しては注意が必要ね。」

 実が熟すと鞘が固くなり、獲物が近付くとそれが弾けて攻撃する訳だけど。
 マロンさんの研究では、神経毒は鞘の内側から分泌されるそうで。
 豆の表面に塗布されたような状態になっているだけなんだって。
 その神経毒は実が十分に熟さないと分泌されないようで、未熟な実は無条件に食用になるんだって。
 
 また、成熟した鞘の内側から分泌される神経毒だけど。
 豆の表面には不透性の被膜があって、神経毒は豆の内部までは浸透してないそうだよ。
 だから、成熟した豆も十分に洗えば食べられるそうなんだ。

「十分に洗って乾燥させておけば、保存食として利用できるわ。
 味も、テルルにあった大豆と同じね。
 この実は大豆の代用品として幅広く使うことが出来ると思う。」

 マロンさんは嬉しそうに研究結果を披露していたよ。

「そう、それは良かったわね。
 それじゃ、これを大量に栽培するようにしましょう。
 これを畑に植えておけば、ネズミみたいな害獣駆除もしてくれるだろうし。
 一石二鳥じゃないの。」

 そんな感想を漏らすオリジンに向かって、ニヤリと笑ったマロンさん。

「そうね、でも、それだけじゃ勿体ないわ。
 この大豆もどき、とっても優秀な植物よ。
 テルルの大豆と同じで窒素同化も出来るの。
 これを生やしておけば、勝手に地味が肥えるのよ。
 それでいて、動物まで食べているんだもの。
 過剰な栄養摂取よね。
 現状はそれを繁殖だけに振り向けているようだけど。
 ちょうど良いから、繁殖力を抑えて別の仕事をしてもらおうかと思って。」

 そんな意味有り気な事を言ったんだ。
 草丈の短いこの植物の何処にそんな栄養素を必要としてるんだろうと。
 最初にシューティング・ビーンズを見た時に、マロンさんはそんな疑問を口にしていたけど。
 観察の結果、その旺盛な繁殖力に栄養の大部分を費やしていることが分かったらしいんだ。

「別の仕事?
 こんな大豆もどきの草に、何か仕事をさせようと言うの?」

「ええ、さっき言ったでしょう。
 この草、大気中の窒素を取り込んで窒素化合物として地中に分泌しているの。
 正確にはこの草自体じゃなくて、共生している根粒菌だけどね。
 これって、人がしようと思ったらとんでもなく大規模なプラントが要るのよ。
 それをこの植物と共生する微生物がしているの。
 そんな凄い力をいかんなく発揮してもらおうかと思ってね。」

 マロンさんは言ったんだ。
 テルルでは微生物に薬品その他の高分子化合物を作らせるなんてよく有ったことだって。
 これで懸案だった生産設備の問題が解決できるだなんて呟いていたよ。
  
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