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第十八章【間章】おいらが生まれるよりずっと前のことだって
第615話 無事に能力を得られたみたい
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空間把握能力を強化するために開発したナノマシン。
ところがそれは、「不思議な空間」の会得という思わぬ副産物を生み出したの。
マロンさんは、この「不思議な空間」の有用性に着目して誰でも取得できるようにしようと考えたんだ。
一般人の脳にも負担が掛からないように一回当たりの摂取量を減らすことにしたマロンさん。
何とか、目安をつけたので早速試してみようとした矢先、イブも一緒に試すとせがんだの。
マロンさんは、幼児の体にどんな負担があるか分からないからと、躊躇したのだけど。
いつもは素直に言うことを聞くイブには珍しく、自分も試すのだと言って引かなかったんだ。
「良いんじゃない。
体に害がないことはアカシアとマロンで証明されているんだから。
それにイブ達の脳は純粋なテルル人のマロンに比べて強化されているのでしょう。
どんな言語でも即座に理解できるのだから。」
ためらいを見せるマロンさんに、オリジンはそんなアドバイスをしたんだ。
即座に多言語を理解するなんて、言語中枢を強化しただけでは有り得ないって。
思考能力を司る部分の働きも相当強化されているはずだと。
「まあ、そう言えばそうね。
それじゃ、イブにも実験に付き合ってもらいましょうか。」
マロンさんはオリジンのアドバイスに従うことにしたみたい。
自分を見つめるイブの期待に満ちた瞳に抗せなかった様子だよ。
そんな訳で、目一杯小分けにしたナノマシンを服用した二人。
「イブ、大丈夫?
頭が痛くなったり、気分が悪くなったりしない?」
心配そうな表情でマロンさんは問い掛けたのだけど。
「全然、痛くないよ。気持ち悪くも無いし。」
イブはけろっとしていたよ。
「うーん、流石に五十万分の一なら子供の脳でも負担は無いか…。
これなら、連続して治験しても問題ないかしら。」
そんな言葉を呟いたマロンさん。
さっきまでは渋っていたのに、さっそくもう一単位イブに勧めたんだ。
そうして、服用する数を増やしていったの。
「ねえ、イブ、本当に何とも無いの?
もう、百単位も摂取しているわよ。
私、そろそろ頭が痛くなってきたんだけど。」
そもそも、五十万分の一まで減らしてやっと負担を感じなくなったと言ってたのに。
いきなり百単位も摂取するのは無茶なんじゃ? それじゃ、一単位を減らした意味が無いと思うよ。
「私、全然、問題ないよ。
頭も痛くなければ、気分悪くも無い。
その代わり、何の効果も感じないけど。」
けろっとした表情で答えるイブ。
まあ、百単位くらいじゃ何も効果は感じないよね。
だから、究極のゴミスキルと言われているんだもの。
「やっぱり、オリジンの指摘通り。
この子達は、脳の機能全体が相当強化されているわね。
私が負担に感じている量をものともしないのですもの。」
全く負担を感じさせないイブを見て、マロンさんは感心してたよ。
マロンさんが意図したより、イブの脳は相当強化されていたみたいなの。
「そうか、俺がマロンと最初に会った時感じた違和感はそれか。
こいつ、八歳児の割に妙にしっかりしているし。
何より、幼女の癖に頭が切れると思っていたんだ。
この大陸の人族は、人為的に脳の機能が強化された種族だったんだ。」
おいらの隣で映像を見ていたタロウがそんな呟きを漏らしていたよ。
**********
そして、映像はまた場面が切り替わり。
「ママ、見て、見て。
ほら、ママやアカシアお姉ちゃんと同じことが出来るようになったよ。」
壁に映し出されたイブは、手にした花瓶を消し去って見せたよ。
その言葉から察するに『不思議な空間』に仕舞って見せたんだね。
「イブ、凄いわ。
こんなに短期間で会得できるなんて。
想定していたよりもずっと速かったわね。」
マロンさんはイブの頭を撫で撫でしながら褒めてたよ。
マロンさんの方は既に『不思議な空間』を取得していた様子だったの。
マロンさんは最初にアカシアさんに投与した十分の一の量を摂取してたからね。
おいらが食べた『スキルの実』一つが一単位相当だとすれば。
五十万単位の十分の一だと五万個分だものね、レベル一の『積載庫』は一発で取得したはずだよ。
「うん、嬉しいよ。
これがあれば、大事な物を仕舞っておけるもの。
もう、アダムやノアに盗られたり、壊されたりする心配は要らないね。」
どううやら、あの乱暴者の二人はイブから物を取り上げたりするらしい。
それが嫌なので『不思議な空間』を取得したいと思ったのかもね。
「でも、不思議ねぇ。
私やイブの『不思議な空間』は無生物しか入らないのよね。
それに空間内の時間は停止しているようだし…。
五十万単位すべて摂取しないとアカシアのようにはいかないのかしら?」
マロンさんは『不思議な空間』を取得してから色々と試してみた様子だった。
どうやら、おいらの『積載庫』と同じレベル一の機能しか無いようだね。
マロンさんは『不思議な空間』からパンの実を取り出して言ってたよ。
一月も前に入れたのに干乾びてもカビてもいないなんて、時間が停まっているとしか思えないって。
「それじゃ、まだ、そのお薬飲み続けてみるね。
アカシアお姉ちゃんみたいに何でも入れられたら便利だもの。」
マロンさんの仮説を耳にしたイブは、完全な『不思議な空間』を手に入れるんだって意気込んでいたよ。
**********
『不思議な空間』を誰でも取得できることが確認できて、マロンさんは喜んでいたけど。
「取り敢えずは、アカシアが取得した『不思議な空間』の復元性は確認できたようね。
二人治験して、二人共発現したなら間違いないでしょう。
それで、これの量産はどうするつもりなの?
この能力をテルル人の末裔に子々孫々まで残してあげたいのでしょう。
でも、この施設の設備なんて、二十年もすれば老朽化で使えなくなるわよ。
そもそもこの施設の設備は実験用だから量産には向いて無いんでしょう。」
そこへ、オリジンがそんなことを問い掛けたんだ。
生産量に限りがあるのでは子々孫々まで伝えることは出来ないし。
仮に設備が長期間の使用に耐えたとしても、マロンさんが居なくなれば作れる人が居なくなるって。
マロンさんは普通の人なので、寿命は長くても九十年くらいだからって。
そしたら。
「ママの代わりに私が作るもん。
いっぱい勉強して、私がママの跡を継ぐの。」
オリジンの問い掛けに、健気にもイブがそんな決意表明をしたんだ。
「あら、イブは本当に良い子ね。
それじゃ、私の知識は全部、イブに継いでもらうわね。
でも、それは義務じゃないのよ。
イブは自分の好きなことをすれば良いから。
私としては、イブには素敵な恋をして欲しいわ。
そして幸せな家庭を築いて欲しい。
私には叶わなかったことだもの。」
「恋? 何それ?」
「まだ、イブには早かったわね。
もう少し大きくなったら教えてあげる。
その前に、私が素敵な男の子を作らないとダメね。
あの二人がお相手じゃ、恋心なんて起きないだろうし…。」
マロンさんは、庭で取っ組み合いの喧嘩をしているアダムとノアを見てため息を吐いていたよ。
ところがそれは、「不思議な空間」の会得という思わぬ副産物を生み出したの。
マロンさんは、この「不思議な空間」の有用性に着目して誰でも取得できるようにしようと考えたんだ。
一般人の脳にも負担が掛からないように一回当たりの摂取量を減らすことにしたマロンさん。
何とか、目安をつけたので早速試してみようとした矢先、イブも一緒に試すとせがんだの。
マロンさんは、幼児の体にどんな負担があるか分からないからと、躊躇したのだけど。
いつもは素直に言うことを聞くイブには珍しく、自分も試すのだと言って引かなかったんだ。
「良いんじゃない。
体に害がないことはアカシアとマロンで証明されているんだから。
それにイブ達の脳は純粋なテルル人のマロンに比べて強化されているのでしょう。
どんな言語でも即座に理解できるのだから。」
ためらいを見せるマロンさんに、オリジンはそんなアドバイスをしたんだ。
即座に多言語を理解するなんて、言語中枢を強化しただけでは有り得ないって。
思考能力を司る部分の働きも相当強化されているはずだと。
「まあ、そう言えばそうね。
それじゃ、イブにも実験に付き合ってもらいましょうか。」
マロンさんはオリジンのアドバイスに従うことにしたみたい。
自分を見つめるイブの期待に満ちた瞳に抗せなかった様子だよ。
そんな訳で、目一杯小分けにしたナノマシンを服用した二人。
「イブ、大丈夫?
頭が痛くなったり、気分が悪くなったりしない?」
心配そうな表情でマロンさんは問い掛けたのだけど。
「全然、痛くないよ。気持ち悪くも無いし。」
イブはけろっとしていたよ。
「うーん、流石に五十万分の一なら子供の脳でも負担は無いか…。
これなら、連続して治験しても問題ないかしら。」
そんな言葉を呟いたマロンさん。
さっきまでは渋っていたのに、さっそくもう一単位イブに勧めたんだ。
そうして、服用する数を増やしていったの。
「ねえ、イブ、本当に何とも無いの?
もう、百単位も摂取しているわよ。
私、そろそろ頭が痛くなってきたんだけど。」
そもそも、五十万分の一まで減らしてやっと負担を感じなくなったと言ってたのに。
いきなり百単位も摂取するのは無茶なんじゃ? それじゃ、一単位を減らした意味が無いと思うよ。
「私、全然、問題ないよ。
頭も痛くなければ、気分悪くも無い。
その代わり、何の効果も感じないけど。」
けろっとした表情で答えるイブ。
まあ、百単位くらいじゃ何も効果は感じないよね。
だから、究極のゴミスキルと言われているんだもの。
「やっぱり、オリジンの指摘通り。
この子達は、脳の機能全体が相当強化されているわね。
私が負担に感じている量をものともしないのですもの。」
全く負担を感じさせないイブを見て、マロンさんは感心してたよ。
マロンさんが意図したより、イブの脳は相当強化されていたみたいなの。
「そうか、俺がマロンと最初に会った時感じた違和感はそれか。
こいつ、八歳児の割に妙にしっかりしているし。
何より、幼女の癖に頭が切れると思っていたんだ。
この大陸の人族は、人為的に脳の機能が強化された種族だったんだ。」
おいらの隣で映像を見ていたタロウがそんな呟きを漏らしていたよ。
**********
そして、映像はまた場面が切り替わり。
「ママ、見て、見て。
ほら、ママやアカシアお姉ちゃんと同じことが出来るようになったよ。」
壁に映し出されたイブは、手にした花瓶を消し去って見せたよ。
その言葉から察するに『不思議な空間』に仕舞って見せたんだね。
「イブ、凄いわ。
こんなに短期間で会得できるなんて。
想定していたよりもずっと速かったわね。」
マロンさんはイブの頭を撫で撫でしながら褒めてたよ。
マロンさんの方は既に『不思議な空間』を取得していた様子だったの。
マロンさんは最初にアカシアさんに投与した十分の一の量を摂取してたからね。
おいらが食べた『スキルの実』一つが一単位相当だとすれば。
五十万単位の十分の一だと五万個分だものね、レベル一の『積載庫』は一発で取得したはずだよ。
「うん、嬉しいよ。
これがあれば、大事な物を仕舞っておけるもの。
もう、アダムやノアに盗られたり、壊されたりする心配は要らないね。」
どううやら、あの乱暴者の二人はイブから物を取り上げたりするらしい。
それが嫌なので『不思議な空間』を取得したいと思ったのかもね。
「でも、不思議ねぇ。
私やイブの『不思議な空間』は無生物しか入らないのよね。
それに空間内の時間は停止しているようだし…。
五十万単位すべて摂取しないとアカシアのようにはいかないのかしら?」
マロンさんは『不思議な空間』を取得してから色々と試してみた様子だった。
どうやら、おいらの『積載庫』と同じレベル一の機能しか無いようだね。
マロンさんは『不思議な空間』からパンの実を取り出して言ってたよ。
一月も前に入れたのに干乾びてもカビてもいないなんて、時間が停まっているとしか思えないって。
「それじゃ、まだ、そのお薬飲み続けてみるね。
アカシアお姉ちゃんみたいに何でも入れられたら便利だもの。」
マロンさんの仮説を耳にしたイブは、完全な『不思議な空間』を手に入れるんだって意気込んでいたよ。
**********
『不思議な空間』を誰でも取得できることが確認できて、マロンさんは喜んでいたけど。
「取り敢えずは、アカシアが取得した『不思議な空間』の復元性は確認できたようね。
二人治験して、二人共発現したなら間違いないでしょう。
それで、これの量産はどうするつもりなの?
この能力をテルル人の末裔に子々孫々まで残してあげたいのでしょう。
でも、この施設の設備なんて、二十年もすれば老朽化で使えなくなるわよ。
そもそもこの施設の設備は実験用だから量産には向いて無いんでしょう。」
そこへ、オリジンがそんなことを問い掛けたんだ。
生産量に限りがあるのでは子々孫々まで伝えることは出来ないし。
仮に設備が長期間の使用に耐えたとしても、マロンさんが居なくなれば作れる人が居なくなるって。
マロンさんは普通の人なので、寿命は長くても九十年くらいだからって。
そしたら。
「ママの代わりに私が作るもん。
いっぱい勉強して、私がママの跡を継ぐの。」
オリジンの問い掛けに、健気にもイブがそんな決意表明をしたんだ。
「あら、イブは本当に良い子ね。
それじゃ、私の知識は全部、イブに継いでもらうわね。
でも、それは義務じゃないのよ。
イブは自分の好きなことをすれば良いから。
私としては、イブには素敵な恋をして欲しいわ。
そして幸せな家庭を築いて欲しい。
私には叶わなかったことだもの。」
「恋? 何それ?」
「まだ、イブには早かったわね。
もう少し大きくなったら教えてあげる。
その前に、私が素敵な男の子を作らないとダメね。
あの二人がお相手じゃ、恋心なんて起きないだろうし…。」
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