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第十八章【間章】おいらが生まれるよりずっと前のことだって
第612話 メルヘン趣味にも程があるでしょうが…
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映像の中の時間はどの位進んだのだろう。
今、壁のモニターに映るマロンさんは、庭のベンチで人族の赤ちゃんを抱いていたんだ。
マロンさんの前では、アダムとノアが駆け回り、イブが花壇の花に水をあげていたよ。
「『箱舟プロジェクト』が始まった時の自分を褒めてあげたいわ。
役所の連中が嫌な顔をしてたけど。
無理を押して粉ミルクを大量に手当てしておいて正解だった。
未婚の私に母乳なんて出る訳ないからね。」
マロンさんは、何か透明な器に入ったミルクを赤ちゃんに与えているところだったの。
「そうね、今の備蓄なら百人くらいまでは賄えるわね。
その後のことは、その時考えたら良いんじゃない。」
「百人か…。
私一人でそんなに育てるかと思うと気が遠くなるわ。
妖精族の手助けを借りるにしても、体格的に無理なことも多いからね。」
どうやら、さっき見ていた映像からそれほど時間は過ぎてないようだね。
マロンさんが抱いている赤ちゃんが、この星で生まれた最初のテルル人の末裔みたい。
「マロンだってまだ若いのですもの。
そう焦らずにのんびり増やせば良いじゃない。
あと数年もすれば、イブ達だって子育てを手伝ってくれるわ。
それまでは年に一人、二人でも良いと思う。」
人族の赤ちゃんは地下室の透明な筒の中で培養するそうだけど。
オリジンはその稼働率を下げれば良いと提案したんだ。
「そうね、あの子達が子育てを手伝ってくれると楽になるわ。
でも、イブはともかく、あっちの二人は…。」
そんな言葉を呟いたマロンさんは、庭の方に目を向けてため息を吐いていたよ。
そこでは、今まで駆けっこをしていたアダムとノアが取っ組み合いのけんかをしたんだ。
その様子を見てオリジンも頭を抱えていたよ。
「うーん、何であの二人はあんなに喧嘩っ早いのかしら。
特段仲が悪い訳じゃないのよね。
何時も、遊んでいる訳だし。」
オリジンは本当に仲が悪いのなら、顔をあわせるのも嫌なはずだと言うの。
「あの二人、とにかくマウントを取りたがるのよ。
サル山のサルがボスザルの座を争うのと同じ。
たった二人しかいなくても、自分が上でないと気が済まないの。」
ダメな男って、サルみたいな奴が多いと思ってたけど…。
まさか、四十万年前から進歩してないとは考えてもみなかったよ。
「ふっ…、確かに、あの二人に子供の世話を頼んだらダメね。
幼児期の情操教育にとって、マイナスの影響しか思い浮かばないわ。」
争いごとが嫌いなマロンさんは、直ぐに手が出る二人にまだ頭を悩ませていたよ。
「ママ、どうしたの? 泣きそうな顔をして。
何処か、痛いところでもあるの?」
マロンさんがどんよりと暗い表情をしていると、イブが心配して寄って来たの。
そんなイブの頭を愛おしそうに撫でなでると。
「何で他の二人はイブに似なかったのだろう」とマロンさんは首を傾げていたよ。
そして、イブに向かって。
「イブは他人のことを思いやれる良い子ね。
ねえ、イブ。
アテナがもう少し大きくなったら遊び相手になってくれる?
色々な事を教えてくれるとママ助かるな。」
腕の中の赤ちゃんの子守りをして欲しいと伝えたの。
「うん、任せておいて。
妹の面倒を見るのはお姉ちゃんの役割だものね。」
頭を撫でられてくすぐったそうにしたイブは、マロンさんの期待通りの言葉を返したの。
マロンさんは相好を崩して呟ていたよ、「この娘になら人族の未来を託せる。」って。
**********
すると、そこへアカシアさんが戻って来て…。
「マロン、今日はウサギが大猟よ。
あのサル二人にたらふく食べさせてあげなさい。」
マロンさん達の前に皿に乗った山盛りのお肉を差し出したよ。
例によってキレイに精肉されているの。
『積載庫』って、四十万年前からデフォルトでその機能が備わっていたんだ…。
「アカシア、有り難う。助かるわ。
あの子達、満腹にならないと直ぐに取りあいをするから。」
「まったくもう、マロン、甘やかせ過ぎじゃないの。
譲り合いって言葉を覚えさせなさいよ。
ついでに腹八分って言葉もね。」
アカシアさんは、もう少し厳しく躾けた方が良いんじゃないかって言ってた。
因みに、この時アカシアさんが取ってきたウサギは普通の動物で、魔物じゃないそうだよ。
だから、割と小さくて食べ盛りの子供二人だと一匹じゃ足りないんだって。
一匹程度を食卓に出すと取りあいの喧嘩になるから、ある程度溜まるまで「不思議な空間」に保存しておくらしいの。
「本当の便利な機能ね、それ。
何度見ても驚かされるわ。
その『不思議な空間』があれば、包丁が要らないじゃない。」
マロンさんもおいらと同じことを考えたみたいで、感心してたよ。
「何を今更…。
これだってマロンが生み出したようなものじゃない。
少しはこの空間の原理を解明したらどうなの?」
「何度も言うように、物理は専門外だし。
何より、そんな時間の余裕は無いわ。
子育てと子供を増やすのに忙しくてね。」
マロンさんが、「不思議な空間」の謎の解明を諦めたように言うと。
「何か、毎夜、子作りに励む新妻みたいな台詞ね。
男なんて、あの研究所に居た枯れた爺さんしか見たこと無いのに。」
オリジンが茶化すような言葉を吐いていたの。
「煩いわね、私は事実を言ったまでよ。
そう言うのは、これから生まれてくる子供達に託すの。
平穏な世の中で、少年と少女が恋に落ちて。
仲睦まじい幸せな家庭が築ける。
そんな平和な世の中を創ってくれることを願ってるわ。」
マロンさんは少しつむじを曲げた様子で言い返していたよ。
その間も、横に座るイブの頭を撫で回していたんだ。
そんな未来をイブに託すようにね。
「良く分かんないけど…。
みんな、仲良しの方が楽しいね。
あんな風に喧嘩ばっかりだとつまんないよ。
イブは、アテナと仲良くなりたいな。」
恋とか、平和な世の中なんて言ってもイブにはまだ分からないよね。
恋なんて、今のおいらにも分からないもの…。
「良いのよ、今はそれだけ分かっていれば十分。
マロンは五歳児に難しいことを言い過ぎなのよ。
良い子のイブにはこれをあげちゃうわ。
今日は森でベリーが詰み放題だったの。」
アカシアさんは袋いっぱいに入ったベリーを差し出したんだ。
何で出来ているのか、ベリーは透明な袋に入っていて外から中身が見えてたの。
「わあ、イブ、これ大好き!
甘くて、少し酸っぱくて。
とっても美味しいの。
アカシアお姉ちゃん、有り難う。」
ベリーが詰まった袋を受け取ったイブは満面の笑顔を見せていたよ。
**********
「それで、マロン。
今日森の中で、テルルには居なかった生物を見つけたの。」
アカシアさんが取り出した籠の中には見覚えのあるモノが入れられてたの。
ただし、おいらが知っているモノに比べて遥かに小さかったよ。
「なにこれ、トカゲかしら?
本当に珍しい…。
翅が生えているじゃない。
これ飛ぶのかしら?」
「飛ぶわよ、空を自由自在に。
トカゲの癖に生意気ね。
私が森でベリーを摘んでたら。
いきなりこいつが襲い掛かって来たの。
まあ弱々だったから、電撃を使うまでも無かったけど。」
アカシアさんの話によると、牙も無いので噛まれても痛くも無いらしい。
弱い癖に気性が荒く、何にでも噛み付くらしい。
アカシアさんはこの星を巡り始めて数年になるそうだけど、こんなトカゲを見たのは初めてらしい。
それで、辺りをよく見まわすと何匹か同じ翅付きトカゲが居たので観察してたそうなの。
分かったのは、イモムシとか、蝶々とか弱い昆虫を捕食して生きているそうなんだ。
カマキリには返し討ちにあっていたそうだよ。
そして、野鳥の良い餌になっているらしい。
このトカゲを今まで見かけなかったのは、空を飛んだ瞬間に鳥の格好の餌食になってたからじゃないかって。
アカシアさんはそんな予想を立てたいたよ。
「へえ、こんな動物いたのね…。
子供の頃に聞いたお伽話に、こんな姿の魔物が出て来たわ。
『飛竜』、お伽噺では定番の敵役ね。
アカシアの言葉通りなら、これ、早晩絶滅しそうね。」
そんな言葉を呟いたマロンさんは少し考え込んでいたんだけど。
やがて、イタズラな笑顔を浮かべて顔をあげると…。
「可哀想だから、生き残れるように少しだけ強化してみましょうか。
メルヘンの世界みたいで良いでしょう。」
とんでもないことを言い出したよ。
それって、アレでしょう。最近、すっかりお馴染みのアレ。
何で、虫籠に収まるような小さなトカゲが、あんなバカでかいアレになったの…。
それって、少しじゃないよね、強化。
今、壁のモニターに映るマロンさんは、庭のベンチで人族の赤ちゃんを抱いていたんだ。
マロンさんの前では、アダムとノアが駆け回り、イブが花壇の花に水をあげていたよ。
「『箱舟プロジェクト』が始まった時の自分を褒めてあげたいわ。
役所の連中が嫌な顔をしてたけど。
無理を押して粉ミルクを大量に手当てしておいて正解だった。
未婚の私に母乳なんて出る訳ないからね。」
マロンさんは、何か透明な器に入ったミルクを赤ちゃんに与えているところだったの。
「そうね、今の備蓄なら百人くらいまでは賄えるわね。
その後のことは、その時考えたら良いんじゃない。」
「百人か…。
私一人でそんなに育てるかと思うと気が遠くなるわ。
妖精族の手助けを借りるにしても、体格的に無理なことも多いからね。」
どうやら、さっき見ていた映像からそれほど時間は過ぎてないようだね。
マロンさんが抱いている赤ちゃんが、この星で生まれた最初のテルル人の末裔みたい。
「マロンだってまだ若いのですもの。
そう焦らずにのんびり増やせば良いじゃない。
あと数年もすれば、イブ達だって子育てを手伝ってくれるわ。
それまでは年に一人、二人でも良いと思う。」
人族の赤ちゃんは地下室の透明な筒の中で培養するそうだけど。
オリジンはその稼働率を下げれば良いと提案したんだ。
「そうね、あの子達が子育てを手伝ってくれると楽になるわ。
でも、イブはともかく、あっちの二人は…。」
そんな言葉を呟いたマロンさんは、庭の方に目を向けてため息を吐いていたよ。
そこでは、今まで駆けっこをしていたアダムとノアが取っ組み合いのけんかをしたんだ。
その様子を見てオリジンも頭を抱えていたよ。
「うーん、何であの二人はあんなに喧嘩っ早いのかしら。
特段仲が悪い訳じゃないのよね。
何時も、遊んでいる訳だし。」
オリジンは本当に仲が悪いのなら、顔をあわせるのも嫌なはずだと言うの。
「あの二人、とにかくマウントを取りたがるのよ。
サル山のサルがボスザルの座を争うのと同じ。
たった二人しかいなくても、自分が上でないと気が済まないの。」
ダメな男って、サルみたいな奴が多いと思ってたけど…。
まさか、四十万年前から進歩してないとは考えてもみなかったよ。
「ふっ…、確かに、あの二人に子供の世話を頼んだらダメね。
幼児期の情操教育にとって、マイナスの影響しか思い浮かばないわ。」
争いごとが嫌いなマロンさんは、直ぐに手が出る二人にまだ頭を悩ませていたよ。
「ママ、どうしたの? 泣きそうな顔をして。
何処か、痛いところでもあるの?」
マロンさんがどんよりと暗い表情をしていると、イブが心配して寄って来たの。
そんなイブの頭を愛おしそうに撫でなでると。
「何で他の二人はイブに似なかったのだろう」とマロンさんは首を傾げていたよ。
そして、イブに向かって。
「イブは他人のことを思いやれる良い子ね。
ねえ、イブ。
アテナがもう少し大きくなったら遊び相手になってくれる?
色々な事を教えてくれるとママ助かるな。」
腕の中の赤ちゃんの子守りをして欲しいと伝えたの。
「うん、任せておいて。
妹の面倒を見るのはお姉ちゃんの役割だものね。」
頭を撫でられてくすぐったそうにしたイブは、マロンさんの期待通りの言葉を返したの。
マロンさんは相好を崩して呟ていたよ、「この娘になら人族の未来を託せる。」って。
**********
すると、そこへアカシアさんが戻って来て…。
「マロン、今日はウサギが大猟よ。
あのサル二人にたらふく食べさせてあげなさい。」
マロンさん達の前に皿に乗った山盛りのお肉を差し出したよ。
例によってキレイに精肉されているの。
『積載庫』って、四十万年前からデフォルトでその機能が備わっていたんだ…。
「アカシア、有り難う。助かるわ。
あの子達、満腹にならないと直ぐに取りあいをするから。」
「まったくもう、マロン、甘やかせ過ぎじゃないの。
譲り合いって言葉を覚えさせなさいよ。
ついでに腹八分って言葉もね。」
アカシアさんは、もう少し厳しく躾けた方が良いんじゃないかって言ってた。
因みに、この時アカシアさんが取ってきたウサギは普通の動物で、魔物じゃないそうだよ。
だから、割と小さくて食べ盛りの子供二人だと一匹じゃ足りないんだって。
一匹程度を食卓に出すと取りあいの喧嘩になるから、ある程度溜まるまで「不思議な空間」に保存しておくらしいの。
「本当の便利な機能ね、それ。
何度見ても驚かされるわ。
その『不思議な空間』があれば、包丁が要らないじゃない。」
マロンさんもおいらと同じことを考えたみたいで、感心してたよ。
「何を今更…。
これだってマロンが生み出したようなものじゃない。
少しはこの空間の原理を解明したらどうなの?」
「何度も言うように、物理は専門外だし。
何より、そんな時間の余裕は無いわ。
子育てと子供を増やすのに忙しくてね。」
マロンさんが、「不思議な空間」の謎の解明を諦めたように言うと。
「何か、毎夜、子作りに励む新妻みたいな台詞ね。
男なんて、あの研究所に居た枯れた爺さんしか見たこと無いのに。」
オリジンが茶化すような言葉を吐いていたの。
「煩いわね、私は事実を言ったまでよ。
そう言うのは、これから生まれてくる子供達に託すの。
平穏な世の中で、少年と少女が恋に落ちて。
仲睦まじい幸せな家庭が築ける。
そんな平和な世の中を創ってくれることを願ってるわ。」
マロンさんは少しつむじを曲げた様子で言い返していたよ。
その間も、横に座るイブの頭を撫で回していたんだ。
そんな未来をイブに託すようにね。
「良く分かんないけど…。
みんな、仲良しの方が楽しいね。
あんな風に喧嘩ばっかりだとつまんないよ。
イブは、アテナと仲良くなりたいな。」
恋とか、平和な世の中なんて言ってもイブにはまだ分からないよね。
恋なんて、今のおいらにも分からないもの…。
「良いのよ、今はそれだけ分かっていれば十分。
マロンは五歳児に難しいことを言い過ぎなのよ。
良い子のイブにはこれをあげちゃうわ。
今日は森でベリーが詰み放題だったの。」
アカシアさんは袋いっぱいに入ったベリーを差し出したんだ。
何で出来ているのか、ベリーは透明な袋に入っていて外から中身が見えてたの。
「わあ、イブ、これ大好き!
甘くて、少し酸っぱくて。
とっても美味しいの。
アカシアお姉ちゃん、有り難う。」
ベリーが詰まった袋を受け取ったイブは満面の笑顔を見せていたよ。
**********
「それで、マロン。
今日森の中で、テルルには居なかった生物を見つけたの。」
アカシアさんが取り出した籠の中には見覚えのあるモノが入れられてたの。
ただし、おいらが知っているモノに比べて遥かに小さかったよ。
「なにこれ、トカゲかしら?
本当に珍しい…。
翅が生えているじゃない。
これ飛ぶのかしら?」
「飛ぶわよ、空を自由自在に。
トカゲの癖に生意気ね。
私が森でベリーを摘んでたら。
いきなりこいつが襲い掛かって来たの。
まあ弱々だったから、電撃を使うまでも無かったけど。」
アカシアさんの話によると、牙も無いので噛まれても痛くも無いらしい。
弱い癖に気性が荒く、何にでも噛み付くらしい。
アカシアさんはこの星を巡り始めて数年になるそうだけど、こんなトカゲを見たのは初めてらしい。
それで、辺りをよく見まわすと何匹か同じ翅付きトカゲが居たので観察してたそうなの。
分かったのは、イモムシとか、蝶々とか弱い昆虫を捕食して生きているそうなんだ。
カマキリには返し討ちにあっていたそうだよ。
そして、野鳥の良い餌になっているらしい。
このトカゲを今まで見かけなかったのは、空を飛んだ瞬間に鳥の格好の餌食になってたからじゃないかって。
アカシアさんはそんな予想を立てたいたよ。
「へえ、こんな動物いたのね…。
子供の頃に聞いたお伽話に、こんな姿の魔物が出て来たわ。
『飛竜』、お伽噺では定番の敵役ね。
アカシアの言葉通りなら、これ、早晩絶滅しそうね。」
そんな言葉を呟いたマロンさんは少し考え込んでいたんだけど。
やがて、イタズラな笑顔を浮かべて顔をあげると…。
「可哀想だから、生き残れるように少しだけ強化してみましょうか。
メルヘンの世界みたいで良いでしょう。」
とんでもないことを言い出したよ。
それって、アレでしょう。最近、すっかりお馴染みのアレ。
何で、虫籠に収まるような小さなトカゲが、あんなバカでかいアレになったの…。
それって、少しじゃないよね、強化。
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