ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十八章【間章】おいらが生まれるよりずっと前のことだって

第606話 タロウの故郷には杞憂って言葉があるらしいけど…

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 壁に映し出された場面は更に切り替わり。

「ああ、もう…。
 また、繋がらなくなった。」

 モニターの中のマロンさんは、不機嫌な様子でそんな呟きを漏らしてた。

「なあに、通信回線が不具合なの?」

 マロンさんの前にある真っ暗なモニターを覗き込んで、オリジンが尋ねたの。

「そうなの、最近あまり調子が良くなかったのだけど。
 ここ数日は、特に調子が悪くてね。
 すぐにプツンと途切れるのよ。
 メンテナンスの人員が足りてないのかしら…。」

 マロンさんは役所と大事な打ち合わせをしていたんだって。
 いきなり回線が途切れたせいで、打ち合わせが中断してご機嫌斜めらしい。

 マロンさんとオリジンの会話から窺い知ることが出来たのは。
 戦争の際に電磁パルスで通信インフラが一旦壊滅したらしい。
 その後復旧された施設は、資材や人材の不足から戦前に比べて大分貧弱なんだって。
 そのせいか、通信回線が不安定になることがままあるらしいの。

「でも、ここ数日の通信回線の不具合は異常よね…。
 もしかしてインフラの不具合ではなく、電波状況が悪いのかしら?
 磁気嵐でも起こっているのかしらね。」

 突然の不具合頻発に、整備不良以外の原因もあるのではとマロンさんが呟くと。

「まあ、気象衛星すら維持できない有り様だもの。
 宇宙観測衛星なんて贅沢なモノは望むべくもないしね。
 特大のフレアが起こっても知る由も無いわ。」

 そんな言葉を口にしたオリジンは、諦めの境地といった顔つきだったよ。

「そうよね、ただでさえ貧弱な通信インフラだもの。
 磁気嵐など来た日には堪ったものでは無いわね。
 こんなんじゃ、仕事に差し支えるわ。
 『箱舟』を作る前に、各種衛星を打ち上げる方が先かしら?」

「まあ、その時間が残されているのならね。
 通信、気象、宇宙観測それに宇宙望遠鏡はあった方が良いと思う。
 『箱舟』を送り出すにしても、今の状況は無謀だわ。
 海図も羅針盤も持たずに大海原に漕ぎ出す太古の探検家みたいよ。」

「はあ、残された時間か…。
 いったいどのくらいなのでしょうね。
 それが分からないのが辛いわ。」

 オリジンと会話を交わしながら、マロンさんはため息を吐いていたよ。 

       **********

 通信機器の不具合を話しのタネに、二人がそんな会話を交わしていた時のことだよ。

 壁のモニターに映る画面から、ドンと言う重苦しい音が聞こえたんだ。
 それと同時に、モニターの中の光景が小刻みに振動していたよ。

「なに? 何処かの国から攻撃を受けた?」

 過去の戦争のことが頭をよぎったのか、マロンさんは咄嗟にそんな言葉を口にしたの。

「何処の国が攻撃を仕掛けて来るって…。
 もうこの星には、この国しか存在しないのよ。
 だいたい、この大陸以外に人は生存できないでしょう。」

 他方、オリジンは至って冷静でマロンさんにも落ち着けと言ってたよ。

「オリジン、外部モニターは生きているかしら?
 可能なら全てオンにして、外部の様子を映してちょうだい。」

「はい、はい。
 節電のため、しばらく電源を落としてたけど…。
 多分、まだ使えると思うわ。」

 マロンさんに指示されたオリジンは、机に設置された幾つかのボタンを押していったの。
 すると、壁に掛けられた小さな四角い枠が次々に明るくなったよ。
 マロンさんの居る部屋には多数のモニターが設置されてたみたい。

「北西の方向にキノコ雲が立ち昇っているけど…。
 ガイガーカウンターに異常値は検出されている?」

「ちょっと待って、…。
 いいえ、平均値に対して誤差の範囲内。
 元から異常値だけど、変動は見られないわ。」

「熱核兵器の攻撃じゃないとしたら、あのキノコ雲なにかしら?」

 すると、壁に掛けられたモニターの一つが、遠くに落下する物体を捕らえたの。
 それは真っ赤に発光して空から降って来たんだ。

「私、核ミサイルって見たこと無いのだけど…。
 あんな火の玉みたいなのかしら?」

「私だって見たこと無いわよ。
 私はまだ七歳よ。
 三十年近く前の戦争を知っている訳ないでしょう。」

 そんな会話をする間にも、再びドンという音がして、マロンさん達の居る部屋が小刻みに揺れていたよ。

「やっぱり、攻撃じゃないわ。
 だって、あの方向は何も無い山脈だもの。
 あんな場所を攻撃する理由なんて一つも無いでしょう。」

 オリジンがそんな指摘をすると。

「オリジン、天上方向を映せる外部カメラってあったっけ?」

「一応あるわよ。使えるかは保証の限りでないけど。
 私が生まれてから一度も使って無いものね。」

 マロンさんの問い掛けに答えたオリジンはまた別のボタンを押したんだ。

 すると…。

「なに、これ…。」

 モニターを見て絶句したマロンさん。

「ありゃ、これ全部、流れ星?
 随分と沢山降って来るのね。」

 片や、オリジンは呑気なことを言ってたよ。
 その言葉通り、モニターに映し出されていたのは無数の流れ星だったの。
 小さな光の点が次々と地上に向かって降り注いでいたんだ。

 しばらく、二人はその光景に目が釘付けだったけど…。

「ねえ、ママ、マロン、何かが空から降って来るよ。
 とても、とても、大きな物。
 多分、?」

 そんな言葉を口にしながら、空間把握能力が突出しているアカシアが部屋に入って来たんだ。
 と、同時にマロンさんの側で、「ジリ、ジリ、ジリ」と注意を引く音がしたの。

 マロンさんは、机の上から何かを手に取るとそれを耳と口に宛がったの。

「あら、非常用有線通信とは珍しい…。」

 その様子にオリジンがそんなことを呟いていた。

「何ですって…。
 宇宙開発機構は能無し揃いなのですか。
 何で、今の今まで、そんな大きな物に気付かないの。
 その大きさなら、アマチュア天体望遠鏡でも観測できたでしょう。」

 それまでの映像とは別人のように声を荒げたマロンさん。
 何時でもお疲れ気味で、覇気のない声で話していた姿が嘘みたいだったよ。

 何処かの人との通話を終えた後でも、マロンさんは怒りに肩を震わしていたの。

 そんなマロンさんを目にして。

「どうしたの、そんなに声を荒げて。
 少し落ち着きなさい。マロンらしくも無いわよ。」

 やはり意外な姿だったようで、オリジンがそんな風に問い掛けたんだ。

 オリジンに落ち着けと言われ、マロンさんは大きく深呼吸をしてから答えたの。。

「この大陸規模の小惑星が降ってくるそうよ。
 観測体制が崩壊していて、捕捉してなかったんですって。
 宇宙へ『箱舟』を送ろうとしている組織が聞いて呆れるわ。」

 ああ、さっきの二人の会話って、このための前振りだったんだね…。
  
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