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アイイロモンペ

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第十八章【間章】おいらが生まれるよりずっと前のことだって

第596話 歳はいったい幾つなの?

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 何か面白ものを見せてくれると言うアルトの誘いに乗って王宮を出て来たよ。
 宰相にお出掛けの許可を貰いに行ったら、またですかって顔をされたけど。
 今までお出掛けすると、だいたい黒字で戻って来たせいかダメとは言われなかった。

 と言うことで、アルトの『積載庫』に乗せてもらってお出掛けとなったの。
 やって来たのはポルトゥスから南下する事二時間ほどの場所だった。

「ここは、何処?
 トアール国の方へ向かってたのは分かったけど…。
 アルトが連れて来たと言うことは、目の前の森も妖精の森だよね。」

 『積載庫』から降ろされると、目の前には鬱蒼とした森が広がっていたの。
 因みに、同行者はオラン、タロウの他、ウレシノ、ミンメイ、カラツ、それに何時もの護衛騎士四人だよ。
 おいらの私室で遊んでいたミンメイと子守りをしてたカラツも連れて来たんだ。
 アルトがどうしても連れて行きたいと主張したから。

「ここは、トアール国とウエニアール国の国境地帯。
 この森は、二つの国を隔てる形になってる妖精の森よ。
 私達は『始まりの森』と呼んでいるわ。」

 するとムルティが満面の笑みを浮かべ。

「ここへ来るのも久し振りですね。
 アルトお姉さまの許へお邪魔した時以来です。」

 ムルティは三百年くらい惰眠を貪っていたから、少なくともそれ以前の話だよね…。

「『始まりの森』の『始まり』ってのはどういう意味なの?
 妖精族の発祥の地ってこと?」

 でも、何かしっくりこない。生き物って、何処で最初に発生したかが分かるものなのかな?

「それは、すぐに分かるわ。
 見てのお楽しみと言うことでついてらっしゃい。」

 アルトはおいらの問い掛けには答えず、ムルティと共に森に向かって飛び始めたの。
 おいら達は慌てて二人を追いかけたよ。
 妖精の森なら、妖精さんと一緒じゃないと中に入れないからね。

 二人の背中を追って森の入り口を潜ると、そこにはきれいに整った平らな道があったよ。
 何で出来ているのか、石を敷き詰めた道みたいにゴツゴツとしていないの。
 道幅はとても広く馬車が三台横に並んで走れそうだったよ。
 それに道の両脇には排水のための側溝と人が歩くための一段高くなった道も設けられてたの。

「なんだ、これ? アスファルトか?」

 おいらの隣を歩くタロウがそんな呟きを漏らしてたよ。
 歩き易い平坦な道をしばらく歩くと、白っぽい塀に囲まれた敷地が見えてきたんだ。
 敷地の中には、やはり白い壁の四角い建物が幾つか並んでいたの。

「これは、鉄筋コンクリート?
 まさか、ここが未来の地球ってオチじゃないだろうな。
 親父が借りてきた昔の映画にそんなのがあったぜ。
 サルが生態系の頂点に立っている物語。」

 白い壁に手を当ててタロウはまた独り言を呟いていたよ。
 その壁は全体に漆喰でも塗ってあるのか石積みの隙間が見当たらないかったんだ。

「さっ、ここよ。
 細かい説明はあと、あと。
 先ずは中に入って。」

 三階建の建物の入り口に着くと、アルトは中に入れと促したんだ。
 そこには、『国立ライフサイエンス研究所』って書いた看板が掲げられていたよ。
 ライフサイエンス? 何それ?

「いかん、翻訳機能がお便利過ぎて、ここに書いてある文字がいつもの文字に見える…。
 これじゃ、ここに書いてある文字が、例え地球の文字だとしても見分けが付かないじゃないか。」

 タロウがそんな言葉を呟くと。

「タロウさん、その心配はいりません。
 私には何と書いてあるのか読めませんが…。
 何時もポルトゥスの王宮で見慣れている文字と変わらないと思います。」

 さっきおいらから受取った書面と対比しながら、ウレシノが教えてくれたよ。
 どうやら、この看板は今この大陸で使われているものと同じ文字で書かれているらしい。

「何だ、使い古されたオチじゃなかったか…。
 ホッとしたぜ、俺の生まれた地球が滅んだ後の姿じゃなくて。」

 いや、だから、現実と物語をごっちゃにしないでったら…。

「何を入り口で立ち止まって、ゴチャゴチャ言ってるの。
 時間が無いのだからサッサと行くわよ。」

 ほら、タロウがもたもたしているから、アルトに叱られちゃったじゃない。

       **********

 窓の一つも無いため、建物の中は真っ暗だったの。
 アルトとムルティが『妖精の光珠』を出してくれたおかげで助かったよ。

「何で、この建物、窓が一つも無いんだ?
 しかも、この壁、とんでもなく厚いようだし。
 これ、爆撃にでも備えているのか?」

 なんか、タロウ、さっきから独り言が多いよ。 また、チューニ病が再発したのかな。
 真っ暗な廊下をしばらく歩くと階段に突き当たったの。
 上に昇るのかと思ったら、アルトは地下に向かって階段を降り始めたの。

 階段を降りるとまたしばらく長い廊下を歩かされて…。
 突き当り、『中央制御室』と札が掲げられた部屋の前で停まったんだ。

 そして。

「アカシア、生きてるよね?
 アルトローゼンよ、ムルティフローラも一緒。
 入って良いかしら?」

 アルトは部屋の中に向かって声を掛けたの。

「あら、懐かしいわね。
 娘達がここを訪ねてくれるのは久し振りだわ。
 水臭いことを言ってないで、入ってらっしゃい。」

 扉の向こうから、穏やかな声が聞こえたの。

「お客さんも居るのだけどかまわないかしら?」

「珍しいこともあるものね。
 アルトが他人を連れて来るなんて。
 かまわないわよ、賑やかなのは大歓迎だわ。」

 快い返事を受けて、おいらが扉を開くと…。
 扉の向こうに居たのはアルトだった。

 いや、ホント、姿形がそっくり。
 のみならず、髪型から、服装まで複数刷りの版画のように同じなの。
 娘達なんて言ってたけど、もしかして本物の母娘かもしれない。

 唯、その姿は儚げで、アルトと違って生気が感じられないんだ。
 人形サイズのベッドから起き上がった姿はとても気だるそうな印象だったよ。

「あら、あら、本当に珍しいお客さんだこと。
 人族に、『森の民』の幼子までいるなんて…。
 本当に良かった、ちゃんとこの大地に根付くことができたのね。」

 そう呟いたアカシア(?)さんのミンメイを見詰める眼差しはとても愛おしそうだったの。
 出掛けにアルトがミンメイを連れて行くと言ってたのは、アカシアさんに会わせるためだったのかも。

      **********

「紹介するわ。
 私のお母さんになるのかしら?
 全ての妖精族の始祖、アカシアよ。」

 これ、ツッコんで良いのかな?
 何故、自分の母親を紹介するのに疑問形なのとか。
 全ての妖精族の始祖って、歳はいったい幾つなのとか。

 おいらがそんな事に気を取られていると。

「マロン、ほら、ぼーっとしてないでご挨拶なさい。」

 アルトに注意されちゃったよ。

「初めまして、マロン・ド・ポルトゥスと申します。
 ここから北に広がるウエニアール国で女王をしています。
 横に居るのが、旦那様のオラン・ド・ポルトゥス。
 この小さなが妹のミンメイ・ド・グラッセ。
 他の者達は、友人と従者です。」

「マロンは、幼い頃から私が支援しているのよ。
 色々あって、今は女王に納まっているけど。
 幼少の頃は孤児で赤貧だったの。」

 おいらが自己と周りの人の紹介をすると、アルトが少しだけ説明を加えてくれたよ。

「へえ、マロンと言う名前なのかい。
 それは凄い偶然だね、その名前を耳にするのは何年振りかしら。
 人族のマロンの妹が『森の民』ということは、父親が人族で共通なのね。
 種族同士がいがみ合わず、仲良くしているようで安心したわ。」

 アカシアさんには、おいらと同じ名前の知り合いがいたらしく。
 最初は懐かしむような、何処か遠くへ思いを馳せるような目をして。

 次いで、仲良く手を繋ぐおいらとミンメイの姿に相好を崩してたの。
 これは絶対に言えないね。
 かつて『耳長族狩り』が横行して、耳長族が滅び掛けただなんて。
 きっと、アカシアさん、とっても悲しむだろうから。
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