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第十八章【間章】おいらが生まれるよりずっと前のことだって

第595話 カテゴリーが違うって、ツッコんでたよ…

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 どうやら、この大陸に住む人だけみたい。
 習いもせずに文字の読み書きが出来たり、知らない言葉を話せたりするのは。
 いや、人型の生き物と言った方が正解かな、『海の民』や妖精族も同じみたいだからね。
 元々、『海の民』はこの大陸近くに住んでいたって言ってたし。

 唯、何故そんなことになっているのかは、全く想像もできなかったの。
 それで色々と博識なアルトに尋ねてみたんだ。
 すると、アルトには何か思い当たる節がある様子だった。

「思い当たると言っても、単なる伝承に過ぎないことよ。
 妖精族に伝わる昔話の中に、荒唐無稽な話があってね。
 その昔、この大陸の住む人々の先祖は空から降りて来たのですって…。」

「空って? あの空から?」

 おいらが天井を指差して言うと。

「そう、その空から…。」

 自分でも、おかしなことを言っていると自覚しているようで。
 アルトにしては珍しく恥ずかしそうに言ってたの。

「でも何で、空から降りてきたの?
 それまでは何処に住んでいたんだろう?」

 空から降りて来たとして、アルト達妖精族は空を飛べるけど…。
 おいら達は空に浮くことすらできないから、何処かに陸地があるはずだよね。
 それに、わざわざ降りてくるとすれば、目的があるはず。

「さあ、何処に住んでいたのかしら?
 言い伝えでは、創造主に新天地で根を張れと指示されたそうだけど。
 何処に住んでいたのかまでは伝えられてないわ。
 何処か、とても遠い所みたいだけど…。」

 創造主と言うことは、誰かが意図的に妖精族や人族の祖先を作ったと言うことだよね。
 そして、この大陸に住む人々のご先祖さんは、創造主さんの指示で空から降りて来たと…。
 うん、お伽噺だ。アルトが荒唐無稽だと最初に言ったのも頷けるよ。

 すると…。

ネ申さま、キターーーー!」

 突然、タロウが叫んだの。
 こいつ、完治したかと思ったけど、突然発作を起こすよな…、チューニ病。

「煩いわね、いきなり耳元で大声ださないでよ。」

 間近で叫ばれたアルトが耳を押さえて抗議してるけど。
 そんなのお構いなしで、タロウは言ったんだ。

「創造主って神様だろう。きっとそうに違いない!
 やっと、ファンタジーらしくなってきたぞ。」

「何、神様って? 初めて聞く言葉だけど。」

 おいらは神と言う聞き慣れない言葉の意味を尋ねたの。

「神様ってのは、ファンタジーの登場人物の定番でな。
 万物の創造主にして、全知全能の存在だぞ。
 どんなとんでも設定でも、神の御業ってことで誤魔化せるし。
 ファンタジーには欠かせない、お便利な存在なんだ。」

 いや、ファンタジーって、タロウの世界のお伽話のことでしょう。
 お伽話と現実を一緒にされても…。
 まあ、アルトの知っている伝承もお伽話みたいなものだし、神様もありか。
 辻褄の合わない所は、神様の超常の力ってことでこじつけられるし。

 おいらがそんな風に考えていると。

「失礼ね、妖精族の伝承をそんなとんでも話と一緒にしないで。
 神様なんて、そんな都合の良いモノが居る訳ないでしょう。
 伝承によると、創造主は人間よ。
 何の特殊能力も無い、ただ、頭が良いだけのロマンチスト。」

「ロマンチスト?」

 ロマンチストって理想の世界を追い求めて現実離れしたことをする人だっけ。

「そう、滅びに瀕した世界で一縷の望みを私達に託した夢見る乙女よ。」

「滅びに瀕した世界って…。それ、SFの世界じゃないか。
 どこをどうしたら、この平和でファンタジーな世界と結び付くんだよ。」

 いや、タロウ、そろそろ物語の話から離れようよ。
 おいら達の不思議な力は何処から来ているのかって、現実の話しなのだから。

       **********

「それって、どんな伝承なの?」

 いつまでもタロウのチューニ病に付き合ってられないので話を進めることにしたよ。

「搔い摘んで言えば…。
 遥か空の彼方、何処かにとても進んだ文明を育んだ星があったらしいの。」

 のっけから話の腰を折るようで申し訳ないけど…。

「星? 星って夜空に浮かんでいるあの星?
 あんな小っこい光の点に人が住んでいるの?」

「あら、そこから教えないといけない?」

 話しの冒頭から質問したおいらに、アルトはため息を吐いたよ。
 
「やっぱり、そんな事も知らないのか。
 まあ、学校も無い未開の地じゃ、仕方がないわな。
 夜空に輝く星は一つ一つが、丸い巨大な大地なんだぞ。
 そして、この大地も宙に浮かんだ一つの星なんだ。
 星はすべからく、ボールような球体なんだぜ。」

 タロウったらやな感じ、この大陸を未開の地だなんて見下した言い方して…。
 それに、この大地が球体をしているなんて、うすうす気づいてたよ。
 アルトの『積載庫』から外を見ると水平線が丸くなっているもん。

「へえ、タロウの国ではその辺のことを教えているんだ…。
 確かに、この国よりは知識水準が進んでいるようね。」

 どうやら、タロウの言葉に間違いは無いようで、アルトが感心していたよ。         
 それからアルトは何か考え事をしている様子だったけど…。

「あらアラート? 記憶領域の不足で解凍できないって…。
 ええっと、現在常駐している記憶を圧縮するには…。
 えっ、四十時間も掛かるの。
 しまったわ、少し記憶の整理をサボり過ぎたみたいね。」

 渋い顔をして、そんな独り言を呟いていたんだ。

「おい、アルト姐さん、今のセリフ…。
 ファンタジーのお約束、丸っと無視してるぞ。
 それじゃあ、まるでコンピューターじゃないか。
 アルト姐さん、まさか、アンドロイドとかじゃないだろうな。」

「アンドロイド? 何それ?」

「人型をしたロボット?
 俺の居た世界じゃ、人工知能を積んで受付業務くらいは出来るらしいが…。
 ダメだ、上手く説明できねえや。
 まあ、人間のように行動できる機械仕掛けの絡繰り人形だと思っておいてくれ。」

 タロウの説明はしどろもどろだったよ。
 タロウ自身がアンドロイドというものを詳しく理解してないみたい。

「絡繰り人形ですって、失礼な。
 私はれっきとした百%天然の生物よ。
 何なら、血が通っているところを見せてあげましょうか。」

 タロウに絡繰り人形みたいだと言われて、アルトは怒っちゃったの。
 禍々しい青白い光の玉を傍らに浮かべていたよ。

「悪かった、謝るからその物騒なモノは仕舞ってくれ。
 でもよ、その記憶の圧縮やら解凍って…。
 俺の世界にあったコンピューターって呼ばれる機械みたいなんだよ。」

「ああ、聞こえてたのね?
 私達妖精はとんでもなく長い年月を生きるでしょう。
 そうすると自分の脳に納まらないくらい記憶が溜まるのよ。
 あんた達人間と同じで、不要な記憶を忘れることで領域を空けるんだけど。
 これだけ長生きだと、大切な事まで納まり切れなくなっちゃうの。
 だから、重要な記憶を喪失しないに圧縮して保存しておくのよ。」

 個人差はあるけど、妖精さんは数十年毎に忘れたら困る記憶を圧縮して保存しておくんだって。
 それと同時に要らない記憶は能動的に消せるらしいよ。
 そうやって、記憶の整理をすることで脳の記憶容量を保つんだって。
 因みに、大切な記憶を忘れてしまった時は、圧縮保存した記憶を解凍して思い出すそうだよ。
 記憶を選択して残すことが出来るなんて、何んて便利な頭脳をしてるの。羨ましい。

 で、アルトだけど、ここ二百年くらい記憶の整理を怠っていたそうで。
 うろ覚えになっている伝承の詳細を思い出そうとしたところ、容量オーバーで解凍できなかったみたい。

「そうだ、マロン、面白い所に連れて行ってあげるわ。
 ヌル王国から戻って早々で悪いけど。
 また、二、三日留守に出来ないかしら。
 今回はそんなに時間を取らせないから、宰相を説得しなさいよ。」

 どうやら、今まで話していた伝承と関係ある場所に連れて行ってくれるらしい。 

 金銀財宝と有用な人材をたんまりとせしめて来たから、ここ数日、宰相はご機嫌なんだ。
 連れて来た人材の配置と資金配分で、宰相は取り込み中だから。
 おいらが数日留守にしても、文句は言われないと思う。

 せっかくアルトが面白い所へ連れて行ってくれるんだもの、逃す手は無いよね。
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