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第十八章【間章】おいらが生まれるよりずっと前のことだって
第594話 ホント、不思議だね、どうなってるの…
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タロウの故郷でも、読み書きは自然に出来るようになるものじゃ無いらしい。
学校と呼ばれるところに通って教えてもらうらしい。それも何年もかけて。
トアール国には貴族学校があると聞いたことがあるけど。
それは貴族のしきたりや領地経営の仕方を教えるところらしいし。
文字の読み書きを教える学校なんて、聞いたことが無いよ。
「俺も前々から不思議に思ってたんだよ。
シフォンの奴も学校なんて知らないと言うけど。
その割には、すらすらと読み書きできるし。」
それでもこの大陸にいるうちは、然程気にも留めてなかったんだって。
大陸内は言葉が共通で、親にでも読み書きを習ったんじゃないかと軽く考えていたから。
本格的に気になり出したのはオードゥラ大陸に行った時からだって。
シフォン姉ちゃん、初めて訪れた土地なのに地元の人と普通に話し、街の案内板なんかもちゃんと読んでいたのだけど。
その様子を見て、流石に普通じゃないとタロウは感じたみたい。
大海に隔てられて交流の全くない大陸と言葉が同じはずが無いだろうって。
タロウは内心、シフォン姉ちゃんもチート持ちじゃないかと勘繰ってたらしいよ。
「タロウさんの言うチートと言うモノが何かは知りませんが…。
少なくとも先日マロン陛下にお供していた方々は、皆ヌル王国語が堪能でしたよね。
皆さん、普通にこの国の言葉を話しているつもりだったと言うことですか?
私達が話している言葉をヌル王国語だと気付きもしないで。」
ウレシノの想像通りだと思うよ。
現においら、ウレシノがヌル王国語を話しているって今でも分からないもの。
おいらにはこの国の言葉に聞こえるし、この国の言葉で会話しているつもりだもん。
「何だよ、別の大陸に行くまで気付かなかったが。
この力は俺だけのチートじゃいないのか…。
この大陸の人間共通の能力だったなんてガッカリだぜ。」
今までの会話の内容を思い返したのか、タロウが落胆してるよ。
だから、いつも言っているじゃない。自分だけが特別だなんてことは有り得ないって。
タロウが持っている能力なら、他の人も等しく持っているよ。
でも、正直困った。
ウレシノ達にこの国の言葉を教えようにも、どうすれば良いのか分からないよ。
だって、この国の人間には全て同じ言葉に聞こえ、同じ文字に見えちゃうんだもの。
しかもウレシノに伝えようとすると自動的にヌル王国語になっちゃうし…。
そこで、おいら、閃いたの。
おいらは机の引き出しから当たり障りのない書類を取り出すと。
その内容をウレシノに伝えようと頭に思い描きながら、書類を丸写ししてみたよ。
そして。
「ねえ、ウレシノ、この書類は読める?」
おいらは今写した書類の原本の方をウレシノに差し出したの。
「これは、この国の言葉で書かれた文書ですね…。
いえ、何が書いてあるのか全く分かりません。」
やっぱり、王宮の内部文書はこの国の言葉で記されているんだ。…まあ、当たり前か。
「じゃあ、こっちは読める?」
今度はおいらが模写した書類を差し出したの。内容は全く同じだよ。
「ああ、これなら読めます。
『王宮食堂、業務時間変更のお知らせ』ですね。
これって?」
最初に見せられた書類と同じ内容なのかと、視線で問い掛けて来たウレシノ。
おいらがそれに頷くと。
「良かった。じゃあ、その二枚、持ち帰って良いよ。
二つ対比すれば、この国の言葉を学ぶ教材になるでしょう。
誰かに命じて、二ヶ国語対比を沢山作らせるよ。
最初は日常に使う言葉、次に王宮で使う言葉といった順序でね。」
「マロン陛下、有り難うございます。
そうして頂ければ助かります。」
ウレシノは言ってたよ
おいらがこの国の言葉とヌル王国の対比が出来る文書を用意するのなら。
自分の母親に、この国の言葉を学ぶための教本を作らせると。
ウレシノの母ちゃんはメイド養成所で他国の言葉を指導していたそうで。
そういう仕事が得意なんだって。
新たに植民地に加わった国の言葉を、ヌル王国向けに解説する教本なんかも作成していたらしい。
**********
「なあ、マロン、よくそんな器用なことが出来るな。
目の前の文書を丸写ししようとしたら、本当に丸写しになりそうなもんだが…。」
タロウは二枚の文書を見ながらそんなことを言ってたよ。
おいらもそうだけど、タロウには二枚とも全く同じものに見えるらしい。
「さっき、ウレシノの話を聞いていて気付いたの。
おいらと宰相の会話とか、シフォン姉ちゃんと商人の会話とか。
この国の人同士の会話だと、この国の言葉が使われるんだ。
まあ、当たり前だけどね。
だから、ウレシノには理解できない。
でも、宰相がウレシノと会話をしようとすると。
自動的にヌル王国語になっちゃうの。
これって、きっと伝えようとする相手によって変わるんだよ。
だから、ウレシノに伝えようと頭で念じて王宮文書を写したの。」
で、やってみたらちゃんと出来たんだ。
「ふーん、相手を識別して勝手に翻訳するってか。
今更ながら、何てご都合主主義の設定と言うか…。
チート能力にも程があるだろうが。
まあ、俺としては助かっちゃいるが。」
おいらの説明を聞いて、タロウは呆れたような顔をしてたよ。
「あら、あなた達、面白い話をしているのね。
私達にも聞かせてくれるかしら?」
声がした方向を振り返ると、アルトとムルティが宙に浮かんでいたよ。
「二人ともいらっしゃい。
興味深い内容でしょう。
おいらもウレシノに指摘されるまで全然気付かなかったよ。」
おいらは、アルト達に今までの会話の内容を教えてあげたんだ。
「ふーん、あの大陸って言葉が違うんだ…。
私も全く気付かなかった。
見慣れた文字、聞きなれた言葉としか認識できなかったわ。」
博識なアルトでも気付かなかったらしいね。
どうやら、人間族だけでなく、妖精族も同じ能力を有しているらしい。
いや、待てよ。
そう言えば、『海の民』のみんなも頭領さん達と普通に会話を交わしてたじゃない。
それに元はと言えば、ミンメイがヌル王国語を理解しているって話から始まった事だし…。
『海の民』と耳長族にも同じ能力が備わっていることになる。
「ねえ、アルト。
アルトでも情報を掴んでなかったの?
オードゥラ大陸では別の言葉が使われているって。」
おいら、妖精族お得意の情報ネットワークで調査済みかと思ったよ。
「無茶言わないでよ。
あの大陸には妖精族は住んでいないのよ。
今回みたいに用も無ければ、あんな遠くまで行かないわ。
自分の生存圏以外の場所の情報までは要らないし。」
妖精の小さな体では大海を渡るのは骨だとアルトは言ってたよ。
必要が無ければ、如何な好奇心旺盛な妖精でもあの大海は渡らないって。
「それじゃあ、アルトでも分からないのかな?
この大陸に住む人が、どうしてオードゥラ大陸の言葉を理解できるのか。
と言うか、おいらは違う言葉だとすら気付かなかったよ。」
アルトなら知っているかと思ったんだけど…。
別の言葉だと気付かなかったのはアルトも同じみたいだし、やっぱり知らないかな。
今回ばかりは、アルトから情報を引き出すのは無理かと思っていたんだけど…。
「私にも確証は無いのだけど…。
一つ思い当たることはあるわ。
不確かでも良ければ、話してあげるけど。」
意外なことに、何か情報を持っているらしいよ。
流石、妖精さんネットワーク、半端じゃないね。
学校と呼ばれるところに通って教えてもらうらしい。それも何年もかけて。
トアール国には貴族学校があると聞いたことがあるけど。
それは貴族のしきたりや領地経営の仕方を教えるところらしいし。
文字の読み書きを教える学校なんて、聞いたことが無いよ。
「俺も前々から不思議に思ってたんだよ。
シフォンの奴も学校なんて知らないと言うけど。
その割には、すらすらと読み書きできるし。」
それでもこの大陸にいるうちは、然程気にも留めてなかったんだって。
大陸内は言葉が共通で、親にでも読み書きを習ったんじゃないかと軽く考えていたから。
本格的に気になり出したのはオードゥラ大陸に行った時からだって。
シフォン姉ちゃん、初めて訪れた土地なのに地元の人と普通に話し、街の案内板なんかもちゃんと読んでいたのだけど。
その様子を見て、流石に普通じゃないとタロウは感じたみたい。
大海に隔てられて交流の全くない大陸と言葉が同じはずが無いだろうって。
タロウは内心、シフォン姉ちゃんもチート持ちじゃないかと勘繰ってたらしいよ。
「タロウさんの言うチートと言うモノが何かは知りませんが…。
少なくとも先日マロン陛下にお供していた方々は、皆ヌル王国語が堪能でしたよね。
皆さん、普通にこの国の言葉を話しているつもりだったと言うことですか?
私達が話している言葉をヌル王国語だと気付きもしないで。」
ウレシノの想像通りだと思うよ。
現においら、ウレシノがヌル王国語を話しているって今でも分からないもの。
おいらにはこの国の言葉に聞こえるし、この国の言葉で会話しているつもりだもん。
「何だよ、別の大陸に行くまで気付かなかったが。
この力は俺だけのチートじゃいないのか…。
この大陸の人間共通の能力だったなんてガッカリだぜ。」
今までの会話の内容を思い返したのか、タロウが落胆してるよ。
だから、いつも言っているじゃない。自分だけが特別だなんてことは有り得ないって。
タロウが持っている能力なら、他の人も等しく持っているよ。
でも、正直困った。
ウレシノ達にこの国の言葉を教えようにも、どうすれば良いのか分からないよ。
だって、この国の人間には全て同じ言葉に聞こえ、同じ文字に見えちゃうんだもの。
しかもウレシノに伝えようとすると自動的にヌル王国語になっちゃうし…。
そこで、おいら、閃いたの。
おいらは机の引き出しから当たり障りのない書類を取り出すと。
その内容をウレシノに伝えようと頭に思い描きながら、書類を丸写ししてみたよ。
そして。
「ねえ、ウレシノ、この書類は読める?」
おいらは今写した書類の原本の方をウレシノに差し出したの。
「これは、この国の言葉で書かれた文書ですね…。
いえ、何が書いてあるのか全く分かりません。」
やっぱり、王宮の内部文書はこの国の言葉で記されているんだ。…まあ、当たり前か。
「じゃあ、こっちは読める?」
今度はおいらが模写した書類を差し出したの。内容は全く同じだよ。
「ああ、これなら読めます。
『王宮食堂、業務時間変更のお知らせ』ですね。
これって?」
最初に見せられた書類と同じ内容なのかと、視線で問い掛けて来たウレシノ。
おいらがそれに頷くと。
「良かった。じゃあ、その二枚、持ち帰って良いよ。
二つ対比すれば、この国の言葉を学ぶ教材になるでしょう。
誰かに命じて、二ヶ国語対比を沢山作らせるよ。
最初は日常に使う言葉、次に王宮で使う言葉といった順序でね。」
「マロン陛下、有り難うございます。
そうして頂ければ助かります。」
ウレシノは言ってたよ
おいらがこの国の言葉とヌル王国の対比が出来る文書を用意するのなら。
自分の母親に、この国の言葉を学ぶための教本を作らせると。
ウレシノの母ちゃんはメイド養成所で他国の言葉を指導していたそうで。
そういう仕事が得意なんだって。
新たに植民地に加わった国の言葉を、ヌル王国向けに解説する教本なんかも作成していたらしい。
**********
「なあ、マロン、よくそんな器用なことが出来るな。
目の前の文書を丸写ししようとしたら、本当に丸写しになりそうなもんだが…。」
タロウは二枚の文書を見ながらそんなことを言ってたよ。
おいらもそうだけど、タロウには二枚とも全く同じものに見えるらしい。
「さっき、ウレシノの話を聞いていて気付いたの。
おいらと宰相の会話とか、シフォン姉ちゃんと商人の会話とか。
この国の人同士の会話だと、この国の言葉が使われるんだ。
まあ、当たり前だけどね。
だから、ウレシノには理解できない。
でも、宰相がウレシノと会話をしようとすると。
自動的にヌル王国語になっちゃうの。
これって、きっと伝えようとする相手によって変わるんだよ。
だから、ウレシノに伝えようと頭で念じて王宮文書を写したの。」
で、やってみたらちゃんと出来たんだ。
「ふーん、相手を識別して勝手に翻訳するってか。
今更ながら、何てご都合主主義の設定と言うか…。
チート能力にも程があるだろうが。
まあ、俺としては助かっちゃいるが。」
おいらの説明を聞いて、タロウは呆れたような顔をしてたよ。
「あら、あなた達、面白い話をしているのね。
私達にも聞かせてくれるかしら?」
声がした方向を振り返ると、アルトとムルティが宙に浮かんでいたよ。
「二人ともいらっしゃい。
興味深い内容でしょう。
おいらもウレシノに指摘されるまで全然気付かなかったよ。」
おいらは、アルト達に今までの会話の内容を教えてあげたんだ。
「ふーん、あの大陸って言葉が違うんだ…。
私も全く気付かなかった。
見慣れた文字、聞きなれた言葉としか認識できなかったわ。」
博識なアルトでも気付かなかったらしいね。
どうやら、人間族だけでなく、妖精族も同じ能力を有しているらしい。
いや、待てよ。
そう言えば、『海の民』のみんなも頭領さん達と普通に会話を交わしてたじゃない。
それに元はと言えば、ミンメイがヌル王国語を理解しているって話から始まった事だし…。
『海の民』と耳長族にも同じ能力が備わっていることになる。
「ねえ、アルト。
アルトでも情報を掴んでなかったの?
オードゥラ大陸では別の言葉が使われているって。」
おいら、妖精族お得意の情報ネットワークで調査済みかと思ったよ。
「無茶言わないでよ。
あの大陸には妖精族は住んでいないのよ。
今回みたいに用も無ければ、あんな遠くまで行かないわ。
自分の生存圏以外の場所の情報までは要らないし。」
妖精の小さな体では大海を渡るのは骨だとアルトは言ってたよ。
必要が無ければ、如何な好奇心旺盛な妖精でもあの大海は渡らないって。
「それじゃあ、アルトでも分からないのかな?
この大陸に住む人が、どうしてオードゥラ大陸の言葉を理解できるのか。
と言うか、おいらは違う言葉だとすら気付かなかったよ。」
アルトなら知っているかと思ったんだけど…。
別の言葉だと気付かなかったのはアルトも同じみたいだし、やっぱり知らないかな。
今回ばかりは、アルトから情報を引き出すのは無理かと思っていたんだけど…。
「私にも確証は無いのだけど…。
一つ思い当たることはあるわ。
不確かでも良ければ、話してあげるけど。」
意外なことに、何か情報を持っているらしいよ。
流石、妖精さんネットワーク、半端じゃないね。
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