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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第591話 だいたい、片付いたよ

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「わーい!海ひろーい!」

「ああ、ミンメイ様、船のデッキで走ったら危ないですよ。」

 おいらの目の前では、妹のミンメイとメイドのカラツの追いかけっこが繰り広げられているよ。
 初めて乗る船に、ミンメイは大はしゃぎでじっとしていられないみたい。
 カラツはそんなミンメイが海に落ちないように大人しくさせようとしているの。

「あら、あら、ミンメイ様、大はしゃぎですね。
 船に乗るのは初めてなのですか?」

 追いかけっこをする二人を微笑まし気に眺めながらメイドのウレシノが尋ねてきた。
 
「おいら達は内陸育ちで海なんて縁が無かったからね。
 おいらだって、船に乗るのは今日が初めてだよ。
 この街に住んでもう二年になるけど、船に乗る機会は無かったんだ。」

 移動はもっぱらアルトの積載庫に乗せてもらうか、ウサギに乗るかだからね。
 船に乗る機会なんて無かったよ。

 だから、船に乗るの今日が初めて。…と言っても、お出掛けじゃないよ。
 ヌル王国から戻って約二月、やっと接収した王族専用船が動かせるようになったんだ。
 
 王族専用船だけあって、船自体は完璧にメンテナンスされていたんだけど。
 おいらの国には肝心の船乗りさんが居なかったの。
 誤解が無いように言うと、港に行けば船乗りさんは余るほどいるんだよ。
 でも、王族の船が無かったものだから、王宮では船乗りさんを抱えてなかったの。

 最初は港で適当に船乗りさんを雇って試験運航しようと、おいらは考えていたんだ。
 それを言ったら、宰相に叱られちゃった。
 おいらが乗る船の船乗りは、腕が確かで信頼できる者でないと駄目だと。

 宰相、おいらの身の安全にはとても神経質になっているの。
 おいらが子供を産むまで、王位継承権保有者がいないからね。

 そんな訳で、船乗りさんの選抜作業に手間どってお披露目が今になっちゃったの。
 その船乗りさんだけど、ヌル王国の侵攻に加わってやって来た男達の中から選んだんだ。
 接収した船は、おいらの国の船よりも大分進んだ技術で造られていたからね。
 さすが海洋王国を自負する国で造られただけあると思ったよ。
 この港に居る船乗り達では、安全に就航させるのに時間が掛かりそうだったの。

 で、強制労働に服している数百名の元ヌル王国の船乗りから急遽採用することになったんだ。
 強制労働刑に就かせてほぼ半年、監視の騎士に聞けば働き振りが真面目な人は分かるからね。
 それに、ここでもウレシノやスルガが役立ってくれたんだ。
 間者と言う仕事柄か、航海の間に船乗りさんの仕事振りをチェックしていたみたいでね。
 使えそうな船乗りさんの名前を上げてくれたんだ。
 捕えた船乗りさんって何百人もいたのに、よく覚えていたもんだと感心したよ。
 
 監視の騎士による評価とウレシノ達の推薦、その両方が被る人の中から希望を募ったんだ。
 王族専用船の船乗りとして採用したのは五十人。最終的な選考は宰相にお任せしたよ。
 元々、五年の強制労働刑だったものが半年に減刑となり、しかも王宮お抱えの船乗りになれる。
 そんな都合の良い条件だったので、推薦のあった者は皆希望をしたみたいだった。
 宰相は良い人材が採用できたとホクホク顔だったの。

 そうそう、お披露目が遅れた理由はもう一つあった。
 港に王族専用船を係留させておく施設が無かったんだ。
 港の外れに専用埠頭を造ることになり、突貫工事で造ってもらうことになったよ。
 
       **********

 そしてこの日、晴れて純白の大型帆船がお披露目となったの。
 この船を手に入れたことを披露するために、主要な貴族を呼んで簡単な式典をしたんだ。
 その後、貴族達を乗せたままポルトゥスの港を出て、波の穏やかな海域を半日ほど遊覧するの。

 招いた貴族の中にはもちろん父ちゃんも入っていて、ミンメイも一緒に来たんだ。
 そして、最初の光景になったの。

「カラツは気配りの出来る良い子だね。
 ミンメイも良く懐いているようだし。
 おいらの側に置いて正解だったよ。」

 ミンメイをやっと捕まえて、危なくないように手を繋いでいるカラツ。
 ミンメイが船の縁で海を見たいとせがむと、今度は転落しないように両肩を押さえてくれたの。

「そう言って頂き光栄です。
 カラツもきっと喜びます。
 同年代で一人だけマロン陛下のお側に置いて頂いたのですから。
 張り切っているのだと思います。
 それに、ミンメイ様が可愛いとカラツも常々言っておりますので。
 ああして、ミンメイ様のお世話をしているのが嬉しいのかと。」

 おいらの後ろに控えていたウレシノがそんな返答をしてくれたよ。
 ウレシノとカラツは姉妹なんだ。
 
 あの後、ノノウ一族の処遇がどうなったかと言うと。
 最初に採用した五人は王族付きの侍女になったもらった。
 特に、ウレシノとスルガは貴族に叙して、二人で協力してノノウ一族を束ねてもらうことにしたよ。
 そして、ウレシノの母ちゃんにメイド養成所の所長をお願いしたの。
 スルガの母ちゃんや大人のメイド達には、養成所の指導教官をしてもらうことになったんだ。
 メイドの養成所は、おいらが女王になった時に取り潰した貴族の屋敷を使うことになったよ。
 元伯爵の屋敷で、訓練場として使えるような広い庭を持っている家が上手い具合に空いていたから。

 本来であれば、十二歳のカラツもまだ養成所にいる年齢なのだけど。
 おいらと同い年なので話し相手として、側に置くことにしたんだ。
 カラツの評価をウレシノに聞いてみたら。
 まだ履修していない房中術と暗殺術以外は、既に完璧にこなせると言ってからね。
 房中術と暗殺術は必要無さそうだから、召し抱えても大丈夫だと思ったの。
 姉のウレシノも王族付きとして一緒に居るから、何か足りないところが指導してくれるだろうし。

「それにしても、最初にミンメイ様にお目に掛かった時は驚きました。
 あんなに耳が長い人見たことありませんでしたから。
 妖精族に耳長族、それに『山の民』ですか。
 この大陸には、人型でも色々な種族が暮らしているのですね。
 オードゥラ大陸では目にする事がありませんでした。」

 カラツと一緒に楽しそうに遊ぶミンメイを見て、ウレシノがそんなことを呟いてた。
 やはり、オードゥラ大陸では人間以外に人型の生物はいないみたい。
 耳長族や『山の民』の寿命が三百年くらい、『海の民』が六百年くらいで…。
 妖精族に至っては想像も付かないと教えたら、ウレシノは絶句してたよ。

     **********

 妖精族と言えば、タロウの庭に穴を掘って海と繋げちゃったムルティだけど…。
 疲労で倒れ込むように眠っちゃって、おいら、凄く心配したの。
 これでまた三百年くらい眠っちゃったら拙いなって。

 でも、心配無用だったよ。
 あの日、おいらの部屋に連れてきて、置き物のミニチュアベッドに寝かせといたんだ。
 そしたら、翌朝、ケロッとして起き上がったの。
 欠伸しながら背伸びをして、「あー、良く寝た。」だって…。

 ムルティは、その後しばらくタロウの家に滞在していたけど。
 ハゥフルとシレーヌお姉さんがタロウとの暮らしに馴染むのを確認すると帰って行ったよ。
 流石に、三百年も寝ていて、起きた途端に長期間留守にするのは拙いと思ったみたい。

 オードゥラ大陸絡みの騒動の顛末はそんなところかな…。
 そう言えば、ウレシノが妙なことを言ってたよ。
 まあ、それは別の機会にでも。
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