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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第588話 旅の成果を披露したら…

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 サニアール国からは、往路同様に魔物の領域を突っ切って最短距離で帰ったんだ。
 アルトが全速で飛んでくれたおかげで、何とか宰相と約束した四ヶ月以内に帰って来れたよ。

 王宮の中庭に降り立ち。

「アルト、有り難う。
 アルトが頑張って飛んでくれたんで、こんなに速く帰って来れた。
 無理させちゃったみたいで、ゴメンね。」

 いの一番にアルトに感謝の気持ちを伝えると。

「良いのよ、元々は私が言い出したことだし。
 ムルティの身に何か起こったのではと、心配したことが切っ掛けだもの。
 少し疲れたけど、万事上手くいって良かったわ。」

 アルトはそんな風に返してくれたのだけど…。

「へーっ、ここが、マロンの家なの?
 随分大きな家に住んでいるのね。
 女王ってのも、満更嘘では無かったのね。」

 ムルティは王宮を目にしてそんな失礼な言葉を吐いたよ。
 満更嘘でも無いって…、こいつ、おいらが身分を詐称していると思ってたのか。
 まあ、こんな話し方をして、町娘みたいな服装だから疑うのは無理ないかも知れないけど…。

 ムルティの島に寄った時、とある理由からムルティも付いて来ちゃったの。
 おいら、森の長がそんな無責任に役目を放ってしまって良いのかって尋ねちゃったよ。
 三百年間も居眠りをしていて、起きたらすぐに森を留守にするなんて。
  
「嫌ね、私なんか居ても居なくても大して変わらないわよ、
 三百年寝ていても特に問題なかったんだもの。」

 いや、大問題だったと思うよ。結界が綻びかけていたんだもん。

 アルトやムルティとそんな会話を交わしていると。

「陛下、良くぞご無事でお戻りになられました。」

 中庭を見ていた誰かが報告したのか、宰相がやって来たんだ。
 よほど急いで来たのか、息を切らせていたよ。 

「宰相、ただ今戻ったよ。
 こちら、海の果てに在った島を住処とする妖精の長ムルティフローラ様だよ。
 旅の途中で凄くお世話になったの。粗相が無いように対応してね。」

 アルトに次いで二人目の妖精さんの登場に、宰相は目を丸くしていたけど。
 そこは年の功で。

「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。
 マロン陛下がお世話になったようで、有り難うございます。
 どうぞ、ゆっくりして行ってくだされ。」

 宰相はムルティにそつない対応をしていたよ。
 因みに宰相は、おいらがアルトを連れてくるまで妖精を目にしたことは無かったらしい。
 この国に来るなり、アルトはおいらと一緒に大暴れしたからね。
 妖精を厄災の如き存在だと認識している様子で、アルトがいるだけでいつも緊張気味なの。
 目の前の妖精が増えて内心ビクビクなんだと思う、心なしか顔が引き攣っているし。

          **********

 中庭からおいらの部屋に場所を移すと。

「陛下、本当に心配しておりましたぞ。
 いかな、アルト様がご一緒とは言え。
 船で八ヶ月も掛かるような遠方へお出かけなされたのですから。」

 おいらは、王族の唯一の生き残りだからね。
 おいらにもしものことがあればまた国が乱れると、宰相は気が気でなかったそうだよ。 
 オードゥラ大陸は遠いだけでなく、大砲や鉄砲なんて物騒な武器があるからね。
 荒事になったら、おいらでも命を落とすかも知れないと心配していたみたい。

「心配かけてゴメンね。
 でも、アルトが助けてくれたから、危ない目に遭わずに済んだよ。
 ほら、これが今回の出張の成果だよ。」

 おいらは、ダージリン王の御名御璽が入った誓約書を宰相に手渡したの。

「ふむふむ、なるほど、先般攻め入って来たヌル王国とやらに約束させましたか。
 この大陸に対する干渉は一切しないと。
 これからは、あのならず者の集団のような国を警戒する必要は無いのですな。」

 宰相は真っ先に二つ目の条項を読んで、安堵の表情を見せたの。

「うん、それは念のためだよ。
 現実問題としては、それはあんまり意味無いの。
 オードゥラ大陸の船がこの大陸まで着くのはほぼ不可能になったから。」

「と申されますと?」

 でも、おいらがその文書は保険みたいなものだと言うと、宰相は理解が及ばないって顔をしてたよ。
 まあ、ヌル王国の連中が何でやって来たのか、その理由をまだ話してないからね。

「しばらく前から、オードゥラ大陸の船が着くようになったでしょう。
 その原因が分かって、しっかり対処したからもう船が着くことは無いと思うの。」

 その言葉の後に続けて、おいらはオードゥラ大陸の人々が渡来するようになった原因を説明したよ。
 この大陸を取り巻く大海原には、大陸の外周を囲うようにアルトとムルティの結界が張ってあることを知らせ。
 その結界によって、この大陸が外側にある国々と隔てられていたことまで説明すると。  

 おいらの話を最後まで聞かずに宰相が尋ねてきたの。

「なんと、そんな広大な結界が張られていたのですか…。
 では、この大陸に住まう者達は、アルト様達に護られていたのですね。
 しかし、それなら何故突然、その結界を越えてくる船が増えたのでしょうか?」

「それ、これから話すつもりだったんだけど。
 結界を張るのに大分体力を消耗したらしくてね。
 ムルティが寝込んじゃったんだ、三百年間。
 長期間、結界の維持を怠ったものだから、綻びが出来たらしいんだ。」

 おいらがその原因を説明すると、宰相はムルティを白い目で見てたんだ。
 三百年間も眠り続けたと聞いて呆れたみたいだよ。

「何よ! 文句でもあるの!」

 白い目で見られてムルティが噛み付いてたよ。
 まあ、アルトとムルティが善意で結界を張ってくれたのだから。
 一方的に恩恵を受けているおいら達が文句を言う筋合いでは無いけどね。

 でも、三百年間も眠り続けたと聞けば、呆れるのも仕方が無いと思うよ。

        **********

「それで、この最初の条文は何ですかな。
 我が国が接収した物品の返還請求権を放棄するとあるのですが…。
 これは我が国を襲撃した船舶のことですかな?」

 宰相はおいらとアルトがヌル王国で略奪を働いたとは露とも思ってないみたい。

「ヌル王国の武装船の大半を奪ったんだ。
 幾ら念入りに張っても、広大な海原に完璧な結界を張るのは難しいんだって。
 偶然結界の綻びを抜けてくる船があるかも知れないとアルトが言うの。
 だから念のため、この大陸に侵攻できる手立ても奪っておいたんだ。
 それと武装船を再建できないように資金も奪っておいたの。
 王宮の宝物庫にあった金銀財宝の殆どをね。
 これがその戦利品だよ。」

 おいらは『積載庫』の中から、オードゥラ大陸への旅で新たに手に入れた金銀財宝を取り出したんだ。
 王宮の宝物庫だけではなく、ノノウ一族や途中遭遇した海賊から奪った品も一緒にね。

 床に積み上げた金銀財宝を見て、宰相は腰を抜かすほど驚いてたよ。
 これでもジャスミン姉ちゃんとシナモン姉ちゃんに分けた後の残りなんだよね。
 元々、奪った金品の全体を見たら心臓麻痺を起こしたかも知れないね。

「これはまた…、随分と派手に巻き上げて来たものですな。
 これは全部国庫に納めてしまってよろしいので?」

 宰相はおいらの私物として取っておかなくて良いのかと聞いているんだ。

「うん、損害賠償のつもりで巻き上げたのだから。
 国の発展のために有意義に使ってちょうだい。
 おいらは金銀財宝を欲しいと思わないから。
 ただね、そのお金の一部は人を召し抱える財源にして欲しいの。」

 おいらがヌル王国から奪って来た金品の使い道を指示すると。

「はあ、人で御座いますか?
 具体的に召し抱えたい人材がいるのでございますか?」

 宰相なそんなことを尋ねてきたの。
 だから、おいら、オードゥラ大陸への旅での最大の収穫を披露することにしたんだ。
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