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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・
第583話 これ、何の茶番なの…
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ダージリン王の御名御璽入りの誓約書を受け取るため、約束した通りに王宮を訪ねたおいら達。
宰相から手渡された誓約書の確認を済まし、確かに受け取ったと告げると。
宰相は何やら怪し気な言葉を口にしたんだ。
その言葉の意味を問う間もなく、護衛と思しき騎士がダージリン王を背後から刺したの。
それは一瞬の出来事で、制止する暇も無かったよ。
おいらの真正面でテーブルに突っ伏すダージリン王、その顔からは血の気が失せていた。
そんなとんでもないことが起きたと言うのに、宰相は表情一つ変えることなく。
「誰か! 誰かおらぬか!
陛下が突然、お倒れになられた!」
大きな声で廊下に向かって呼びかけてんだ。
しかし、その声からは焦りや驚きをと言った感情が感じられず、単に声が大きいだけの淡々としたものだったの。
そして、これも不思議なことに…。
「陛下、どうなされました。」
まるで、扉の向こうに待機していたかのように、宰相が叫んだ途端に扉が開いたんだ。
部屋に入って来たのは男三人と薬箱らしき箱を手にした娘さんが一人。
その内、男二人は宰相の方に向かい。
初老の男性と娘さんが倒れ伏した王の方へ向かったんだ。
「宰相、これは一体どうなされたのですか?」
「おお、これはブルーマロウ侯爵にツェリンマ侯爵。
良くぞ、駆け付けてくださった。
今、こちらにおられるウエニアール国のマロン陛下と会談中でしたが。
陛下が体調不良を起こした様子で、突然倒れてしまわれたのです。」
目の前に立った男性二人に向かって、宰相はしゃあしゃあとそんな事を言ったよ。
体調不良って…、あれ、明らかに暗殺だよね。
その時、おいらの真正面では。
お爺ちゃんがダージリン王の手首や首筋に手を当てたり、瞳を覗いたりしていたよ。
お爺ちゃんは、軽く目を閉じると首を横に振り…。
「陛下はお隠れあそばされました。
どうやら、心労が祟ったようでございますな。」
早っ、即断ってどうなの。普通、脈を測るにしても、もう少し慎重にするんじゃないの。
しかも、死因は心労なんて言ってるし…。
すると、宰相が。
「御典医殿のおっしゃる通りですな。
さぞかし、気落ちなされていたのでしょうな。
アッサム殿下、アールグレイ殿下と相次いでお亡くなりあそばれましたから。」
「そうですな、陛下が心労で倒れるのも頷けます。
たいそう期待を寄せられてた皇太子、第二王子を不慮の事故で無くされたのですから。」
もう死因は心労で決定かいってツッコみたくなるような、そんな小芝居が目の前で繰り広げられてるよ。
少なくともおいらの目には、王様が皇太子、第二王子が亡くなって悼んでいるようには見えなかったよ。
一昨日と同じように横柄な態度で不満たらたらだったし。
って言うか、不慮の事故っていったい、それ、いつ起こったの?
まあ、皆まで言わなくても良いけどね。だいたい察しは付くから。
**********
おいらが、目の前で繰り広げられている小芝居を冷めた目で見ていると。
「ウエニアール国のマロン女王陛下で御座いますね。
ご挨拶させて頂いてよろしゅう御座いますか?」
そんな事、一々確認しなくたって、勝手にすれば良いじゃない。
この国では、王様に挨拶するのに一々許可がいるのかい。
「別に確認しなくても、気軽に声を掛けてくれて良いよ。
おいら、堅苦しいの嫌いだし。」
「これは寛大なお言葉に感謝致します。
私、ヌル王国で侯爵位を賜っておりますブルーマロウと申します。
この度は、我が国が貴国に大変なご迷惑をお掛けしまして、心よりお詫び申し上げます。
また、ノノウ一族が如く我が国に蔓延る国賊を暴いて頂き感謝に堪えません。
宰相から渡っているかと存じますが、貴国宛ての誓約書。
王が代替わりしようとも、誓約を違えることは御座いませんのでご安心してください。」
ブルーマロウ侯爵、武器弾薬や金銀財宝を巻き上げることをしなかった軍閥貴族の一つだね。
ジャスミン姉ちゃんの話では、この国の内陸部アイン王国との国境付近に領地を有する大貴族らしい。
軍閥貴族と言ってもその戦力の大部分は、アイン王国の国境近くの自領に配備されているみたい。
ブルーマロウ領は元々独立した小さな国だったとのことで。
ダージリン王とその取り巻きが諸外国に侵攻することを、快く思っていなかったらしいの。
出自が海賊の王家及びその譜代の貴族とは外交に対する立場が異なるため、一線を引いていたそうだよ。
「あっ、ブルーマロウ侯爵、抜け駆けとは酷いですな。
一人だけ、可愛い女王様にご挨拶するなんて。
私も侯爵のツェリンマと申します。
昨日は、ノノウ一族の間者の件、助かりましたよ。
我が家にも一人潜り込んでおりましてな。
さっそく、口を塞ぎました。」
この人、さりげなく怖いことを言ったよ。口を塞いだとか…。
「いやあ、すみませんね。
歳若いお嬢さんに、先王が醜い姿を晒してしまって。
あんな悪党でも、人が亡くなるのを見るのは気分が悪かったでしょう。
血の気が多い人だったので、大方頭に血が昇って卒中でも起こしたんでしょうな。」
ツェリンマ侯爵、王様が無くなったと言うのにカラカラと笑いながらそんな不謹慎な事を言ってるよ。
すると…。
「せっかくですので、新王陛下をマロン陛下に紹介させて頂くことにしましょうか。」
宰相がそんな事を言って、手を叩いてパンパンと二拍大きな音を立てるんだ。
いや、ちょと、それ、おかしいでしょう。
何で、今突然、病死した王様の世継ぎが決まっているの。皇太子も予備も死んじゃったんだよね。
しかも、宰相が手を叩いた直後のこと。
「殿下、さっ、行きましょうね。
さっき、お教えした通りにご挨拶するんですよ。」
若い女性の声が聞こえたと思うと、すぐさま部屋の扉が開いたの。
そして、声の主と思しき若い女官に手を引かれ、女の子が入って来たんだ。
多分、五、六歳と思われる小さな女の子が。
入室した二人は、おいらの前まで歩いて来ると。
女官が、その肩を押すようにして女の子を一歩前に出したの。
「初めまして。
ヌル王国の女王に即位することになったセイロンと申します。
以後よろしくお願いします。」
そんな挨拶を口にすると、セイロンちゃんはペコっと頭を下げたんだ。
その挨拶は、急遽決まった台本を間違えずに読むように精一杯頑張ってるって感じだったよ。
「殿下、良く出来ましたね。偉いですわ。」
お付きの女官らしき人がセイロンちゃんの頭を撫で撫でしてた。
「ご紹介しますね。
こちらは、ダージリン王の第二十五王女であらせられるセイロン殿下で御座います。
末姫で御年六歳になられました。」
宰相がセイロンちゃんのプロフィールについて補足してくれたの。
もう、どこから、突っ込んで良いのやら。
取り敢えずは。
「セイロン殿下、お目に掛かれて光栄です。
ウエニアール国女王、マロン・ド・ポルトゥスと申します。
以後お見知りおきを。」
セイロンちゃんに挨拶しておくことにしたんだ。
一応、型通りの挨拶をしたんだけど、セイロンちゃんはポカンとしてたよ。
どうやら、挨拶を返されて時の対応までは仕込まれていなかったらしいね。
だから。
「セイロンちゃん。おいら、マロンだよ。
よろしくね。」
膝を屈めてセイロンちゃんと視線を合わせると、いつも通りの挨拶をしてみたんだ。
「うん、私、セイロン。
マロンお姉ちゃん、よろしくね。」
セイロンちゃんは、ニパっと笑顔を見せてくれたよ。
幼子に無理な話し方をさせるより、こっちの方がずっと良いよね。
宰相から手渡された誓約書の確認を済まし、確かに受け取ったと告げると。
宰相は何やら怪し気な言葉を口にしたんだ。
その言葉の意味を問う間もなく、護衛と思しき騎士がダージリン王を背後から刺したの。
それは一瞬の出来事で、制止する暇も無かったよ。
おいらの真正面でテーブルに突っ伏すダージリン王、その顔からは血の気が失せていた。
そんなとんでもないことが起きたと言うのに、宰相は表情一つ変えることなく。
「誰か! 誰かおらぬか!
陛下が突然、お倒れになられた!」
大きな声で廊下に向かって呼びかけてんだ。
しかし、その声からは焦りや驚きをと言った感情が感じられず、単に声が大きいだけの淡々としたものだったの。
そして、これも不思議なことに…。
「陛下、どうなされました。」
まるで、扉の向こうに待機していたかのように、宰相が叫んだ途端に扉が開いたんだ。
部屋に入って来たのは男三人と薬箱らしき箱を手にした娘さんが一人。
その内、男二人は宰相の方に向かい。
初老の男性と娘さんが倒れ伏した王の方へ向かったんだ。
「宰相、これは一体どうなされたのですか?」
「おお、これはブルーマロウ侯爵にツェリンマ侯爵。
良くぞ、駆け付けてくださった。
今、こちらにおられるウエニアール国のマロン陛下と会談中でしたが。
陛下が体調不良を起こした様子で、突然倒れてしまわれたのです。」
目の前に立った男性二人に向かって、宰相はしゃあしゃあとそんな事を言ったよ。
体調不良って…、あれ、明らかに暗殺だよね。
その時、おいらの真正面では。
お爺ちゃんがダージリン王の手首や首筋に手を当てたり、瞳を覗いたりしていたよ。
お爺ちゃんは、軽く目を閉じると首を横に振り…。
「陛下はお隠れあそばされました。
どうやら、心労が祟ったようでございますな。」
早っ、即断ってどうなの。普通、脈を測るにしても、もう少し慎重にするんじゃないの。
しかも、死因は心労なんて言ってるし…。
すると、宰相が。
「御典医殿のおっしゃる通りですな。
さぞかし、気落ちなされていたのでしょうな。
アッサム殿下、アールグレイ殿下と相次いでお亡くなりあそばれましたから。」
「そうですな、陛下が心労で倒れるのも頷けます。
たいそう期待を寄せられてた皇太子、第二王子を不慮の事故で無くされたのですから。」
もう死因は心労で決定かいってツッコみたくなるような、そんな小芝居が目の前で繰り広げられてるよ。
少なくともおいらの目には、王様が皇太子、第二王子が亡くなって悼んでいるようには見えなかったよ。
一昨日と同じように横柄な態度で不満たらたらだったし。
って言うか、不慮の事故っていったい、それ、いつ起こったの?
まあ、皆まで言わなくても良いけどね。だいたい察しは付くから。
**********
おいらが、目の前で繰り広げられている小芝居を冷めた目で見ていると。
「ウエニアール国のマロン女王陛下で御座いますね。
ご挨拶させて頂いてよろしゅう御座いますか?」
そんな事、一々確認しなくたって、勝手にすれば良いじゃない。
この国では、王様に挨拶するのに一々許可がいるのかい。
「別に確認しなくても、気軽に声を掛けてくれて良いよ。
おいら、堅苦しいの嫌いだし。」
「これは寛大なお言葉に感謝致します。
私、ヌル王国で侯爵位を賜っておりますブルーマロウと申します。
この度は、我が国が貴国に大変なご迷惑をお掛けしまして、心よりお詫び申し上げます。
また、ノノウ一族が如く我が国に蔓延る国賊を暴いて頂き感謝に堪えません。
宰相から渡っているかと存じますが、貴国宛ての誓約書。
王が代替わりしようとも、誓約を違えることは御座いませんのでご安心してください。」
ブルーマロウ侯爵、武器弾薬や金銀財宝を巻き上げることをしなかった軍閥貴族の一つだね。
ジャスミン姉ちゃんの話では、この国の内陸部アイン王国との国境付近に領地を有する大貴族らしい。
軍閥貴族と言ってもその戦力の大部分は、アイン王国の国境近くの自領に配備されているみたい。
ブルーマロウ領は元々独立した小さな国だったとのことで。
ダージリン王とその取り巻きが諸外国に侵攻することを、快く思っていなかったらしいの。
出自が海賊の王家及びその譜代の貴族とは外交に対する立場が異なるため、一線を引いていたそうだよ。
「あっ、ブルーマロウ侯爵、抜け駆けとは酷いですな。
一人だけ、可愛い女王様にご挨拶するなんて。
私も侯爵のツェリンマと申します。
昨日は、ノノウ一族の間者の件、助かりましたよ。
我が家にも一人潜り込んでおりましてな。
さっそく、口を塞ぎました。」
この人、さりげなく怖いことを言ったよ。口を塞いだとか…。
「いやあ、すみませんね。
歳若いお嬢さんに、先王が醜い姿を晒してしまって。
あんな悪党でも、人が亡くなるのを見るのは気分が悪かったでしょう。
血の気が多い人だったので、大方頭に血が昇って卒中でも起こしたんでしょうな。」
ツェリンマ侯爵、王様が無くなったと言うのにカラカラと笑いながらそんな不謹慎な事を言ってるよ。
すると…。
「せっかくですので、新王陛下をマロン陛下に紹介させて頂くことにしましょうか。」
宰相がそんな事を言って、手を叩いてパンパンと二拍大きな音を立てるんだ。
いや、ちょと、それ、おかしいでしょう。
何で、今突然、病死した王様の世継ぎが決まっているの。皇太子も予備も死んじゃったんだよね。
しかも、宰相が手を叩いた直後のこと。
「殿下、さっ、行きましょうね。
さっき、お教えした通りにご挨拶するんですよ。」
若い女性の声が聞こえたと思うと、すぐさま部屋の扉が開いたの。
そして、声の主と思しき若い女官に手を引かれ、女の子が入って来たんだ。
多分、五、六歳と思われる小さな女の子が。
入室した二人は、おいらの前まで歩いて来ると。
女官が、その肩を押すようにして女の子を一歩前に出したの。
「初めまして。
ヌル王国の女王に即位することになったセイロンと申します。
以後よろしくお願いします。」
そんな挨拶を口にすると、セイロンちゃんはペコっと頭を下げたんだ。
その挨拶は、急遽決まった台本を間違えずに読むように精一杯頑張ってるって感じだったよ。
「殿下、良く出来ましたね。偉いですわ。」
お付きの女官らしき人がセイロンちゃんの頭を撫で撫でしてた。
「ご紹介しますね。
こちらは、ダージリン王の第二十五王女であらせられるセイロン殿下で御座います。
末姫で御年六歳になられました。」
宰相がセイロンちゃんのプロフィールについて補足してくれたの。
もう、どこから、突っ込んで良いのやら。
取り敢えずは。
「セイロン殿下、お目に掛かれて光栄です。
ウエニアール国女王、マロン・ド・ポルトゥスと申します。
以後お見知りおきを。」
セイロンちゃんに挨拶しておくことにしたんだ。
一応、型通りの挨拶をしたんだけど、セイロンちゃんはポカンとしてたよ。
どうやら、挨拶を返されて時の対応までは仕込まれていなかったらしいね。
だから。
「セイロンちゃん。おいら、マロンだよ。
よろしくね。」
膝を屈めてセイロンちゃんと視線を合わせると、いつも通りの挨拶をしてみたんだ。
「うん、私、セイロン。
マロンお姉ちゃん、よろしくね。」
セイロンちゃんは、ニパっと笑顔を見せてくれたよ。
幼子に無理な話し方をさせるより、こっちの方がずっと良いよね。
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