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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第581話 昨夜のことを感謝されたよ

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 こうして露店二日目は、甘味料に加えてシフォン姉ちゃんの服屋と串焼き肉の屋台を出したんだ。
 お昼時になる頃にはオバチャン達の口コミに乗って噂が広がったようで、三つのお店共にそこそこ繁盛してたんだ。

 すると。

「よう、お嬢ちゃん、昨日だけって話だったが今日も店を広げているんかい。」

 昨日、メイプルシロップをしこたま買い込んでくれた商人さんが声を掛けて来たよ。

「うん、本当は今日、この街を立ち去る予定にしてたんだけど。
 明日までこの街に滞在する必要が出来てね。
 今日一日、暇になったんで、また店を広げたんだ。」

 おいらが理由を説明すると。

「その必要ってのは、この国の王宮が関係する事かい?」

「何で、そう思うの?」

「いや、だって、お嬢ちゃん、昨日言ってたじゃないかい。
 王宮へ喧嘩を吹っかけるって。
 それに、昨日あった見せ物の檻が二つとも無くなっているし。」

 この商人さん、よく見てたね、暇だったのかな。

「まっ、そんなところだよ。
 ところで、オッチャンは国に帰らなかったんだ。
 昨日から今朝に掛けて、かなりの数の船が出港したと聞いてるよ。
 おいらが撒いたビラの情報を他の商人より早く届けるってね。
 王宮へ一番乗りして、ご褒美を貰おうって思ってるみたいだけど。」

「ああ、そう言えば血相を変えて出て行った奴らがいたな。
 私はパスだよ。
 皆、同じ情報しか持ってないんだ。
 一番乗りじゃなければ価値が無いだろう。
 早さだけを競うって、そんなせわしないことはしたくないね。」

 目の前の商人さんはまだ当初の仕入れが終わっていないらしい。
 おいらがビラに記した内容は、それこそ褒美に大金が貰えるような情報だけど。
 全員が同じ情報を持ち込むことになるだろうから。
 褒美が与えられるのは、本当に一番乗りをした商人だけなるだろうって。
 肝心の商売をほっぽり出してまで、そんな博打をする気にはならないって。

「そうだね、あぶく銭を追うよりも、堅実に商いをするのが一番だね。
 それなら、何か買っていかない?
 どれも、お買い得なものばかりだよ。」

 おいらが、両隣りの店を指差しながら言うと。

「串焼き肉も美味そうだし、そのパンツも面白いが…。
 私としては、お嬢ちゃんの話を聞かせてもらいたいね。
 昨日あれからどうなったのかとか。
 ことによると、あのビラよりも良い情報にありつけそうだし…。」

 この商人、人の良さそうな顔をしてタヌキだね。
 おいらから、お金になりそうな情報を聞き出そうって魂胆なの。

「別に面白い話しも無いよ。
 ただ、王宮へ行って、あの檻二つの中身を突っ返して…。
 後は、おいらの要求を呑ませただけ。」

「だけって…。
 お嬢ちゃん達だけで王宮に乗り込んだんだろう。
 女子供だけで要求を呑ませること自体ただ事じゃないんだが。
 で、どんな要求を呑ませたんだい。」

 まだ誓約書を出させる前のことを口にして良いのかと思ったんだけど。

「細かい事まで教えなければ話しても良いじゃない。
 この商人に情報を拡散してもらいましょうよ。
 この国は見せしめ。
 同じことをしようものなら、他の国でも同じ目に遭うって。」

 陰に隠れていたアルトがおいらの隣にやって来て囁いたの。
 どうやら、アルトはおいらが迷っていたのに気付いたみたい。

「おや、そちらの小さなお嬢さんはどなたですかな。
 この大陸ではお嬢さんのような方は目にした事が無いのですが。」

 この大陸に妖精族は居ないとの事なので、今まで隠れていたんだけど。
 やはり、この商人さんも妖精を見るのは初めてみたいだね。

「おいらの保護者で、妖精族の長アルトだよ。
 おいら達、この大陸の人が新大陸と呼ぶ場所から来たんだけど。
 妖精族は、多分、おいらの住む大陸で最強の生き物だと思う。
 この国の軍用船なんて、一撃で五隻以上沈めちゃったし。」

 おいらがアルトを紹介すると、商人さん、顔が引きつっていたよ。

「一撃で軍用船五隻以上って、あの大砲を沢山積んだ武装船ですよね。
 この方が、一撃で五隻以上? それは本当ですか?」

「おいらが嘘を言う必要も無いじゃない。
 昨日、檻に入れられていたパンツ一丁の連中を見たでしょう。
 あれがおいらの国を攻めて来たこの国の水軍の連中なんだ。」

 おいらの説明を聞いて、商人さんの顔はいっそう引き攣ったよ。

       **********

 おいらの説明を聞いて商人さんは信じられないとか漏らしていたけど。

「それで、王宮へ行ってお嬢ちゃんはどんな要求を突き付けたんだい。」

 さしあたってはおいらの話が正しいとして、続きを聞くことにしたらしい。

「今回、ヌル王国による侵攻では、おいら、戦利品として色々接収したからね。
 それの返還請求権を一切放棄させたんだ。
 それと、おいらが住む大陸に対して今後一切干渉しないことを約束させて。
 最後にハーブ諸島の独立と今後一切の不干渉も約束させたよ。
 商船、軍用船を問わず、今後、ハーブ諸島への武装船の寄港は認めないから。
 なるべく情報を広げておいてね。」

「ちょっと待ってくれ。
 それって、一介の町娘が王宮へ要求する事じゃないだろう。
 お嬢ちゃん、一体、何者なんだ。」

 昨日、銃騎士がイチャモンを付けて来た時に一応名乗ったんだけど。
 その時、この商人さんは見物してなかったのかな。

「もちろん、国と国との正式な交渉だよ。
 おいら、ウエニアール国の現女王だもの。
 この国に落とし前を着けてもらいに来たんだ。」

「へっ? 女王様?
 女王様がなんでこんなところで露店商の真似事なんて…。」

 まあ、町娘の格好をしているから女王様だとは想像もしないだろうね。
 おいらが素性を明かすと商人さんは惚けていたよ。

「さてと、情報を知ったからにはあんたにも協力してもらうわよ。
 今マロンも言ってたけど、ハーブ諸島の件。
 今後独立を侵そうとする者、武装船を寄港させようとする者は赦さないわ。
 今回、この国には見せしめになってもらったの。
 追々、この国がどれだけ損害を被ったか明らかになるでしょうが。
 火事場泥棒よろしくハーブ諸島に手出ししたら、同じ目に遭うと広めておきなさい。」

 アルトは、禍々しく輝く光の玉を浮かべて商人さんに凄んだの。

「ひっ…。」

 商人さんは息を呑んで、言葉にならない悲鳴を上げたよ。
 光の玉威力は知らないはずだけど、見た目の禍々しさにただならぬ物だと思ったみたい。

「そんな訳でね、アルトを怒らせたら怖いよ。
 多分、国なんてあっという間に滅んじゃう。
 ただね、おいらもアルトも基本、争いごとは嫌いだから。
 相手が手出しして来なければ、こちらからは絶対に手を出さないからね。
 それも含めて、国へ帰ったら情報を拡散しておいてちょうだい。」

 おいらが念押しすると、商人さんは顔を引き攣らせたままブンブンと首を縦に振っていたよ。
 
      **********

 すると、おいらと商人さんの会話に聞き耳を立ててた人もいて…。

「お嬢ちゃん、昨日の晩、パンツ一丁の暴漢を相手に大立ち回りを演じてただろう。
 小っこい体で大男を簡単に倒しちまうものだから、凄げえなって思ってたんだ。
 一体何者かと思ってたら、お嬢ちゃん、女王様だったんだ。
 俺達、街のモンを護るために戦ってくれる王様なんて初めて見たぜ。
 王様ってのは宮殿の奥でふんぞり返っているもんだと思ってたよ。」

 おいらが、他国の女王だと知るとそんな声を掛けてくれたんだ。

「昨日の晩は、俺も助けてもらったんだ。
 酒場で飲んでたら、いきなり半裸の暴漢が大挙して押しかけてきてよ。
 危うく俺達客も巻き込まれるところだったんだが。
 このお嬢ちゃんとそこで肉を焼いてる二人が颯爽とやって来て暴漢を退治してくれたんだよ。
 有り難うよ、お嬢ちゃん。
 ここで会えて良かったぜ、礼を言いたいと思ってたんだ。」

 このおじさんは、昨日助けに入った酒場で呑んでいたらしい。
 この二人からおいら達のことが伝わったのか。
 それからは、昨晩おいら達に助けられたと言う人が集まった来たの。
 みんな、おいらに声を掛けて感謝の言葉を伝えてくれたよ。
 そのついでに露店で買い物もして行ってくれた。

 そして夕刻も近付いた頃、見覚えのあるお姉さんがやって来て。

「お姉さん、大勝利です! 彼を落としましたよ!
 これも、お姉さんのパンツとこの服のおかげです。」

 嬉しそうに彼氏を射止めたと報告したんだ 
 朝方、シフォン姉ちゃんからパンツと『きゃんぎゃる』の服を買って帰ったお姉さんだよ。
 『きゃんぎゃる』の服を身に着け、少し髪を乱したお姉さんの首筋には幾つも小さな痣が出来てたよ。

「そう、良かったわね。
 アレ、どうだった? 効いたでしょう?」

「はい、
 昨日までの素っ気無さが嘘みたいです。
 ホント、ケダモノになっちゃって、何度も、何度も。
 最後は求婚してくれました。」

 シフォン姉ちゃんとお姉さんのそんな会話を耳にして…。

「凄げえ、肉食の姉ちゃんだな…。
 シフォンは夕食に誘って、アレを仕込むように言ってたんだが。
 待ち切れなくて、昼食でやっちまったか…。
 昼間っからよくやるよ。」

 タロウが二人を眺めて何かに呆れてた。
 でも、二人の会話を聞いていたのはタロウだけじゃなくて。

「えっ、このお店、そんな凄いものを売っているの?
 昨日助けてくれて方がここで露店を出しているって。
 そんな噂を聞いて来たんだけど。」

 おいら達がここに居ると聞き付けてお礼を言いに来た若い娘さんの耳にも入っていたの。

「そうなのよ。
 このパンツと私が今着ている服。
 効果抜群よ、彼氏の視線を釘付けに出来るから。」

 彼氏をゲットしたお姉さんは、手にしたパンツを広げながら言ってたよ。
 真ん中が割れている用途不明の謎パンツを…。
 昨日おいら達が助けた娘さんは多かったからね、噂を聞きつけて広場に来てくれた娘さんも沢山いたの。

 彼氏をゲットしたお姉さんの言動に注目が集まり…。

「それ、私も欲しい!」

 シフォン姉ちゃんのお店に若い娘さんが群がったよ。
 今日一日を通して客足が途切れることが無かったシフォン姉ちゃんの店だけど。
 一気に商品が捌けちゃった、持ち歩いてた商品が完売だった。
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