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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第576話 ヤバいものを野に放ってしまったよ…

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 トレントの苗木を諦めさせた後は交渉がスムーズに進んだよ。
 ダージリン王が借りてきた猫みたいに大人しくなって無駄な抵抗をしなくなったから。
 銃騎士が五人掛かりで倒せなかったトレントを、おいらが一撃で倒した事に余程の衝撃を受けたみたい。
 ダージリン王って、海賊気質で今まで弱者を力でねじ伏せて来たみたいだからね。
 おいらの力を目にして今度は自分がねじ伏せられる立場になったと恐れを抱いている様子だった。

 こっそりと武器弾薬や金銀財宝を奪うより圧倒的な力を見せ付ける方が、この王様には効果的だったようだね。
 まったく、脳筋って生き物は扱い難いよ…。

 結果として、おいらの要求は全て呑ませることが出来たんだ。
 アルトが口約束ではダメだと助言してくれたから。
 王の御名御璽が入った誓約書を差し入れさせることにしたのだけど。
 宰相から体裁を整えるので二日ほど時間が欲しいと言われたんだ。

 なので、二日後に再び訪れることにして王宮を立ち去ることにしたの。
 王宮前広場まで出て来ると…。

「おい、この檻、本当にどうなっているんだ。
 鉄ノコを使ってもビクともしないじゃねえか。
 これじゃ、プーアル大将軍を救い出すのに何日かかるか分からんぞ。」

「こら、お前ら、サボってないで、サッサとこの檻を壊さんか。
 早く儂をここから出すのだ。」

 こいつら、まだやってたのか…。
 おいらが作った檻は思いの外頑丈だったみたい。
 檻を壊そうと悪戦苦闘していた人達が、檻の側で座り込んで音を上げていたよ。
 そんな人達の苦労も知らずに、プーアル伯爵はまだ喚き散らしている。

「マロン陛下、お手数をお掛けして恐縮ですが。
 何卒、檻の中の者を解放してはくださいませんか。
 ノノウ一族の者への尋問もせねばなりませんし。
 貴族の子弟をあのような姿で何時までも晒しておく訳にも…。」

 宰相が申し訳なさそうに懇願してきたの。
 貴族の子弟をパンツ一丁で晒し者にしておくのは忍びないって。

 宰相の願いに応えて、おいらが檻を『積載庫』に仕舞うと広場には檻の中の人だけが残されたよ。
 予め檻の周りに捕縛要員が配置されてたので、ノノウ一族は即座に捕えられてた。
 ただ、野生のサルと化した貴族の子弟たちは檻が消えると一斉に散ったんだ。
 このサル達、おいらにとっては国を襲撃した罪人だけど。
 ヌル王国にとっては、命令に従って行動しただけの軍人だから罪人と言う訳では無いの。
 だから油断していたんだろうね。
 素早く逃げ出すなんて思っていなかったから捕縛要員を配置してなかったんだ。
 そのため、檻の中のサル達を王都に放つ結果となってしまったよ。

 そしてサル共が真っ先にしたのは、広場に出ていた露店の襲撃だった。

 王宮前広場と言っても王侯貴族しか立ち入れない訳では無く。
 そもそもは広場自体が通路の役目をしてるので、広場を行き交う人は市井の人の方が多いように見えるの。
 この国でも、人の往来があれば食べ物を売る屋台も出ているようで。
 広場には、お肉を焼く香ばしい香りや焼き菓子の甘い香りが漂っていたよ。

 ほぼ二月の間、檻の中に捕らわれ毎日朝晩の二食、パンと水だけ。
 一応飢えないように気遣ってはいたけど、食べ盛りの若い男達がそんな食事で満足できる訳も無く…。
 半ば野生のサル同然となってしまった連中が、食べ物の良い香りを嗅いだらタダで済む訳が無かったの。

 最初に狙われた焼き肉を売っている屋台では、サル共が鉄板から焼いているお肉を奪っていたよ。

「おい、やめろ! なんだ、このサル共は!
 食うんじゃない、それは売り物なんだぞ!
 欲しければ金を払うんだ!」

 そんな叫び声を上げて屋台の主人が追い払おうとするとけど。
 食事を邪魔されたサル共は逆上して、主人の方が袋叩きに遭ってた。
 そして生肉を奪ったサル共は、勝手に鉄板で焼いて肉を貪っていたんだ。
 
 そんな光景が広場のあちこちで見られたんだけど、被害は食べ物の屋台だけじゃなかったよ。

「きゃー! やめて、この変態!
 何なの、真昼間からパンツ一丁で!
 誰か、助けて!」

 サルが数匹で一人の若いお姉さんに襲い掛かったの。
 そして地面に押し倒すと、お姉さんの服を剥ぎ取りにかかったよ。

 次の瞬間、柔らかいモノがおいらの目を塞ぎ視界が閉ざされたんだ。

「マロン様、あれは見ちゃダメです。
 アルト様、マロン様を部屋に入れてください。
 それと、ジェレ様達をここを出してください。
 襲われている女性を助け出します。」

 聞こえたのは、書記役として一人おいらの側にいたトルテ姉ちゃんの声。
 どうやら、トルテ姉ちゃんが手のひらでおいらの目を押さえたみたい。
 
「あら、やっぱり、サルだわ。
 たった二月くらい禁欲生活しただけで情けない。
 食欲に、性欲、本能のまま振る舞うなんて…。
 ホント、下等動物ね。」

 アルトはそう呟くと、おいらを積載庫に乗せたんだ。
 代わって、おいらの護衛騎士を外に出したみたいだよ。

「マロン、お疲れ様なのじゃ。
 あの難儀な国王を相手に良く一人で耐えたのじゃ。」

 おいらが戻ると、オランが労ってくれたよ。
 ダージリン王の言動にはオランもイラっとしたようで、おいらがキレなかったことを褒めてくれたの。

       **********

 しばらくすると、広場の騒ぎも収まったようで再び外に出されたの。
 護衛騎士のみんなが活躍してくれたみたいで、涙ぐんだ若い娘さん達を何人も保護していたよ。
 護衛騎士達の足元には、縛り上げられたサル共が二十人ほど転がされてた。

「白昼堂々としかも公衆の面前で、若い娘さんを押し倒すとは貴族の子弟が聞いて呆れる。
 この国の貴族は、子弟にいったいどんな教育をしているんだ。」

 ジェレ姉ちゃんが足元に転がるサルを爪先で小突きながら呆れていたよ。
 まあその辺は推して知るべしだよね、王様からして娘は奪うものだと公言して憚らないのだから。

「マロン陛下、陛下の護衛の方の協力に感謝致します。
 私共の手の者は男性ばかりでしてな。
 襲われている娘を救い出すのには、いささか難がございまして。
 女性騎士の助力が得られて助かりました。」

 宰相が感謝の言葉を掛けてくれたよ。
 でも、檻に入っていたのは七百人以上、今、この広場で捕えたサルは二百人にも満たないそうだよ。
 宰相は銃騎士を総動員して、サル達を捕縛するように命じたんだって。
 何としても、今日中に全員を取り押さえるって言ってたよ。

「ねえ、宰相、あのサル達はどうなるの?
 やっぱり、貴族の子弟だから特別扱いするのかな?
 屋台の主人を袋叩きにして商品を奪ったり、若い娘さんを襲っても罪にはならないの?」

 あれだけ明確な犯罪をしておいて罪に問われないとしたら、この国はロクでもないね。

「マロン陛下はいささか我が国を誤解されているようですな。
 確かに軍部は海賊気質が抜けてない貴族が多く、多国で略奪を働いていますが。
 国内において、貴族が平民に危害を加えることは厳しく禁じております。
 このような不埒な者共は、貴族籍剥奪の上強制労働刑です。」

 宰相の言葉に嘘が無いとしたら、少しは救い処もあるかも知れないね。
 こんな無法者みたいな貴族達は厳しく処分して欲しいものだと思ったよ。 

 おいらは王宮を辞すと、護衛騎士に加えウレシノ達元工作メイドを従えて王都を見て回ることにしたの。
 オランとタロウ、それにタロウのお嫁さん三人も『積載庫』から降ろしてもらったよ。

「せっかく、海を越えて来たんだもんな。
 たまにはアルト姐さんの部屋の窓から見物するだけじゃなく。
 こうして自分の足で外を見て歩かないと勿体ないぜ。」

 タロウはローティーの街並みを見ながらそんなことを呟いていたよ。
 シフォン姉ちゃん達も物珍しそうに、お店を眺めながら歩いてたんだ。

 でもね、おいらが街に繰り出しのは呑気に散策するためじゃないんだよ。

「きゃー! 助けてー!」

 ほらきた。

「ジェレ姉ちゃん、あの悲鳴、きっと娘さんが襲われてる。
 助けに行ってちょうだい。」

 おいらは娘さんの悲鳴が聞こえた方向を指差して指示したんだ。

「はいよ! 任せといて!
 チャチャッとって、手遅れになる前に助けて来るぜ。」

 ジェレ姉ちゃんは即座に悲鳴の聞こえた方へ走り出していったよ。

「あっ、待って、ジェレ隊長、私も行きます。
 ジェレ隊長一人じゃ、やり過ぎちゃう。」

 慣れたもので、トルテ姉ちゃんが暴走を止めるべく追いかけて行ったよ。

「なんだ、マロン、逃げ出したサルを狩ろうってのか?
 そんなのこの国の連中に任せておけば良いじゃねえの。」

 おいらが街に繰り出した目的に気付いてタロウが問い掛けてきたけど。

「だって、おいらがあのサル達を野放しにしちゃったんだもん。
 それで街の人に迷惑が掛かったら後味が悪いじゃん。
 ほんの少し、お手伝いするだけだよ。」

 おいらがタロウに返答する間にも、別の娘さんの悲鳴が聞こえたんだ。
 すぐさま、ルッコラ姉ちゃんとタルト姉ちゃんを救援に向かわせたよ。

「マロン、街に散ったサルは約五百人もいるのじゃ。
 これは大変なことになっているのじゃないかのう。」

 立て続けに悲鳴が聞こえたことで、オランはことの深刻さを悟ったみたいだった。
 うん、早く何とかしないと、街に大変な被害が出ると思うよ。
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