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アイイロモンペ

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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第570話 いや、そこで匙を投げられたら困るって…

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 おいらが特定の軍閥貴族の家から武器弾薬と金銀財宝を根こそぎ巻き上げたことを告げると。
 宰相は、どんな基準で接収する対象を選んだのかを尋ねてきたんだ。
 没収の対象としたのは、ダージリン王と共に外国への侵攻を積極的に進めて来た好戦派の連中。
 一方で没収を見送ったのは、軍閥貴族の中でも海外侵攻に消極的だった厭戦派の貴族達だとおいらは説明をしたんだ。

「今、お話にあった武器や金品の接収を見送って下さった貴族についてですが。
 それらの貴族が、地方の領地に有する武器弾薬や財産も見逃してくださったと考えてよろしいのでしょうか。」

 おいらがこの国の各地を回って来たことを明かしてあるので、宰相はその点が気になったらしい。
 うん、昼行灯の王様と違って、大事なところを押さえているね。

「もちろんだよ。
 おいらが接収リストに上げてない貴族達は、内陸の国境付近に領地を持っている家ばかりだもの。
 そんなところから、武器弾薬や軍資金を奪ったら大変なことになるでしょう。
 そのことが国境を接する隣国に知られたら攻め込まれちゃうじゃない。」

 この大陸は過去から紛争が絶えないそうだからね。
 特にヌル王国は近年他国への侵攻を繰り返して恨みを買っているみたいだし。
 国境付近に領地を構える貴族が戦力を失ったことが隣国に知られたら、格好の餌食になるのは明らかだよ。
 貴族が殺される分には別に気にしないけど、領民が被害に遭ったら気の毒だからね。
 戦争が起こると農地が踏み荒らされたり、敵国の軍に略奪されたりするのが普通らしいから。

「マロン陛下のご厚情に感謝致します。
 今、挙げられた貴族は何れも領地を守るために命を賭して戦える者ばかりです。
 それらの貴族が安泰である以上、易々と国境が侵されることは無いでしょう。
 取り敢えずは国を維持することは出来そうでございます。」

 宰相はキチンとおいらの意図を酌んでくれた様子だったけど…。

「こら、爺、そなた、何でそんな盗っ人に頭を下げておる。
 何が、国境は安泰だ。全然安泰ではないわ。
 戦力を残しているのは、儂に半ば敵対しているような貴族ばかりだ。
 連中の領地の外側にもまだ領土はあるのだぞ。
 儂の代になってから獲得した王家直轄領がな。
 それらの王領はどうやって防衛しろと言うのだ。
 王家と儂の側近貴族は、丸腰同然ではないか。
 儂が望むのは海の果てまで版図を広げることなのに。
 これでは王権の維持すら難しいではないか。」

 ダージリン王は全然納得していない様子だったよ。
 自分の立場のことばかり考えていて、国の存亡について思い至らないらしいね。

「陛下、今はもうそんな段階はとっくに過ぎていますよ。
 既にこの国は詰んでいます。
 近隣諸国とは、陛下の代になって獲得した領地を返還する条件で和平交渉に臨みましょう。
 そして、海外植民地に駐留している武装船を全て呼び戻して本土の防衛態勢を整えるのです。
 もう、それしか、この国が生き延びる術は御座いません。」

 宰相は状況を適切に把握してる様子で、ダージリン王に提案をしたの。

「ふざけるな!
 儂が獲得した領地を海外植民地を含めて手放せと言うのか。
 それではこの国の歴史に儂の名を刻むことが出来ないではないか。
 そんな案は絶対に飲まんぞ。
 何としてでも、その盗っ人から船と武器を取り戻すのだ。」

 他人を指差して盗っ人呼ばわりとは、こいつ、本当に失礼な奴だな…。
 おいら、仮にも一国の女王なのに。

 ダージリン王の言葉を聞いて、宰相は大きなため息を吐いたよ。
 そして…。

「そんなにこの国の歴史に名を残したいのなら、勝手になされたら良いです。
 この王朝を滅ぼした最後の王として、次の王朝の歴史に名を刻まれるでしょうから。
 稀代の愚王として、未来永劫語り継がれることになるでしょうとも。」

 とうとう、宰相は匙を投げたよ。

       **********

 宰相はへそを曲げて黙り込んじゃって、交渉どころじゃなくなってしまったよ。
 いっその事、この王様をプチっと殺っちゃおうか。
 おいらがそんな誘惑に駆られていると。

「陛下、先程のマロン陛下のお話しはちゃんと聞いておられましたか?
 『国内五ヶ所の主要な工廠も全部破壊した』とおっしゃられたのですよ。
 この意味がお分かりになりませんか?」

 傍聴していた貴族の一人が、ダージリン王に尋ねたの。

「工廠など、壊されたのであれば建て直せば良いであろう。
 何故それが国が亡ぶほどのことなのだ?」

 こいつ、脳ミソまで筋肉なんじゃないか…。

「その資金は何処にあるのですか?
 王宮の宝物庫は空なのですよ。
 工廠を再建するとなるとかなりの増税が必要になるでしょう。
 貴族に重税を課したら謀反が起きますな。
 民に重税を課したら反乱が起きますぞ。
 謀反や反乱を鎮圧するための武器は、既に何処にも無いのです。
 そして何より、工廠を再建できたとして職人はどうされるのですか。
 先日の工廠の火災では職人全員が失われています。
 他の五ヶ所が同様だとしたら…。
 工廠を再建しても、従来通りには鉄砲も大砲も造れませんぞ。」

 その貴族の説明は、そこまで言ってあげないと理解できないのかって呆れるくらい丁寧だったよ。

「うっ…。」

 流石にダージリン王も深刻さに気付いた様子だよ。  
 だから、おいら、ダメ押しすることにしたの。

「さっき、話の途中で武官が武器庫の報告をしに来たんで最後まで言ってなかったけど。
 シラカワの里ってところ、焼き払って更地にしちゃったからね。
 火薬工房はもちろん、完成済みの火薬と火薬の材料や作り掛けも全て灰にしちゃた。
 それと、火薬職人さん達も全員、失われたよ。
 あと二ヶ所あった火薬作りの里も燃やしちゃったからね。」

 火薬職人さんはこの国から『失われた』だけで、殺してはないよ。
 聞けば、シラカワ衆って、元々は瘦せた土地で農作物を作るための肥料の研究をしていたらしい。
 肥料を作る試行錯誤する中で、偶然火薬を作ったそうで。それが前王の目にとまったとのことだった。
 火薬自体は意外と簡単に作れるそうだけど、大量に作るのはノウハウがあって。
 このシラカワ衆ってのは火薬の量産に成功していて、ヌル王国の火薬の七割方を供給しているみたい。
 他国を見てもシラカワ衆ほど火薬を量産できる集団は無いそうだよ。
 この国が他国よりも優勢なのは、シラカワ衆の火薬量産技術に依る処が大きいみたい。

 あとの二つの里も、火薬の作り方を偶然に発見したそうだけど。
 シラカワ衆ほどの量産には成功していないらしい。
 二つの里を併せて、残りの三割を賄っているんだって。

 そして三つの里とも、火薬作りは門外不出の秘伝になっていて。里の外の人には漏らしていないらしい。
 それ以前に三つの里とも山奥の隠れ里みたいなところで、軍関係者以外には里の存在自体が知られてないみたいだったよ。
 だから、三つの里を消してしまえば、ヌル王国では当面の間火薬の生産は出来なくなるんだ。
 もっとも、他の国でも独自に火薬の製造に至っているようなので、この国でもそのうち作成方法が再発見されるんだろうけどね。

 三つの里の住人には高品質の肥料を作ってもらうとの条件で、ウエニアール国へ引き抜いたんだ。
 充分な給金を約束して、更に利便性の良い平地に住居と研究施設を与えると伝えるたら。
 三つの里とも、一も二も無く誘いに乗って来たよ。
 今までも、金銭的にはそれなりの待遇は得ていたらしいけど。
 極秘事項に関わっているので、里から外へ出ることが許されなかったそうでね。
 里の人達は、息が詰まるような不自由な生活を余儀なくされていたんだって。
 便利な土地に住んで移動も自由にできると聞いて、皆、飛びついて来たよ。
 
「何だってー!
 火薬衆の里は極秘中の極秘だぞ!
 何故、それを知っているのだ。
 儂と軍のごく一部の者しか知らないはずなのに。」

 いや、だったら、その極秘書類を盗み見ることが出来る場所に置いといちゃダメでしょう。
 幾ら口止めしたり、最小限の人しか知らないようにしても。
 ジャスミン姉ちゃんが、コッソリ忍び込んで読むことが出来る場所に仕舞っておいたら台無しだよ。

 ダージリン王へ噛み砕いた説明をしていた貴族さん、おいらの話しを聞くと。
 
「これは、本当に詰んでますな。
 陛下、ここは大人しく宰相に詫びを入れて。
 宰相の協力を仰いだ方が国のため、ひいては御身のためですぞ。」

 そんな言葉と共に、軽く両手を上げて『お手上げ』のポーズをとったよ。
  
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