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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第569話 ここにも昼行灯がいたよ…

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 おいら、ヌル王国と交渉のテーブルに着いたんだけど。
 その場に駆け込んで来た役人さんから、王族の御座船が消失したとの知らせがもたらされたんだ。
 それが、おいら達の仕業だと分かると宰相は尋ねてきたの。
 王都の軍港から消え去った多数の武装船も、おいら達が持ち去ったのではないかと。

「そうだよ。
 ローティの軍港にあった武装船は全て接収させてもらった。」

 おいらが宰相の問い掛けを肯定すると。

「返せ、返すんだ! あれは我が国の主戦力なのだぞ!
 あの武装船団抜きでは、大陸に覇を唱えることが叶わんではないか!」

 おいらの返答を聞いてダージリン王がまた喚き散らしたよ。
 こいつ、ホント、怒りの沸点が低いな…。

「陛下、落ち着いてくだされ。
 敵の抗戦力を奪うのは戦の常道で御座いますよ。
 我が国だって、敵国の軍事施設に奇襲を掛けているではございませんか。
 日頃、我が国がしていることを逆にされただけでございます。
 それよりも、先程のマロン陛下の言葉。
 もっと重要なことを示唆されていたのですが。
 陛下にはご理解できませんでしたか?」

 宰相は激昂しているダージリン王を宥めたの。
 それに続いて、敵に攻められるのが嫌なら、最初から戦など仕掛けるものじゃないと諭してた。
 近年は連戦連勝なので、若い世代を中心に自分達が攻め込まれるという危機感が欠落しているんだって。
 文官とは言え高齢の宰相は負け戦も経験しているので、そんな若い世代を見て常々危いと感じてたそうだよ。

「ええい、煩いわ!
 じいの説教は聞き飽きた。
 そんなことより、重要なこととは何だ。
 勿体つけないで、さっさと言わんか。」

 聞き飽きるほど宰相から諫言をされているんだ…。でも、全然改めようとしないんだね。
 これ以上お説教を聞きたくないようで、ダージリン王は話題の転換を図ったよ。

「マロン陛下は、王都の軍港の船を奪ったと申されたのですよ。
 あれはもう半月前のことです。
 そして、王都に姿を見せたのは今日が初めてだとすると。
 この半月間、マロン陛下は何処で何をされていたと言うのですか。」

「はあ? それがどうしたと言うのだ?
 大方、王都の宿で長旅の疲れでも癒していたのであろう?」

 こんなのを王様にしておいて本当にこの国大丈夫なの…。
 王様が、あんまりにも的外れな事を言うものだから宰相も肩を落としちゃったよ。

「陛下じゃあるまいし。
 戦時に敵地に来て、宿で呑気に寛いでいる訳が無いでしょう。
 半月前、王都の軍港と時を同じくして、北部地区の軍港からも武装船が消えました。
 それに数日前の王立工廠の火災、あれで我が国の鉄砲、大砲の生産能力は半減したのですぞ。
 これら事件を何故マロン陛下と結び付けないのですか。
 私には陛下の頭の中の方が理解できません。」

 宰相、もう言いたい放題だな…。
 最後のセリフ、暗に「何でこんなにバカなんだ。」って言ってるよね。

「あっ…。」

 ダージリン王は宰相の指摘でやっとそこに思い至った様子だよ。
 こいつ、前トアール王以上の昼行灯だね。

          **********

 ダージリン王の頭の回転の悪さに呆れていた宰相だけど。
 呆れているだけでは話が進まないと、気を取り直しておいらに向かい合ったよ。

「マロン陛下、今後の交渉にも関わることでございますし。
 何卒、この半月間、マロン陛下がどのような行動をとられたか教えてくださいませんか?」

 宰相は取り敢えず、正確な現状把握をする事にしたみたい。

「王都に戻って来たのは昨日だよ。
 昨日もこの部屋に忍び込んで、どの程度の情報を掴んでいるか窺ってたんだ。
 丁度、大砲と鉄砲の工廠が火事になった報告が届いた時、この部屋に居たよ。
 その前は、この国の各地を回ってた。
 まだ、ここに報告が着いてないものを上げれば…。
 南部地区の軍港の武装船と武器庫の弾薬を全部接収したし。
 国内五ヶ所の主要な工廠も全部破壊したよ。
 それから、…。」

「たっ、大変です!」

 おいらが宰相の問い掛けに答えていたら、血相を変えた武官が飛び込んできたよ。
 とても慌てていて、扉をノックする間すら惜しむ様子だった。

「これ、今は大事な会議中であるぞ。
 ノックもせず、許可なく勝手には入室するとは何事だ。」

 宰相が武官を叱り付けると、武官はそれどころでは無いと言った様子で。

「申し訳ございません。
 それについてはお詫び申し上げます。
 ですが、ことは急を要することに付きご無礼をお赦しください。
 報告致します。
 王宮及び銃騎士団本部の武器庫、弾薬庫が空になっております。
 鉄砲、大砲のみならず、刀剣、槍、弓矢に至るまで。
 庫内の武器弾薬の全てが消え失せました。」

 武官の報告を受けて、その場に居た人達の視線が一斉においらに集まったよ。

「いったい、いつの間に…。」

 宰相はおいらを見てそんな呟きを漏らした。
 今度はおいらの仕業かとすら聞かないんだね。
 まあ、午前中おいらが広場で注目を集めている間に、アルトが回収して回ったからね。

「今日の午前中にアルトに回ってもらったんだ。
 王宮の武器庫、銃騎士団の武器庫だけじゃないよ。
 王都にある主要な軍閥貴族の家の武器庫もね。
 後は、王家の宝物庫と軍閥貴族の家の宝物庫の中身も全部頂戴したよ。」

 おいらが、そのことを明かすと部屋に居た貴族達の間でざわめきが起こったよ。
 もしかしたら、自分の家の武器や宝物が奪われているのではと心配になったみたい。

「こちらから攻め込んでおいて、こんな事を言うのは気が引けますが…。
 王家の宝物庫からの接収はともかくとして、貴族家の宝物庫に手を付けるのは如何なものかと…。」

 おいらの行動からこの国が既に無防備になっていることを、宰相は悟っているんだろうね。
 宰相は、自分達の立場が弱いと知りながらも、言うべきことは言うといった感じだったよ。
 国が引き起こした戦の責任を個々の貴族にまで求めるなって、宰相は主張したいようだった。

「そう?
 ウーロン王子に従っていたチャイ提督は、サニアール国の貴族達を脅迫して財産を巻き上げていたよ。
 この国では、征服した国の貴族に略奪行為を働いているとジャスミン王女から聞いているよ。
 おいらも、この国の軍属がしていることと同じことをしたつもりだけど。
 それに、おいらの最終目的は財産を奪うことでは無いから、文官貴族の資産には指一本触れていないよ。」

 おいらの返答を聞いて、宰相はバツの悪い顔をして。

「やはり、そんな手癖の悪いことをしておりましたか…。
 我が国の軍閥貴族は海賊の末裔が殆どのせいか、略奪を当たり前と思っているようで。
 無闇に占領地の者の恨みを買うような事は止めるように言っておるのですが。
 中々、言うことを聞いてもらえなくて…。
 まあ、今回のことは自業自得と思わざるをえませんか。」

 宰相はここの貴族の財産を返せとは言えなくなったみたい。
 手癖の悪い軍閥貴族には良い薬になっただろうと呟いていたよ。

         **********

 すると、自分の資産が無事かどうか気になっただろうね。
 交渉の様子を傍聴していた貴族から、財産を奪った貴族の家名を教えて欲しいとの要望が出たの。
 おいらは要望に応えて、トルテが作ってあったリストを読み上げたよ。
 そのリストは、ジャスミン姉ちゃんが調べていた好戦派貴族を書き出したもので。
 今日の午前中、そのリストを頼りにアルトは潜入して回ったの。

 おいらが貴族の名を読み上げると、傍聴していた貴族の中から安堵の声が上がったよ。
 他方、ダージリン王の顔色が無茶苦茶悪くなったんだ。

「マロン陛下、少々よろしいですかな。
 そのリスト、どのような基準で財産接収の対象を決めたのでしょうか?
 軍閥貴族の中でも、接収の対象となっていない貴族がありますが。
 しかも、かなりの有力貴族で。」

 宰相は財産を接収したリストに入っていない軍閥貴族の存在に気付いた様子で、首をひねっていたの。

「ブルーマロウ侯爵とか、ツェリンマ侯爵とか?
 それ、まともそうな貴族の手に、最低限国を守れるだけの武器は残しておいたんだ。
 この国を丸裸にしちゃうと、今度は他国からこの国が攻められちゃう。
 それでこの国の民に犠牲が出たら困るでしょう。
 財産の接収を見送った家は軍閥貴族と言っても、どこも厭戦派なんでしょう。
 それで王様の不興を買って、ノノウ一族のメイドを送り込まれていたんだよね。
 どの貴族も元々内陸にあった小国の王家で、今の王族を良く思ってないそうじゃない。」

 例に挙げた二つの貴族が、本当はどんな人かは知らないよ。
 おいらが直接接触する時間も無かったし、ジャスミン姉ちゃんの情報を鵜呑みにしたから。
 見逃した貴族は他にも沢山あったけど、例に挙げた二家はその中でも特に大きな一族だったの。

 見逃した貴族に共通するのは、いずれも内陸部に領地を持つ領主貴族だと言うこと。
 加えて、ヌル王国が領土を拡大する前は独立した小国の王家だったみたい。
 無用な争いで領地が荒廃するのを厭い、戦わずにヌル王国の軍門に下ることで領地安堵を図ったらしいの。 
 なので他国から領地を守る気概はあるけど、海を越えて他国を征服する事には消極的だったそうだよ。

 ジャスミン姉ちゃんから、そんな事情を聞いていたので接収を見送ったんだ。
 でも、おいらの判断はあながち間違っても居なかったみたい。

 その証拠に、宰相は安堵の表情をしているし、ダージリン王はますます苦虫を嚙み潰したような顔になったしね。
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