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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第566話 ノノウ伯爵、後が無くなったね

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 王宮にやって来たおいら達は、正面入り口前にある広場に檻二つを晒したんだ。
 ノノウ一族を捕らえた檻を見つけたノノウ伯爵は、檻に掲げられた看板を見てとても狼狽していたよ。
 今まで秘していた一族の活動内容が丸々暴露されていたから。
 そして、ノノウ島の拠点が壊滅したと報告を受けた伯爵は、檻の中に見当たらない一族の安否を夫人に尋ねたの。

 伯爵の問い掛けに言い淀んだ伯爵夫人。黙り込んでしまった夫人に伯爵は怪訝な顔をしたよ。

「適切な報告をしないなど、そなたらしくない。
 そなたは何時も一族の者に指導しているであろう。
 報告は速やか且つ正確に行うようにと。」

 伯爵に問い詰められて夫人は口を開いたよ。

「ここに居る者以外は全て、マロンと名乗る小娘に寝返りました。
 見習い達は言うに及ばず、一族の血を引く分家の者達まで…。
 そもそも、島への侵入を手引きしたのは分家のウレシノでございます。」

 夫人の返答を耳にして、今度は伯爵が言葉を失ったよ。あんぐりと大きな口を開いてた…。

 すると、それまで看板に目を通していた宰相が…。

「ノノウ伯爵、随分と手広く間者を送り込んでおったようですな。
 しかし、困りますな。
 宰相であるこの私に、何の相談も無く勝手なことをされては。
 このことが他国に発覚したら大変なことになりますぞ。
 そうなったら、伯爵はどう責任を取られるおつもりですか?」

 苦々しい表情で釘を刺したの。
 他国の要人を暗殺していたことなど発覚しようものなら、それこそいくさの火種になるって。

「これは、我が一族が陛下からご下命頂いた内密のお務めだ。
 如何に宰相と言えども、明かすことは出来ぬ。
 何処から秘密が漏れるか分からないからな。
 それに勝手にしていた訳では無いぞ。
 間者を送るに際しては、陛下の御裁可を得ておる。
 だいたい、我が一族が尻尾を捕まれるようなヘマはせんわ。」

 伯爵は、宰相の苦言を歯牙にも掛けていなかったよ。
 バレなきゃ問題ないし、バレたって知らぬ存ぜぬで押し通せば良いのだと言って憚らなかった。
 宰相は実際に知らなかったのだからって。
 ノノウ伯爵は、絶対にバレる訳が無いと自信満々の様子だったよ。

 すると、王都を巡回警備していたと思しき銃騎士が宰相のもとに近付き。

「恐れながらお耳に入れたきことが…。
 このようなモノを王都の広場で拾いまして。
 街の者に尋ねてみてたところ。
 広場の露店商が、他国の交易商に撒いたチラシとのことで…。」

 宰相に一枚の紙きれを差し出したよ。
 おいらが撒いたチラシ、誰かが広場に落としたみたいだね…。

「何々、ぶっ!
 ノノウ伯爵! これでもバレんと言い張るか!
 こんなものが、他国の王侯貴族の手に渡ったら一大事だぞ!」

 ノノウ伯爵は他国の宮廷や貴族家に送り込んだ工作メイドのリストを目にして仰天した宰相。
 宰相はチラシを伯爵に突き付けて、猛烈に抗議してたよ。

「うぐっ、こ、これは…。」

 ぐうの音も出なくなったノノウ伯爵。

「こんなところで立ち話をするような内容でもございませぬ。
 ここは場所を替えてじっくりと釈明を窺おうではないですか。
 陛下もよろしいですな?」

 宰相はノノウ伯爵と王様に場所を移すことを提案すると。
 広場に集まっていた銃騎士達に檻の破壊とノノウ一族の拘束を指示したよ。
 また、王宮に出仕している官吏について再度持ち場に戻るように指示すると同時に。
 檻の前に集まっていた貴族達にもノノウ伯爵に対する尋問に立ち会うように促してたよ。
 こんな重要なことを、密室で処理すべきではないって。

      **********

 場所を移して昨日潜入した王様の執務室。
 広い執務室の中は、傍聴の貴族達でごった返してたよ。

「さて、ノノウ伯爵、先ずはこのチラシの真偽をお聞かせ願えますか?
 ここに記載されている潜入先及び潜入した間者の名に間違いはございませんか?」

 席に着いた宰相は、おいらが撒いたチラシの真偽を問い詰めたの。

「知らん、もしそれが事実だとしても肯定する訳が無いだろう。
 間者ってモノは、例え拷問されても口を割らぬモノだ。
 ならば、こちらも惚けておけば良いのだ。
 もし、それで戦になろうものなら受けて立てばよいだろうが。」

 ノノウ伯爵は言外にチラシに記載されている内容が事実と認めながらも、その口から肯定の言葉を吐くことは無かったよ。

「ノノウ伯爵の言う通りじゃ。
 これ、宰相、この問題をこれ以上詮索するでない。
 ノノウ一族は王族直轄の家臣であり、王命にのみ従っておるのだ。
 ノノウ一族の工作任務に口を挟むのは越権行為であるぞ。
 第一、敵国に間者を潜入させるなど、何処の国でも行っていることであろう。
 伯爵の言葉通り、揉めたら戦で決着を付ければ良いではないか。」

 王族直轄も何も、今まで工作メイドの存在を隠していたんだもの。
 口を挟むのが越権行為とか言われても、宰相は納得できないよね。
 その存在を明かしたうえで、命令系統を明確しているのであればともかく。

「マロン、そろそろ出番よ。」

 おいらの居る部屋にあるとの声が響くと、次の瞬間、おいらは王の執務室の中に立っていたよ。
 おいらの傍らにはアルトが宙に浮かんでた。

「むっ、怪しい奴め。
 貴様ら何奴だ、一体何処から入って来たのだ。」

 突如として現れたおいらに、ダージリン王が声を荒げて問い掛けて来たの。

「初めましてだね、ダージリン王。
 おいら、マロン・ド・ポルトゥス。
 この国の人が新大陸と呼ぶ地に在る国の女王だよ。」

「小娘と妙な羽虫…。
 もしや、貴様らが我が一族を襲撃した者達か!
 王宮に乗り込んで来るとは良い度胸じゃねえか。」

 おいらが名乗ると、即座にノノウ伯爵が反応したよ。

「そっ、これから色々と話し合うことはあるけど。
 宰相さん、これを受け取ってくれる。」

 おいらは一通の書簡を手に取ると、一旦積載庫に戻し、宰相の手の中に出現させたの。
 積載庫のこんな使い方ってしたこと無かったけど、離れている人に物を渡すことが出来るって便利だね。

「いったい、どうやってこれを…。」

「まっ、細かいことを気にしてないで、中身を読んでよ。」

 突如として手のひらの上に現れた書簡に目を丸くする宰相に、おいらは中身の確認を促したの。
 封を切って書面に目を通す宰相。

「うぬぬぬ…、これはどういうことですかなノノウ伯爵、それに陛下。
 これまで国に尽くしてきた私を信用できないと言うのですかな。
 数年前に私の家に仕え始めたイセと言うメイド。
 ノノウ伯爵が潜入させた間者だそうではないか。
 もし私に王と対立するような事あらば。
 速やかに抹殺するようにと、指示を出したそうではないか。
 しかも、儂の家の恥ずべき情報が筒抜けになっておる。」

 息子さんが町娘を相手に淫蕩三昧とか、娘さんが父親と同じような歳の貴族と密通しているとか。
 たしか、そんな事が書いてあったね。

「小娘、何故それを!」

 敵国だけではなく、自国の宰相にまで間者を送り込んでいることを暴露されて焦るノノウ伯爵。
 すると。

「ノノウ卿、昨年、元気だった我が父上が急逝しましてな。
 新参者のメイドの上で腹上死などと言う恥を晒したのだが…。
 卿に何か、心当たりがあるのではないか。」

 まだ若い貴族がノノウ伯爵に疑いの眼差しで問い掛けたの。

「はて、いったい何の話でしょうか、ダッタン侯爵。」

 どうやら自分より格上の貴族のようで、ノノウ伯爵は少し丁寧な口調になったよ。
 相変わらず、シラを切ってはいるけど。

「ダッタン侯爵…、あった、あった。
 何々、これは二年前の年末頃かな…。
 ダッタン侯爵より、隣国に対する侵攻計画に関し反対意見有り。
 侯爵は近隣諸国との平和外交を主張する。
 国内の厭戦気分の醸成排除と戦意高揚のため和平派の侯爵の排除を指示。
 翌一月十日、ツキノセ、侯爵家への潜入に成功、侯爵の籠絡に当たらせる。
 三月一日、籠絡に成功、初めての夜伽。以降夜伽の際に遅効性の毒をごく微量ずつ盛る。
 六月九日、夜伽の最中、侯爵、心臓発作で死去。任務完了。適宜撤収を指示。
 七月二十日本島へ帰還。
 これにはそう書いてあるけど、間違いないかな?」

 おいらは、これ見よがしにノノウ伯爵邸の金庫から奪った記録長を読み上げて見せたよ。
 因みに、この内容を記載した書簡も作ってはあるから、後で渡しておこうと思う。

「それに間違いない。
 私の父上は隣国に対する外交方針で陛下と意見を異にしていたし。
 父が腹上死したメイドの名は確かにキツノセと言った。
 採用した時期、姿を消した時期も符合する。」

 ダッタン侯爵はおいらに相槌を入れると、ノノウ伯爵をぎろりと睨んだよ。

「い、いや、これは…。
 貴様、良くも我が一族の秘密を暴露してくれたな。
 それを返すのだ。
 それには、秘すべきこの国の暗部が記されておるのだ!」

 ダッタン侯爵に睨まれて一瞬たじろいだ、ノノウ伯爵だけど。
 すぐにおいらに噛みついて来たよ。

 でも…。

「ほほう、この国の暗部ですか?
 ぜひそれは知りたいものですな。
 王とノノウ伯爵が結託してどれだけの悪事を働いて来たのか。」

 宰相は温厚な人だとジャスミン姉ちゃんが言ってたけど、…。
 その時の宰相は猛り狂うワイバーンのような形相をしてたよ。
 
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