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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第563話 親にも色々なタイプがあるようで…

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 王都の広場で水軍の軍属が晒し者になっていると聞き付けて、三十人ほどの銃騎士隊がやって来たよ。
 おいらが水軍の連中を晒し者にした張本人で、ウエニアール国の女王だと名乗ると。
 銃騎士隊の隊長はおいらを銃殺するよう、射撃命令を出したんだ。

 まあ、大人しく射殺される義理も無い訳で、大量の海水をぶちまけて火縄銃を無力化し。
 護衛騎士のみんなと一緒に、銃騎士隊を捕えることにしたんだ。
 鉄砲を無力された銃騎士達は、日頃魔物相手に鍛錬を重ねている護衛騎士に手も足も出なかったよ。

「こいつら、本当に騎士を名乗っているのですか?
 まるで、文官のようにひ弱な連中では無いですか。
 斬り捨てる気にもなりませんでした…。」

 血染めの剣をぶら下げて、ジェレ姉ちゃんが不満そうに呟いていた。
 うん、でも、流血沙汰はジェレ姉ちゃんだけだよ。
 斬り捨てる気にもならないと言いつつ、鉄砲を持つ手を剣で斬り落としちゃうんだもん。
 他のみんなは当て身で銃騎士を無力化していたのに…。

 打ちのめした銃騎士達に縄を打って檻に縛り付けておくよう、護衛騎士のみんなにお願いし。
 おいらは連中の鉄砲を回収したら、中断してた商談のため露店に戻ることにしたんだ。

「ひえぇ…、お嬢ちゃん達、強いんだなぁ…。
 女子供だけで数に勝る銃騎士隊を一蹴にしちまうとは。
 しかし、こんなことをしちまって、大丈夫なのかい。
 王宮の連中に知れたら、今度こそ本気で潰しに来るぞ。」

 露店の前で商人さんが、感心すると同時に心配してたよ。
 商人さん、銃騎士隊が鉄砲を構えた時に慌てて退避し、遠巻きに成り行きを窺ってたみたい。

「心配には及ばないよ。
 ここで露店を広げるのは今日だけだし。
 今日、露店が捌けたら決着をつけるつもりだから。
 なので本当に今日限りの出血大サービスなんだ。
 欲しいものがあったら、今のうちに買っておいてね。」

「決着を付けにって…。
 お嬢ちゃん、王宮にでも乗り込むつもりかい。」

 おいらが自信満々に答えると、商人さんはまさかと言う口調で尋ねてきたんだ。
 それに対して無言で頷くと…。

「こいつは、魂消た…。
 今大陸で一番勢いがあるこの国に喧嘩を売ろうってのか。
 面白れぇや、それじゃ、高みの見物とさせてもらうぜ。
 こいつは、良い土産話が出来そうだぜ。」

 商人さんは愉快そうに、国に帰ったらその辺中に吹聴するって言ってたよ。
 盛大に拡散して欲しいね、おいら達の大陸に手を出した愚か者の末路を。 
 この商人さん、景気付けにって甘味料を沢山買い取ってくれたんだ。

       **********

 その後も、露店のお客さんは途切れることなく、砂糖もメイプルシロップも大好評だったよ。
 お客さんの対応をしながら、合い間に檻の方を窺っていると…。

「使用人の噂話を耳にして半信半疑で来てみれば…。
 間違いなく儂の倅ではないか。
 良かった…、思ったよりも元気そうで…。」

 檻に手を掛けて涙を零す初老の紳士がいたんだ。
 檻の中に息子さんを見つけたようだけど、今までやって来た銃騎士とは様子が違ったよ。
 晒し者にされたことを怒るでは無く、息子さんの無事を喜んでいるみたいだった。

 ちょっと気になったんで、護衛騎士のトルテに露店を任せてお爺さんの話を聞くことにしたよ。

「お爺さん、その中に知り合いがいるの?」

「ああ、あの隅っこに居る若いのが、儂の倅なんだ。
 文明人の尊厳をすっかり失ってはいるが…。
 血色も良いし、取り敢えず五体満足で帰って来て安心しとったのだ。」

 お爺さんが指差したのは、サル山の中位層に位置する一匹のおサルさんだった。
 上位グループのように弱いサルから餌を奪う訳でもなく。
 かと言って、下位グループのように餌を奪い取られる訳でもない。
 うまく立ち回って、毎食餌にありつけていたグループだね。
 飢えることが無いよう、最低限の餌は与えていたので体調は良さそうだったよ。

「お爺さんは、息子さんが晒し者になっているのに怒らないんだ?」

「何を怒る必要があるのだ。
 ここを読む限り、こちらから戦いを仕掛けて返り討ちに遭ったのであろう。
 この大陸では敗者の末路など悲惨なものじゃからな。
 五体満足で返してもらったのを感謝することこそあれ、怒る筋合いはないであろうが。
 ウエニアール国の女王様の寛大な取り計らいに感謝せねばのう。」

 事実、制圧した国の兵士に対する仕打ちは、苛酷なものなんだって。
 征服に赴いた際に最初の脅しで服従すればお咎め無しだけど、一旦戦火を交えたら例外なく銃殺するらしいの。
 一度でも抵抗した者は決して赦さない。
 それを徹底することで征服した国の人間に恐怖心を植え付け、絶対的な服従を強いるんだって。

 だから、お爺ちゃんは感謝してるそうなんだ。戦いに敗れた息子さんを、無事に返してもらえたことにね。

「お爺さんは、何か他の人達と違うね、常識的って言うか。
 他の人達が血の気が多過ぎるだけって気もしないでは無いけど…。」

「儂は根っからの文官ですからのう。
 この国は王からして武闘派なものだから。
 武官達が幅を利かせとって困りものなのじゃ。
 特に鉄砲が出来てからこっち、負け無しじゃったから。
 若いもんは皆調子づいてしまいおって…。」

 お爺さんは、鉄砲や大砲のことを良く思っていないそうなの。
 遠く離れたところから簡単に敵を倒せることから、人殺しに対する忌避感が薄れているんだって。
 特に、生まれた時から鉄砲がある若い世代を中心に。

 檻の中に居るのはお爺さんの次男とのことだけど。
 次男は幼少の頃から、海賊から国を興した初代国王の逸話に傾倒していたそうで。
 『俺も大きくなったら海賊の王になるんだ』なんて、声高に叫んでいたらしいよ。
 子供の戯言で大人になったら自然と改まるだろうと、お爺さんは思っていたらしいけど…。
 現実は残酷なもので、そのまま大きくなって未開の地の征服に乗り出しちゃったらしいの。
 ウーロン王子の新大陸遠征を知ると、嬉々として志願したらしいよ。

 おいらの耳元でタロウがポツリと呟いてた、「こんな所にもチューニ病の仲間がいた。」って。

「儂は地方領主の家の生まれでのう。
 王宮に出仕する前の若い時分、領地の盗賊退治に駆り出されたことがあってな。
 剣で盗賊を切り殺した時の、肉を裂く悍ましい感触を今でも忘れられんよ。
 あれ以来、儂は金輪際人殺しはせんと心に決めたのだ。
 鉄砲、あれはいかんよ、人の命が軽くなり過ぎる。」

 お爺さんは言ったの。
 人を殺める時の悍ましい感触に、間近に見る人が死に行く時の苦悶の表情。
 それらを経験すれば、常人なら安易に人を殺めることは出来なくなると。
 でも、鉄砲はそれを感じることが無いから、忌避感が麻痺しちゃうんだって。

 次男の未開の地遠征は今回が初めてじゃなかったそうで。
 お爺さんはかねてから、原住民を何人も撃ち殺したと自慢気に語る次男に眉をひそめていたそうなんだ。

「そう、じゃあ、息子さんは連れて帰って上げて…。
 多分、真っ白な状態に戻っちゃったと思うから。
 これからは、人殺しなんかと無縁の仕事をさせれば良いよ。」

 今はサルになっているけど、文化的な生活をさせればその内人間に戻るはずだからね。
 おいらは、アルトにお願いしてお爺さんの次男を檻から出してもらったよ。

「何と、お嬢さんがこの檻を管理していたのですか。
 倅を五体満足な体で返して頂いたことに感謝致します。
 この檻の看板に記されたことを、儂は肝に銘じておきますわい。
 王がまたぞろ新大陸に手出ししようと企てた時は、声を大にして反対します。」

 お爺さんは、おいらの素性に気付いた様子で頭を下げて帰っていったよ。
 次男は水軍を除隊させて、田舎にある領地の経営を手伝わせるって。

        **********

 去って行ったお爺さんみたいな常識的な人ばかりならどんなに良いかと思ったよ。
 でも所詮は海賊の末裔達、常識がぶっ飛んだ人の方が多いみたいで。

 今度は立派な箱馬車が檻の前で停車したかと思えば…。
 
「噂を聞きつけて来てみれば、あれは儂の息子ではないか。
 何処のどいつだ、儂の息子を晒し者にするなんて。
 プーアル伯爵家の者に対する無礼、断じて赦さんぞ!」

 檻の中のサル共を目にして憤りの声を上げる愚か者がいたんだ。
 とても豪奢な服を身に纏っているけど、紳士というより無法者の親玉のようだった。
 こいつの何が愚かかって、大きな声で自分の家名を叫ぶんだもの。
 黙っていれば分からないモノを、わざわざ家の恥を晒すのだから。
 さっきのお爺ちゃんはそれを理解していたから、家名を名乗らなかったのに。 

 すると。

「大将軍、助けて下さい。
 プーアル大将軍のご子息を晒し者にした不届き者は、そこの小娘です。」

 さっき捕えて檻に括りつけておいた銃騎士が、おいらの仕業だと暴露したんだ。
 すると…。

「お前ら、何を馬鹿なことを言っておる。
 見れば、十やそこらの小娘でははいか。
 周りの者も女と子供しかいないではないか。
 儂の息子が女子供に後れを取る訳が無かろうが。
 そんな恥晒しに育てた覚えは無いぞ。」

 おいら達の顔触れを見て、伯爵は銃騎士を叱り付けたよ。

「いえ、その小娘、めっぽう強くて…。
 それに、そのガキ、自分をウエニアール国の女王だと言ってるんです。」

 銃騎士のその言葉に、伯爵は、再度おいら達の方に顔を向けたんだ。

「おい、小娘、この銃騎士の言っていることは本当か?
 貴様が、儂の息子を晒し者にしたと言うのか。」

「そうだよ。この檻、二つ共おいらがここに置いたの。
 因みに、ウエニアール国の女王だと言うのも本当だよ。」

 おいらは露店から離れ、檻を背にするように伯爵の前に立ったよ。
 おいらの後ろには、今しがた伯爵に助けを求めた銃騎士が檻に括りつけられているよ。 

「ほう、貴様、舐めたことをしてくれるではないか。
 プーアル伯爵家を虚仮にしてタダで済むと思うなよ。」

 伯爵は上着の懐に手を入れたと思うと、銃身の短い火縄銃を取り出したの。
 どうやら物騒な生活をしているようで、その鉄砲には何時でも撃てるよう火縄がセットしてあったよ。
 鉄砲をおいらの額に突き付けた伯爵。

「どうタダでは済まないのか知らないけど。
 そんなオモチャでおいらを倒せると思っているの?
 撃ちたいなら、撃ってみればどう?」

 敢えて、伯爵を挑発してみたら…。

「ガキが吠えおる。
 貴様、さては鉄砲を見たこと無いな。
 それじゃあ、未開の原住民に鉄砲の怖さを教えてやるぜ。
 もっとも、怖さを思い知る間もないかも知れんがな。」

 大人気も無く本当に引き金に手を掛けたよ、このオヤジ。
 そして、躊躇なく引き金が引かれたんだ。

 パーン!

「ギャアーーーーー!」

 耳をつんざくような射撃音と悲鳴が続けざまに広場に響き…。

「うごっ!」

 おいらの小さなコブシが、伯爵の鳩尾を捕えたの。
 そのまま地面に倒れ伏すプーアル伯爵、そしておいらの背後で血溜りを作る銃騎士。
 おいらが回避した鉄砲の弾は、地べたに座らされ檻に括りつけられている銃騎士に命中したんだ。
 幸い、急所は外れているようで死んでは無かったよ。
 銃騎士の連中、平気で人を撃つようなんで、一度弾に当たってみれば良いと思ったの。
 そのために、わざわざ、こいつを背にして立ったんだ。 

 うん、スキル『完全回避』は至近距離でも有効だった。
 出来ると思ったから挑発してみたけど、正直ドキドキだったよ。
  
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