561 / 848
第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・
第561話 何処へ行っても頼りになる存在だよ…
しおりを挟む
カモミールさんを保護した翌日。
まだ夜明け前の薄暗い中、おいら達はヌル王国の王都ローティーの中央広場にやって来たよ。
日の出前ってこともあり、幸いにして人っ子一人いなかった。
広場に着くと、アルトのお願いして檻を出してもらったよ。今回は二つ。
この檻を置くために、広場全体を借り切る必要があったんだ。
ポルトゥスで捕えた海賊もどき、もとい、おサルさんが七百匹以上いるから、とても場所をとるの。
もう一つの檻は…。まあ、それは後で。
アルトは広場の隅に寄せて檻を出してくれたので、それに隣接するようにしておいらは露店の準備を始めたよ。
広場に大きな布を敷いて、そこに商品を積み上げるの。
商品はもちろん甘味料三種だよ。砂糖に、ハチミツ、メイプルシロップ。
ヌル王国ではどれもトレントから採れる訳では無いそうだから、見本に各一つヘタを切り落として中身を見せたよ。
蓋と本体が一体化している不思議な壺だと思われているみたいなんでね。
ヌル王国の銀貨で三枚が相場だと以前聞いたので、今回は一つ銀貨二枚で売ることにしたんだ。
『本日限りの出血大サービス』って赤字で大書した看板を掲げたよ。
何で、こんなところに来てまで露店を広げているかと言うと…。
勿論、王都の人の注目を集めるためだよ、露店の隣に置かれた檻の方にね。
露店の準備が全て終わる頃、日の出を迎えて広場がほのかに明るくなってきたの。
と同時に、人も疎らにみられるようになって…。
「あれまあ、どうすんべ。
何時も店をひろげているところにでっかい檻があるっぺ。」
農家のお婆ちゃんが、採れたての野菜を入れた籠を背負ったまま途方に暮れていたよ。
「お婆ちゃん、ゴメンね。
今日だけ、この広場全体をおいらが借り切ったの。
いつもと違う場所で申し訳ないけど。
今日だけは、空いている場所に露店を広げてくれるかな。
その代わり、場所代はタダで良いから。」
「あんれまぁ、嬢ちゃんが全部借りたんけぇ。
そいつぁ、剛毅なこって。
まあ、タダで良いってのなら、文句もねえよ。
んじゃ、嬢ちゃんの隣に店を広げるとすっか。」
馴染みの場所を占拠して不快な思いをさせたかと思ったけど。
大らかなお婆ちゃんで、快く場所の変更を受け入れてくれたよ。
**********
そうこうしている間にも、農作物や魚介類を背負ったお婆ちゃんやオバチャンが集まって来たんだ。
皆一様に困惑していたので、おいらは護衛騎士達に指示したの。
露店商の人達に対して、事情を説明し空いている区画へ誘導するようにと。
護衛騎士達が上手く対応してくれたことに加え、賃料を無料にしたこともあって混乱なく朝市は立ったよ。
すると、早速。
「お嬢ちゃん、この砂糖、銀貨二枚と書いてあるけど…。
これ、最近噂のどうやって蓋をしたか分かんない壺だろう。
これって、中身は全部、同じ量が入っているのかね。」
買い物に来たオバチャンが尋ねてきたの。量り売りと違って中身が見えないから心配らしい。
「全部開けちゃう訳にはいかないけど。
ちょっと見てて。」
おいらは手許に置いておいた包丁を手に取ると、二つ続けてヘタを切り取ったんだ。
「おや、本当にどれも壺一杯に詰まっているんだね。
これで、一壷銀貨二枚で良いのかい。
こいつはお得だね。二つ貰っていくよ。」
オバチャンはもっと欲しいけど持ち切れないと言って、銀貨四枚を差し出したよ。
おいらがお礼を言って『シュガーポット』を二つ手渡すと。
「ところで、この檻はなんだい?
お嬢ちゃん達、この檻と関係あるのかい?」
いや、今頃気付くの? 広場に入って真っ先に気付くでしょう普通…。
「うん? 何か、檻に大きな説明書きが掲げてあったよ。
どうやら、狂犬みたいに他人に噛みついて、返り討ちに遭った愚か者みたい。」
おいら達との関係は敢えて言わなかったよ。
おいらの返答を聞くと、オバチャン、興味津々で檻の方へ寄っていったの。
「何だい、このサルみたいなの。
この国の貴族のガキ共かい。
まあ、何時も鉄砲振りかざして偉そうにしているけど。
本性はサルと同じなんだね。」
檻に付けられた看板を読んで、オバチャンは大きな声でそんな独り言を言ってた。
オバチャンって、万国共通で声が大きいからね。
それにオバチャンって直ぐに群れるし、情報を拡散するしで、こういう時に都合が良いんだ。
現にオバチャンの声に、別のオバチャンが釣られてやって来たよ。
「何々、こいつら貴族だって。
パンツ一丁で貴族も無いだろうに…。
ふーん、新大陸を征服しにね。
返り討ちに遭ったんじゃ、世話ないよ。」
新たなオバチャンが檻を眺めてそんな感想を漏らしていると。
「ねえ、あんた、こんな物より、砂糖は買ったかい?
もの凄くお得だよ、この壺に満杯で銀貨二枚だったよ。
私、帰ったら息子と娘を連れてもう一回買いに来るつもりだよ。」
最初のオバチャンが、おいら達の露店を紹介してくれたよ。
「えっ、それ、満杯で銀貨二枚だって!
こうしちゃいられないよ、買って帰らないと。」
こんな感じで、オバチャンはオバチャンを呼んでくれるんだ。
で、あっと言う間に、朝も早よから広場にはオバチャン族が群れを成していたよ。
当然、お得な商品を数の制限なしで買えるとなると、荷物持ちに男の人も呼ばれる訳で…。
「おい、これ、見ろよ。
九ヶ月前にウーロン殿下が率いて出港して行った遠征部隊。
どうやら、完敗したらしいぜ。
チャイ提督と麾下の陸戦隊は死罪。
ウーロン殿下は向こうで晒し者になっているらしい。
犬みてえになっちまったと書いてある。」
「おう、この国の武装船は向かうところ敵なしだなんて粋っちゃいるが。
これで先が見えたんじゃないか。」
オバチャンに動員されたおじさんや息子さん達、檻の前に集まって盛り上がってた。
そして、沢山の人が集まってくると…。
「おい、こっちを見ろよ。
ノノウ伯爵が抱えていた間者らしいぞ。
何でも、メイドとして政敵や敵国に送り込んでいたらしいぜ。
貴族だけじゃないぞ。
何か月か前に、原因不明の死を遂げた大商人がいただろう。
あれ、こいつらに殺されたらしい。
王様から要請された寄進を渋って、不興を買ったらしいぜ。
商人を殺したメイドの名前までここに書いてあるよ。」
「げっ、おっかねえな。
ちっと王様のご機嫌を損ねると、俺達町民まで消されちまうのかよ。」
目に付くのはおサルさんの檻ばかりでは無く、当然隣の檻にも人の目は集まるよね。
その隣の檻に入れられているのは、伯爵夫人を筆頭とするノノウ一族だよ。
おいら達、移動中に頑張って看板を書いたんだ。
ノノウ一族の所在、役割、歴史など、隠されていたことを全部明らかにしたの。
潜入先の貴族や潜入したメイドの名前は、切り札なのでここでは伏せてあるけど。
その代わり、王様の不興を買って消された大商人のことを公表したよ。
殺害された商人の名前と消された理由、そこに潜入したメイドの名前などをね。
幸いと言ったら消された商人に申し訳ないけど。
数年に一件くらいの割合で、大商人にもノノウ一族の手が及んでいて公表する題材に困らなかった。
これ、潜入先が王侯貴族ばかりだと、街の人にはリアリティが感じられないものね。
街の人にとって身近な人が、つい最近、ノノウ一族の手に掛かって消されている。
その事実で、街の人を震撼させ、看板に記された内容に真実味を持たせたんだ。
**********
やがて、この広場のことは王宮の下っ端辺りまでは耳に届いたみたいで。
「皆の者、道を開けろ、退くのだ。」
鉄砲を肩から下げた五人組の男達が広場にやって来たの。
どうやら、ジャスミン姉ちゃんが言っていた銃騎士と呼ばれる連中みたいだよ。
道を開けろと民衆に命じるのだけど、その時には広場は黒山の人だかりでとてもそんな状況では無かったんだ。
すると、癇癪を起した銃騎士の一人が…。
「散れ!愚民共!
道を開けろと言っておるだろう!」
そんな怒声を上げると共に、空に向かって鉄砲を撃ち放ったの。
そして。
「道を開けぬと言うのなら、次は脅しでは済まんぞ!」
周囲を睨みつけて恫喝したの。
広場に響き渡った一発の銃声と銃騎士の怒声、恐怖で広場は静まり返ったよ。
と同時に、潮が引くように銃騎士達の周囲から民衆が遠のいてた。
そして次の瞬間、檻に向かって歩き始めた銃騎士達の頭上に…。
ザッバーン!
滝のような水が降り注いだんだ。
勿論、おいらの『積載庫』に溜めておいた海水だよ。
「ぺっ、ぺっ、何だこれは海水か?
どうしてこんなモンがいきなり振ってくるんだよ。
いったい、何処から降って来たんだこれ?」
ずぶ濡れになった銃騎士がそんな呟きを漏らしてた。
「おじさん達、そんな物騒な物を持ち歩いたらダメだよ。
こんな人の多い所で、暴発でもしたらどうするの。」
おいらは、重騎士の行く手を塞いで言ってやったんだ。
民衆が集まっているところで、鉄砲をぶっ放すなんて非常識な…。
「何だとこのガキ!
普段ならガキの戯言と大目に見てやるが。
今はずぶ濡れで虫の居所が悪いんだ。
ガキだからと言って容赦しないぞ。」
そんな言葉と共に、さっき鉄砲を撃った銃騎士がおいらに蹴りを入れて来たんだ。
何の手加減もない、マジな蹴りを。
とは言え、余り鍛えていないようで、避けるのに然したる困難も無い蹴りだったよ。
おいらは蹴りを躱すと、蹴り上げられた足首を軽く弾いたの。
ボキッと足首の骨が折られる音と耳障りな悲鳴が響き、その場に倒れ込む銃騎士。
「このクソガキ! 何てことをしやがる!」
おいらが銃騎士の一人を倒すと、残りの四人が怒って襲い掛かった来たよ。
銃騎士は貴族の子弟で構成されてるとジャスミン姉ちゃんが言ってたけど。
『クソガキ』なんて汚い言葉遣いをして、こいつら本当に貴族の出身なんだろうか。
まあ、この国の王侯貴族は海賊の末裔らしいから、お里が知れてるってこのことかな。
「大の大人が幼気な娘を相手に四人掛かりとは…。
大人気ないにも程があるのじゃ。」
そんな呟きを漏らしながら、オランがおいらに加勢してくれたよ。
オランに引き摺られて、渋々タロウも銃騎士の前に立ち塞がったの。
そして、大した時間も掛からず…。
「お嬢ちゃん達、強いね。
銃騎士隊を子供三人でのしちまうなんて見上げたもんだよ。」
おいら達が数に勝る銃騎士隊を瞬殺して見せると、オバチャンがそんな声を掛けてくれたよ。
集まった人達には良い見せ物だったようで、愉快そうな顔をした人達から拍手が上がってた。
「鉄砲が発明されて以来、自分は安全なところから歯向かう者を射殺してたから。
肉弾戦に備えて体を鍛えるってことをしてないんだろう。
普段は王宮にある詰め所で優雅にお茶でも飲んでいる連中だからな。
鉄砲が使えないと女子供にも敵わないようだ。」
倒した五人を縄で縛り上げていると、見ていた人からそんな声が聞こえたよ。
剣や槍で戦う人は、この国では過去の人となっているみたいだね。
まだ夜明け前の薄暗い中、おいら達はヌル王国の王都ローティーの中央広場にやって来たよ。
日の出前ってこともあり、幸いにして人っ子一人いなかった。
広場に着くと、アルトのお願いして檻を出してもらったよ。今回は二つ。
この檻を置くために、広場全体を借り切る必要があったんだ。
ポルトゥスで捕えた海賊もどき、もとい、おサルさんが七百匹以上いるから、とても場所をとるの。
もう一つの檻は…。まあ、それは後で。
アルトは広場の隅に寄せて檻を出してくれたので、それに隣接するようにしておいらは露店の準備を始めたよ。
広場に大きな布を敷いて、そこに商品を積み上げるの。
商品はもちろん甘味料三種だよ。砂糖に、ハチミツ、メイプルシロップ。
ヌル王国ではどれもトレントから採れる訳では無いそうだから、見本に各一つヘタを切り落として中身を見せたよ。
蓋と本体が一体化している不思議な壺だと思われているみたいなんでね。
ヌル王国の銀貨で三枚が相場だと以前聞いたので、今回は一つ銀貨二枚で売ることにしたんだ。
『本日限りの出血大サービス』って赤字で大書した看板を掲げたよ。
何で、こんなところに来てまで露店を広げているかと言うと…。
勿論、王都の人の注目を集めるためだよ、露店の隣に置かれた檻の方にね。
露店の準備が全て終わる頃、日の出を迎えて広場がほのかに明るくなってきたの。
と同時に、人も疎らにみられるようになって…。
「あれまあ、どうすんべ。
何時も店をひろげているところにでっかい檻があるっぺ。」
農家のお婆ちゃんが、採れたての野菜を入れた籠を背負ったまま途方に暮れていたよ。
「お婆ちゃん、ゴメンね。
今日だけ、この広場全体をおいらが借り切ったの。
いつもと違う場所で申し訳ないけど。
今日だけは、空いている場所に露店を広げてくれるかな。
その代わり、場所代はタダで良いから。」
「あんれまぁ、嬢ちゃんが全部借りたんけぇ。
そいつぁ、剛毅なこって。
まあ、タダで良いってのなら、文句もねえよ。
んじゃ、嬢ちゃんの隣に店を広げるとすっか。」
馴染みの場所を占拠して不快な思いをさせたかと思ったけど。
大らかなお婆ちゃんで、快く場所の変更を受け入れてくれたよ。
**********
そうこうしている間にも、農作物や魚介類を背負ったお婆ちゃんやオバチャンが集まって来たんだ。
皆一様に困惑していたので、おいらは護衛騎士達に指示したの。
露店商の人達に対して、事情を説明し空いている区画へ誘導するようにと。
護衛騎士達が上手く対応してくれたことに加え、賃料を無料にしたこともあって混乱なく朝市は立ったよ。
すると、早速。
「お嬢ちゃん、この砂糖、銀貨二枚と書いてあるけど…。
これ、最近噂のどうやって蓋をしたか分かんない壺だろう。
これって、中身は全部、同じ量が入っているのかね。」
買い物に来たオバチャンが尋ねてきたの。量り売りと違って中身が見えないから心配らしい。
「全部開けちゃう訳にはいかないけど。
ちょっと見てて。」
おいらは手許に置いておいた包丁を手に取ると、二つ続けてヘタを切り取ったんだ。
「おや、本当にどれも壺一杯に詰まっているんだね。
これで、一壷銀貨二枚で良いのかい。
こいつはお得だね。二つ貰っていくよ。」
オバチャンはもっと欲しいけど持ち切れないと言って、銀貨四枚を差し出したよ。
おいらがお礼を言って『シュガーポット』を二つ手渡すと。
「ところで、この檻はなんだい?
お嬢ちゃん達、この檻と関係あるのかい?」
いや、今頃気付くの? 広場に入って真っ先に気付くでしょう普通…。
「うん? 何か、檻に大きな説明書きが掲げてあったよ。
どうやら、狂犬みたいに他人に噛みついて、返り討ちに遭った愚か者みたい。」
おいら達との関係は敢えて言わなかったよ。
おいらの返答を聞くと、オバチャン、興味津々で檻の方へ寄っていったの。
「何だい、このサルみたいなの。
この国の貴族のガキ共かい。
まあ、何時も鉄砲振りかざして偉そうにしているけど。
本性はサルと同じなんだね。」
檻に付けられた看板を読んで、オバチャンは大きな声でそんな独り言を言ってた。
オバチャンって、万国共通で声が大きいからね。
それにオバチャンって直ぐに群れるし、情報を拡散するしで、こういう時に都合が良いんだ。
現にオバチャンの声に、別のオバチャンが釣られてやって来たよ。
「何々、こいつら貴族だって。
パンツ一丁で貴族も無いだろうに…。
ふーん、新大陸を征服しにね。
返り討ちに遭ったんじゃ、世話ないよ。」
新たなオバチャンが檻を眺めてそんな感想を漏らしていると。
「ねえ、あんた、こんな物より、砂糖は買ったかい?
もの凄くお得だよ、この壺に満杯で銀貨二枚だったよ。
私、帰ったら息子と娘を連れてもう一回買いに来るつもりだよ。」
最初のオバチャンが、おいら達の露店を紹介してくれたよ。
「えっ、それ、満杯で銀貨二枚だって!
こうしちゃいられないよ、買って帰らないと。」
こんな感じで、オバチャンはオバチャンを呼んでくれるんだ。
で、あっと言う間に、朝も早よから広場にはオバチャン族が群れを成していたよ。
当然、お得な商品を数の制限なしで買えるとなると、荷物持ちに男の人も呼ばれる訳で…。
「おい、これ、見ろよ。
九ヶ月前にウーロン殿下が率いて出港して行った遠征部隊。
どうやら、完敗したらしいぜ。
チャイ提督と麾下の陸戦隊は死罪。
ウーロン殿下は向こうで晒し者になっているらしい。
犬みてえになっちまったと書いてある。」
「おう、この国の武装船は向かうところ敵なしだなんて粋っちゃいるが。
これで先が見えたんじゃないか。」
オバチャンに動員されたおじさんや息子さん達、檻の前に集まって盛り上がってた。
そして、沢山の人が集まってくると…。
「おい、こっちを見ろよ。
ノノウ伯爵が抱えていた間者らしいぞ。
何でも、メイドとして政敵や敵国に送り込んでいたらしいぜ。
貴族だけじゃないぞ。
何か月か前に、原因不明の死を遂げた大商人がいただろう。
あれ、こいつらに殺されたらしい。
王様から要請された寄進を渋って、不興を買ったらしいぜ。
商人を殺したメイドの名前までここに書いてあるよ。」
「げっ、おっかねえな。
ちっと王様のご機嫌を損ねると、俺達町民まで消されちまうのかよ。」
目に付くのはおサルさんの檻ばかりでは無く、当然隣の檻にも人の目は集まるよね。
その隣の檻に入れられているのは、伯爵夫人を筆頭とするノノウ一族だよ。
おいら達、移動中に頑張って看板を書いたんだ。
ノノウ一族の所在、役割、歴史など、隠されていたことを全部明らかにしたの。
潜入先の貴族や潜入したメイドの名前は、切り札なのでここでは伏せてあるけど。
その代わり、王様の不興を買って消された大商人のことを公表したよ。
殺害された商人の名前と消された理由、そこに潜入したメイドの名前などをね。
幸いと言ったら消された商人に申し訳ないけど。
数年に一件くらいの割合で、大商人にもノノウ一族の手が及んでいて公表する題材に困らなかった。
これ、潜入先が王侯貴族ばかりだと、街の人にはリアリティが感じられないものね。
街の人にとって身近な人が、つい最近、ノノウ一族の手に掛かって消されている。
その事実で、街の人を震撼させ、看板に記された内容に真実味を持たせたんだ。
**********
やがて、この広場のことは王宮の下っ端辺りまでは耳に届いたみたいで。
「皆の者、道を開けろ、退くのだ。」
鉄砲を肩から下げた五人組の男達が広場にやって来たの。
どうやら、ジャスミン姉ちゃんが言っていた銃騎士と呼ばれる連中みたいだよ。
道を開けろと民衆に命じるのだけど、その時には広場は黒山の人だかりでとてもそんな状況では無かったんだ。
すると、癇癪を起した銃騎士の一人が…。
「散れ!愚民共!
道を開けろと言っておるだろう!」
そんな怒声を上げると共に、空に向かって鉄砲を撃ち放ったの。
そして。
「道を開けぬと言うのなら、次は脅しでは済まんぞ!」
周囲を睨みつけて恫喝したの。
広場に響き渡った一発の銃声と銃騎士の怒声、恐怖で広場は静まり返ったよ。
と同時に、潮が引くように銃騎士達の周囲から民衆が遠のいてた。
そして次の瞬間、檻に向かって歩き始めた銃騎士達の頭上に…。
ザッバーン!
滝のような水が降り注いだんだ。
勿論、おいらの『積載庫』に溜めておいた海水だよ。
「ぺっ、ぺっ、何だこれは海水か?
どうしてこんなモンがいきなり振ってくるんだよ。
いったい、何処から降って来たんだこれ?」
ずぶ濡れになった銃騎士がそんな呟きを漏らしてた。
「おじさん達、そんな物騒な物を持ち歩いたらダメだよ。
こんな人の多い所で、暴発でもしたらどうするの。」
おいらは、重騎士の行く手を塞いで言ってやったんだ。
民衆が集まっているところで、鉄砲をぶっ放すなんて非常識な…。
「何だとこのガキ!
普段ならガキの戯言と大目に見てやるが。
今はずぶ濡れで虫の居所が悪いんだ。
ガキだからと言って容赦しないぞ。」
そんな言葉と共に、さっき鉄砲を撃った銃騎士がおいらに蹴りを入れて来たんだ。
何の手加減もない、マジな蹴りを。
とは言え、余り鍛えていないようで、避けるのに然したる困難も無い蹴りだったよ。
おいらは蹴りを躱すと、蹴り上げられた足首を軽く弾いたの。
ボキッと足首の骨が折られる音と耳障りな悲鳴が響き、その場に倒れ込む銃騎士。
「このクソガキ! 何てことをしやがる!」
おいらが銃騎士の一人を倒すと、残りの四人が怒って襲い掛かった来たよ。
銃騎士は貴族の子弟で構成されてるとジャスミン姉ちゃんが言ってたけど。
『クソガキ』なんて汚い言葉遣いをして、こいつら本当に貴族の出身なんだろうか。
まあ、この国の王侯貴族は海賊の末裔らしいから、お里が知れてるってこのことかな。
「大の大人が幼気な娘を相手に四人掛かりとは…。
大人気ないにも程があるのじゃ。」
そんな呟きを漏らしながら、オランがおいらに加勢してくれたよ。
オランに引き摺られて、渋々タロウも銃騎士の前に立ち塞がったの。
そして、大した時間も掛からず…。
「お嬢ちゃん達、強いね。
銃騎士隊を子供三人でのしちまうなんて見上げたもんだよ。」
おいら達が数に勝る銃騎士隊を瞬殺して見せると、オバチャンがそんな声を掛けてくれたよ。
集まった人達には良い見せ物だったようで、愉快そうな顔をした人達から拍手が上がってた。
「鉄砲が発明されて以来、自分は安全なところから歯向かう者を射殺してたから。
肉弾戦に備えて体を鍛えるってことをしてないんだろう。
普段は王宮にある詰め所で優雅にお茶でも飲んでいる連中だからな。
鉄砲が使えないと女子供にも敵わないようだ。」
倒した五人を縄で縛り上げていると、見ていた人からそんな声が聞こえたよ。
剣や槍で戦う人は、この国では過去の人となっているみたいだね。
1
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下
akechi
ファンタジー
ルル8歳
赤子の時にはもう孤児院にいた。
孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。
それに貴方…国王陛下ですよね?
*コメディ寄りです。
不定期更新です!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる