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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第559話 到着早々、やりたい放題だよ…

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 ノノウ一族の島で一族郎党の多くをスカウトしたおいら達は、早々に島を発つことになったの。
 その後三日ほど飛ぶと、オードゥラ大陸らしき陸地が薄っすら見えてきたんだ。
 そこでアルトは一旦停まると、頭領さんの船団三隻を海原に浮かべたよ。

「凄げぇや、本当に一月も掛からずにここまで着いちまうなんて…。
 あそこに見えるのは、オードゥラ大陸で間違いないですぜ。
 ここから、真っ直ぐ行くとでっけい港があります。
 そこが、ヌル王国の王都ローティーです。」

 甲板から陸地を指差して、頭領さんがそう教えてくれたんだ。

「それじゃ、ここで一旦お別れだね。
 航海の無事を祈っているよ。
 それと、寄港した先でこれを渡してきて欲しいの。
 出来れば直接本人に渡して欲しいけど。
 多分無理だろうから、組合に託しても良いよ。」

 おいらは、頭領さんに数通の手紙を託したんだ。
 頭領さんの船団は、おいら達と一緒にヌル王国へ行く訳にはいかないの。
 何てったって、船団は船乗りさん達に無茶振りしたヌル王国の商人から奪った船だからね。
 商人から船を奪ったとバレたら重罪になっちゃうから、頭領さんはヌル王国以外の国で交易をすることにしたんだ。
 だから、おいら達とはここでお別れ、頭領さん達の船団はここから大陸に沿って別の国を目指すの。

「マロン嬢ちゃん、任せてくれ。
 俺達一介の船乗りが王侯貴族に直接会うのは難しいが。
 長いこと船乗りをしているとそれなりにコネはある。
 この宛先の家まで行って、執事に会うくらいは出来る。」

 おいらのお願いに、頭領さんは頼もしい返事をしてくれたよ。
 身分的に貴族本人には会えないけど、紹介状を貰ってその家の執事にくらいは面談できるコネがあるって。
 手紙の宛先はノノウ伯爵が工作メイドを忍び込ませた他国の貴族だよ。
 手紙の内容は、潜入しているメイドの名前とノノウ伯爵に漏れた秘密情報の内容なの。
 ノノウ伯爵に命じてヌル王国が築き上げた情報網を壊滅させるのが目的なんだ。
 ヤバい情報が漏れていると分かれば、ヌル王国に対する敵愾心も強まるだろうしね。
 まあ、間者だとバレたメイドさんには気の毒だけど。

 おいらが頭領さんと別れの挨拶を交わす傍らでは、アルトがフェティダと話をしてたよ。
 妖精のフェティダは、船団の護衛役として頭領さん達に同行するんだ。
 フェティダが住む妖精の森の長ムルティフローラから護衛を指示されたの。

「フェティダ、この船団の護衛をよろしくね。
 この船団が、私達の大陸との交易を独占していると知れたら。
 金の匂いを嗅ぎ付けた欲深い者に狙われるかも知れないから。
 それと、私がお願いしたことも大丈夫かしら?」

「まかしぇてでしゅ~。
 とうりょうさんたちは、『うみのたみ』の、たいせつなひとたちでしゅ。
 かならず、まもって、みせましゅよ~。
 あるとしゃまのごいらいも、うけたまわりでしゅ。」

 アルトの依頼とは、フェティダの行く先々で軍船と武装商船を見つけたら全て奪取しろ言うもの。
 アルトの目的は、この大陸の者達に大陸外への干渉を止めさせることなんだ。
 海外侵攻の原動力となっているのは大砲を装備した武装船。それを一掃しちゃおうって目論見なの。
 フェティダも『積載庫』持ちらしいから、船を奪うのは簡単だよ。
 ただし、おいらと同じレベル一らしいから、沖合で遭遇したらお気の毒だけどね。
 船の乗員は全員、海に投げ出されちゃうもの。

       **********

 頭領さんとフェティダを乗せた船団と別れて数時間後、おいら達はヌル王国の王都ローティーに到着したよ。
 王都ローティーは海洋交易で栄えた大きな港町で、港の規模はポルトゥスの何倍もあったんだ。
 その分、停泊している商船の数も多く、大型の帆船が何十隻もあったの。

「海岸に沿って北へ少し上がったところに入り江があります。
 そこがヌル王国水軍の本拠地、ローティーの軍港です。」

 ジャスミン姉ちゃんが港の様子を眺めながら、アルトの目的地の所在を教えてくれたよ。
 もちろん、アルトは事前にそれを耳に入れてあり、迷うことなく北へ向かったんだ。
 ほどなくすると、海岸の風景が砂浜から崖に変わり、川の河口のような切れ目があったの。
 その切れ目に入っていくと…。

「こりゃまた、凄げぇ数の武装船だな…。
 いったい何隻あるんだ?」

 タロウが驚くのも無理ないよ。
 門のような崖を抜けた先には広い入り江があって、そこには百隻はあろうかという武装船が停泊したの。
 そんな地形を利用したんだろうけど、海側からは崖が目隠しになってこの軍港が見えないんだ。

「見ての通り、この軍港は外海側からは一切見えません。
 また、水軍の関係者以外は港の敷地内に立ち入り禁止となっていて。
 まさに秘密のベールに包まれている、最高レベルの機密施設です。」

 ジャスミン姉ちゃんは、王宮の書物を読み漁っていてここの存在を知ったらしいよ。
 因みに、現在ヌル王国が保有している軍船はきっかり三百隻。
 切の良い数字なのは、そこまで造ったところで国内の木材が枯渇してそれ以上造れなくなったかららしい。
 今は、老朽化して廃船になる船の代船を造るだけに留めているみたい。だから、常に保有船舶数は三百隻。

「もっとも、ウーロン兄の遠征で二十五隻を失っちゃいましたし。
 ティーポット島でも五隻失いましたから。
 今現在の武装船保有数は二百七十隻ですね。
 木材不足のこの国では数年に一隻造るのが精一杯ですし。
 三十隻も失ったと知れば、軍関係者は腰を抜かすでしょうね。」

 そんな事を口走りながら、ジャスミン姉ちゃんはカラカラと楽し気に笑っていたよ。
 ジャスミン姉ちゃんの説明では、この軍港所属の武装船は百五十隻。
 残りは、国内にある二つの軍港にそれぞれ五十隻ずつ、海外植民地の各地に併せて五十隻だそうだよ。

「おっ、アルト姐さん、容赦ないな。」

「本当なのじゃ。
 根こそぎ貰っていくつもりなのじゃ。」

 その時、窓から外を眺めていたタロウとオランの声が聞こえたんだ。
 釣られて外の様子を窺うと、軍港から次々と武装船が消失していたよ。
 アルトは軍港を飛び回り手当たり次第に『積載庫』に放り込んでたの。

 暫くして、ローティーの軍港にあった全ての船を奪取すると、アルトは北に向かって飛び始めたよ。
 ここを中心に、ヌル王国の北と南に一ヶ所ずつ軍港があるそうだけど。
 先ずは、北の軍港を目指すみたいだね。

      **********

 それから約半月、アルトは精力的にヌル王国中を飛び回ってくれたよ。
 北の軍港で停泊中の武装船を全て奪った後、今度は南の軍港へ行って同じく全ての武装船を奪ってた。

 更に、ジャスミン姉ちゃんの協力のもと、鉄砲鍛冶と大砲の鋳造所を襲撃したんだ。
 そこにあった、完成品のみならず、造りかけの物や、材料として保管されている鉄まで奪い去ったの。
 それだけじゃないよ、鉄砲も大砲も専門の職人じゃないと作れないと聞き、職人全員を拉致したよ。
 最後はアルトのビリビリで施設を完膚なきまでに破壊したの。

 そして仕上げは火薬工房。火薬は鉄砲以上に作り方が秘密になっていて。
 ヌル王国内でも、幾つかの一族が人里離れたところで、隠れ住むようにして作っているんだって。
 そこを襲って、火薬職人を全員拉致したあげく、火薬もろとも隠れ里を全て焼き払ったよ。

 これで、ヌル王国は軍事力の立て直しに相当時間が掛かるはず。
 いや、このことが周辺国に知れたら、立て直す前に攻め滅ぼされちゃうか。
 そうなったら、自業自得だね。
 日頃から仲良くしてれば良いものを、ヌル王国が喧嘩をしかけていたみたいだから。


 半月後、王都ローティーに戻って来たおいら達が最初に向かったのは後宮だよ。
 ジャスミン姉ちゃんのお母さんカモミールさんの部屋。

 部屋に入るとすぐ、アルトはジャスミン姉ちゃんによく似た中年のご婦人を『積載庫』に確保したよ。

「おや、ここはいったい?
 あら、ジャスミンじゃない、どうしたのこんな所で?」

 カモミールさんは突如目の前の景色が変わって一瞬惚けたけど、すぐに自分の娘に気付いたよ。

「お母さん、久し振り。
 私がお供したウーロン王子だけど、完膚なきまでにやられちゃった。
 そして、今、この国は報復を受けているの。
 軍港の武装船が消えた話は聞いてない?
 あれ、ここに居るマロン陛下達がされたことなんだ。」

 ジャスミン姉ちゃんはおいらを紹介する共に、この半月においら達がしたことを話していたよ。
 もうこの国に他国へ攻め入る余力は無いと言ってた。

「あら、あら、因果応報ってこのことね。
 弱い者イジメばかりしているから、手酷いしっぺ返しを食うのよ。
 それで、ジャスミンは私を救い出しに来てくれたのだろうけど。
 これからどうするつもりなの? そちらのマロン陛下にお仕えするの?」

「それで相談なんだけど。
 マロンちゃん達、ティーポット島を解放したの。
 私、聞いてなかったけど、母さんの生まれ故郷なんでしょう。
 ローズマリーお祖母様にお目に掛かったわ。
 島の人達が国の再興を願っていて、母さんに帰って来て欲しいって。」

 これからどうするかとの問い掛けに、ジャスミン姉ちゃんはティーポット島での出来事を話したの。
 ジャスミン姉ちゃんは、ヌル王国の駐留部隊はおいら達によって壊滅、島民達の手で処刑されたと伝えてたよ。
 そして、ヌル王国に対する抵抗運動の人達がローズマリー婆ちゃんに国王就任を要請していることなども。

「でも、私やあなたが帰っても良いのかしら?
 島民のみんなは私達のことを良く思っていないのでは。
 私は憎い征服者の慰み者になったあげく、征服者の子を産んだのよ。
 あなたは憎しみの対象である征服者の娘、島民は受け入れてくれるかしら。」

 そんな不安を口にするカモミールさん。

「少なくともお祖母様は、私を歓迎してくれたみたい。
 それに、昔の王族の生き残りって、お祖母様と母さんだけらしいよ。
 征服者に慰み者にされたなんて言ってられないんじゃないかな。
 現に抵抗運動のリーダーは私に島へ来て欲しいって言ってたもの。」

 ジャスミン姉ちゃんは、カモミールさんの不安を払拭するように王族の状況を説明したんだ。

「そう、お父さんだけじゃなく、従弟や叔父さんまで殺されちゃったんだ…。
 お母さん、一人ぼっちでさぞかし寂しいでしょうね。
 分かったわ、歓迎されなくても良いわ。
 お母さんの許に帰りましょう。」

 どうやら、カモミールさんが捕らわれてヌル王国に送られた時点じゃ、何人か王族の生き残りが居たようだね。
 その人達も殺されちゃって、ローズマリー婆ちゃんが一人ぼっちだと初めて知ったみたい。
 それでカモミールさんは決心したみたいだよ、ティーポット島へ帰るって。
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