ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第558話 ノノウ一族をスカウトしてみたよ

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 アルトは、伯爵夫人が居た部屋に置かれてた金庫を奪ったの。
 金庫の中には、工作メイドを送り込んだ貴族の家のリストやメイド達が掴んだ貴族の秘密を記録した帳面が保管されてたの。
 どれも世間に流出したら、とっても拙い情報ばかりだったよ。

 おいら達が金庫に保管されてた帳面や手紙に目を通している間にも、アルトは館の中を飛び回っていたよ。
 アルトは、この島でやるべきことの仕上げに掛かると言ってたけど。
 屋敷の部屋を隈なく回ったアルトは、そこにいた人や部屋の中の調度品を手当たり次第に『積載庫』に収めて行ったんだ。
 特に、人は一人として残さないように細心の注意を払っていたよ。隠し部屋など無いかも探ってたし。

 もちろん、武器庫の武器や食糧庫の食糧、それに宝物庫の金銀財宝も根こそぎ貰ったよ。
 ただ一つ、火薬を残してね。

 最後にアルトは、広い屋敷の前庭にやって来たんだ。
 その時には使用人棟を含めて全ての部屋を回り終え、目ぼしい物品や屋敷内の人を積載庫に収めてた。
 そして、アルトは建物から十分に離れた位置で、おいら達を降ろしたの。

 ついで、おいら達の目の前、一ヶ所に集めるように屋敷に居た人達を降ろしたよ。
 建物内に居たところを不意打ち的に『積載庫』に閉じ込められた人達は、みんな困惑していたよ。
 気付いたら、庭に集められているんだものね。

「うん? ここは屋敷の前庭か?
 一体何がどうなっているのかさっぱりだ。
 さっきまでは確かに部屋で正座させられていたんだ。
 それが、いきなり何も無い空間に変わったかと思えば…。
 今度は前庭にいるなんて…。」

 事態を呑み込めずに、そんな呟きを漏らす人がいるかと思えば…。

「あっ、お前、ウレシノじゃないか。
 何で、ここに居るんだ?
 お前、確か、新大陸を征服に行く王子にお供したはず。」

 おいらの後ろに控えるウレシノに気付いて声を掛ける人もいたの。
 この人もさっき正座させられたはず。

「父さん、久し振り。
 ウーロン王子の新大陸遠征は大失敗です。
 こちらにおられるマロン陛下の国に、手も足も出ませんでした。
 マロン陛下の温情で、私、今は陛下にお仕えしてるんです。」

 どうやら、ウレシノに声を掛けたのは父親のようだね。
 ウレシノはなんら悪びれる様子も無く、おいらに寝返ったことを明かしていたよ。 

 それを聞いて、伯爵夫人はカチンときたようで…。

「ウレシノ、おまえ、一族を裏切ったと言うか。
 その上、敵の侵入の手引きまでするとは恥知らずな。
 裏切り者の末路をよもや知らぬとは言わせぬぞ。
 三日三晩、男衆の慰み者にした後にサメの餌にしてくれるわ。
 おまえの父と母、それに妹の命も無いものと思え。」

 ウレシノ向かって毒づいていたよ。

「大奥様はああ言ってるけど。
 父さん、母さん、どうする?
 ノノウ一族に居ても身の置き場が無いみたいよ。
 マロン陛下が言ってくださったの。
 私と一緒に、家族も受け入れてくれるって。
 もちろん、ヌル王国とノノウ一族を捨てるのならだけど。」

 ウレシノの方が伯爵夫人の苦言なんて気に留めずに、両親に寝がえりを勧めたの。
 両親や妹が死罪になるとしたら、自分のせいなのに全く気にした様子は無かったよ。

     **********

 すると、おいらと同じ年頃に見える女の子がトコトコと進み出て来たかと思うと。
 ウレシノの横に並んで、その手を取り…。

「私、お姉ちゃんに付いてく。
 勝ち馬に乗るチャンスを逃す手は無いもの。
 沈む船と運命を共にするのは船長だけで十分よ。
 と言うことで、マロン陛下、よろしくお願いします。
 私、ウレシノの妹、カラツと申します。」

 カラツは、そう告げるとおいらに向かってペコリと頭を下げたの。
 この娘、まだあどけない雰囲気なのに言ってることは辛辣だね。

「こら、カラツ、お前、父さんや母さんの立場も考えろ。
 うちの娘だけが寝返ったら、俺達の立場が無いだろうが。
 父さんと母さん、本当に首を刎ねられちまうぞ。」

 ウレシノの父親がカラツを窘めるけど…。

「あら、私だけじゃないわよ。
 同じ分家の娘、従妹のスルガもマロン様に召し抱えてもらったし。
 サヤマなんて、別の国の王様に一目惚れしちゃって。
 王様の側仕えに納まっちゃったわ。
 マロン様はノノウ一族を丸抱えで召し抱えても良いと仰せです。
 もちろん、忠誠を誓うのならですけど。」

 ウレシノは他のメイド達のことを暴露すると同時に、おいらの意向を伝えてくれたの。
 スルガ達は、タロウや護衛騎士の後ろに隠れて目立たないようにしてたんだけど。
 ウレシノに暴露されて、気拙そうな苦笑を浮かべて姿を見せたよ。

「あはは、ゴメン。
 私も、カラツちゃんと同じ。
 沈む船と心中は遠慮したいかなって。」

 口ではゴメンと言ってるけど、スルガに悪びれた様子は全く見られなかったよ。
 スルガ達が姿を現したことで、屋敷に居た人達に動揺が走ったよ。主に分家や使用人の若い娘達に…。
 みんな、ソワソワと同じ年頃の娘さんの顔色を窺っているけど。カラツのような勇気が出ない様子だった。

 すると…。

「決心がつかないなら、これを見て決めたら良いわ。
 これが選択する最後のチャンスよ。」

 アルトが、おいらに仕えるか、このままノノウ一族として生きるかの選択を迫ったの。
 そして、アルトはおいら達から離れて館の方へ飛んでいき…。

 バリ! バリ! バリ!

 耳をつんざくような雷鳴と共に、天から館に向かって強烈な稲妻が走ったんだ。
 
 そして、次の瞬間。

 ドーン!

 おいら達が立つ地面まで揺らして、鼓膜が破れるかもって爆音が響き渡ったよ。
 アルト、屋敷の金品や武器を頂戴して回った時、弾薬庫の中身だけは手を付けなかったの。
 敷地内の建物を全て焼き払うためにね。

 ほどなくして、建物全体が凄まじい炎に包まれたんだ。
 大分離れた場所に立っているおいらの頬にも熱が感じられたよ。

「由緒正しいノノウ伯爵家発祥の地の屋敷が…。」

 そんな呟きを漏らしながら、伯爵夫人はへなへなと地面にへたり込んじゃった。
 それと時を同じくして…。

「私も、そっちに行く!」

「無理、無理、こんなのに喧嘩を売るのは馬鹿よ。」

「そうよね、勝ち目なんて一つも無いじゃない。」

「ローレル王子も馬鹿ね。
 見境なく、喧嘩を売るからこんなことになる。」

 屋敷が灰燼に帰したのを見て、どっちに付くか決めかねてた人も心を固めたみたいで。
 そんな言葉を口々に呟きながら、伯爵夫人を置き去りにしてこちらに人が集まって来たの。

      **********

 やがて、人の動きが収まると、若い娘さんを中心に大部分の人がおいらの側に来ていたよ。
 ウレシノやスルガの家族もちゃっかりこちらに来ているよ。

「残っているのは、伯爵夫人とその子女といった本家の人間。
 それに現伯爵の弟二人とその家族…。
 後は、ノノウ家の黎明期から代々仕えている古参の家臣ですか。
 何方も、一族の中枢をなす人達ですね。」

 ウレシノが伯爵夫人を取り巻く人達を見て、どんな関係か説明してくれたよ。
 伯爵夫人の許に残ったのは、家族と一族の幹部だけみたい。

「お前達、今まで受けたノノウ家のご恩を忘れたのか。
 その小娘の国が如何程の国かは知らんが、
 此度のウーロン殿下の遠征に従ったのは、我が国の軍船のほんの一部だぞ。
 我が国が総力をもって攻め込めば、早々後れを取るはずが無い。
 その小娘の国を攻め滅ぼした暁には、お前らは絶対に赦さんぞ。
 全員八つ裂きにして、サメの餌にしてくれるわ。」

 伯爵夫人を介抱していた執事風の老人が、こちら側についた人達を恫喝していたけど。

「いや、いや、絶対に無理。
 アルト様とマロン陛下相手じゃ、束になって掛かっても勝てないって。
 相手は船を丸ごと奪っちゃうような存在なのよ。
 それ以前に、ノノウ一族はもう終わりだし。」

 ウレシノは手のひらを顔の前でぱたぱた振りながら、ムリムリとか言ってたよ。

「小娘の分際で、何を知ったような口を利く。
 この島を制圧したくらいで、もう勝った気でいるとは浅はかな。
 この島が制圧されたとて、ノノウ一族はびくともせんわ。
 王都にもノノウ伯爵の屋敷はあるし、本土にも所領を持っておる。
 何よりも、ノノウ一族の最大の資産は永年築き上げてきた…。」 

 老人は強がりでは無く、本気でノノウ一族は地盤は揺るがないと思っているらしい。
 今、現に捕らわれの身だと言うことを忘れてるのかな。

「ノノウ一族の最大の資産?
 それは工作メイドを使って築いた情報網だと言うんでしょう。
 だから、それがもうお終いだって言ってるんじゃない。
 一族の秘密は全てマロン陛下に知られちゃっているもの。
 王宮に乗り込んで、宰相にちょっと囁けばどうなるかしら。
 ノノウ一族が忍び込ませているメイドのことを。」

 ウレシノが挑発するみたいにそんな事を言ったものだから。
 おいらも『積載庫』から出して見せてあげたよ。さっき見ていた極秘事項が記された帳面を。

「おのれ小娘、それを返すんだ。
 それが表沙汰になったら、ことはノノウ一族だけでは済まんぞ。
 一歩間違えれば、この国が崩壊してしまうではないか。」

 返せと言われて、ハイと返す訳ないじゃない。こんな面白いものを。
 この情報を精々有効に使わせてもらうよ。
 
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