ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第554話 血塗れの生首を持って相談に来るって…

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 ジャスミン姉ちゃんとその祖母ローズマリー婆ちゃんの邂逅に同席している時のこと。
 唐突に、血塗れの中年男性がおいら達の居る草庵に飛び込んできたの。
 その手には、袋の底からダラダラと血の滴る布袋をぶら下げていたよ。

「奥方様、お喜びくだせぇ。
 っくき『殿の仇』を討ち取りました。
 ほら、この通り!」

 そう告げた中年男は満面の笑みを浮かべてご機嫌な様子で…。
 あろうことか、布袋から取り出したヌル王国の提督の生首を掲げて見せたんだ。
 咄嗟のことでおいらも顔を背けることが出来なかったの。
 胴体から切り離されて、血が滴り落ちる提督の顔をもろに見ちゃった。
 余りにスプラッタなシロモノに思わず嘔吐しそうになったよ。

 当然、ジャスミン姉ちゃんも目を逸らせなかった訳で…。

「きゃぁ!」

 小さな悲鳴を上げたジャスミン姉ちゃんは、顔面蒼白になって口に手を当ててたの。
 こみ上げて来る酸っぱいモノを必死に押さえている様子だったよ。

「こら、そんな血生臭いモノを若い娘達の前で晒すもんじゃないよ。
 ほら、気分を害しているじゃないか。
 あんたも、女房子供が居るんだから、少しは気くばりをしな。」

 ジャスミン姉ちゃんとおいらがえずいているを指差して、ローズマリー婆ちゃんが注意すると。

「いやあ、悪い、悪い。
 一刻も早く奥方に知らせないといけねえと思ったら。
 気が急いちまって、周りの者が目に入らなかったぜ。」

 口では謝罪しながらも、余り悪びれた様子も無い中年男。
 見覚えがあると思ったら、さっき港で捕縛した駐留部隊を預けた抵抗勢力のおじさんだったよ。

「で、どうしたんだい。
 そんな、小汚い首をぶら下げて…。
 私はそんなモンを見て喜ぶ猟奇趣味はないよ。」

 酷く血塗れだったせいか、ローズマリー婆ちゃんにはその首が誰のものか分からなかったみたい。

「なに言っているですか、奥方様。
 さっき亡き殿の仇を討ったと言ったじゃないですか。
 よく見てくださいこの顔を。
 殿の首を刎ねた忌々しい提督の首ですよ、これは。」

 いや、良く見ろって、…。そんなモノ、お年寄りに見せるモノじゃないと思うの。
 驚いてポックリ逝っちゃうかも知れないよ。

「あんたね、そんな短慮を起こしたらダメだろうに。
 あの海賊共には逆らうなと戒めておいたはずだよ。
 この島で反乱が起こったと知れたら、どんな報復をされるか…。
 島の者が皆殺しにでもなったら、どうするつもりだい。
 何しろ、向こうは鉄砲で殺戮を楽しむ狂人共なんだからね。」

 ローズマリー婆ちゃんは、得意気に提督の首をかざすおじさんを窘めたんだ。
 ヌル王国に征服された時から、血気に逸る男衆を宥めて暴発を抑えていたみたい。

     ********** 

「婆ちゃん、勝手なことをして悪かったけど。
 ヌル王国の駐留部隊を捕縛したのは、おいら達なんだ。
 おいらがお願いして、そのおじさん達に処分してもらったの。
 だから、そのおじさんをそんなに叱らないで。
 この島が報復されることは無いようにするから。」

 ローズマリー婆ちゃんに叱られて、身をすくめちゃったおじさんを庇うように口を挟むと。

「おっ、若いお客なんて珍しいと思ったら、嬢ちゃんだったのか。
 さっきは世話になったな。
 連中、全員首を刎ねて、胴体は沖合でサメの餌にしてやったぜ。
 首は数日港で晒して、腐る前に沖に捨ててくるつもりだよ。
 海賊連中だし、海に帰れれば本望だろうよ。」

 仕事速いな、もう全員殺して海に捨てに行ったのか…。よほど恨んでいたんだね。
 あれから他の住民たちも集まって来て、処刑の場は大いに沸いたらしいよ。 

「嬢ちゃん、あんた、やってくれたね。
 それだけ大口を叩く以上は、島のモンに咎が及ばんようにしてくれよ。」

 そんな言葉を口にすると、ローズマリー婆ちゃんはおいらの顔を見てため息を吐いてたよ。
 お婆ちゃん、とてもこの島の住民達のことを心配している様子だった。

「任せておいて。
 当面、海の外に干渉できないように打ちのめして来るよ。
 弱い者を虐げて奪っていくなんて、押し込み強盗そのものだもん。
 そんなのが王や貴族を名乗る国を放置しておけないからね。」

「また、とんでもない強気なお嬢ちゃんだね…。
 とは言え、尊大で、傲慢な感じはしないし。
 不思議なちびっ子だね。
 まあ、良いさ、この島に厄災を招かなければね。」

 ローズマリー婆ちゃんはおいらが強気一点張りなんで呆れちゃったみたいなの。
 この島にさえ、迷惑を掛けなければ好きにすれば良いって言ってたよ。

「それで、奥方様、これを機にあの海賊共から独立しようと思うんだが。
 奥方様がこの島の新しい王になってもらえんだろうか。
 かつての王族の生き残りは、もう奥方様だけだからな。」

 どうやら、おじさんがここを訪ねてきたのはこの件を依頼したかったみたい。
 ローズマリー婆ちゃんに女王になって欲しいと。

「何を馬鹿言ってんだい。
 この老いぼれ婆に女王なんて出来る訳が無いだろう。
 この島にある八ヶ村の村長むらおさの誰かにすれば良いだろう。」

 婆ちゃんはおじさんの願いを歯牙にもかけず断っていたよ。
 どうやら、この島には八ヶ所の村がありそれぞれに村長がいるみたいだね。
 その村長の一人を新たな国王にすれば良いと勧めてたよ。

「それじゃ、ダメなんですって。
 あの村長達はドングリの背比べで、互いに張りあってますんで。
 あの中から王を選んだら、纏まるものも纏まりませんぜ。
 元々、この島の王はかすがいみたいなもの、島の調整役ですから。
 やはり、歴代その役を務めて来たこの町のおさにやってもらわないと。」

「お前も酷いことを言うね。
 私ゃ、もうすぐ六十にもなろうという歳だよ。
 この老いぼれに、そんなしんどい仕事をしろというんかい。
 心労でポックリ逝っちまうよ。
 だいたい、私が逝っちまった後はどうするつもりだい?」

 おじさんの話では、八人の村長は別段敵対している訳ではみたいなの。
 ただ、村と村の間では対抗意識が強くて、何処かの村の村長を国王にするのは必ず反発を招くだろうって。
 この町は島の中で飛び抜けて大きくて、唯一整備された港を持っていることもあり。
 周囲の島々との交易の窓口になっているそうで、町長まちおさは島と島の間の利害調整役を務めていたそうなの。
 勢い島の中の利害調整を務めるようになり、何時しかこの町の町長が島の王ということになっていたらしいよ。
 現在、この町はヌル王国の直轄下にあり、駐留部隊の提督が町長の役割をしているみたい。

 で、征服される前の最後の王はローズマリー婆ちゃんの旦那様だったそうだよ。

「確かに、奥方様の後継ぎが難しいですね。
 こんな時、カモミール姫様が居られれば…。」

 ローズマリー婆ちゃんの指摘に一寸思案していたおじさんだけど。
 おいらの隣に居るジャスミン姉ちゃんに気付いたみたいで、ハッとした顔をしたよ。

 そして。

「…って、奥方様、そちらのお嬢さんはどなたですかい?
 在りし日のカモミール様、そっくりなのですが…。」

 在りし日のって失礼だな、それは故人に対して使う言葉だし…。カモミールさん、まだ元気に生きているよ。
 まあ、生きて二度とこの地を踏むことは無いと思ってるだろうから、そう言いたくなるのも分かるけど。

「これかい? どうやら、私の孫娘のようだよ。
 カモミールの娘だってさ。
 今さっき、訪ねて来てくれたんだ。」

 すると、おじさん、渡りに船って表情になり。

「奥方様も人が悪い。
 立派な後継者がいるじゃないですか。
 王家直系の血を引く方が。」

 ジャスミン姉ちゃんを次期王にすれば良いと、おじさんは言ったんだ。

「駄目だよ。
 孫娘は、そちらの女王様の国で一般人として平穏な生活を送るそうだ。
 こんな厄介な島を押し付ける訳にはいかないよ。」

 この島はこの海域には珍しく豊富な湧水があり、そこそこ広い農地があるそうで。

 ヌル王国のような海賊達には喉から手が出るほど欲しい島だと、ローズマリー婆ちゃんは言うの。
 水と食料が幾らでも補給できるので、この島を抑えればここを拠点に周りの島々を襲撃できるからって。
 ここは大陸から遠く離れているので、航海技術が遅れていた頃は安閑と暮らせたけど。
 オードゥラ大陸の国々の航海技術に発達により、今後この島の安寧は常に脅かされるだろうって。

 今回ヌル王国を追い出しても、何時また支配下に置こうとする国が出て来るか分かったもんじゃないって。

「この島の王様や後継者の話に口出しするつもりないけど。
 オードゥラ大陸の国々が侵攻してくる心配はしなくても良いよ。
 そうならように、色々としてくるつもりだから。
 ジャスミン姉ちゃんやカモミールさんの気持ち次第だけど。
 この国の王になっても、侵攻される心配は無いと思うよ。」

 ただし、この島の中を上手く治められるかは知らないけどね。 
 後は、ローズマリー婆ちゃんとジャスミン姉ちゃんが腹を括るかどうかだね。
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