ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第550話 ムルティの島を後にして

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 ムルティの出した条件で、『水底の一族』の種族存続に協力することになった商船団の船乗りさん達。
 『水底の一族』は女性だけの種族で、個体数を減らして困っていたみたい。
 ムルティの島での水と食料の補給を許可する見返りに、『水底の一族』への子種の提供を迫ったの。

 ムルティが催した宴の後、船乗りさんとお姉さん方は子作りのために『積載庫』に消えて行ったのだけど。
 何故か、『水底の一族』の族長の娘ハゥフルだけが取り残されていたんだ。
 ハゥフルは船乗りさんみたいな粗野なタイプは苦手なようで、タロウのような線が細くて優し気なタイプが好みらしいの。
 タロウと番になることを望んだハゥフルに、アルトが待ったを掛けたんだ。
 現状、タロウはこの世界で子を成すことが出来ないので、種の存続と言う目的に適っていないって。
 アルトの言葉を聞いて、ハゥフルはシュンと気落ちしちゃったよ。

 シュンとしているハゥフルに声を掛けたのは。

「ハゥフルちゃん自身の望みを通しても良いんじゃない?
 タロウ君なら協力してくれるわ。
 ハゥフルちゃん、まだ若いみたいだし。
 今から唾をつけておいて、四、五年後にタロウ君の子を儲ければ良いじゃない。
 私達、人間より寿命が長いのだから四、五年くらいあっと言う間でしょう。
 私、シフォン、タロウ君のお嫁さんなの。
 良かったら、これから一緒に楽しみましょう。歓迎するわよ。」

 来る者拒まずのシフォン姉ちゃんだったの。お嫁さんズに引き込む気満々だよ。

「あんた、何を勝手なことを言っているのよ。
 誰がタロウをここまで連れてくると思っているの?
 私に、そんな事をする義理は無いわよ。」

 まあ、アルトの立場ならそう言うよね。タロウが一人でここまで来れる訳が無いんだから。
 すると、思わぬところから助け船が出たんだ。

「あら、私は良いと思うわ。
 そんな頼りなさそうな男の何処が良いのかは理解できないけど。
 内気で引っ込み思案のハゥフルが珍しく主張しているのですもの。
 その男の子供が欲しいのなら、私が連れて行ってあげる。
 私も、たまにはアルトお姉さまの所へ遊びに行きたいからちょうど良いわ。」

 ムルティがアルトの所へ遊びに行くことも兼ねてハゥフルを送迎してくれると言ったの。

「ムルティ様、有り難うございます。
 私、タロウさんに子を授けてもらおうと思います。」

「ハゥフルちゃん、良く決心したわね。歓迎するわ。
 そうと決まれば今宵は朝まで予行演習よ。
 さっ、タロウ君、行くわよ。
 アルト様、お部屋に入れてください。」

 ハゥフルがしっかりと自己主張すると、シフォン姉ちゃんはパッと笑顔を浮かべて歓迎していたよ。

「仕方ないわね…。
 朝にはハゥフルを海に戻すわよ。
 長い間陸に上がっていることは出来ないみたいだし。」

 そんなシフォン姉ちゃんを見て、アルトは呆れ顔でため息を吐きながら『積載庫』に入れてたよ。
 何時ものことながら、タロウの意思はお構いなしでシフォン姉ちゃんが決めちゃうんだね。
 タロウって流されてばかりの気がするけど、まあ、赤面して満更でも無い様子だったから異存は無いのかも。

       **********

 それから三日間は、毎晩宴が催されたよ。
 宴の前に『海の民』二種族が砂浜に集まり、宴の後に船乗りさんと子孫繫栄に励み、朝方海に帰っていく。
 そんなパターンを三日間繰り返したんだ。

 そして、四日目の朝。

「船乗りのみんな、三日間よく頑張ってくれたわね。
 おかげで久しぶりに『海の民』が出産ラッシュを迎えられそうだわ。
 約束通り、この島での水と食料の補給を許可するわ。
 その際には、また『海の民』のお相手をよろしくね。」

 船乗りさん達を前にして、ムルティは上機嫌でそんなことを伝えてたよ。
 その船乗りさん達はと言うと…。
 三日間、ほぼ徹夜だったらしく、皆一様にゲッソリとやつれてた。

「それは有り難い。
 海の姉ちゃん達のお相手は、願っても無いことなんだが…。
 なあ、ムルティ様、姉ちゃん達に伝えておいてくれねえかな。
 少しはお手柔らかに頼むと。」

 それに対して、頭領さんが切実な表情でムルティに懇願していたよ。

「あの子達ががっついたみたいでゴメンね。
 繁殖の機会を逃すまいと必死だったのね、きっと。
 今まで男が漂着することは稀だったから。
 そうだ、お詫びと言ったら何だけど…。
 これから定期的に来るのであれば、護衛を付けてあげるわ。
 フェティダ、いらっしゃい。」

「ハイでしゅ~。
 これかりゃ、あたちがごえ~しましゅ。
 かいぞくなんて、いちげきでしずめちゃいましゅよ~。」
 
 何と、あの舌足らずのフェティダが商船団に護衛に就くことになったよ。
 あの話し方を聞いていると、護衛として役に立つのか何となく不安になるけど…。

「良いのですか?
 妖精の加護が貰えるのは稀だと、アルトお嬢さんから伺いましたが。
 特に男に与えられることはまず無いと。」

「良いのよ、大事な子種の提供者だもの。
 その代わり、『海の民』に危害を加えたり、拉致したりしたら赦さないわよ。
 『歌声の一族』の餌になってもらうからね。」

 ムルティはカラカラと笑いながらそんな返答をしていたよ。
 護衛に就けたフェティダは頼り無さ気な話し方をするけど、あれでこの里のナンバーツーらしいよ。
 十隻くらいの船団なら一撃で壊滅できるって。

 そんな訳で、フェティダを仲間に加えておいら達はムルティの島を出発したの。

      **********

 ムルティの島を出て二日ほど飛び続けたアルトは、結界を抜けて最初の島で小休止することにしたんだ。
 おいら達が降ろしてもらった小高い丘の上から眼下を見下ろすと、海沿いに小さな港町があったよ。
 おいら達の居る場所は島のほぼ中央部、岩がゴロゴロしていて農地に適さないためか人家は一軒も無かったの。

 そして、小さな港におよそ不似合いな厳つい軍船が多数停泊していたんだ。

「ねえ、ジャスミン姉ちゃん。
 あれもおいら達の大陸に向かおうとしている船団かな?」

 もしそうだとすれば、早速、ムルティの結界を補修してもらった甲斐があったね。

「いえ、それは無いと思います。
 アルト様が急いで下さったおかげで、まだ半月掛かっていません。
 マロンちゃんの国に着くまで九ヶ月を要してますので。
 ウーロンが指揮する船団がヌル王国を出てからまだ十ヶ月弱です。
 幾ら強欲な父王でも、ウーロンの報告無し追加の侵攻は無いでしょうし。
 仮に捜索隊を出すにしても早過ぎます。」

 元々、国王はおいら達の大陸への侵攻には慎重な態度だったらしいの。
 侵攻する価値があるかどうか分からない未知の大陸で、途中に『霧の海』と呼ばれる難所があるから。
 国王はまず商人達に事情を探らせて、侵攻する価値が有るか否かを判断する腹づもりだったみたい。
 そこを功名心にはやったウーロン王子が、国王にねじ込んで侵攻したそうだからね。
 ジャスミン姉ちゃんは言ってたよ。
 ウーロン王子の報告を待ってから、国王は今後の対応方針を決めるつもりだろうと。

「ああ、ここはハーブ諸島のティーポット島ですな。
 この辺は、未開の民が住む島々が多数浮かんでいて。
 ヌル王国はここを拠点に、そう言った島々を征服しているんですよ。
 海の辺境を探検する船団の補給拠点にもなっている島ですわ。」

 頭領さんがこの島のことを知っていたよ。
 何でも、おいら達の大陸に来る途中、最後の補給をしたのがこの島らしいよ。
 港に停泊している軍船は、おいら達の大陸では無くこの近辺の島々を征服するための船らしい。

 この島は、辺境の地には珍しく文化や技術の発展していた島らしく。
 小国家の体を成していて、ヌル王国による征服以前から港が整備されていたんだって。
 真水と農地があり、整備された港もあると言うことで、ヌル王国の拠点とすべく武力制圧されたらしいの。
 小国家なので傀儡にするなんて回りくどいことはせずに、直接支配することにしたみたい。
 
「ふーん、未開の民の島を征服ね…。
 未開の民なんて傲慢な言い方ね。
 連中、ちょっと武器が発達しているだけじゃない。
 武力が小さくても、文化が進んでいる国はあるでしょうが。
 連中がしていることは単なる弱い者イジメね。」

 頭領の話を聞いて、アルトは不機嫌な声を上げていたよ。

「それじゃ、その弱い者イジメが出来ないように船を没収しちゃおうか?」

「それが良いわね。
 何とかに刃物と言うけど、狂犬みたいな連中に刃物を持たせちゃダメよね。」

 おいらの提案にアルトも賛成してくれたので、さっそく港に向かうことにしたんだ。
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