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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・
第549話 宴の後は…
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捕らえた海賊もどきを『歌声の一族』への置き土産にすると決めたおいら達。
早速、ムルティの案内で無人島へ行って捕えていた者達を解放したんだ。
例によって周囲の海は濃い霧が立ち込めているけど、島の霧は晴れていたよ。
連中を解放するに当たりアルトは姿を見せておらず、何の説明もしなかったんだ。
なので、突然、パンツ一丁で見知らぬ島に放り出されて連中は呆然としていたよ。
ムルティの言葉通り、島には真水の湧く泉や食べられる木の実もあった。
両方とも簡単に見つけられるところに降ろしたので、飢え死にすることは無いんじゃないかな。
毒持ちや肉食の動物もいないそうなので、『歌声の一族』の餌の保管場所としてはまずまずだと思ったよ。
パンツ一丁で荷物は一つも持たせて無いから、逃げ出すことも出来ないだろうしね。
無人島に放牧(?)した海賊もどきは七百人以上いて、それを見たシレーヌお姉さんはとても喜んでた。
「アルト様、有り難うございます。
私、こんなに沢山の男を見たのは初めてです。
一族のみんなも喜んでくれると思います。」
「喜んでもらえたようで嬉しいけど…。
計画的に食べるのよ。
一族の存亡が掛かっているのでしょう。
なるべく、多くの同族に行き渡るようにしないとね。」
シレーヌお姉さんの喜びようだと、あっという間に食べ尽くしちゃいそうだったのでアルトが注意していたよ。
海賊もどきを無人島に放した日の夕刻、ムルティの住む島でのこと。
島に戻ってくると、『歌声の一族』のお姉さんが集まって宴の準備を始めていたよ。
ざっと見て二百人以上、誰もが皆シレーヌお姉さんと同じくらいの年頃に見えたけど。
外見で騙されたらダメだよね、この一族、耳長族も真っ青な究極の若作りみたいだから。
「ムルティ様、アルト様、お帰りなさい。
見てください、新鮮なお魚がこんなにたくさん。
水底の一族の皆さんが、獲って来てくれました。
今日は殿方に精を付けてもらわないといけないですから。」
シレーヌお姉さんによく似たお姉さんが、籠いっぱいに入った魚を見せてくれたの。
どれもポルトゥスの港で見たことがある魚で、鯛とかヒラメといった高級魚だったよ。
それに、エビや貝なんかも別の籠に沢山入れられてた。
「テレース、ご苦労様。
水底の一族のみんなも頑張って獲ってくれたみたいね。
ところで、お肉は無いのかしら?
殿方に精をつけてもらわないといけないのだけど。」
「姉さん、急に言われてもお肉は無理ですよ。
この辺りの島には、肉が食べられる動物は少ないですもの。」
テレースって呼ばれたお姉さん、良く似ていると思ったら姉妹なんだ。
どうやら、シレーヌお姉さんは頭領さん達にお肉を食べさせてあげたいみたいだね。
「お肉なら、沢山持っているし、種類も色々あるから提供するよ。
精の付くお肉が欲しいならスッポンって亀のお肉もあるよ。
スッポンの食べ方はシフォン姉ちゃんから教えてもらって。」
お近付きの印にお肉を提供することにしたんだ。
酔牛とウサギ、それにスッポンね。
スッポン料理の指導をお願いしたら、シフォン姉ちゃんは快く引き受けてくれたよ。
お肉を提供すると、シレーヌお姉さん達はとても喜んでた。
特に、スッポンを目の前に積み上げたら、二人共目を輝かせてたんだ。
**********
そして陽が完全に沈む頃、砂浜に篝火が焚かれて宴の準備が整ったよ。
「みんな、出ておいで、そろそろ始めるわよ。」
ムルティが夜の海に向かって声を掛けると…。
真っ暗な海面に人のがざわめきが起こり、水の中から一つ、二つと次々と人影が現れたんだ。
人影が砂浜に近付いて来ると篝火に照らされて、それが年若い女の人だと分かったよ。
みんな、シレーヌお姉さんより大分若く見え、タロウと同じくらいの歳に見えたよ。
「頭領さん、あの娘達が『水底の一族』よ。」
頭領さんの横に浮かんだムルティは、海を指差して人影の正体を明かしたの。
「ええっと、ムルティ様…。
俺達はあの娘達の相手をすれば良いので?
本当によろしいのですか?
あの娘達、どう見ても十四、五ですぜ。
子作りするには少し早いんじゃないですかい。」
頭領さんもおいらと同じような事を思ったみたいで、そんなことをムルティに尋ねたんだ。
「何言ってるのよ、あの子達はみんな三百年は生きているわよ。
あの姿の頃が、一番の繁殖適齢期なの。
『水底の一族』はあれ以上は成長しないわ。
あの姿で五百年以上を生きて。
その後百年くらいかけて老いて亡くなるの。」
十代半ばの容姿が五百年くらい続いて、その後百年で老いて死ぬって…。
寿命六百年も凄いけど、若い姿の期間が寿命の大半を占めるってのがビックリだよ。
でも頭領さん、本当に驚くのは、そこじゃ無いんだよ。
『水底の一族』の人達は波打ち際まで来ると、ぴょんと跳ね砂浜に上がったんだ。
「ムルティ様、あれ、どうやって子作りしろって言うんだ。
下半身、魚じゃないか!」
そう、『水底の一族』って上半身は人間だけど、下半身は魚なんだよね。
それを知らされていなかった頭領さんは、あからさまに動揺してた。
おいらも初めて見たけど、ビックリしたよ。
「まあ、まあ、そんなに動揺しなくても良いわよ。
みんな、良く来てくれたわね。
今日は、人間の男がたくさん来てくれたわよ。
存分に宴を楽しんだ後、一族の繁栄のために励みなさい。」
ムルティは頭領さんを宥めると、『水底の一族』に向かって声を掛けたんだ。
すると…。
「ムルティ様、今晩はお招きに与かり有り難うございます。
久し振りにお元気な姿を拝見できて嬉しいです。
しかも、今宵は私達のために人の男をご紹介いただけるとのこと。
適齢期の娘を全て連れて参りました。」
一族代表の娘さんはムルティに感謝の言葉を告げると、手にしていた布地を腰に巻いたの。
どうやら、その布は巻きスカートのようなものらしく、美しい装飾がされていたよ。
そして、次の瞬間…。
「えっ、足が生えたって!」
「そうよ、『水底の一族』は繁殖をする時だけ、人と交われる姿になれるの。
まあ、精々一晩くらいなのだけどね。」
ムルティの言葉通り、巻きスカートに隠された下半身は尾びれのような形から足に変わったんだ。
立ち上がった姿は、人と見分けがつかなかったよ。
**********
『水底の一族』が獲って来た魚においらが提供したお肉、そして『歌声の一族』が島の果物で造ったというお酒。
多種多様な料理を囲んで宴は始まったんだ。
子供のおいらには分からないけど、『歌声の一族』のお酒はとても美味しいらしく船乗り達は上機嫌だったよ。
それに加えて、『水底の一族』が奏でる竪琴にのせた、『歌声の一族』の歌声はとても綺麗だった。
特に、シレーヌお姉さんの歌声は圧巻で人を魅了すると言うのも頷けたよ。
美味しい料理に美味しいお酒、そして美しい調べ、否が応でも宴は盛り上がったよ。
船乗り達は、『歌声の一族』、『水底の一族』の娘さん達に囲まれてとっても楽しそうだった。
そして、しばらくするとシレーヌお姉さんに腕を組まれて頭領さんが、おいら達の方へやって来たんだ。
頭領さんのもう一方の腕には、『水底の一族』の娘さんが抱き付いていたよ。
「ムルティ様、お部屋を貸して頂けませんか?
私達、これから三人で子作りに励もうかと思いまして。
こういうことは、リーダーが率先して動きませんと。
皆が遠慮してしまいますので。」
どうやら、ムルティの『積載庫』もレベル三のようで、シレーヌお姉さんは『特別席』を貸して欲しいと望んだの。
「ええ、良いわよ。
一族の繁栄のための励みなさい。
シレーヌ、アルトとの約束を守りなさいよ。
その男を食べちゃダメよ。」
「分かっていますよ。
私だって、アルト様を敵に回す程愚かじゃないです。」
シレーヌお姉さんに一応釘を刺すと、ムルティは三人を『積載庫』に仕舞ったよ。
シレーヌお姉さんの言葉通りだった。
三人が真っ先に『積載庫』に消えると、それを追うように次々とムルティの許に寄って来たよ。
面白いことに、必ずと言って良いくらい『歌声の一族』のお姉さんが船乗りさんを引っ張って来るんだ。
引き摺られるように付いて来る船乗りさんと恥ずかしそうに腕を組む『水底の一族』の娘さんというパターンなの。
あれほど盛り上がっていた宴の場は、あっと言う間においら達だけになっちゃった。
「あら、ハゥフル、あなたは行かなかったの?
次期族長のお眼鏡に適う男は居なかったのかしら。」
おいら達だけかと思ったら、『水底の一族』の娘さんが一人残っていたよ。
ハゥフルと呼ばれた娘さんは、おいらより少しだけ年上に見えるのだけど。
今日目覚めたムルティと顔見知りってことは、やっぱり三百歳以上なんだね。
「いえ、私、できればそちらの殿方と番えればと…。」
『水底の一族』は恥ずかしがり屋と聞いていたけど、顔を赤らめて蚊の鳴くような声でタロウを指差したんだ。
「ハゥフルは、こんな頼りなさそうな男が良いの?
見るからにダメ男なんだけど。」
ムルティはタロウを酷評するけど、ハゥフルは首を横に振り。
「私、粗野な殿方は苦手で…。
その方が一番気性穏やかそうですし。
何よりも、周りの娘さん達にとても親切にしてましたので。」
宴の最中、ハゥフルはずっとタロウを観察していたらしい。
船乗りさん達は見た目が厳ついし、所作も粗雑であまり乗り気にならなかったらしいの。
そんな時に、シフォン姉ちゃん達と仲睦ましくするタロウが目に留まったんだって。
線が細くて、優しそうなところに惹かれたらしいよ。
ハゥフルは、恥ずかしそうに顔を赤らめながらもタロウが良いと切々と訴えたんだ。
でも、そこにアルトが待ったをかけたの。
「その男は、ダメよ。
あなた達の目的に適っていないの。
その男は特殊な事情があって、子を成す能力が無いのよ。
少なくとも今、現在はね。
多分、あと四、五年もすれば子を成す能力が備わると思うけど。」
タロウは、人の姿をしているけど魂の形がこの世界の人と違うとアルトは言っていたね。
にっぽん爺の例があるから、次第にこの世界に同化するだろうとも言ってたけど。
まだ、この世界で子供を成すことは出来ないんだね。
アルトの言葉を聞いて、ハゥフルはシュンとしちゃったよ。
早速、ムルティの案内で無人島へ行って捕えていた者達を解放したんだ。
例によって周囲の海は濃い霧が立ち込めているけど、島の霧は晴れていたよ。
連中を解放するに当たりアルトは姿を見せておらず、何の説明もしなかったんだ。
なので、突然、パンツ一丁で見知らぬ島に放り出されて連中は呆然としていたよ。
ムルティの言葉通り、島には真水の湧く泉や食べられる木の実もあった。
両方とも簡単に見つけられるところに降ろしたので、飢え死にすることは無いんじゃないかな。
毒持ちや肉食の動物もいないそうなので、『歌声の一族』の餌の保管場所としてはまずまずだと思ったよ。
パンツ一丁で荷物は一つも持たせて無いから、逃げ出すことも出来ないだろうしね。
無人島に放牧(?)した海賊もどきは七百人以上いて、それを見たシレーヌお姉さんはとても喜んでた。
「アルト様、有り難うございます。
私、こんなに沢山の男を見たのは初めてです。
一族のみんなも喜んでくれると思います。」
「喜んでもらえたようで嬉しいけど…。
計画的に食べるのよ。
一族の存亡が掛かっているのでしょう。
なるべく、多くの同族に行き渡るようにしないとね。」
シレーヌお姉さんの喜びようだと、あっという間に食べ尽くしちゃいそうだったのでアルトが注意していたよ。
海賊もどきを無人島に放した日の夕刻、ムルティの住む島でのこと。
島に戻ってくると、『歌声の一族』のお姉さんが集まって宴の準備を始めていたよ。
ざっと見て二百人以上、誰もが皆シレーヌお姉さんと同じくらいの年頃に見えたけど。
外見で騙されたらダメだよね、この一族、耳長族も真っ青な究極の若作りみたいだから。
「ムルティ様、アルト様、お帰りなさい。
見てください、新鮮なお魚がこんなにたくさん。
水底の一族の皆さんが、獲って来てくれました。
今日は殿方に精を付けてもらわないといけないですから。」
シレーヌお姉さんによく似たお姉さんが、籠いっぱいに入った魚を見せてくれたの。
どれもポルトゥスの港で見たことがある魚で、鯛とかヒラメといった高級魚だったよ。
それに、エビや貝なんかも別の籠に沢山入れられてた。
「テレース、ご苦労様。
水底の一族のみんなも頑張って獲ってくれたみたいね。
ところで、お肉は無いのかしら?
殿方に精をつけてもらわないといけないのだけど。」
「姉さん、急に言われてもお肉は無理ですよ。
この辺りの島には、肉が食べられる動物は少ないですもの。」
テレースって呼ばれたお姉さん、良く似ていると思ったら姉妹なんだ。
どうやら、シレーヌお姉さんは頭領さん達にお肉を食べさせてあげたいみたいだね。
「お肉なら、沢山持っているし、種類も色々あるから提供するよ。
精の付くお肉が欲しいならスッポンって亀のお肉もあるよ。
スッポンの食べ方はシフォン姉ちゃんから教えてもらって。」
お近付きの印にお肉を提供することにしたんだ。
酔牛とウサギ、それにスッポンね。
スッポン料理の指導をお願いしたら、シフォン姉ちゃんは快く引き受けてくれたよ。
お肉を提供すると、シレーヌお姉さん達はとても喜んでた。
特に、スッポンを目の前に積み上げたら、二人共目を輝かせてたんだ。
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そして陽が完全に沈む頃、砂浜に篝火が焚かれて宴の準備が整ったよ。
「みんな、出ておいで、そろそろ始めるわよ。」
ムルティが夜の海に向かって声を掛けると…。
真っ暗な海面に人のがざわめきが起こり、水の中から一つ、二つと次々と人影が現れたんだ。
人影が砂浜に近付いて来ると篝火に照らされて、それが年若い女の人だと分かったよ。
みんな、シレーヌお姉さんより大分若く見え、タロウと同じくらいの歳に見えたよ。
「頭領さん、あの娘達が『水底の一族』よ。」
頭領さんの横に浮かんだムルティは、海を指差して人影の正体を明かしたの。
「ええっと、ムルティ様…。
俺達はあの娘達の相手をすれば良いので?
本当によろしいのですか?
あの娘達、どう見ても十四、五ですぜ。
子作りするには少し早いんじゃないですかい。」
頭領さんもおいらと同じような事を思ったみたいで、そんなことをムルティに尋ねたんだ。
「何言ってるのよ、あの子達はみんな三百年は生きているわよ。
あの姿の頃が、一番の繁殖適齢期なの。
『水底の一族』はあれ以上は成長しないわ。
あの姿で五百年以上を生きて。
その後百年くらいかけて老いて亡くなるの。」
十代半ばの容姿が五百年くらい続いて、その後百年で老いて死ぬって…。
寿命六百年も凄いけど、若い姿の期間が寿命の大半を占めるってのがビックリだよ。
でも頭領さん、本当に驚くのは、そこじゃ無いんだよ。
『水底の一族』の人達は波打ち際まで来ると、ぴょんと跳ね砂浜に上がったんだ。
「ムルティ様、あれ、どうやって子作りしろって言うんだ。
下半身、魚じゃないか!」
そう、『水底の一族』って上半身は人間だけど、下半身は魚なんだよね。
それを知らされていなかった頭領さんは、あからさまに動揺してた。
おいらも初めて見たけど、ビックリしたよ。
「まあ、まあ、そんなに動揺しなくても良いわよ。
みんな、良く来てくれたわね。
今日は、人間の男がたくさん来てくれたわよ。
存分に宴を楽しんだ後、一族の繁栄のために励みなさい。」
ムルティは頭領さんを宥めると、『水底の一族』に向かって声を掛けたんだ。
すると…。
「ムルティ様、今晩はお招きに与かり有り難うございます。
久し振りにお元気な姿を拝見できて嬉しいです。
しかも、今宵は私達のために人の男をご紹介いただけるとのこと。
適齢期の娘を全て連れて参りました。」
一族代表の娘さんはムルティに感謝の言葉を告げると、手にしていた布地を腰に巻いたの。
どうやら、その布は巻きスカートのようなものらしく、美しい装飾がされていたよ。
そして、次の瞬間…。
「えっ、足が生えたって!」
「そうよ、『水底の一族』は繁殖をする時だけ、人と交われる姿になれるの。
まあ、精々一晩くらいなのだけどね。」
ムルティの言葉通り、巻きスカートに隠された下半身は尾びれのような形から足に変わったんだ。
立ち上がった姿は、人と見分けがつかなかったよ。
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『水底の一族』が獲って来た魚においらが提供したお肉、そして『歌声の一族』が島の果物で造ったというお酒。
多種多様な料理を囲んで宴は始まったんだ。
子供のおいらには分からないけど、『歌声の一族』のお酒はとても美味しいらしく船乗り達は上機嫌だったよ。
それに加えて、『水底の一族』が奏でる竪琴にのせた、『歌声の一族』の歌声はとても綺麗だった。
特に、シレーヌお姉さんの歌声は圧巻で人を魅了すると言うのも頷けたよ。
美味しい料理に美味しいお酒、そして美しい調べ、否が応でも宴は盛り上がったよ。
船乗り達は、『歌声の一族』、『水底の一族』の娘さん達に囲まれてとっても楽しそうだった。
そして、しばらくするとシレーヌお姉さんに腕を組まれて頭領さんが、おいら達の方へやって来たんだ。
頭領さんのもう一方の腕には、『水底の一族』の娘さんが抱き付いていたよ。
「ムルティ様、お部屋を貸して頂けませんか?
私達、これから三人で子作りに励もうかと思いまして。
こういうことは、リーダーが率先して動きませんと。
皆が遠慮してしまいますので。」
どうやら、ムルティの『積載庫』もレベル三のようで、シレーヌお姉さんは『特別席』を貸して欲しいと望んだの。
「ええ、良いわよ。
一族の繁栄のための励みなさい。
シレーヌ、アルトとの約束を守りなさいよ。
その男を食べちゃダメよ。」
「分かっていますよ。
私だって、アルト様を敵に回す程愚かじゃないです。」
シレーヌお姉さんに一応釘を刺すと、ムルティは三人を『積載庫』に仕舞ったよ。
シレーヌお姉さんの言葉通りだった。
三人が真っ先に『積載庫』に消えると、それを追うように次々とムルティの許に寄って来たよ。
面白いことに、必ずと言って良いくらい『歌声の一族』のお姉さんが船乗りさんを引っ張って来るんだ。
引き摺られるように付いて来る船乗りさんと恥ずかしそうに腕を組む『水底の一族』の娘さんというパターンなの。
あれほど盛り上がっていた宴の場は、あっと言う間においら達だけになっちゃった。
「あら、ハゥフル、あなたは行かなかったの?
次期族長のお眼鏡に適う男は居なかったのかしら。」
おいら達だけかと思ったら、『水底の一族』の娘さんが一人残っていたよ。
ハゥフルと呼ばれた娘さんは、おいらより少しだけ年上に見えるのだけど。
今日目覚めたムルティと顔見知りってことは、やっぱり三百歳以上なんだね。
「いえ、私、できればそちらの殿方と番えればと…。」
『水底の一族』は恥ずかしがり屋と聞いていたけど、顔を赤らめて蚊の鳴くような声でタロウを指差したんだ。
「ハゥフルは、こんな頼りなさそうな男が良いの?
見るからにダメ男なんだけど。」
ムルティはタロウを酷評するけど、ハゥフルは首を横に振り。
「私、粗野な殿方は苦手で…。
その方が一番気性穏やかそうですし。
何よりも、周りの娘さん達にとても親切にしてましたので。」
宴の最中、ハゥフルはずっとタロウを観察していたらしい。
船乗りさん達は見た目が厳ついし、所作も粗雑であまり乗り気にならなかったらしいの。
そんな時に、シフォン姉ちゃん達と仲睦ましくするタロウが目に留まったんだって。
線が細くて、優しそうなところに惹かれたらしいよ。
ハゥフルは、恥ずかしそうに顔を赤らめながらもタロウが良いと切々と訴えたんだ。
でも、そこにアルトが待ったをかけたの。
「その男は、ダメよ。
あなた達の目的に適っていないの。
その男は特殊な事情があって、子を成す能力が無いのよ。
少なくとも今、現在はね。
多分、あと四、五年もすれば子を成す能力が備わると思うけど。」
タロウは、人の姿をしているけど魂の形がこの世界の人と違うとアルトは言っていたね。
にっぽん爺の例があるから、次第にこの世界に同化するだろうとも言ってたけど。
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