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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・
第548話 うん、何事にも加減は大事だよね…
しおりを挟む頭領さんの船団に対する結界内への立ち入り許可と水・食料の補給をムルティに頼んだアルト。
頭領さんもムルティに頭を下げたんだけど、ムルティは条件を出してきたんだ。
それはムルティが庇護下に置いている女性だけの種族『水底の一族』に子種を提供する事だったの。
その条件を聞いて、頭領さんは目を丸くしていたよ。
「は、はぁ…、その『水底の一族』とはどういった方々なので?」
頭領が尋ねると、何故かムルティはそれには返答せずにアルトへ声を掛けたんだ。
「アルトお姉さま、今日は泊っていかれるのでしょう?」
「そうね、ここまでかなり急いだものだから少し疲れたわ。
二、三日ここで休んでから、出発することにしようかしら。」
「では、今日は『水底の一族』と『歌声の一族』を一族を呼んで宴としましょう。
人間よ、あなたにはその時、『水底の一族』を紹介しますわ。」
なるほど、そういう展開を考えていたんだね。
言葉で説明するより、実際に会ってもらおうと言うことみたい。
「それで、アルト様、私は何故ここに呼ばれたのでしょうか?
先ほど、何か、相談事があるとか?」
頭領とムルティの会話に区切りが付くと、シレーヌお姉さんがアルトに問い掛けたの。
「今の会話、聞いていたでしょう。
この頭領さんの船団が定期的にこの海域を往来するから。
あなたの仲間達に、その船団を襲わないように徹底して欲しいの。
もちろん、頭領さんの船団以外が紛れ込んだら、従来通り食べちゃっても良いわ。」
「うーん、襲うなとの命には従いますが…。
実際問題、私達、人間の区別なんてつきませんから。
間違って襲ってしまうかも。
そうですね、その船団の男を摘まませて頂ければ匂いで見分けが付くかと…。」
『歌声の一族』は船を座礁させて男を食べる習性があるらしいから。
頭領さん達の船団にはそれをするなとアルトはお願いしたんだね。
「ちょっと待ちなさい。
あなた、そう言って食べちゃうつもりじゃないでしょうね。
子種をもらった男を食べるのって、あなた達のサガでしょう。」
「大丈夫ですよ、安心してください。
私達の一族だって、そのくらいの自制は利きますから。
私達、肌をあわせた男は匂いで見分けることが出来るのです。
三日滞在するのなら、その間に摘まませてくださいよ。
慢性的な男不足なんですから。」
摘まむとか、一体何をするつもりか良く分からないけど。
その時、おいら、一つ閃いたんだ。
**********
「ねえ、アルト、ここへ来る途中で何隻も海賊もどきを捕えたでしょう。
『歌声の一族』のお姉さん達の餌が不足しているなら、上げちゃったら?
もちろん、武器になるような物は全部取り上げてね。
悪さが出来ないように、結界内の無人島にでも閉じ込めておけば良いんじゃない。
パンツ一丁で。」
ここに辿り着くまでに、アルトはヌル王国の武装商船を十隻ほど捕まえたんだ。
乗っているのは全員男だろうし、一つの船に五十人乗っているとすれば五百人くらいになるはずだよ。
武装商船がおいら達の大陸を襲うことを危惧して、アルトは手当たり次第捕獲したんけど。
そこに乗っていた海賊もどきをどう処分するかは未だ決めていなかったんだ。
「そう言えば、あいつらをどうするか決めてなかったわね。
海賊行為が染みついている連中のようだし、無事に帰れたなら性懲りも無く繰り返すでしょうね。
そんな連中を野放しにするよりも、その方が世の中のためかもね。
廃品の有効利用としては、良い案だと思うわ。」
アルトったら、武装商船の連中を廃品と言い切ったよ。
まあ、野放しにしたら百害あって一利なしのモノには間違い無いけど…。
「えっ、他にも男が居るんですか?
捨てるのでしたら是非置いていってください。
海賊って粗暴だし、肉は筋張っているしで余り好きでは無いのですが
一族の存続のためなら、この際、贅沢は言ってられないです。」
「一族の存続のため? 『歌声の一族』って存続が危ぶまれるほど人数が少ないの?」
「ああ、それね。まあ、自業自得と言われればそれまでなんですけどね。」
おいらの問い掛けに、シレーヌお姉さんは一族について教えてくれたんだ。
その昔、『歌声の一族』はもう少し人の住む土地の近海に住んでいたらしいの。
一族の習性で、歌声で人を惑わして船を引き寄せ、繁殖のために男を食べていた訳だけど。
少しやり過ぎちゃったみたいで…。
人の住む近海でそれを繰り返していたら、一族は『海の魔物』と恐れられるようになったんだって。
きっと、かつての『歌声の一族』は加減と言うものを知らなかったんだね。
シレーヌ達を恐れて、一族の住む海域を避けて航海をするようになるのはまだ良い方で。
そのうち自衛のために武装して交易をする船が現れ、返り討ちに遭うケースが出始めたそうだよ。
果ては人の国で一族に賞金が掛かったらしくて、賞金稼ぎのため一族を狩りに来る者まで現れたんだって。
集団で襲撃されたものだから、『歌声の一族』は数で勝る人間に敵わなくなったらしいよ。
そして終には住処を追われて、この海域に落ち延びたらしいの。
「この海域に落ち延びた時には大分数を減らしていてね。
しかも、その頃の人間の航海技術じゃここまで来れないでしょう。
年に数隻、潮に流されて漂着する船があれば良い所でね。
中々、昔のようには数を増やせないのよ。」
特に、この三百年はムルティの結界のため、漂着する船も減っていたみたいだよ。
ここ数年は人の航海技術の向上と結界の綻びから、結界内に入り込む船が少し増えていたみたい。
一族の人達も、捕食できる男が増えたと喜んでいたみたいなの。
ムルティとアルトが結界を補修したと聞き、シレーヌはまた獲物が減りそうで心配だって。
「『歌声の一族』としては、結界の補修をあまり歓迎できないのね。
なら、尚更、お詫びも兼ねて海賊共を置いていくことにしましょうか。
全部で七百人ほどいるから、無人島で飼えば良いわね。
真水と食べられる木の実さえあれば、飢え死にすることは無いでしょうし。
そうすれば、しばらくの間は一族の繁殖相手に不自由はしないでしょう。」
「なら、近くにちょうど良い島があるわ。
真水も湧いているし、年中何かしらの果物が生っているの。
危険な肉食動物や魔物も居ないし、人を放し飼いにするならうってつけだわ。」
ムルティに思い当たる島があるみたいで、とんとん拍子に話が決まったよ。
おいらが提案した通り、無人島にはパンツ一丁で放り出すことになったの。
その島は年中温暖で、パンツ一丁でも凍えることは無いだろうとムルティも言ってたし。
パンツ一丁なら、武器になりそうな物を隠す場所は何処にもないからね。
「嬉しい! アルト様、有り難うございます。
七百人もの男が一度に手に入るのは初めてです。
一族の者達もきっと喜んでくれることでしょう。
でも、そちらの頭領さん達も味見させて頂きますよ。
そうしないと、間違って食べちゃうかもしれませんし。」
アルトが武装商船の海賊もどきを提供してくれることになり、シレーヌお姉さんは大喜びだった。
でも、頭領さん達も味見するって言ってるけど、どういうこと? アルトと約束したよね、食べないって。
シレーヌお姉さんの言葉、味見しないと間違って食べちゃうって、なんか変だし。
「まあ、良いわ。番った後、絶対に食べちゃダメよ。
それだけは、一族の者に徹底しておいてね。
と言うことで、頭領さん、これから三日間、この娘達のお相手をよろしくね。
『水底の一族』と掛け持ちで大変かも知れないけど。
航海の安全のために頑張ってね。」
アルトから話を振られ、頭領さんは何ともいえない微妙な顔つきをしていたよ。
頭領さんが困惑するのも無理が無いと思う。
何をするのか知らないけど、人の男を餌にする習性のある一族のお相手をしろと言うんだもの。
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