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アイイロモンペ

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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第546話 妖精さんの力は半端じゃなかった…

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 おいらの住む大陸とオードゥラ大陸の間に広がる大海原。
 そこには二つの大陸の間の往来を拒むように『霧の海』と呼ばれる海の難所が存在したの。
 年中深い霧が立ち込めているうえ、多くの岩礁が点々と存在する船の墓場とも言うべき海域なんだ。

 でも、その深い霧、どうやら自然に発生しているモノではないらしい。
 張本人はおいらの目の前にフワフワと浮いている二つの存在。
 おいらの保護者アルトと今居る島の妖精ムルティ、その二人の妖精が張った結界みたいなの。
 でも、何でそんな大規模な結界を張ったんだろう? おいらはそれを尋ねてみたんだ。

「ああ、それね。
 三百年前にも一度あったのよ。
 海を越えて来た奴らが、私達の住む土地で略奪をしたことが。」

 そんな言葉を返してくれたアルトは、三百年前にあった出来事を詳しく話してくれたの。
 切っ掛けは、海沿いにあった耳長族の里が襲われたことらしい。
 その頃、気ままな旅をしていたアルトは、とある海沿いの森にある耳長族の里を訪ねたそうなの。
 アルトは耳長族が奏でる歌舞音曲が好きだから、その森にしばらく滞在しようと思ったらしいよ。

 ところが、訪れた耳長族の里は何者かに襲撃を受けているところだったらしいの。
 何十人もの荒くれ者が、耳長族の男を切り殺し、娘を捕えようとしていたんだって。
 アルトは激怒して荒くれ者達を退治したそうなんだけど。
 その時、半殺しにした者を締め上げて、何処からやって来たのかを聞き出したんだって。

 分かったことは、連中が大海原を越えた西にある別の大陸からやって来た略奪者だということ。
 故郷の近海で海賊をしていたそうだけど、取り締まりが厳しくなってきたので新天地を求めたらしい。
 その頃、西の大陸は航海に関する技術が飛躍的に高まっている時期だったみたいで。
 外洋を航海することできる丈夫な船が広まって海賊程度でも入手できるようになったんだって。 

 略奪者を問い詰めて分かったことに中に、その頃西の大陸では『人魚』を狩って見せ物にするのが流行っていると言う話があったらしいの。
 それが、三百年前にアルトがムルティを訪ねる切っ掛けになったらしいの。
 ムルティは、若い頃にこの大陸まで彷徨ってきて、その時アルトと親交を持ったらしい。
 何でも、アルトの森にしばらく滞在していたとか。
 アルトは、滞在中のムルティから聞いていたらしいんだ。
 ムルティが庇護する者の中に『海の民』と呼ばれる下半身が魚のような体の種族がいることを。
 アルトは今回のようにムルティが困っているのではと、心配して海を渡ったらしい。

「そうなのよ。
 それまでは絶海の孤島のこの島に、人間なんか着いたことが無かったからね。
 結界なんて、張っていなかったの。
 いきなりやって来た人間達が、私の昼寝中に好き勝手して。
 私が目を覚ました時には、『海の民』が何人か連れ去られた後だったの。
 あの時は、本当に腹が立ったわ。」

 なに、その時も昼寝中だったの? 一体、何か月、いや何年昼寝をしていたことか…。

「まあ、『水底の一族』は滅多に海面に出て来ないのが幸いしたわね。
 連れ去られたのは、偶々海上に姿を現した時に人間に遭遇した運の悪い娘だけだったから。」

「うん? さっき、アルトもムルティも『海の民』と言っていたよね。
 でも、アルト、今は『水底の一族』って言った。
 『海の民』って、一つの種族じゃないの?」

「ああ、ごめんなさい。唐突に呼び方を変えると戸惑うわね。
 『海の民』は二つの種族があるのよ。
 『水底の一族』と『歌声の一族』。
 『水底の一族』は半人半漁だけど、『歌声の一族』は人間と同じ体型よ。」

 アルトの説明では、『水底の一族』はその名の通り海底深くに集落を構えているらしい。
 時々、海上に出て来るそうだよ。もっぱら、この島の浜辺で楽器を奏でるために。
 『歌声の一族』と一緒になって、歌や踊りが大好きな妖精を楽しませてくれるらしいの。

 そして、新たに出て来た『歌声の一族』だけど、普段から岩礁の上で暮らしているそうなの。
 岩礁の上で、美しい歌声を響かせているそうだよ。
 だから、『岩礁の一族』ではなく、『歌声の一族』と呼ばれているらしい。

       **********

「それでね、ムルティと話し合った結果、結界を張ることにしたのよ。
 野蛮な人間がやって来て、自分達の居場所が荒らされたら嫌だものね。」

 航海技術が発達して、海の向こうから海賊みたいな連中が頻繁に来るようになったら困る。
 そう考えた二人は、海の向こうの陸地とおいら達の大陸の間に結界を張ることにしたらしい。

 最初は、その頃の連中が航路にしているこの島の周囲に結界を張ろうとしたらしいけど。
 空を飛べるアルトやムルティでも、その小さな体では大海原を越えて飛ぶのはしんどいらしくて。
 どの方向に幾つの大陸があるかは知らないらしいの。

 何時、何処の方角から進入してくるか分からないものだから、いっそ大陸の外周をぐるっと一周結界で囲ってしまおうと考えたらしいよ。
 大規模な結界になるため、部分的に綻びたり、効きが弱かったりすることが懸念されたそうなんだ。
 なので、結界に不完全な部分が生じるのを前提に、なるべく岩礁地帯を結ぶように結界を張り濃い霧で覆ったそうなの。
 仮に結界の外からやって来た船が、結界の不完全な部分に入り込んでも岩礁と濃霧でおいら達の大陸に辿り着けないように。

 それでも、何十年に一隻、二隻は辿り着く船はあるし、中には霧の中に入り込んで命辛々オードゥラ大陸に引き返した船もあるようで。
 そんな船が、オードゥラ大陸に『霧の海』の伝承をもたらしたみたいだね。

 結論。どうやら、アルトとムルティが意図的に、おいら達の住む大陸を他の大陸から隔絶した土地にしているらしい。
 今更ながら、妖精さんの力がとんでもないモノだと思い知らされたよ。

「今、思い起こすと、アルトお姉さまのあの計画無茶でしたよ。
 あの大陸の外周を遠巻きに一周結界を張ったのですもの。
 しかも、五十日かそこらの期間で…。
 あれじゃ、疲れもしますよ。」

 ムルティは、結界を張った時のことを思い起こしてそんなことをボヤいてたよ。
 まるで、ムルティが三百年間ずっと眠っていたことを正当化するかのように。
 でも、おいら、思ったよ。三百年も眠ったのは疲れだけが理由じゃないだろうって。
 昼寝の間に、『水底の一族』の人が何人も連れ去られているのだものね。
 昼寝と言っても、きっと月単位、下手をすれば年単位だったのだと思うよ。そしたら、単なる寝坊助じゃない。

「それじゃ、早速、結界を補修してしまいましょう。」
 
 アルトがムルティに向かってそんな提案をしたの。

「ちょっと待って、アルト。
 結界を張るのに五十日掛かったと、ムルティは言ってたよ。
 宰相に四カ月で帰ると言ってきたから、そんなに掛かると困る。」

 アルト達が結界の補修を始める前に、おいらの都合を言わせたもらったよ。

「マロン、心配しないで良いわよ。
 結界は完全に壊れた訳じゃないから、大陸をぐるりと回る必要は無いの。
 ここで結界に力を注ぎ込んであげれば、綻びは直るし、弱った部分も補強できるわ。
 一日も掛からずに終わるから、マロン達はこの森で休ませてもらいなさい。
 『積載庫』の中にずっと居るんじゃ、息が詰まるでしょう。」

 アルトはそう言うと、オランを始めとするおいらの同行者をその場に降ろしてくれたよ。

「あら、アルトお姉さま、今回は随分と大所帯なのですね。
 こんなに人間を連れて来るなんて珍しいです。」

「マロンは一応女王だからね。
 お付きの者も居るし、肉盾に使う者も要るしね。」

 アルトったら、タロウのことを『肉盾』って言い切ったよ…。
 アルトのセリフを耳にして、タロウは渋い顔をしてたけど。

 そんなタロウを見たムルティが何か呟いていたの。

「あら、男もいるのね。これは使えるかも…。」

 そこまでは聞こえたんだけど、声が小さくてそれ以上は聞き取れなかったよ。
 ムルティが何と言ったのかを確かめる間もなく、ムルティはアルトに手を引かれて洞から出て行っちゃった。

 まっ、ムルティが何を言っていたかは、結界の補修が済んだら分かるでしょう。

 
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