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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第543話 ヌル王国の罪人達を引き渡したら…

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 ハムンの街にいるヌル王国の連中を全て排除したおいら達は王宮へ宰相を尋ねたの。
 王都の開放とシナモン姉ちゃん達の帰国を喜ぶ宰相達を前に。

「これ、ヌル王国の船団の中にあった金銀財宝だよ。
 多分、この街から略奪されたものが大部分だと思うけど。
 連中が国から持って来た軍資金も入っていると思う。
 街の復興のために役立ててちょうだい。」

 おいらは、ドンと船団にあった全ての金銀財宝を積み上げたんだ。
 中には純度の低いヌル王国の銀貨を詰めた木箱もあったので、軍資金だろうと思ったの。
 僅かながらばら銭状態の銀貨もあったので、乗組員の所持金が含まれているかも。

 金銀財宝と一緒に、おいらの積載庫で作ったツルハシとスコップも大量に供出しておいた。

「これは、とても有り難いです。
 国を救って頂いたばかりか、略奪された財貨まで取り戻して頂けるとは。
 何と、お礼を申し上げればよろしいものか。」

 山のように積み上げられた金銀財宝に宰相は目を見張っていたよ。
 それと、おいらがヌル王国の略奪品を全てサニアール国へ返還したことにも驚いてた。
 本来なら戦利品としてウエニアール国が押収しても、文句を言えた筋合いでも無いって。

「気にしないで良いよ。
 困った時はお互い様だもん。
 ヌル王国の連中を撃退するのは大した手間でも無かったし。
 おいらの国には大した被害も無かったからね。
 それなら、元の持ち主に返してあげるのが筋だし。
 壊された街の復興に生かしてもらった方が良いからね。」

「何と、あれだけの大軍を相手に大した手間では無かったと。
 我が国は、あの大砲と呼ばれる武器の前になす術も無かったと言うのに…。」

 おいらの言葉を耳にして、宰相は顔が引きつっていたよ。
 ウエニアール国が強大な軍備を持っているとでも誤解させちゃったかな。
 おいらが領土拡大でも狙っているとか警戒されると拙いので、ついでにヌル王国の連中が襲って来た時のことも説明しておいたよ。
 周りの国とは友好的な関係を築いておきたいから、誤解は解いておかないとね。

「そうですか、アルト様が持つ妖精の不思議な力で連中を捕えられたのですか。
 マロン陛下は心強い支援者がいらして良いですな。」

 ヌル王国の船団を撃退できたのはアルトのおかげだと知り、宰相は納得すると共にホッとした表情を見せていたよ。
 妖精の力は常識では計り知れないものだから、瞬殺したと聞いても『そんなこともあるか』と思ったみたい。
 と同時に、他国の侵略などに妖精が手を貸すはずが無いと理解しているみたいだった。

 まあ、おいらが妖精のアルトの庇護を受けていることには心底羨ましそうにしてたけどね。
 妖精の庇護を受けられる幸運な人間は滅多にいないらしいから。

         **********

「それで、こいつ等の処分もサニアール国へ任せるよ。
 前王陛下や皇太子殿下を弑したのでしょう。
 この国で厳しい裁きを受けるのが妥当だと思うんだ。」

 おいらの言葉に続けるように、アルトがウーロン王子とチャイ総督を床に転がしてくれたよ。 

「こ奴は、チャイ。
 それと、この未開人のような者はいったい…。」

 宰相、縛り上げられたチャイを見て不快感を露わにしたけど。
 パンツ一丁でおいらの横にお座りし、「キュン、キュン」と犬のような鳴き声をあげる物体の正体に気付かなかったよ。

「これ? ヌル王国の侵略行為の首謀者ウーロン王子だよ。
 十日ほど露天の檻で晒し者にしたら、自我が崩壊しちゃったよ。
 残り、千百三十六人捕えてあるけど、そいつらはサルみたいになっちゃった。
 この王宮にいた連中も、全部捕えてあるからこの後引き渡すね。」

「はあ? これが首謀者? ヌル王国の王子ですか?」

 おいらの説明を聞いても、宰相は俄かに信じられない様子だったよ。
 
「そうだよ、とっても横暴で我が儘な王子だったらしいけど。
 温室育ちのせいか、雨ざらしの檻での寝起きと生存競争に耐えられなかったみたい。」
 
 おいらは、捕えて晒し者にした檻の中がどんな状態だったかを説明してあげたんだ。

「ふーむ、チャイの奴は広場で縛り首にするとして…。
 その王子は単に縛り首にするのでは勿体ないですな。
 マロン陛下がなされたように、王都の民に晒し者にでもしましょうか。
 首輪をつけて、小さな犬小屋で飼うのが良いかも知れません。」

 宰相は言ってたよ。
 残飯でも与えて一生犬のような暮らしをさせ、それを王都の民に公開するんだって。
 その方が、街を破壊された王都の民の溜飲が下がるのではないかと。

 まあ、これ、自分が人間であるかどうかも分かってないかも知れないし。
 ゴハンと寝床さえあれば、結構幸せかもしれないね。

 どう対処するかはサニアール国へ任せことにし、おいらは口出ししないことにしたよ。
 
         **********

 とは言え、おいら、少し気になる人達がいたんだ、工作メイド隊のお姉さん達。
 ジャスミン姉ちゃんについて来た人達とここにいたメイド長のウジは、物騒な雰囲気がプンプンしたんだけど。
 サヤマと呼ばれていたメイドとか、何となく憎めないんだよね。
 このまま、引き渡したら死罪確定だろうし、少し話をしてみようか。

「アルト、この王宮にいた工作メイドを出してくれるかな?
 ウジと呼ばれていたメイド長以外の若いメイドさんを。
 取り敢えず、サヤマと呼ばれていたメイドをお願い。」

「良いけど、どうするつもり?」

「うん?
 ちょっと、面白い人達だったから死罪にするのは勿体ないかって。」

 おいらがアルトとそんな会話をしていると。

「工作メイドですか?
 聞きなれない言葉ですが、それは何者ですかな?」

 宰相が尋ねてきたんだ、ローレル君の側に居たメイド達だとも知らずに。

「ヌル王国の暗殺部隊だって、ローレル陛下の側に居たメイド達。
 ローレル陛下がヌル王国に逆らった時とかに、すぐに暗殺できるようにと配置されてたらしいよ。
 他にも、反ヌル王国を叫ぶ貴族を粛清するとかね。」

「なんと、あ奴ら、そのような卑劣な事を企んでおりましたか。
 極刑に値する不遜な奴らですな。
 そんな物騒な連中をマロン陛下は如何なさろうと?」

 宰相、寝耳に水だったようで憤慨していたよ。
 この人に任せたら全員縛り首にされそう。

「まあ、少し面白そうな人がいたものだからね。」

 それから、おいらがお願いした通り、工作メイドのサヤマを積載庫から出してもらったよ。

 サヤマは、突然目の前の光景が変わって戸惑っているようで、「あれ、ここは?」とか呟いていたけど。
 部屋の中をキョロキョロ見回し…。

「ローレル様、ご無事だったのですね。
 突然、消えたと伺い心配していたのです。
 さっ、さっ、お昼寝の時間ですよ。寝所へ行きましょう
 今日はこのサヤマが添い寝をさせて頂きますよ。」

 ローレル君を見つけると、瞬時に駆け寄りガバッと抱きしめたの。
 流石、特殊な訓練を受けているだけあって、目にも留まらぬ速さで動いたよ。
 しかし、こいつ、本当にぶれないな…。

 でも…。

「よせ、離すのだ。
 そなた、ボクを亡き者とするために差し向けられたのであろう。
 ボクはもう騙されないぞ。」

 おいら達の会話を聞いていたローレル君は、きっぱりとスルガを拒絶したんだ。

「ガーン! 何でそれを!」

 いや、ガーンって口に出す人、初めて見たよ…。

「工作メイド隊のことは、ジャスミン王女から全て聞いてるよ。
 今、ここに居る人達にも伝えたところなんだ。
 もちろん、サヤマが工作メイド隊の一員だと言う事もね。」

 おいらがそう告げると、サヤマはローレル君に縋るような仕種をして。

「それは誤解です、ローレル様。
 いえ、誤解でもありませんが…。
 確かに工作メイド隊の一員として送り込まれたのは事実です。
 ですが、私のローレル様に対する忠誠心に偽りはございません。
 お願いですから、そんなつれないことを言わないでください。
 今日やっと、待望の添い寝当番が当たったのですから。」

「サヤマ、そんなことを言ってる場合なの?
 今、宰相と話していたんだけど、工作メイド隊は全員死罪になりそうなんだよ。」 

「ええっと…、先程から私の名を気安く呼んでいるあなたは何者なのでしょう?
 面識が無いのに、なぜ私の名前を知っているのでしょうか。
 出来れば、私とローレル様の甘美な時間を邪魔しないで欲しいのですが。
 この二ヶ月、毎日くじ引きで負け続けて、今日やっと添い寝当番が当たったのですよ。」

 いや、だから、あんたら全員死罪になりそうなんだってば。
 何でそこをスルーして、添い寝当番に固執するの。

「おいら、隣国ウエニアール国の女王マロン。
 おいらの国に侵攻してきたヌル王国の船団は撃退したよ。
 そして、さっき、この王宮にいる連中も全員捕えた。
 ほら、総督のチャイに、ローレル王子。」

 床に転がされたチャイとおいらの足元にお座りするローレル王子を指差すと。

「あら、敗けちゃいましたか。
 でもこれはある意味ラッキーですね。
 なら、私をここで使ってもらえませんか。
 ヌル王国とはきっぱり縁を切ります。
 警護術、房中術、暗殺術等何でもござれですから。
 お買い得だと思いますよ。
 私、ローレル様に忠誠を誓います。
 どうぞ、お側に仕えさせてください。」

 サヤマは嬉々として、自分の売り込みを始めちゃったよ。
 まあ、控え室で聞いた限りでは、工作メイドの仕事に不満があったようだしね。
 
「こら! サヤマ、貴様、裏切るつもりか!」

 サヤマの言葉を耳にしたチャイが、床に転がされたまま怒声を上げたけど。

「裏切るも何も、生まれた時から道具のように扱われてウンザリだったの。
 何時か一族を抜けてやろうと、チャンスを窺っていたのよ。
 このまま、お国に殉じて死罪なんて真っ平ごめんよ。」

 サヤマは吐き捨てるようにチャイの苦言を切って捨てたよ。

「ボクは、嫌だぞ。
 そなた達、ボクを食べるつもりなのであろう。
 しらを切っても無駄だぞ。
 夜、そなた達が話しているのを聞いたのだからな。
 もう少し大きくなるまで育てて、食べると言っておったろう。」

 ローレル君に仕えたいと希望するサヤマを、当のローレル君が拒絶したんだ。

「あちゃ、あの話、聞いておられたのですか…。
 ええと、それは、何と申しましょうか…。
 そうだ、ローレル様を食べるようなことは無いと誓います。
 その代わりと言えば不遜かもしれませんが…。
 ローレル様の奥方が決まった暁には。
 ローレル様への寝所での作法の伝授、この私奴にお任せくださいませんか。
 ローレル様が恥をかくことが無いよう、不肖この私奴がご指導させて頂きとうございます。」

 サヤマはとても熱心に語ったの。
 奥方を迎えるに当たり、寝所での作法はとても重要なことだと。
 きちんと押さえてないとその後の夫婦仲に影響するし、ひいては世継ぎを成すのにも支障が出ると。
 そこのところは、何故か宰相も頷いていたよ。

 サヤマの鬼気迫る熱弁に、ローレル君も心を動かされたようで。

「宰相、この者をボクの側に召し抱えたいと思うのだが。
 大丈夫だろうか。」

 宰相にサヤマを召し抱えても良いかと尋ねたんだ。

「まあ、房中術が得意と言っておりますし…。
 陛下に仇なすようにも見えませんので…。
 そ奴の監視も兼ねて、この王宮に仕える古株を一緒に付けると言う事で如何でしょう。」

 何と、サヤマったら、ローレル君の側仕えの役目を射止めちゃったよ。
 惜しい、このお姉ちゃん、何か面白かったからおいらが貰おうと思ってたのに。

 すると、おいらの耳元でアルトが呟いてたの。

「あの娘、ちゃっかりしているわね。
 結局、あの幼王を食べちゃうんじゃない。
 しかも、お役目として堂々と…。」

 うん? どういうこと? 食べないと誓いを立てていたよね。
 お役目は寝所での作法の伝授だし…。
 アルトの言葉が全く意味不明だったよ。

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