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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第542話 サニアール国を解放したよ

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 護衛四人と新たに入って来た陸戦隊の男三人を倒されて、力なく床に崩れ落ちた臨時総督のチャイだけど。

「ふ、ふ、ふっ、それで勝ったとは思うなよ、小娘。
 この国の王は我々の手の中にあるのだぞ。
 俺に逆らえば幼王の命は無いのだぞ、それでも良いのか。」
 
 チャイは、おいら達がローレル君を保護したとも知らずに虚勢を張っていたよ。
 先に確保して正解だったね、こいつ、ローレル君を盾にする気満々なんだもの。

「幼王ってローレル君のことだよね。
 それなら、さっき、おいら達が取り返したよ。
 周りに侍っていたメイドさん十五人も全員、捕えちゃった。
 残っているのは、陸戦隊が百四十人くらいかな。」

「なっ、なんだってー!
 あの怖えぇメイドを全員捕えただって!
 そんなバカな。
 俺はメイドの尻を撫でたら手酷い目に遭って…。
 手も足も出なかったんだぞ。
 あいつら、メイドの癖にめっぽう強くて。
 この街に残っているメンツの中じゃ、おそらく一番の精鋭だったのに…。」

 チャイは、あのメイド達の正体を知らなかったらしい。
 工作メイドのことを知らされているのはごく一部って話だったもんね。
 でなければ、暗殺のプロのお尻なんか触ろうなんて命知らずなことをしないか。

 しかし、幾ら厳しい訓練を受けているからとは言え、メイドさんの方が陸戦隊より強ってどうなのよ。
 工作メイド達が全員捕えられたと知ると、チャイは今度こそ絶望したみたいで項垂れちゃった。

 おいらがチャイを縛り上げている間に、アルトは床に転がっている男達を積載庫に仕舞ってくれたよ。
 
 逃げられないようにチャイに腰紐を付けると、おいらは命じたんだ。

「残りの陸戦隊の所に案内してちょうだい。
 探すの面倒だしね。」

 おいらの指示を耳にして、チャイはしめたって感じでニヤリと笑みを漏らしたよ。
 多分、陸戦隊の所へ行けば助けてもらえると思ったんだろうね。
 おいらも、こいつならそう考えると思ったから案内させることにしたんだ。
 正直に、最短距離で連れて行ってくれるだろうから。

「分かった、案内しよう。」

 口では神妙に言っているけど、目が嫌らしく笑っていたよ。

        **********

 チャイに先導されてやって来たのは、王宮の敷地内に建つ別の建物だった。

 チャイの話では、元々はサニアール国近衛騎士団の詰め所だったらしい。
 反抗されると不都合なので近衛騎士は全員銃殺して、空いた詰め所を利用しているそうだよ。

 その重厚な正面の扉を開けると…。

「おい、チャイ総督とはまだ連絡が取れないのか。
 俺達が乗る船が消えちまったんだぞ。
 下手すりゃ、俺達、国に帰れなくなるぞ。」

 沖合に停泊させていた船が消えたとの報告を受けて苛ついている男も居れば。

「そうかっかするなよ。
 あんなでかい船がいきなり消える訳が無いだろう。
 報告した奴が寝惚けていたに決まってるよ。」

「そうだ、そうだ、細かい事気にしてないで飲もうぜ。」
 
 報告を信じていない者や昼間から飲んだくれている者もいたよ。
 と言うより、真面目に待機しているのは少数派で、大部分の男達は飲んだくれてた。
 酒を片手に博打をしている者や何処から連れ込んだのか女の人を侍らしてる者もいたよ。

 微塵も真面目さの感じられないその光景は、冒険者ギルドのロビーを見ているようだった。
 すると、チャイからの返事を待っていた男がこちらに気付いて。

「チャイ総督、直接お越しいただけるとは恐縮です。
 遣いの者から聞いているかと思いますが、一大事です。
 沖合に停泊し・・・。
 ええと、総督…、その格好はいったい…。」

 消失した船について相談しようとしたのだけど。
 話をする途中でチャイの様子が変だと思ったみたい。

「助けてくれ!
 この娘は我が国に弓引く反逆者だ。
 殺しちまっても良いから、この娘を何とかしてくれ。」

 その問い掛けに答えて、チャイは陸戦隊の連中に助けを求めたよ。 
 
「なにぃ、俺達に歯向かうだと…。
 ガキの癖に舐めたマネしてくれるじゃねえか。
 良し、俺が片付けてやろうじゃないか。ウイッ…。」

 酔っ払いの一人が、テーブルに立てかけてあった鉄砲を片手に立ち上がり…。

 ドン!

 いきなりおいら目掛けて発砲したよ。
 でも、おいら、慌てずにチャイの背中に回り込んだの。

「ひっ! 馬鹿もん!
 俺が捕まっているんだぞ、鉄砲を使う奴があるか!
 剣を使って戦うのだ。」

 チャイは血相を変えて叱り付けていたよ。
 多分、酔っ払っているせいで正常な判断が出来なくなっているんだろう。
 常識的に考えて、人質を取られていたら飛び道具は使わないもんね。
 このオッチャンが、部下から相当嫌われているのでなければ。

 剣で戦えとの指示を受けた陸戦隊の連中はと言うと…。

「剣ですか? 俺、剣って使ったこと無いんですが。」

「離れたところから鉄砲で人を殺すのは好きだが…。
 剣で斬るのはな…。
 あの肉を断つ時の感触と飛び散る血は好きになれないぜ。
 俺はパスだ。 誰か、行って総督を助けろよ。」

「そういう事なら、俺が行くぜ。
 泣き叫ぶ女子供をなぶり殺しにするのは得意だ。
 特に命乞いする女の首を絞めるのは堪らねえぜ。」

 酔っ払って正常な判断が出来ないのかと思えば、そうじゃないみたい。
 こいつ等、鉄砲を使う以外の戦い方を訓練していないようだよ。

 軍属の癖に剣を使ったことが無いとか、血が苦手だとか。
 そんな情けない男ばかりかと思ってたら、最後に猟奇殺人が趣味の男が出て来たよ。
 ヌル王国の連中って、おかしな奴らばかりなのかな…。

「へっ、へっ、へっ、嬢ちゃん、悪いな。
 少し楽しませてもらうぜ。
 気絶なんてしないで、最期まで良い声で鳴いてくれよ。」

 またしても、キモい笑いを浮かべながら男が迫って来たの。
 もちろん、一撃で倒したよ。キモい顔を長々と見ていたくないもの。

 すると。

「マロン、ゴメンね。 気色悪い男の相手をさせちゃって。
 この建物の中を確認してきたわ。
 冒険者ギルドの時とは違って、拉致られている娘は居ないみたいだし。
 総勢百四十三人、確かにこの建物の中にいたわ。」

 おいらから離れて建物の中を探っていたアルトが戻って来たよ。
 そして、言ったの。

「こんなのを相手していても時間の無駄だし。
 もう終わりにしましょう、マロン。」

 と同時に、アルトはその場にいた全員を積載庫の中に捕縛したよ。
 
「あら、お客さんが消えちゃった…。
 まっ、良いか、お代は先払いで頂いているからね。
 あの男、ねちっこいからお酌だけで済んでラッキーだったわ。」

 男にお酌をしていたお姉さんの一人がそんな言葉を残して席を立ったかと思えば。
 他の女の人も、何事も無かったかのように平然と建物を出て行ったよんだ。
 どうやら、ここに居た男からお仕事で呼ばれてきたお姉さん方だったみたいだね。

       **********

 そして、王宮へ戻って。

「宰相、今戻りました。
 留守を守って頂き大儀でした。」

 シナモン姉ちゃんは最初に宰相を訪ねたの。

「姫様、良くぞお戻りになりました。
 しかし、どうやって戻って来られたのですか。
 あの無法者共の手から逃れるのは容易なことではなかったでしょうに。」

 連れ去られたはずのシナモン姉ちゃんを目にして、宰相は驚きの表情を隠せない様子だったよ。

「ヌル王国のウエニアール国侵攻は失敗に終わりました。
 私やカルダモン、それにクミンとセージもウエニアール国で救出されたのです。
 こちらにおられるのが、ウエニアール国のマロン陛下。
 マロン陛下と懇意にしてらっしゃる妖精の長アルト様がここまで送って下さりました。」

 シナモン姉ちゃんは、おいらとアルトを紹介すると共に、これまでの経緯をかいつまんで説明してたよ。

「そうでございましたか。
 マロン陛下、アルト様、姫様達が大変お世話になりました。
 この国の民を代表して御礼申し上げます。」

 宰相は、おいらとアルトに向かって頭を下げると、シナモン姉ちゃんに懸念を伝えたの。

「姫様が無事にお戻りになられたのは喜ばしいことですが。
 この王宮にはまだ総督以下多くの無法者がのさばっています。
 また、ローレル陛下の周りも無法者共が伴って来たメイドに固められております。
 あ奴らを何とかしませんと、また姫様に危害が及ぶ恐れがありますが…。」

「そのことでしたら、安心してください。
 アルト様、お願いします。」

 指示に従って、アルトはローレル君、カルダモン王女、そして二人の侍女を宰相の前に降ろしたの。

「ローレル陛下、カルダモン姫様、それにクミンにセージも。
 シナモン姫様、これはどういうことでしょうか?」

「先ほど、マロン様、アルト様のお力添えで、ローレルを取り戻しました。
 加えて総督、メイド、駐留部隊、全て捕えてあります。
 沖合に浮かぶ軍用船二隻も、消し去って頂きました。
 喜んでください、この国は解放されたのです。」

「何と言う僥倖…。
 マロン陛下、アルト様、ご協力に感謝致します。
 亡き先王陛下もさぞや草葉の陰でお喜びのことでしょう。」

 国が開放されたと聞いて感極まったのか、感謝の言葉を口にする宰相はボロボロと涙を零していたよ。
 最後はアルトがあっけなく一網打尽にしちゃったけど、こうしてサニアール国をヌル王国から解放することが出来たんだ。

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