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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第538話 農家の次男、三男は何処も大変だね

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 魔物の領域で一夜を明かしたおいら達。
 アルトは夜明けと共に起き出して、頑張って飛んでくれたの。
 おかげで二日目のお昼前には無事にサニアール国へ入ることが出来たよ。

「魔物の領域で夜を明かすと聞いた時はどうなることかと思いましたが…。
 何事も無く抜けることが出来てホッとしました。
 わずか一日で我が国の領内に到達できるとは、まるで夢を見ているみたいです。」

 言葉通り安堵の表情を見せて、シナモン王女が後ろに遠ざかっていく魔物の領域を眺めていたよ。

 すると、おいら達が寛ぐ『特別席』にアルトの声が響き…。

「のんびりしているところ、悪いけど。
 マロン、オラン、出番よ。
 チョチョッと片付けちゃって。」

 唐突に『積載庫』から降ろされてみれば、そこは村(?)だったよ。
 そして、今来た魔物の領域の方を眺めると…。

「ブヒィーーーー!」

 巨大な猪型の魔物が群れを成して、村に襲い掛かろうとしているところだった。

「やべー、魔物の群れが襲って来たぞ!」

「ちくしょう、せっかくここまで開墾したのに…。
 流石に、ここまで魔物の領域に近付くのは無謀だったか。」

「どうする?
 村の門を閉めたところで、あんな安普請じゃあっという間に破られちまうぞ。」

 村人達も魔物の襲撃に気付いた様子で、右往左往していたよ。
 粗末な家ばかりの村だと思ったら、最近開拓を始めた村らしい。
 ひっそりと隠れるように存在している村なので、野盗の住処かと思ったよ。

 村人の声にもあったけど、村を取り囲む木の柵も門も安普請でとても魔物避けになる代物では無かった。
 アルトの言葉通り、おいら達の出番のようだね。

「オッチャン達、落ち着いて。
 魔物はおいら達が一匹残らず討伐するから。
 一応、村の門を閉めて大人しくしていて。」

「おい、嬢ちゃん達、いったい何処から?
 じゃない、子供が二人で魔物の相手なんて無茶だ!」

 制止する村人の声を背中に聞きながら、オランと二人で村の外に出たよ。
 魔物を迎え撃つために。

      **********

 そして…。

「嬢ちゃん達、一体何者だ。
 あんな数の魔物を一蹴しちまうなんて。
 まあ、嬢ちゃん達が何者でも関係ないか。
 有り難うよ、ホント助かったわ。」

 アルトに指示された通り、チャチャッと片付けたよ。
 村人達が集まって口々に感謝の言葉を掛けてくれたけど…。
 見事に若い兄ちゃんばかり、女の人は一人も見当たらなかったの。

「真面目に開墾しているみたいなのは感心だけど…。
 ここは魔物の領域に近すぎるんじゃない?」

 おいらが暗にこんな危ない所に村を造るのは止めておけと勧めると。

「俺達、ここから半日ほど行ったとこにある村の次男坊、三男坊でな。
 跡を継げる農地が無いんだ。
 このままじゃ、嫁の来手が無いもんだから。
 新天地を求めて、不退転の決意で村を飛び出してきたんだよ。」

「うんだ、うんだ、せっかくここまで畑を作ったんだ。
 今更、村には帰れねえだ。
 おら、隣のミヨちゃんに、必ず迎えに行くって約束しただ。
 もたもたしとったら、他の男に取られちまう。」

 何処の国でも、僻地にある農家の次男、三男は大変みたいだね。

「いや、それなら、せめて畑を作る前に村の護りを固めなよ。
 そんな安普請な柵や門じゃなくて、掘りと土塁を築いて板塀を巡らすとか。
 魔物の一匹も防げないような村じゃ、危なくてお嫁さんも来ないよ。」

「そげなこと言っても。
 俺ら、村を出て来る時に分けてもらえたのは鍬ぐらいなもんで。
 掘りなんてとっても造れたもんじゃねえし。
 見ての通り、板塀で囲うほどの木なんて生えてねえぞ。」

 男達の故郷は、余り豊かな村では無いようで独立すると言っても大した支援を受けられなかったみたい。
 鍬と種苗と当面の食料くらいしか、分けてもらえなかったみたい。
 斧も無しで家を建てるのは大変だったと嘆いていたよ。
 そんな訳で、最初に畑を作りパンの木の苗木を植え付けたらしい、食い繋ぐために。

 今まで住んでいた村の近くは岩がちの荒れ地が多いそうで。
 開墾に適した土地を探してここまで来たらしい。

 開墾に邪魔な岩も無く、起伏の少ない緑豊かな草原。
 こんな耕作に適した土地は無いと開墾を始めたところが、魔物の領域の間近だったというオチらしい。
 魔物の襲撃を受けて初めて、何でこんな良い土地が手付かずだったかの理由を思い知ったみたい。

「兄ちゃん達、街へ出てならず者にならなかっただけ感心だから。
 少しだけ支援してあげるよ。
 ほら、これだけあれば、少しは村の護りを固めることも出来るでしょう。」

 もう少しましな村を造れるようにと、おいらは資材を提供することにしたよ。
 安易に冒険者にならなかっただけでも、見どころがあるからね。

「凄げぇ…。
 鍬、鋤、スコップ、ツルハシ、斧、鉈、ノコギリ、鎚、釘まであるぜ。
 うおっ! こっちは木材か!
 嬢ちゃん、いったい、これだけの物、何処に持ってたんだい?」

「ナイショ、女の子の秘密を探るのはマナー違反だよ。」

 『積載庫』の説明なんかできないもんね、ナイショで押し通すよ。
 もちろん、農工具は大砲や鉄砲やその玉から作ったんだ、積載庫の機能を利用して。
 木材は、拿捕した船を三隻ほど、積載庫の機能で分解してみたの。

「女の子の秘密って…、こりゃ、そんな次元じゃないだろうが。」

「まあ、細かい事は良いじゃねえか。
 お嬢ちゃん、有り難うよ。
 これでちっとはまともな村が出来そうだぜ。」

「おう! 立派な村を造ってミヨちゃんを迎えに行くぞ!」

 おいらの返事に納得してない人もいたけど、大部分の兄ちゃんはおおらかな性格で助かったよ。

「それじゃ、これもあげるからスタミナ付けて頑張ってね。」

「おおっ、これ、肉か!
 良いのか、こんなにもらっちまって。
 肉なんてホント久し振りだぜ。
 このところ、パンと菜っ葉しか食ってなかったから助かるぜ。」

 今狩った猪の魔物を三頭ほど捌いて提供したら、凄い喰い付きだったの。
 その場にいた男達は、村を造るための資材を提供した時より喜んでいるように見えたよ。

        **********

「マロン様、我が国の民を救って頂いたばかりか、支援までして頂き有り難うございます。
 助けて頂くことばかりで、申し訳ございません。」

 アルトの積載庫の中に戻ると、恐縮した様子のシナモン王女が頭を下げて来たよ。

「気にしないで良いよ。
 大した手間でもなかったし。
 おいらも大分収穫があったからね。」

 ホント、あんまり感謝されると、こっちが恐縮しちゃうよ。
 あの猪の魔物、思いの外レベルが高くて殆どがレベル三十だったの。
 中にはレベル三十一が数頭、レベル三十二なんてのも一頭いたよ。
 全部で二十三頭、ある意味大儲けだったからね。

「ねえ、マロンちゃん。
 二人共、いとも容易く猪を斬り倒していたけど…。
 あの猪って、実はたいしたこと無いの?
 牛よりも遥かに大きいように見えたのだけど。」

 ジャスミン姉ちゃんが尋ねて来たの。
 オードゥラ大陸には魔物が生息しないそうだから、どのくらいの強さか想像がつかないのだろうね。
 子供のおいら達が瞬殺したものだから、猪の魔物が弱いのかもと思ったみたい。

「まさか、あれはクラミティボアと呼ばれる魔物で…。
 我が国の魔物被害で一番頻度が多いのがあの魔物の襲撃です。
 あれだけの数に襲われたら、村どころか、小さな町ですら一溜りもありません。
 マロン様、オラン様の強さは尋常ではありません。
 本当に人間かと疑うくらいに…。」

 シナモン王女は言ってたよ。
 あの数のクラミティボアを討伐するなら、通常百人以上の騎士を動員しないと無理だと。

 あの猪、いやにレベルが高いと思ったら、辺境の町周辺に生息する猪とは別の魔物だったんだ。
 たまにあの辺りに出没する猪の魔物は精々レベル五、六だったもの。
 入手した『生命の欠片』を確認して、最初、何の冗談かと思ったよ。

「あら、あら、マロンちゃん達、本当に強いのですね。
 人知を超える力を持つ妖精さんに、人間離れした幼児二人ですか。
 いよいよ、ヌル王国も滅びる時が来たようですね。
 今まで蹂躙されてきた国の屈辱を思い知れば良いですわ。」

 ジャスミン姉ちゃんは相変わらずの笑顔で辛辣な事を言ってたよ。
 ジャスミン姉ちゃんの母親はヌル王国に攻め滅ぼされた国の王女だと言ってたけど。
 母親から恨みつらみを聞かされて育ったのかな。

 そして、ポルトゥスの街を出発して三日目の昼過ぎ、予定通りハムンの街に到着したよ。
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