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アイイロモンペ

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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第535話 それで死罪は余りにも酷だよね

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 ヌル王国の連中を檻の中に閉じ込めて晒し者にしたら、初日から仲間割れを起こしたよ。
 狭い檻で誰もが窮屈な思いをする中、我が儘な貴族が発した不用意な一言。
 それが切っ掛けとなって、貴族を中心にする軍属と平民の船乗りさんの間で殴り合いの喧嘩になったの。
 普段なら剣なり鉄砲なりの武器を携行し平民を従えているんだろうけど、全員パンツ一丁だもの。
 操船作業で体が鍛えられてる船乗りさんを相手に、丸腰の貴族連中はまるで歯が立たなかったよ。

「けっ、普段から威張り散らしている癖に、口ほどにも無い奴らだったな。」

 折り重なって倒れている貴族達を前にして、筋骨隆々の船乗りさんがそんな言葉を漏らしていたよ。
 おいらは、その船乗りさんに話を聞かせてもらおうと思ったんだ。 

「オッチャン、ちょっと良いかな?」

「うん? 何だい、お嬢ちゃん?」

「オッチャンはヌル王国の水軍の人じゃないの?」

「俺か? 俺りゃ、今回の航海で臨時に雇われたんだ。
 正規の水軍の船乗りが、『霧の海』を越えるなんて危ねぇ航海には出る訳ないだろう。
 海戦の操船術ってのはそれ専門の技術が要るんだ。
 こんな帰って来れるかどうか分かんねえ冒険で無駄死にさせる訳にはいかねえからな。」

 水軍の正規の船乗りは、大陸近海での敵国とのドンパチで手一杯らしいよ。
 今回の船団は、各船の船長と御座船の船乗りだけが正規の水軍に所属している人みたい。

 このオッチャンを含めて、その他の船乗りさんは港で集められたんだって。
 ヌル王国の港には、この大陸の冒険者ギルドのような船乗りさんの組合があって。
 特定の雇い主や自分の船を持たない船乗りさんが、仕事を紹介してもらうそうなんだ。
 以前、おいらにしがみ付いて来た駆け出し商人みたいな人が、ヌル王国には沢山いるそうで。
 そんな人が新たな船を仕立てて船乗りを募集するものだから、フリーの船乗りさんも多いみたい。

 今回の航海は、王族が新天地の開拓に赴くとのことで大々的に船乗りが募集されたらしい。
 国内各港の船乗り組合に、船乗りを強制徴用する割り当てがあったらしいよ。

「俺りゃ、海賊の真似事なんか嫌だと言ったんだがな。
 組合の親方から、どうしても行ってくれと泣きつかれちまって。
 渋々、この船団の船に乗ったんだが、飛んだ貧乏くじだぜ。」

「ねえ、オッチャン達、サニアール国では陸に上がってないって聞いたけど。
 それ本当なの?
 サニアール国の港で、略奪とか、女の人への悪さとかしたんじゃないの?」

「お嬢ちゃん、見損なっちゃいけねぇぜ。
 俺らは、そんな海賊みてえなことはしちゃいねぇよ。
 第一、サニアール国って国の港じゃ、休む間もなく出港させられたからな。
 酷でぇもんだったぜ、半年も航海してきたのに三日で出港だときたもんだ。
 休む間も無かったってのはこのことだぜ。」

 サニアール国の王都ハムンは、大型の帆船が接岸できる場所が少なかったみたい。
 なので、船団の船の殆どは沖合に停泊していたらしいよ。
 上陸部隊は数隻の船に乗り移って、ハムンの港へ向かったんだって。
 
 当然、沖合に停泊している船の船乗りさんはその場で待機だし。
 上陸部隊を乗せた船も、船乗りさん達は接岸した埠頭で船上待機だったそうなの。
 不測の事態に備えて、何時でも出港できるようにしていたんだって。

 そして、船上待機が解除されることもなく、上陸部隊が戻って来て出港を告げられたらしい。
 お姉ちゃんが居る店で遊ぶ暇も無かったと、オッチャンは嘆いていたよ。

       **********

「それじゃ、船乗りさん達は誰もサニアール国で悪さをしてないんだね。
 信用しても大丈夫かな。」

「何だい、お嬢ちゃん、俺が信用できないのかい。
 まあ、俺りゃ、こんな厳つい顔しているからな。
 お嬢ちゃんみたい子供には警戒されるわな。」

 オッチャン、そう言ってカラカラと笑っていたよ。

「この中に、サニアール国の港で上陸した人は居るかな?
 居たら、手を挙げて。」

 おいらが檻の中にいる人達に問い掛けてみると…。

「今、お頭が言った通り、陸に上がった船乗りは居ねぇよ。
 そして、今、こうして自分の足で立っているのは船乗りだけだ。
 お嬢ちゃんが、手を挙げてと言っても無理だと思うぞ。
 陸に上がった奴らは、全員、ここで伸びちまってるし。」

 おいらの近くにいた若い船乗りさんが、積み上げられた貴族を指差しながら返答してくれたよ。
 オッチャンの言ったことに嘘は無いみたい。
 おいらが今まで話していたオッチャン、一隻の船乗りたちのまとめ役だったみたいだね。

 周りの船乗りさん達からも、船上待機を命じられて頭に来たと言う声が聞こえたけど。
 ハムンの港で陸に上がれたと言う声は聞こえなかったんだ。

「そう、分かったよ 
 じゃあ、アルト、今、立っている人達は『積載庫』に戻してもらえるかな。
 あっ、あの隅っこでおもらししているウーロン王子は除いてね。」

「了解。
 私だって、あんなお漏らし小僧は収容したくないわ。
 汚らしい。」

 アルトはそんな返事と共に、船乗りさん達を積載庫に戻したんだ。
 収監されてた人の半数近くが居なくなって、檻の中が大分広々とした。

「おい、船乗り達は何処に消えたんだ。
 あいつらは、何処へ行った。」

 目の前で船乗り達が消え去ったことに驚いてウーロン王子が尋ねてきたよ。

「話を聞く限り、船乗りさん達はサニアール国で悪事は働いてないようだし。
 晒し者にするのは止めて、サニアール国へ突き出すのもやめようかと思って。
 軽い罰で済ませるように、サニアール国の王女さまと相談するつもりだよ。」

「ちょっと待て!
 船乗りには温情を与えて、吾らはこのまま捨て置くつもりか?
 分かっているのか、吾らは大陸の覇者ヌル王国の王侯貴族なのだぞ。
 こんな仕打ちをしおったからには、タダでは済まさんぞ。」

 おいらが船乗りさん達を軽い罰で済ませると言うと、ウーロン王子は憤慨してたよ。
 おや、お漏らしまでしておいて、まだそんな虚勢が張れたんだね。

「ニイチャン達がヌル王国の王侯貴族だろうが、おいらには関係ないよ。
 おいらの街を破壊した無法者に変わりは無いし。
 サニアール国でいっぱい人を殺したんでしょう。
 それなのに、相手に反撃されるの嫌だなんて甘すぎると思うな。
 嫌なら、最初から他国を侵略しようなんて思わないことだよ。」

「煩いわ!
 鉄砲も、大砲も、大型船すら造れない未開の民が小癪なことを。
 野蛮な原住民は、吾々の進んだ文明の前にひれ伏せば良いのだ。」

「おいら、人の物を暴力で奪い取る方が、ずっと野蛮だと思うよ。
 文明人が聞いて呆れるよ。
 単に人殺しの道具が進歩しているだけじゃない。」

 略奪を繰り返すなんて、野蛮な海賊そのものだよ。
 鉄砲や大砲なんかが造れても、全然文化的だとは思わないし。
 オードゥラ大陸が、そんな物騒な物を必要とする野蛮な地域だと宣伝しているようなものだと思う。

「うるさい、うるさい、うるさい!
 吾は、ここで大手柄を上げてヌル王国へ凱旋するつもりだったのだぞ。
 そして、王宮の重役に取り立ててもらえるはずであったのだ。
 こんなチビに、それを邪魔されるなんて認められる訳が無いだろうが!」

 チビで悪かったね。
 そんな身勝手な『つもり』や『はず』を押し付けられても困るよ…。

 全然反省する気は無いみたいなので、ウーロン王子は放っておくことにしたよ。
 これ以上は幾ら話しても無駄だろうから。

       **********

 煩いウーロン王子を檻の中に放置して、アルトと共に王宮へ戻って来たよ。

「…と言う訳で、船乗りさん達はハムンの港に上陸すらしてない様子なの。
 それで、王都で破壊や略奪をした連中と同罪は酷だと思うんだ。
 おいらとしては、強制労働刑なんかはどうかな思うよ。
 破壊されたハムンの街の復興作業をさせれば良いんじゃない?」

 おいらの部屋にシナモン王女を呼び、船乗りさん達の処遇について相談したの。     

「そうですね、確かに沖合に待機していただけで晒し首は酷ですね。
 ですが、ヌル王国の者共はハムンの街を破壊したばかりか、略奪や殺人まで犯しています。
 私が船乗り達を微罪で留めると主張しても、貴族や民が納得したものか…。」

「じゃあ、船乗りさん達はおいらがもらうよ。
 ちょうど、この国は辺境で街道整備をしていてね。
 強制労働として作業させている区画もあるんだ。」

「そうして頂けると助かりますわ。
 大した罪の無い者を感情に任せて極刑にするのでは。
 私としても気が咎めますし。」

 そんな訳で、船乗りさん達はおいらが引き受けることにしたよ。
 それと、ヌル王国の船団に積まれていた金銀財宝の類は全てサニアール国に引き渡すことにした。
 かなりの部分がハムンの街から略奪した物だろうし、街がかなりの被害を受けているようだからね。
 船団が元から有していた軍資金も、ハムンの街の復興に使ってもらうことにしたんだ。
 この街は実質的な被害はゼロで、むしろ、廃屋の取り壊し費用分タロウが儲けたようなものだし。
 
「ただし、ヌル王国の船と積んでいた武器は全部おいらがもらうよ。」

「それは、ウエニアール国がヌル王国の船で武装しようと言う事でしょうか。
 ウエニアール国だけが、あのような物騒な武器を保有するとなると。
 隣国としては、安心することが出来なくなるのですが。」

 シナモン姉ちゃんは、今度がおいらが侵略者になるのでは警戒しているみたいだよ。

「違う、違う、この大陸にあんな危ない武器は要らないよ。
 あんな武器がこの大陸に広まらないように完全に処分するの。
 それが出来るのは、多分、おいらとアルトだけだと思うから。」

 そう告げて、おいらは一本の鍬を積載庫から出して見せたんだ。

「鍬ですか? これ、何処からお出しになりました?」

「おいら、アルトから『妖精さんの不思議空間』を授かっているの。
 アルトの持っている空間みたいに人を乗せることは出来ないけど。
 物なら何でも入るんだ。
 既に、アルトから船や武器は預かっているよ。
 そして、今出した鍬は『不思議空間』の機能を使って鉄砲から作ったんだ。
 大砲、鉄砲、大砲の玉、全部、農具や土木工具に変えちゃおうと思って。
 欲しければ、半分くらい分けてあげるよ。」

 誰かに処分を任せると、危ない技術が外に漏れる恐れがあるものね。
 おいらの『積載庫』なら、鉄砲や大砲を鉄の塊にして幾らでも加工できるから。
 危ない武器を人目に晒さずに済むもの。

「マロン様、凄いものをお持ちなのですね。
 では、私共にもツルハシやスコップをお分けいただけますか。
 復興作業に使わせて頂ければ助かります。」

 シナモン姉ちゃんも納得してくれたようなので、船や武器はおいらが貰うことになったんだ。
 武器は鉄塊に戻し、その半分を土木工具に加工してサニアール国へ渡すことにした。
 
 今回、おいらの収穫は船くらいだけど、商船に改造してシタニアール国との交易に使うことにするよ。 
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