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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第531話 王女さまもお荷物なんだって…

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 自称泡沫王女のジャスミン姉ちゃん、ヌル王国の手口を色々と暴露してくれたよ。
 特に、工作メイド隊のことは貴族の間でも知っている人は僅からしくて、王室の機密事項の一つらしい。
 そりゃそうだ、見た目何処にでも居そうなメイドさんだから、みんな気を許すんだもの。
 危ない人達だとバレたら、仕事がし難くなるのはおいらでも想像がつくよ。

 そんな訳で、工作メイド隊の役割を暴露されたメイド達は烈火の如く怒っていたんだ。

「貴様、この裏切り者が!
 我々工作メイド隊の存在は王族のみに明かされる秘密だと申したであろう。
 属国に嫁に出されることでもなければ、本来なら貴様のような妾腹の娘には知らされないことなのだぞ。
 我々のことが周知されてしまえば、工作活動にも支障をきたすではないか。」

 工作メイドはジャスミン姉ちゃんを裏切り者と非難するけど。
 当のジャスミン姉ちゃんはどこ吹く風で、相変わらずおっとりとした笑顔を浮かべていたよ。

「裏切り者とか言われましても…。
 私、自国のエゴで他国を踏みにじる悪行に加担したくございませんし。
 何より、皆さんが側に居ますと安心して眠ることも出来ませんわ。
 いつ寝首を掻かれるやも知れませんのに。
 私、気付いてますのよ、そちらの方、私のスペアでしょう?」

 ジャスミン姉ちゃんの指差した先には、存在感の無い地味なメイドさんが居たよ。

「スペア? 身代わりってこと?
 でも、あんまり似てないよ。
 確かに、髪の毛の色は同じだし、目も細いけど…。
 えっ…。」

「マロンちゃんも気付いたかしら。
 目立たないようにして、表情を殺しているから。
 普通の人は気付かないかも知れないけど。
 そのメイド、私に似ているでしょう。
 細目なだけじゃなく、骨格とか、輪郭とか。
 いざと言う時は、私を消して入れ替わるの。」

 ジャスミン姉ちゃんが嫁ぎ先で夫に絆されて裏切ろうとしたり、子供が出来ずに目的を果たせなかったり。
 そんな場合は、ジャスミン姉ちゃんを処分して、そのメイドさんが入れ替わるらしいの。
 試しに立たせてみると、身長も同じくらいだったよ。

 正直なところ、ジャスミン姉ちゃんの方が美人だけど。
 その辺は化粧で幾らでも誤魔化せるって、ジャスミン姉ちゃんは言ってたよ。
 寝所のような薄暗い所や遠目に見た時、それにベールが掛かっている時なんかは絶対にバレないって。

「そんなことするくらいなら、わざわざ本物の王女を嫁がせること無いと思うな。
 最初から工作メイドを王女だと偽って嫁がせれば良いじゃない。
 どうせ相手には分からないし、その方が確実だと思う。」

 ジャスミン姉ちゃんの話を聞いて、おいらが素朴な疑問を口にすると。

「そんなことをしたら、貴重な工作メイドが一人、自由に動けなくなっちゃいますよ。
 ヌル王国にとっては、王女よりも工作メイドの方が貴重なのですから。
 王女は放っておいても勝手に増えますが。
 工作メイドは幼少の時から、厳しい訓練を施す必要がありますし。」

 ジャスミン姉ちゃん、自嘲気味に言ってたよ。王女は国庫のお荷物だって。
 王様がどんどん増やすものだから、王宮は少しでも有効利用しようと考えているんだって。

 反面、工作メイドは、永年にわたり王家の汚れ仕事を請け負って来た一族が輩出しているそうだけど。
 属国の王家だけじゃなく、国内の貴族家にも監視のためにコッソリ潜り込ませているらしく。
 当然、そんなに沢山の工作メイドを、一族の子女だけで賄える訳も無い訳で。
 孤児を拾って来たり、借金のカタに取ったりして幼女を集めているみたい。
 中には、支配した国で幼女狩りをすることもあるそうだよ。
 そうやって、幼い頃から礼儀作法から暗殺術に至るまで厳しい訓練を施すんだって。
 一人前の工作メイドになるまで、とても長い時間と育成コストが掛かっているので無駄遣いは出来ないって。
 
 メイドの一人が言っていた通り、工作メイド隊について知らされているのはほんの一握りの人達だけらしいの。
 その存在は秘密のベールに包まれているらしいよ。

 ところで、ジャスミン姉ちゃんだけど、何時か王宮から逃げだしてやろうと思っていたんだって。
 政略結婚の駒までなら我慢するけど、国の乗っ取りやら、暗殺やらの道具に利用されるのは我慢できないって。
 それでコソコソと王宮で調べ物をしているうちに、工作メイドのことを知ったらしい。

 メイド隊は、嫁入りが決まってから自分達の存在を知ったものだと思っていたようだけど。
 ジャスミン姉ちゃんは以前から工作メイドのことを詳しく知っていたみたい。

「それにもう一つ。
 私の父親でもある国王、下衆な人間だと言ったでしょう。
 まだあどけない娘を孕まして悦に入るだけじゃなくてね。
 自分の血を引く孫が属国の王となるのを見てほくそ笑んでいるの。
 最初から工作メイドを送ったら、王家を乗っ取ったって満足感を得られないですしょう。」

 ホント、下衆の所行だね…。
 父王の所行には虫酸が走ると、ジャスミン姉ちゃんも嫌悪感を露わにしてたよ。
 色々と調べるうちに、一刻も早く父王のもとから逃げ出したいと思ったらしいよ。

「と言うことで、お姉ちゃん、マロンちゃんに協力するから。
 お姉ちゃんのことは、見逃してくれたらとっても嬉しいな。
 ヌル王国に仕返ししたいのなら、もちろん情報を提供するわよ。」

 おっとりとした表情で、しれっと国を売ったよ…。
 ジャスミン姉ちゃんの言葉を聞いて、メイド隊はまたギャアギャア騒いでた。

        **********

 取り敢えず、メイド隊の人達はアルトの『積載庫』に仕舞ってもらったよ。
 ジャスミン姉ちゃんへの罵詈雑言が聞くに堪えないし、鬱陶しいだけだしね。

「あら、消えちゃった…。
 マロンちゃん、工作メイドは何処に行ったの?」

 目の前で忽然と消えたメイドさん達に、ジャスミン姉ちゃんは細い目を見張って尋ねてきたよ。

「紹介してなかったね。
 おいらの保護者アルトだよ。妖精の森の長なんだ。
 アルトは、不思議な空間を持っていて、どんな大きな物でも仕舞えるの。
 メイドさん達、煩いからアルトに頼んで仕舞ってもらった。」

 おいらは、ジャスミン姉ちゃんの目の前に浮かぶアルトを紹介したの。
 さっきから所々会話に加わっていたけど、紹介してなかったからね。

「先ほどから気になっていましたが、妖精さんという種族ですの。
 初めまして、ジャスミンと申します。仲良くしてくださいね。
 それにしても、凄いお力をお持ちなのですね。
 可愛い容姿からはとても想像もできないですわ。
 もしかして、船団もアルトちゃんの空間に?」

「そうだよ、あれだけの船が沈んでも諦めないから。
 アルトが痺れを切らして、『不思議空間』に収めちゃったの。
 アルトが出さない限り、ずっと閉じ込められたままだよ。」

「あら、やっぱり。
 突然、船の中が真っ暗になったのはそのためなのね。
 アルトちゃんって、本当に不思議な力を持っているのね。」

 ジャスミン姉ちゃんはアルトの能力に感心しているけど。
 一つ、勘違いをしているみたいだね。

「アルト『ちゃん』と呼ばれたのは何百年振りかしら。
 悪気は無いようだから、怒りはしないけど。
 私、これでも百年以上の年を生きているの。
 人は、姿形で判断しない方が良いわよ。」

「あら、あら、ごめんなさい。
 そんなに長生きだとは思いも寄りませんでした。
 では、アルト様とお呼びした方がよろしいですね。」

 謝ってはいるけど、ジャスミン姉ちゃんはアルトを敬っているようには見えなかった。
 アルトに向けたその目は、愛らしいものにほっこり癒されているような目だったよ。
 まるで愛玩動物を見ているかのような。
    
「マロンちゃん、今度は私から質問させてちょうだい。
 ヌル王国の船団の人達はどう処罰するつもりかしら?
 ウーロンを始めとした王侯貴族は全員死罪にしちゃって良いけど。
 船乗りさん達は、命だけは助けてあげると嬉しいかな。
 あの人達は雇われて操船してただけだから。」

 ジャスミン姉ちゃん、船乗りさん達の助命嘆願をしてきたよ。
 戦いを先導したウーロン王子とその取り巻きの貴族は殺しちゃって良いなんて言ってた。

「おいらは、誰も死罪にするつもりは無いよ。
 少しお灸を据えるつもりではあるけど。
 処罰はサニアール国に任せるつもり。
 先ずはサニアール国の王女様二人に十分休養してもらって。
 それから、サニアール国を解放しに行くんだ。
 その時、ウーロン王子達の身柄はサニアール国に引き渡そうと思って。
 王族三人も殺害し、王女二人を拉致したんだもの。
 軽い刑では済まされないだろうね。」

 この国は、実質的な被害は無いからね。
 裁いてもらうのは、被害の大きかったサニアール国の方が適当だと思ったよ。
 王族殺しだけでなく、王都もかなり破壊したみたいだからね。
 王都の民の怒りもかなりのものだろうし、発散させてあげないと。

「うふふ、それは楽しみですわ。
 蹂躙するだけ、蹂躙しましたから。
 さぞかし恨みを買っていることでしょうね。
 どんな処罰が下されるか楽しみですわ。」

 ジャスミン姉ちゃん、おっとりした顔で何気に怖いことを言ってたよ。
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