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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第526話 反撃の狼煙を上げたよ、特大の火柱を…

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 港で船乗りの頭領と和やかに談笑していたら、突如現れた大船団。
 どうやら、ヌル王国の水軍らしい。

 連中、いきなり大砲とか呼ばれる武器で攻撃してきたんだ。
 頭領の話では見せしめ的に少し町を攻撃して、相手を怯ませるのが常套手段らしいよ。
 基本、新たな土地を訪れてはこうやって支配地域を広めて来たみたい。
 
 頭領の話ではヌル王国の王族って海賊の末裔らしいけど、まんま無法者の所行だね。

 王都の外れに、海へ向かって突き出した半島状の一画があるんだけど。
 船団からの砲撃は、そこを破壊し尽くしたんだ。
 ひまわり会が買い取った一画だったらしくて、タロウが喜んでいたよ。
 新しい建物を建てるために取り壊す手間が省けたってね。

 でも、それでは腹の虫が収まらない人(?)もいるようで…。

「マロン、舐めたマネされて放置したらダメよ。
 相手に付け込まれちゃうからね。
 やられたら、必ず報復しないといけないの。
 こうやってね。」

 アルトはそう言うと、腕を前に突き出して船団を指差したの。
 そして…。

「舐めたマネしてくれたこと、後悔なさい!」

 アルトがそう口にした瞬間、タロウがあからさまに狼狽し…。

「ちょ、アルト姐さん、ちょっとタンマ…。」

 何故か、アルトを止めようとしたんだけど、時すでに遅し。

 突如、バリバリって耳をつんざくような雷鳴が響き渡り。
 雲一つない晴れ渡った空から一筋の稲妻が走ったんだ、ここから見える範囲では一番大きな船に向けて。
 
 次の瞬間、その船から火柱が立ち昇ったと思うと、ドーンという大音響と共に瞬時にして船全体が火だるまになったの。
 そして、その巨大な炎は周りにいた何隻かの船も巻き込み、更に何度も大音響を轟かせたんだ。
 燃え上がる船の側にいた船は、炎を逃れようと慌てて散開してたよ。

「おかしいわね、ちゃんと手加減したのに…。
 今の一撃じゃ、精々、マストをへし折るくらいのはずだけど…。」

 アルトが沖合に浮かぶ巨大な炎の塊を見ながら首を傾げていると。

「だから、止めたじゃねえか…。
 大砲ってのは、火薬が炸裂する力で玉を飛ばしてるんだ。
 火薬ってのは厄介なもんでな。
 火が付くとあんな風に爆発的に燃える上に、引火し易いんだって。
 あの船団は戦争しても良いってつもりで来てるんだろう。
 さぞかし、火薬満載でやって来たと思うぞ。」

 タロウは、アルトのビリビリが火薬の爆発を引き起こしたのだろうって言ってたよ。
 火薬って、そんな危ないものなんだ…。
 最初に火柱を上げた船なんか、あっと言う間に業火に包まれちゃったもの。
 あれじゃ、乗っている人は誰も助からないね。

「なあ、あれ、アルトお嬢さんがやったのかい?
 俺の見間違いじゃなければ、四、五隻沈んじまったが…。」

「うん、アルトの得意技、ビリビリだよ。雷を操れるんだ。
 本当はもっと広い範囲を焼き尽くすことも出来るみたいだけど。
 さっきは手を抜いたのに、思ったより被害が大きくて焦ったみたい。」

「俺、まだ、アルトお嬢さんを見くびっていたぜ。
 まさか、あそこまで強えぇとは…。
 ありゃ、絶対に機嫌を損ねちゃダメな存在じゃねえか。」

 頭領はアルトの力を知って青い顔をしてたよ。

「私が迂闊に攻撃したら拙いわね。
 あれじゃ、死人が出過ぎちゃうわ。
 私自身が定めた殺さずの掟を守れないじゃない。
 そうだ、タロウ、ちょっとこれを使ってみて。」

 その掟、ここ数年、全然守ってないって…。
 それはともかく、アルトは、巨大な弓をタロウの前に置いたんだ。
 タロウがバリスタとか呼んでた大弓。
 ダイヤモンド鉱山を魔物から解放するため、『山の民』の長老ノーム爺に作ってもらったの。

 ただ、以前のものより大分ごつくなっているような気が…。それに矢の形も変だし…。

「おい、これ、大分大きくなってねえか…。
 それに、流石にノーム爺さんの作でも、あそこまでは届かんだろう。」

「これ、あの色ボケ爺から預かって来たのよ。
 あの爺、鉱山の解放の時、ベヒィーモスを一撃で屠れなかったのが悔しいらしくてね。
 ずっと、改良を加えていたみたいなの。
 試しに使ってみてくれと頼まれてたんだけど、忘れてたわ。
 良い機会だから、使うだけ、使ってみてよ。」

 ベヒィーモス、レベル四十以上ある大型の魔獣で、タイヤモンド鉱山の辺りにウジャウジャいたの。
 ノーム爺の弓のおかげで難無く討伐出来たんだけど、確かに一撃で屠るのは無理だったね。
 四、五発放って、やっとベヒィーモスは倒れてた。

「まあ、使えと言うなら使うけどよ…。
 げっ、何だこりゃ、巻き取り機を使っても弦を引くのが大変じゃねえか。
 常人じゃ、こんなの引ける訳ねえだろうが。
 矢だって、何で、こんなヘンテコな形してるんだよ。」

 タロウはブツクサ文句を言いながら、ハンドルを回して弦を引くと槍のように太い矢をセットしてたよ。
 タロウがヘンテコだと言ってた通り、太い矢の先の方は一段と太くなっているの。
 変形した矢を真っ直ぐに飛ばせるようにか、弓をセットする場所も特殊な形状をしていたよ。

 タロウが矢を放つ前に、弓の位置を調整して狙いを定めながら…。

「おっ、これ、船団まで届くじゃねえか。
 俺のスキル『必中』が反応しているぜ、ビックリだな。」

 そんな呟きを漏らしていたよ。
 そして、タロウが矢を放つと、風を引き裂く音を立てて凄い勢いで飛んで行ったの。

      **********

 タロウが矢を放ってしばらくして…。

 ドーン!

 そんな大音響を轟かせて、一隻の船が炎に包まれたんだ。

「「「「へっ?」」」」

 予想外の出来事に、おいらも含めてみんな目を丸くしてた。

「そんなバカな、昭和の子供向けギャグアニメじゃないんだから…。
 弓が当たったくらいで、あんなでっかい船が爆発する訳ねえだろうが。」
 
 タロウがまた変な事を言ってたけど、理不尽なことが起こったのだけは分かったよ。

「なによ、あれ、海の向こうの船って、簡単に燃えるようにできてる訳?
 それじゃ、さっきのアレも私のせいじゃないでしょう。」

「そんなはず無いだろう。
 荒波を越えてここまで辿り着いてるんですぜ。
 矢の一本くらいで、船が沈む訳ないですぜ。」

 アルトと頭領さんがそんな会話を交わしていると…。

「俺よ、マイナイ領でワイバーンを狩った時、不思議に思ったんだ。
 ダイヤモンド鉱山じゃ、同じレベル四十のベヒィーモスを倒すのに四、五発要っただろ。
 確かに、ワイバーンは細身で身を護る脂肪や筋肉が少ないかも知れんが。
 全部、一撃で屠れるってのは、出来過ぎじゃないかとな。
 で、今、思ったんだ。
 『必中』って、絶対に命中するだけのスキルなのかなって。
 もしかして、急所に命中するんじゃないのか。」

 タロウが何でそんなことを言い出したのかと言うと。
 普通に考えて船の分厚い外装に矢を当てても大した効果は無いだろうけど。
 急所に当たればそれなりにダメージを与えられるのではと考えたそうなの。
 船の急所というのは、開け放たれている砲門。
 上手く砲門に矢が飛び込めば、砲手を殺傷できるかも知れないし、大砲を破損できるかも知れないって。
 そして、玉の装填が完了し、砲撃する瞬間の砲口へ飛び込めば、…。
 上手くしたら大砲を暴発させることもできるかもって。

「タロウは、その大砲の口に上手いタイミングで矢が飛び込んだと言うのね。
 それも、偶然じゃなくて、スキルによる効果で…。」

「まあ、単なる思い付きで、自信がある訳じゃないけどな。
 第一、矢の一本が砲口へ飛び込んだぐらいで、砲弾を止めることが出来るものか…。」

 砲口へ飛び込んだ矢が、発射された砲弾を砲身の中に留めたのなら。
 火薬のさく裂した力が行き場を失って、暴発してもおかしく無いとタロウは言うの。
 でも砲弾が矢をものともせずに飛び出せば、暴発なんて起こらないって。

「もしかしたら、それ、改良した矢のせいかもしれないわね。
 あの矢、先っぽが太くなっていたでしょう。
 真っ直ぐ飛ぶようにするのが大変だったと言ってたけど。
 あの部分、鉛で出来ているらしいわ。
 当たると先っぽが潰れて、衝撃力を増幅するとかなんとか言ってたわ。
 硬い鋼の鏃だと突き刺すだけだけど、あれなら破壊ができるって。」

「げっ、あの爺さん、何て危ないモノを作ってやがる。
 じゃあ、あの矢が砲弾を止めたのか…。」

 良く解からないけど、タロウのスキルとノーム爺の発明が重なって、船を沈めたと言うことかな?

「試しに、もう一回やってみる?」

 おいらが二人に尋ねると。

「止めておきましょう。 これ以上は弱い者イジメだわ。
 あの程度の船で、この大陸を踏みにじろうなんて片腹痛いわね。」

 アルトはそう告げるとノーム爺の大弓をしまったよ。

「信じられん…。
 ヌル王国の精鋭水軍を相手に、弱い者イジメとは…。
 それに、アルトお嬢さんも凄いが、ギルドの若いのにも驚きだぜ。
 まさか、弓矢で船を沈めちまうとは…。
 こりゃあ、水軍の連中、虎の尾を踏んじまったな。」

 アルトがヌル王国の水軍を歯牙にもかけてないもんだから、頭領は舌を巻いてたよ。
 ヌル王国の水軍って、今まで各地で無法の限りを尽くして来たらしいけど。
 頭領は言ってたよ、今回が年貢の納め時になるんじゃないかと。

 まっ、アルトは絶対に赦さないだろうからね…。
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