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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・
第523話 馬鹿だね、変な欲をかくから…
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さて、商人と船乗りさんの追いかけっこと遭遇した日の夜のこと。
まだ育ち盛りのおいらは、早々に夢の中の住人になっていたの。
良い子は早寝早起きが基本だもんね。
多分、真夜中の事だと思うけど…。
「マロン様、オラン様、お休み中のところ大変恐縮ですが。
緊急事態です。起きてください。
港で暴動が起きています。」
近衛騎士団長のムース姉さんが、寝ているおいらを起こしに来たんだ。
「ううっ…、眠い…。」
「何なのじゃ、こんな夜更けに暴動とは…。」
おいらが、寝ぼけていると代わりオランが尋ねてくれたよ。
「はい、オードゥラ大陸からの商船に割り当てた埠頭で暴動が起っております。
揉み合いになってランプでも倒したのでしょうか、失火している船もあるようです。」
おいら、それを耳にして飛び起きたよ。
余りにも心当たりがあるから。
「暴動って、一隻じゃないの?
失火している船『も』って言ってたけど。」
「はい、私も現場を見てないので詳しくは存じませんが。
オードゥラ大陸からの商船全てを巻き込んだ暴動になっているようです。
入国管理事務所からの報告では、船主である商人と船乗りの争いの様です。」
「きっと、昼間、マロンが言っておったことが原因じゃのう。
船乗りにトレント狩りを無理強いしたことが、仇になったようじゃな。」
ムース姉さんの報告を聞いて、オランもおいらと同じことを考えたようだった。
「それで、今はどんな対応になっているの?」
「はい、トシゾー団長の指示で第一騎士団が港に駆け付けております。
トシゾー団長の指示は、暴徒を入国させないように港の隔壁を固めろとのことでした。
暴動は王都と港を隔てる壁の外の出来事なので、取り敢えずは静観するとのことでした。」
「うん、それで良いよ。
昼間、頭領に良く言っておいたから、王都の中で騒ぎを起こすと捕まえるって。
それを念頭に置いているはずだし、暴動は港の中だけで収まると思う。
船主の商人が王都に逃げ込むと厄介だから、港は厳重に閉鎖するように念押ししておいて。」
おいらはトシゾー団長の指示だけで十分だと思ったのだけど。
「マロン、それだけではダメなのじゃ。
他の埠頭にある船に被害が及ばぬようにしないといかんのじゃ。
騎士団の一部を港の中に入れるよう、トシゾー団長へ指示するのじゃ。
騒動には手出し無用を厳命し、暴動が起きている埠頭を閉鎖するのじゃ。」
オランは言ったの。
他国の船に、暴徒と化した船乗りが危害を加えたり、商人が逃げ込んだりしたら厄介だと。
幸い、オードゥラ大陸からの商船に割り当てた埠頭は孤立しているんだ。
王都の港には、元々幾つもの埠頭があったのだけど。
一年前、おいらが王位に就いた時に、埠頭の増設を指示したの。
親戚となったシタニアール国との交易を増やすためにね。
従来、大陸の北と南に位置する二ヶ国の交易は少なかったようだから。
ちょうど埠頭が完成したタイミングで、オードゥラ大陸からの商船が着くようになったそうで。
宰相が機転を利かせて、新しい埠頭をオードゥラ大陸からの商船専用に割り当てたの。
新しい埠頭は港の一番外れにあり、王都の街並みからも離れているから。
国交が無くて、得体のしれない国の船を停泊させるのに最適だと判断したって。
なので、簡単に他の埠頭との往来を塞ぐことが出来るの。
オランのアドバイスに従ってムース姉さんに指示を出し、おいらはもう一度ベッドに潜り込んだよ。
後は、トシゾー団長に任せてね。
子供は寝るのも仕事だもん、寝る子は育つと言うでしょう。
**********
翌朝、まだ日が昇りきっていない早朝。
朝もやの中を、おいらはオランと共に港の視察に向かったんだ。
港の中に入ると、オードゥラ大陸の商船専用埠頭の手前には即席のバリケードが置かれて。
その前では、十人の騎士が監視を続けていたよ。
「おはよう、みんな、お疲れさま。
徹夜で見張ってくれたのかな。
適当な時間で、交替を取れるようにトシゾー団長に伝えておくよ。」
「陛下、お気遣い有り難うございます。
ですが、夜を徹しての仕事も全然苦になりませんよ。
仕事が無いよりはずっとましです。
ヒーナルの治世では飼い殺しにされて。
我々は、何もさせてもらえませんでしたから。」
騎士の一人が徹夜しているとは思えないほど、快活な返答をしてくれる横で…。
「陛下、我々は監視しているだけで良かったのでしょうか?
昨夜、このバリケードの前まで逃れて来た商人に助けを求められたのですが…。
命令通り、手出ししませんでしたら。
船乗りに袋叩きにされて、連れていかれてしまったのですが。」
助けを請われて手を差し伸べなかったことに、自責の念を感じているらしき騎士もいたんだ。
「ああ、良いの、良いの。
騎士のみんなが責任を感じる必要は無いよ。
命令を出したおいらとトシゾー団長の責任だからね。
それにね、袋叩きにあったのは商人かも知れないけど。
本当に悪いのはどっちか分からないでしょう。
事情の分からないことは手出ししないに限るよ。」
そんな風に騎士を宥めたおいらは、バリケードを越えて埠頭の様子を見に行ったんだ。
埠頭の一番先っぽの方、三本マストの大きな船の前まで行くと。
その船の甲板に人影が現れ。
「おや、お嬢ちゃん、こんなに朝早く何をしてるんだい。
そこ、通行止めになってただろう。
良く入ってこれたな。」
おいらに気付いて声をかけてくれたのは、見知った厳つい顔だった。
前日、商人を追いかけ回してた船乗りたちの頭領さん。
手持ち無沙汰だったのか、船を降りておいらに寄ってきたよ。
「おはよう、お頭さん。
この埠頭を閉鎖しちゃってゴメンね。
不自由な思いをさせちゃったでしょう。
騒ぎが収まったなら、閉鎖を解くけど。
もう、揉め事は解決したかな?」
「いや、こっちこそ、港で大騒ぎしちまって悪かったな。
…って、お嬢ちゃん、何者だい。
閉鎖されてるここへ入って来たかと思えば。
閉鎖を解くなんて言ってるが。」
おや、昨日護衛騎士のジェレ姉ちゃんが、おいらを『陛下』と呼んでいたのに気付かなかったんだ。
「昨日は名乗ってなかったね。
おいら、マロン。一応、この国の女王なんだ。
一応、国を預かる身としては、ことの顛末を確認しておきたいんだ。
何隻もの船を巻き込んだ騒ぎになったようだけど。
結局、どういう落ちがついたの?」
燃えて半ば残骸のようになっている隣の船を指差して、再度尋ねてみたよ。
「子供なのに妙に分別があると思ったら…。
お嬢ちゃん、偉い人だったんだ。
俺みたいな荒くれ者の話もちゃんと聞くし。
俺が住む国のすかした貴族共とは大違いだな。」
いや、そんな事に感心してなくても良いから、騒ぎがどうなったか聞かせて…。
「それで、昨日お嬢ちゃん達と別れてから。
商会長と話したんだが…。
お嬢ちゃんの話を聞いても、奴の気は変らんかったよ。
俺達にトレントの苗木を探せの一点張りだ。」
あのオッチャン、自分の子飼いの使用人が怪我をしたことは凄く気にしてたのに。
船乗りさん達の身の安全には気遣うつもりが無いのか。
命令に従わないと国王に罰してもらうと脅すだけだったらしい。
しかも、怪我をしてた取り巻き達も一緒になって騒いだみたい。
「船乗りが雇い主の逆らうのはけしからん」って。
ウサギ如きに蹂躙された軟弱者が何を偉そうにと、船乗り達のヘイトが募ったらしいよ。
「俺達ゃ、冗談じゃないと言ったんだ。
あんな危ない木を倒しながら森の真ん中まで進むだなんて。
俺は商会長を説得しようと努めたんだぜ。
船乗りにもしもの事があれば国に帰れなくなるが、それでも良いのかと。」
「あのオッチャン、それでも引かなかったの?」
「奴は、俺らの身の安全なんて屁とも思ってないようで。
幾ら話し合っても平行線だったよ。」
トレントの森に突入させたら、船乗りさん達全滅するよ。
そしたら頭領の言う通り国に帰れなくなるのに、あのオッチャン、馬鹿じゃないの。
「それで、結局、どんな風に決着したの?」
「ああ、それな。
仕方が無いので、奴らには不慮の事故に遭ってもらったよ。」
「へっ?」
「船乗りと違って、航海に慣れてない商人には良くあることだよ。
波の荒い海で誤って海に転落するとか、揺れた拍子に何処かに頭を打ち付けるとかな。
長い航海をしてると、頭がおかしくなっちまって海に身を投げちまう奴もいるぞ。
と言う訳で、俺を雇った商会は不慮の事故で全滅だよ。」
結局、商会長とその取り巻き使用人は、船乗りさんの不興をかって袋叩きにあったらしい。
その後の事は、深く突っ込まないことにしたよ。
「それで、何で他の船を巻き込む騒動になったの?
横にある船なんて燃えちゃって、航海なんか出来そうもないよ。」
「いやな、この船での騒ぎを聞きつけた連中がいてな。
雇い主を手に掛けるなんて何があったと、問われたもんだから。
トレントの苗木の在り処とか教えてやったんだよ。
そしたら、俺達以外にもいたんだよ。
苗木を採って来いと無理強いされてた連中が…。」
他の船の船乗りさんの中には、冒険者研修でトレントからの攻撃をくらって大怪我をした人もいるらしいの。
やっぱり、トレントの狩場に侵入して苗を採って来いと命じられていたらしい。
頭領から苗木はトレントの森の中央部にあると知らされ、他の船の船乗りさん達は泡を食ったみたい。
それぞれの船に戻って、雇い主に命令拒否を伝えに行ったそうなんだけど…。
どの船の商人も船乗りさんの命令拒否を容認しなかったようで。
結局、双方の溝が埋まらずに暴力沙汰となったみたい。
ムース姉さんの想像通り、失火した船は騒動の最中にランプを倒したらしい。
ランプの油が零れて、周りに火が燃え広がったそうだよ。
オードゥラ大陸の商人って、馬鹿ばっかり?
自分が命令される立場だったらどうするか、考えれば分かることでしょうに。
命に関わる命令なんかに従う訳が無いと。
それを無理強いするから、自分が命を落とすことになっちゃう…。
**********
「昨日言った通り、この件に関しては口を挟まないよ。
ただ、この港にゴミは残していかないで欲しいな。
残骸になっちゃた船とか、商人とか。」
今回の件、おいらからすると商人が悪いように思えるけど。
商人と船乗りさんの間の雇用契約がどうなっているか知らないからね。
余計な口は挟まないよ。
「お嬢ちゃん、気遣い有り難うよ。恩に着るぜ。
その半分燃えちまった船な…。
今日中に沖合に曳航して行って、再度火を放つ予定だ。
もちろん、商人共を乗せてな。
証拠が残らないように完全に燃やしちまうつもりだよ。」
現時点でオードゥラ大陸から来た商人は一人も残っていないらしよ。
全員、『不慮の事故』に遭って落命しちゃったみたい。
亡骸は丁重に母なる海に返すと、頭領は言ってたよ。
変な欲をかかなければ、こんなことにならずに済んだのに…。
ひまわり会から木炭だけを仕入れて、さっさと帰れば良かったのにね。
まだ育ち盛りのおいらは、早々に夢の中の住人になっていたの。
良い子は早寝早起きが基本だもんね。
多分、真夜中の事だと思うけど…。
「マロン様、オラン様、お休み中のところ大変恐縮ですが。
緊急事態です。起きてください。
港で暴動が起きています。」
近衛騎士団長のムース姉さんが、寝ているおいらを起こしに来たんだ。
「ううっ…、眠い…。」
「何なのじゃ、こんな夜更けに暴動とは…。」
おいらが、寝ぼけていると代わりオランが尋ねてくれたよ。
「はい、オードゥラ大陸からの商船に割り当てた埠頭で暴動が起っております。
揉み合いになってランプでも倒したのでしょうか、失火している船もあるようです。」
おいら、それを耳にして飛び起きたよ。
余りにも心当たりがあるから。
「暴動って、一隻じゃないの?
失火している船『も』って言ってたけど。」
「はい、私も現場を見てないので詳しくは存じませんが。
オードゥラ大陸からの商船全てを巻き込んだ暴動になっているようです。
入国管理事務所からの報告では、船主である商人と船乗りの争いの様です。」
「きっと、昼間、マロンが言っておったことが原因じゃのう。
船乗りにトレント狩りを無理強いしたことが、仇になったようじゃな。」
ムース姉さんの報告を聞いて、オランもおいらと同じことを考えたようだった。
「それで、今はどんな対応になっているの?」
「はい、トシゾー団長の指示で第一騎士団が港に駆け付けております。
トシゾー団長の指示は、暴徒を入国させないように港の隔壁を固めろとのことでした。
暴動は王都と港を隔てる壁の外の出来事なので、取り敢えずは静観するとのことでした。」
「うん、それで良いよ。
昼間、頭領に良く言っておいたから、王都の中で騒ぎを起こすと捕まえるって。
それを念頭に置いているはずだし、暴動は港の中だけで収まると思う。
船主の商人が王都に逃げ込むと厄介だから、港は厳重に閉鎖するように念押ししておいて。」
おいらはトシゾー団長の指示だけで十分だと思ったのだけど。
「マロン、それだけではダメなのじゃ。
他の埠頭にある船に被害が及ばぬようにしないといかんのじゃ。
騎士団の一部を港の中に入れるよう、トシゾー団長へ指示するのじゃ。
騒動には手出し無用を厳命し、暴動が起きている埠頭を閉鎖するのじゃ。」
オランは言ったの。
他国の船に、暴徒と化した船乗りが危害を加えたり、商人が逃げ込んだりしたら厄介だと。
幸い、オードゥラ大陸からの商船に割り当てた埠頭は孤立しているんだ。
王都の港には、元々幾つもの埠頭があったのだけど。
一年前、おいらが王位に就いた時に、埠頭の増設を指示したの。
親戚となったシタニアール国との交易を増やすためにね。
従来、大陸の北と南に位置する二ヶ国の交易は少なかったようだから。
ちょうど埠頭が完成したタイミングで、オードゥラ大陸からの商船が着くようになったそうで。
宰相が機転を利かせて、新しい埠頭をオードゥラ大陸からの商船専用に割り当てたの。
新しい埠頭は港の一番外れにあり、王都の街並みからも離れているから。
国交が無くて、得体のしれない国の船を停泊させるのに最適だと判断したって。
なので、簡単に他の埠頭との往来を塞ぐことが出来るの。
オランのアドバイスに従ってムース姉さんに指示を出し、おいらはもう一度ベッドに潜り込んだよ。
後は、トシゾー団長に任せてね。
子供は寝るのも仕事だもん、寝る子は育つと言うでしょう。
**********
翌朝、まだ日が昇りきっていない早朝。
朝もやの中を、おいらはオランと共に港の視察に向かったんだ。
港の中に入ると、オードゥラ大陸の商船専用埠頭の手前には即席のバリケードが置かれて。
その前では、十人の騎士が監視を続けていたよ。
「おはよう、みんな、お疲れさま。
徹夜で見張ってくれたのかな。
適当な時間で、交替を取れるようにトシゾー団長に伝えておくよ。」
「陛下、お気遣い有り難うございます。
ですが、夜を徹しての仕事も全然苦になりませんよ。
仕事が無いよりはずっとましです。
ヒーナルの治世では飼い殺しにされて。
我々は、何もさせてもらえませんでしたから。」
騎士の一人が徹夜しているとは思えないほど、快活な返答をしてくれる横で…。
「陛下、我々は監視しているだけで良かったのでしょうか?
昨夜、このバリケードの前まで逃れて来た商人に助けを求められたのですが…。
命令通り、手出ししませんでしたら。
船乗りに袋叩きにされて、連れていかれてしまったのですが。」
助けを請われて手を差し伸べなかったことに、自責の念を感じているらしき騎士もいたんだ。
「ああ、良いの、良いの。
騎士のみんなが責任を感じる必要は無いよ。
命令を出したおいらとトシゾー団長の責任だからね。
それにね、袋叩きにあったのは商人かも知れないけど。
本当に悪いのはどっちか分からないでしょう。
事情の分からないことは手出ししないに限るよ。」
そんな風に騎士を宥めたおいらは、バリケードを越えて埠頭の様子を見に行ったんだ。
埠頭の一番先っぽの方、三本マストの大きな船の前まで行くと。
その船の甲板に人影が現れ。
「おや、お嬢ちゃん、こんなに朝早く何をしてるんだい。
そこ、通行止めになってただろう。
良く入ってこれたな。」
おいらに気付いて声をかけてくれたのは、見知った厳つい顔だった。
前日、商人を追いかけ回してた船乗りたちの頭領さん。
手持ち無沙汰だったのか、船を降りておいらに寄ってきたよ。
「おはよう、お頭さん。
この埠頭を閉鎖しちゃってゴメンね。
不自由な思いをさせちゃったでしょう。
騒ぎが収まったなら、閉鎖を解くけど。
もう、揉め事は解決したかな?」
「いや、こっちこそ、港で大騒ぎしちまって悪かったな。
…って、お嬢ちゃん、何者だい。
閉鎖されてるここへ入って来たかと思えば。
閉鎖を解くなんて言ってるが。」
おや、昨日護衛騎士のジェレ姉ちゃんが、おいらを『陛下』と呼んでいたのに気付かなかったんだ。
「昨日は名乗ってなかったね。
おいら、マロン。一応、この国の女王なんだ。
一応、国を預かる身としては、ことの顛末を確認しておきたいんだ。
何隻もの船を巻き込んだ騒ぎになったようだけど。
結局、どういう落ちがついたの?」
燃えて半ば残骸のようになっている隣の船を指差して、再度尋ねてみたよ。
「子供なのに妙に分別があると思ったら…。
お嬢ちゃん、偉い人だったんだ。
俺みたいな荒くれ者の話もちゃんと聞くし。
俺が住む国のすかした貴族共とは大違いだな。」
いや、そんな事に感心してなくても良いから、騒ぎがどうなったか聞かせて…。
「それで、昨日お嬢ちゃん達と別れてから。
商会長と話したんだが…。
お嬢ちゃんの話を聞いても、奴の気は変らんかったよ。
俺達にトレントの苗木を探せの一点張りだ。」
あのオッチャン、自分の子飼いの使用人が怪我をしたことは凄く気にしてたのに。
船乗りさん達の身の安全には気遣うつもりが無いのか。
命令に従わないと国王に罰してもらうと脅すだけだったらしい。
しかも、怪我をしてた取り巻き達も一緒になって騒いだみたい。
「船乗りが雇い主の逆らうのはけしからん」って。
ウサギ如きに蹂躙された軟弱者が何を偉そうにと、船乗り達のヘイトが募ったらしいよ。
「俺達ゃ、冗談じゃないと言ったんだ。
あんな危ない木を倒しながら森の真ん中まで進むだなんて。
俺は商会長を説得しようと努めたんだぜ。
船乗りにもしもの事があれば国に帰れなくなるが、それでも良いのかと。」
「あのオッチャン、それでも引かなかったの?」
「奴は、俺らの身の安全なんて屁とも思ってないようで。
幾ら話し合っても平行線だったよ。」
トレントの森に突入させたら、船乗りさん達全滅するよ。
そしたら頭領の言う通り国に帰れなくなるのに、あのオッチャン、馬鹿じゃないの。
「それで、結局、どんな風に決着したの?」
「ああ、それな。
仕方が無いので、奴らには不慮の事故に遭ってもらったよ。」
「へっ?」
「船乗りと違って、航海に慣れてない商人には良くあることだよ。
波の荒い海で誤って海に転落するとか、揺れた拍子に何処かに頭を打ち付けるとかな。
長い航海をしてると、頭がおかしくなっちまって海に身を投げちまう奴もいるぞ。
と言う訳で、俺を雇った商会は不慮の事故で全滅だよ。」
結局、商会長とその取り巻き使用人は、船乗りさんの不興をかって袋叩きにあったらしい。
その後の事は、深く突っ込まないことにしたよ。
「それで、何で他の船を巻き込む騒動になったの?
横にある船なんて燃えちゃって、航海なんか出来そうもないよ。」
「いやな、この船での騒ぎを聞きつけた連中がいてな。
雇い主を手に掛けるなんて何があったと、問われたもんだから。
トレントの苗木の在り処とか教えてやったんだよ。
そしたら、俺達以外にもいたんだよ。
苗木を採って来いと無理強いされてた連中が…。」
他の船の船乗りさんの中には、冒険者研修でトレントからの攻撃をくらって大怪我をした人もいるらしいの。
やっぱり、トレントの狩場に侵入して苗を採って来いと命じられていたらしい。
頭領から苗木はトレントの森の中央部にあると知らされ、他の船の船乗りさん達は泡を食ったみたい。
それぞれの船に戻って、雇い主に命令拒否を伝えに行ったそうなんだけど…。
どの船の商人も船乗りさんの命令拒否を容認しなかったようで。
結局、双方の溝が埋まらずに暴力沙汰となったみたい。
ムース姉さんの想像通り、失火した船は騒動の最中にランプを倒したらしい。
ランプの油が零れて、周りに火が燃え広がったそうだよ。
オードゥラ大陸の商人って、馬鹿ばっかり?
自分が命令される立場だったらどうするか、考えれば分かることでしょうに。
命に関わる命令なんかに従う訳が無いと。
それを無理強いするから、自分が命を落とすことになっちゃう…。
**********
「昨日言った通り、この件に関しては口を挟まないよ。
ただ、この港にゴミは残していかないで欲しいな。
残骸になっちゃた船とか、商人とか。」
今回の件、おいらからすると商人が悪いように思えるけど。
商人と船乗りさんの間の雇用契約がどうなっているか知らないからね。
余計な口は挟まないよ。
「お嬢ちゃん、気遣い有り難うよ。恩に着るぜ。
その半分燃えちまった船な…。
今日中に沖合に曳航して行って、再度火を放つ予定だ。
もちろん、商人共を乗せてな。
証拠が残らないように完全に燃やしちまうつもりだよ。」
現時点でオードゥラ大陸から来た商人は一人も残っていないらしよ。
全員、『不慮の事故』に遭って落命しちゃったみたい。
亡骸は丁重に母なる海に返すと、頭領は言ってたよ。
変な欲をかかなければ、こんなことにならずに済んだのに…。
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