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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第519話 砂糖の入手方法を披露したよ

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 尋問をあらかた終えたおいらは、捕えた男を連れて冒険者の研修施設に向かったの。
 このニイチャン、お金に困っていて少しでも安く『砂糖』を仕入れたいそうだから。
 タダで手に入ると言ったら、何をさせられるかも聞かずにホイホイと乗って来たよ。
 いっぱしの商人になりたいのなら、もう少し慎重に判断した方が良いと思うよ、おいら。

 ニイチャンは逃げられないように腰に縄を打って王宮から連れて来たんだけど、…。

「おい、不敬罪かなんかで、俺を監獄にぶち込むつもりか。
 『砂糖』をタダで手に入れられるってのは、やっぱり嘘だったのか。
 調子の良い事を言って、俺を騙したんだな。」

 研修施設の門を潜った途端に、そんな難癖を付けて来たんだ。
 ここが堅固な土塁と塀で囲われてるので、監獄だと早とちりしたみたい。
 まあ確かに、軽犯罪者の更生施設も兼ねているから、監獄と言えないことも無いんだけど。
 
「ここは、監獄じゃないよ。
 冒険者養成のための研修施設なんだ。
 冒険者登録の希望者を集めて八日間の研修を施しているの。
 『砂糖』のり方もここで教えているんだよ。」

「冒険者の研修? 何だ、そりゃ?
 冒険者ってのは海賊の事だろう?
 未開の地に行って、原住民から略奪をしてくる。
 その研修って、略奪の仕方でも教えるんか。」

 オードゥラ大陸で冒険者と言ったら、特殊な海賊のことを指すみたい。
 商船を襲う海賊とは違い、未知の土地を探し出して、そこの原住民から略奪をしているらしい。
 オードゥラ大陸には無い高く売れそうな物品とか、金銀宝石と言った貴重な品を奪うんだって。

 冒険者と呼ばれる海賊は、未知の土地に関する情報をオードゥラ大陸にもたらす貴重な存在らしくて。
 その情報を耳にして、一旗揚げたい商人がその地に向けて船出するんだって。目の前の男のように。
 オードゥラ大陸の冒険者って、探検家と海賊を足して二で割ったような存在だね。

 危険を冒すと言った意味では文字通り冒険者だけど、結局はならず者みたいだ。

「うん、海賊じゃないけど、似たようなものだったよ。
 この大陸では、定職に就かずにその日暮らしの仕事をしている人を冒険者と呼んでいたの。
 無職じゃ体裁が悪いからって、誰かがそう名乗ったのが定着したみたい。
 元々は、金銀宝石の鉱山とかを探して未知の領域に挑んだ人を差してたらしいけど。
 長い年月で、大陸に未知の領域が無くなっちゃってこともあって。
 いつの間にか、ならず者の代名詞になっちゃったの。
 おいら、冒険者を資格制にして、この施設で収入を得る術を教えているんだ。
 ならず者やその予備軍を真人間に矯正する施設だと思ってもらえば良いよ。」

 実際には未知の領域はまだまだあるけど、そんなところは強い魔物が闊歩しているからね。
 普通の人が冒険できる領域は、もう残されてはいないよ。

「ふーん、女王様、子供なのに一応それらしいことをしてるんだ。
 『砂糖』のり方ってことは、ここで冒険者にサトウキビの栽培方法の指導でもしてるのか。
 それとも、サトウキビから砂糖を精製する方法でも教えているのかな。
 だとしたら、俺がここにきた意味ってなんだ?
 サトウキビの栽培なんて習っても、今からじゃ間に合わないし。
 砂糖を自力で精製するにしたって、サトウキビの仕入れや道具の購入に必要な金が心許ないぞ。」

 この施設をおいらが創ったと聞き、失礼な感心の仕方をしてたけど。
 こいつ、ここを砂糖を作るのに必要な知識を学ぶところだと思ってるの。
 それなら、『冒険者研修施設』だなんて、呼ばないよ。
 危険を冒して稼ぐ者を養成する施設だから、この名称なのに…。 

        **********

 門を潜って研修施設の中に入っていくと…。

「陛下、いらっしゃいませ。
 ご休暇は楽しくお過ごしになられましたか?」

 通り掛かった冒険者管理局のお姉さんが声をかけてくれたよ。

「おはよう。
 うん、お休みはとっても楽しかったよ。
 久し振りに羽を伸ばせた。」

「それは良かったですね。
 局長も、久し振りに陛下とのんびり過ごせたと上機嫌でしたよ。
 ところで、そちらはどなたでしょうか?
 縄を打たれているところを見ると罪人のようですが…。
 お預かりして、矯正措置を施せばよいのでしょうか?」

 おいらが連れている男を見て、お姉さんが「お預かりしましょうか。」なんて言ってたよ。

「ああ、これ?
 おいらに無礼を働いた犯罪者と言えば、犯罪者なんだけど。
 実害は無かったし、遠い大陸から来たと言うから、今回はお灸を据えるだけにしたの。
 今、実習林は使ってないよね。」

「はい、研修生は、朝食を済ませて休憩時間です。
 午前中は、剣の稽古や武器の扱いを練習しますので。
 森の方は、空いてます。
 そうそう、大分溜まっていますので、回収して頂けると助かります。」

「ああ、ゴメン。
 今朝、狩場に寄った後で、ここの回収をして帰るつもりだったのに…。
 こいつに襲われたので、後回しになっちゃったんだ。
 帰り掛けに回収していくから、赦してちょうだい。」

「はい、お手数をおかけしますが、よろしくお願いします。」

 そんな会話を交わすと、おいらは姉さんと別れて実習林へ向かったんだ。

「おい、今の娘さんのセリフは何だ?
 剣の稽古? 武器の扱い?
 砂糖を作るんだろう、何でそんな物騒なことをやっているんだ?」

 おっ、そこに気付いたか。ちゃんと会話を聞いていたんだね。
 ボウッとしていただけかと思ったけど、感心、感心。

「砂糖を採るのに必要だからに決まっているじゃない。
 もう、すぐそこだから、黙って付いてきなよ。
 口で説明するより、その目で見た方が早いよ。」

 おいらの言葉通り、歩みを進めるとすぐに実験林に到着したよ。

 トレントの実習林に面した広場に出て。

「さあ、ここで砂糖を採るよ。」

 砂糖の採集を始めることを告げると…。

「おい、これは何の冗談だ?
 砂糖の精製所はおろか、サトウキビ畑すらないじゃないか。
 こんなところで、どうやって砂糖を手に入れると言うんだ。」

 広場を見渡して男は言ったの。

「あの木から採るんだよ。 まあ、見ておいて。」

 おいらは、『積載庫』から錆びた包丁を取り出して、『シュガートレント』へ向かったの。

「おい、お前!」

「バカ者、それ以上、進むのではない。
 しかも、陛下に向かってお前とは無礼であろう!」

 何の説明も無しに林に向かおうとしたおいらを、男は追いかけようとしたらしい。
 トレントのテリトリーへ入る前に、護衛のジェレ姉ちゃんに制止されたみたいだ。

 一本のシュガートレントへ近づくと、槍のように尖った八本の枝がほぼ同時においらに襲い掛かって来たよ。
 おいらは、スキル『完全回避』に身を委ねて、全ての枝を寸でのところで交わすと。
 スキルによって誘導されて、攻撃の死角となるトレントの間近に移動したの。

 そこは手を伸ばすまでも無く、トレントを攻撃できるおいらの間合いで…。

「えいっ!」

 気負うことなく錆びた包丁をトレントに叩き込むと…。

 シュッ!

 まるでダイコンでも切る様な音と共に、トレントの太い幹が一撃で切断されたよ。
 何時もの事ながら良い仕事してるね、『クリティカル発生率百%』。

 ドン!と言う地響きを立てて地面に倒れたシュガートレント。
 おいらは、その枝から『シュガーポット』を一つもいで、男のもとへ戻ったよ。

「はい、これがシュガーポットだよ。
 ほら、この通り、砂糖がいっぱいに詰まってる。」

 おいらは、壺型をした果実のヘタの部分を包丁で切り取って男に差し出したんだ。

「げっ、本当に砂糖だ!
 この港で売ってる砂糖って、こうやって採っていたのか…。
 いったい何なんだ、あの木は。
 砂糖が入った壺がなる木なんて見たことも、聞いたことも無かったぞ。」

「あれは、シュガートレントと呼ばれる魔物だよ。
 あれを倒すと、一体で二千から四千の砂糖壺が手に入るんだ。
 元手ゼロで手に入るからお得だね。」

 他にも、トレントの木炭やスキルの実、更に未結晶の『生命の欠片』まで手に入るし。
 こいつには教えないけど…。

「ちょっと、待て。
 お前、いとも簡単にあの木を伐り倒していたが…。
 あれ木だろう? そんな錆びた包丁で伐り倒せるものなのか?
 それに、俺の気のせいじゃなければ、あの木、攻撃してきたぞ。」

「うーん、初心者じゃ、一撃で伐り倒すのは難しいかな…。
 それに、あれ魔物だもの。攻撃して来るに決まっているじゃない。
 トレントはどれも結構危険な魔物でね。
 冒険者研修では五人一組で協力して倒すように指導しているよ。
 五人で分配しても、結構な稼ぎになるからね。」

「魔物って…。
 なんだ、それは…。
 オードゥラ大陸じゃ、攻撃してくる木なんて無かったぞ。
 少なくとも、俺の知ってる限りじゃ。」

 やっぱり、オードゥラ大陸じゃ、一般の人に魔物は知られていないみたいだ。
 魔物が存在しないのか、人が住む領域に出て来ないのかは分からないけど。
 それじゃ、レベルの事も気付かれないようにしないといけないね。
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