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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・
第518話 ここにも患者が居たよ…
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オードゥラ大陸から来たと言う若い商人。
呆れたことに、この大陸との銀貨の価値の差も調べずにやって来たらしい。
商人の癖に、どんだけ迂闊な奴なんだよ。
もっとも、迂闊なのは目の前の男だけじゃないようで、…。
他の連中も少しでも安く砂糖を仕入れようと躍起になっているみたい。
まあ、ヌル王国なんて、王様からして迂闊なようだから下々の者が迂闊なのも仕方がないか。
船と鉄を造るために無秩序に森を伐採して、家を建てる木材にも窮しているらしいもの。
アホじゃないか…。
ついでに『パンの木』を知っているかも確認することにしたよ。
直接問い掛けて、藪蛇になってもいけないから。
「ねえ、森を伐り拓いて小麦畑にしたって言ってたけど。
オードゥラ大陸でも、普段はパンを食べているの?」
もし、小麦からパンを作っているなら、この問い掛けで会話が成立するはず。
「いや、少なくともヌル王国じゃ、小麦で作ったパンなんて口にできるのは金持ちだけだな。
土地が痩せているから、大した量の小麦が収穫できないんだ。
俺達、貧乏人が普段食っているのは、煮た豆とか、茹でた芋とかだぜ。
そう言えば、この国じゃ、小麦の作付けも多いのかな。
安っぽい飯屋でも、美味いパンが出て来るし。」
予想通りオードゥラ大陸では小麦からパンを作っているみたいだね。
しかも、タロウが心配してた通り、小麦の栽培はそんなに多くは無いみたい。
目の前の男は、何か良い儲け話は無いかと市場も見て歩いたそうだけど。
何処にも小麦が売っていなかったと、不思議そうに言っていたよ。
市場では、パンも見かけなかったって。
市場には幾つものパン屋さんがあるんだけど。
『パンの実』を見たことないので気付かなかったんだろうね。
ぱっと見じゃ、野菜か、果物に見えるからね。
タロウも最初に見た時は、『スイカ』とか言う果物だと思っていたから。
ところで、こいつ、ちょっと気になることを言ってたよ。
「ねえ、ニイチャン、今、自分を貧乏人と言ってたけど。
オードゥラ大陸じゃ、貧乏人にも大海原を越えるような船を手にれることが出来るの?
船って、すっごく高いモノじゃないの?
それとも、小さい頃から死ぬほど働いてお金を貯めたとか?」
この王都では船持ちの交易商って、凄く大きな商人だと聞いたことがあるよ。
交易に使うような大きな船って、凄く高価でそんじょそこらの商人では手が出ないって。
「あっ、それな。
海の交易が盛んなオードゥラ大陸じゃ、常に新たな交易ルートを探してて。
新たな交易のために航海へ出たい奴は、港の会所で出資を募るんだ。
どんな交易品を探して、何処へ行くのかを明らかにしてな。
それが運よく金持ち連中の目に留まると、出資してもらえるという寸法で。
その出資を元手に船を造って、大海原に乗り出すんだ。
でもな、…。」
そうやって出資者を募って集めたお金で、この男も船を手に入れたらしいよ。
ヌル王国では、割とポピュラーな資金調達手段なんだって。
でも、そこには落とし穴があるみたい。
男は苦々しい表情で一旦言い淀むと、バツが悪そうに説明してくれたんだ。
出資を募った交易船が首尾よく航海を終えて戻ってくると、積み荷を全て公設の市場で競りに掛けるんだって。
積み荷を全て公設の市場で競りに掛けるのは、分配の公正さを期すためなんだって。
そして、落札総額の三分の二が出資者の取り分、残り三分の一が交易商の取り分になるそうだよ。
出資者の取り分は儲けの三分の二じゃないよ、落札総額の三分の二だよ。
実際に航海に出た交易商の取り分は、積み荷の落札総額の三分の一しか無くて。
交易商は、ここから船乗りさんへの給金とか諸々の経費を払わないといけないんだって。
そして、手許に残ったお金で払いきれないと、せっかく手にした船を手放さないといけないらしいの。
でも、船を売却することで経費を全部支払えればまだ良い方で。
もし、気性の荒い船乗りさんの給金が払えない日には、袋叩きにされた上で奴隷商に叩き売られるそうだよ。
オードゥラ大陸じゃ、今でも奴隷売買が合法らしいの。
「積み荷を売却した総額の三分の二も出資者が持っていっちゃうの?
それ、出資者が取り過ぎじゃん。
普通、そう言うのって儲けの何割って決めるんじゃない?」
おいらが素直な感想を口にすると。
「いや、新規の交易ルートの開拓なんて、無事帰って来れるのは半分以下だしな。
金主にとっては博打みたいなもんだから、そのくらい貰わないと割に合わないんだろう。
それでも、俺達みたいな、貧乏人には一山当てるチャンスだからな。
どうせ丁稚奉公で真面目に働いたところで、ロクな生活は出来ないんだし。」
オードゥラ大陸の大商人が、儲けが定かでない新航路の交易などに、自ら手を出すことは無いそうだよ。
一方で、大商人達は、常に新しい商機は逃したくないと考えているらしくて。
有望な商機となる見込みが少しでもあれば、血気盛んな若者に出資して新航路の開拓を支援をしてるんだって。
二件に一件戻って来れば良い、十件に一件大儲け出来れば良いくらいの思惑でね。
大商人にとって、目の前の男は捨て駒のようなもんだね。
帰って来なくても仕方がない、儲けが出ればめっけものくらいの。
おいらから見たら無謀以外の何物でもないけど、それでも出資を受けて船出する若者は結構いるらしい。
自分なら大丈夫だとでも思っているのかな?
「俺な、丁稚奉公の年季が明けたその日に、この大陸の噂を聞いたんだよ。
こんな上手いタイミングで儲け話が転がり込んでくるなんて。
そんなの、そうそうあるもんじゃないだろう。
それで思ったんだ、これは天啓だとな。
俺なら絶対に上手くいくと思って、出資を募ったんだ。」
ここにもタロウの同類が居たよ…。何だっけ、チューニ病?
何の根拠も無く、自分は特別な存在だと思い込む心の病だっけ…。
もしかして、タロウの故郷『にっぽん』って国もオードゥラ大陸にあるんじゃないの?
この男の話とタロウの話に共通点が多いよ。
妙な心の病が流行っていたり、パンの木やトレントが無かったり。
この男、幼少の頃、『前金』という名の『借金』のカタに、『丁稚奉公』と呼ばれる『奴隷』働きに出されたそうなの。
朝から晩まで年中無休で働かされて給金は無いそうだよ。
年に一回、年の始めに、三日の休みと気休め程度の小遣い銭を貰えるだけだって。
前借金を完済し、晴れて自由な身となったその日に、立ち寄った飯屋でこの大陸の噂を耳にしたらしいよ。
幼い頃から読み書き算術と商売のイロハは叩き込まれていたので、商売そのものは何とかなると思ったそうなんだ。
後は無事にこの大陸に辿り着くことと、首尾良く儲けのタネを確保する事だけど。
それは、この男が『天啓』と呼ぶ根拠のない思い込みで、絶対に上手くいくと確信したんだって。
こいつ、駆け出しの商人って言ってたけど、まだ商人になれてないし…。
チューニ病を患った単なる『勇者』じゃないか。
**********
だいたい事情は呑み込めたよ。
自称商人の癖して、二つの大陸の間の銀貨の交換比率もロクに調べないでやって来て。
あげく、航海スケジュールも大きく狂ったもんだから。
利益を上げるどころか、奴隷落ちの危機に瀕して焦っている訳だ。
「ねえ、ひまわり会から砂糖を仕入れると赤字になるなら。
タダで仕入れる手段があるよ、合法的に。
もし、その気があるのなら、教えてあげるけど。」
おいら、思ったの。こいつに少しお灸を据えてやろうと。
『天啓』だなんて、人生を舐めているとしか思えないもん。
「それは、本当か?
本当に、『砂糖』がタダで手に入るのか?
嫌だぞ、押し込み強盗しろとか言われても。」
「嫌だな、そんな事は言わないよ。
『合法的に』って言ったじゃん。
おいら、これでも女王だよ。
犯罪を唆す訳ないじゃない。」
「でも、自分でサトウキビから砂糖まで作るとなると何年かかることやら…。
正直言って、船乗り達を遊ばせておく資金の余裕は余りないんだ。
水と食料を調達する資金の残りを考えると…。
この町に留まれるのは、あと十日が良い所かと。」
「そうだね、頑張れば一日に二万壺くらい『砂糖』が手に入るかな?
十日あれば、二十万壺だね。
ニイチャンの船にそれだけ乗せることが出来るかな?」
トレント一体から採集される『シュガーポット』はバラツキが大きくて、二千~四千個採集できるんだ。
二千個としても、一日十体狩れば十日で二十万個採集できるよね。死ななければ…。
まっ、身をもって知ってもらおうじゃないか。
砂糖の精製所なんて探しても無駄なことと、安く仕入れるのは無理だってことを。
冒険者が命懸けで採集してきてくれるんだもんね。
「壺ってのは、あの不思議な壺のことか?
軽いのに丈夫で。
壺本体と蓋の部分が完全に一体化している。
どうやって作ったのか全く分からない、あの壺。
あの壺で一日二万分もの砂糖がタダで手に入るってか?
俺を、からかっているんじゃ無いでだろうな。」
「からかってなんかいないよ。
ニイチャンが死ぬ気で頑張れば、それくらいは手に入るよ。
もちろん、全ての『砂糖』に共通のあの形でだよ。」
「やる、俺、やるぜ。
このままじゃ、身の破滅なんだ。
命懸けで頑張ってやるぜ。」
こいつ、本当に迂闊だね。
『死ぬ気で頑張れば』って言葉を、良く使われる例えだと思っているよ。
文字通り、命懸けになるとは思ってもいないみたい…。
そんな訳で、おいら、この男に『シュガーポット』の採集をさせてみることにしたよ。
ちょうど、おいらもトレントの狩場に行く用事があったからね。
こいつのせいで、日課のトレント狩りも、放置されてるトレント本体の回収も出来なかったもの。
と、その前に。
「ねえ、ニイチャン、『にっぽん』って国を聞いたこと無いかな?
何でも、空を飛ぶ乗り物や、馬無しでも走る鉄製の車があるそうだけど。」
気になったので尋ねてみたよ。
「『にっぽん』なんて国は聞いたことが無いぜ。
少なくともオードゥラ大陸にはそんな国はねえな。
どこで聞いたか知らねえが、空を飛ぶ乗り物なんてある訳ねえだろう。
そんな与太話を信じてるのかよ。
女王陛下と言ったところで、まだまだ、お子様だな。」
ムッ、こいつ、無礼な奴だな…。
でも、タロウの故郷はオードゥラ大陸じゃないみたい。
チューニ病なんて、妙な病が流行る場所、他にもあったんだ。
呆れたことに、この大陸との銀貨の価値の差も調べずにやって来たらしい。
商人の癖に、どんだけ迂闊な奴なんだよ。
もっとも、迂闊なのは目の前の男だけじゃないようで、…。
他の連中も少しでも安く砂糖を仕入れようと躍起になっているみたい。
まあ、ヌル王国なんて、王様からして迂闊なようだから下々の者が迂闊なのも仕方がないか。
船と鉄を造るために無秩序に森を伐採して、家を建てる木材にも窮しているらしいもの。
アホじゃないか…。
ついでに『パンの木』を知っているかも確認することにしたよ。
直接問い掛けて、藪蛇になってもいけないから。
「ねえ、森を伐り拓いて小麦畑にしたって言ってたけど。
オードゥラ大陸でも、普段はパンを食べているの?」
もし、小麦からパンを作っているなら、この問い掛けで会話が成立するはず。
「いや、少なくともヌル王国じゃ、小麦で作ったパンなんて口にできるのは金持ちだけだな。
土地が痩せているから、大した量の小麦が収穫できないんだ。
俺達、貧乏人が普段食っているのは、煮た豆とか、茹でた芋とかだぜ。
そう言えば、この国じゃ、小麦の作付けも多いのかな。
安っぽい飯屋でも、美味いパンが出て来るし。」
予想通りオードゥラ大陸では小麦からパンを作っているみたいだね。
しかも、タロウが心配してた通り、小麦の栽培はそんなに多くは無いみたい。
目の前の男は、何か良い儲け話は無いかと市場も見て歩いたそうだけど。
何処にも小麦が売っていなかったと、不思議そうに言っていたよ。
市場では、パンも見かけなかったって。
市場には幾つものパン屋さんがあるんだけど。
『パンの実』を見たことないので気付かなかったんだろうね。
ぱっと見じゃ、野菜か、果物に見えるからね。
タロウも最初に見た時は、『スイカ』とか言う果物だと思っていたから。
ところで、こいつ、ちょっと気になることを言ってたよ。
「ねえ、ニイチャン、今、自分を貧乏人と言ってたけど。
オードゥラ大陸じゃ、貧乏人にも大海原を越えるような船を手にれることが出来るの?
船って、すっごく高いモノじゃないの?
それとも、小さい頃から死ぬほど働いてお金を貯めたとか?」
この王都では船持ちの交易商って、凄く大きな商人だと聞いたことがあるよ。
交易に使うような大きな船って、凄く高価でそんじょそこらの商人では手が出ないって。
「あっ、それな。
海の交易が盛んなオードゥラ大陸じゃ、常に新たな交易ルートを探してて。
新たな交易のために航海へ出たい奴は、港の会所で出資を募るんだ。
どんな交易品を探して、何処へ行くのかを明らかにしてな。
それが運よく金持ち連中の目に留まると、出資してもらえるという寸法で。
その出資を元手に船を造って、大海原に乗り出すんだ。
でもな、…。」
そうやって出資者を募って集めたお金で、この男も船を手に入れたらしいよ。
ヌル王国では、割とポピュラーな資金調達手段なんだって。
でも、そこには落とし穴があるみたい。
男は苦々しい表情で一旦言い淀むと、バツが悪そうに説明してくれたんだ。
出資を募った交易船が首尾よく航海を終えて戻ってくると、積み荷を全て公設の市場で競りに掛けるんだって。
積み荷を全て公設の市場で競りに掛けるのは、分配の公正さを期すためなんだって。
そして、落札総額の三分の二が出資者の取り分、残り三分の一が交易商の取り分になるそうだよ。
出資者の取り分は儲けの三分の二じゃないよ、落札総額の三分の二だよ。
実際に航海に出た交易商の取り分は、積み荷の落札総額の三分の一しか無くて。
交易商は、ここから船乗りさんへの給金とか諸々の経費を払わないといけないんだって。
そして、手許に残ったお金で払いきれないと、せっかく手にした船を手放さないといけないらしいの。
でも、船を売却することで経費を全部支払えればまだ良い方で。
もし、気性の荒い船乗りさんの給金が払えない日には、袋叩きにされた上で奴隷商に叩き売られるそうだよ。
オードゥラ大陸じゃ、今でも奴隷売買が合法らしいの。
「積み荷を売却した総額の三分の二も出資者が持っていっちゃうの?
それ、出資者が取り過ぎじゃん。
普通、そう言うのって儲けの何割って決めるんじゃない?」
おいらが素直な感想を口にすると。
「いや、新規の交易ルートの開拓なんて、無事帰って来れるのは半分以下だしな。
金主にとっては博打みたいなもんだから、そのくらい貰わないと割に合わないんだろう。
それでも、俺達みたいな、貧乏人には一山当てるチャンスだからな。
どうせ丁稚奉公で真面目に働いたところで、ロクな生活は出来ないんだし。」
オードゥラ大陸の大商人が、儲けが定かでない新航路の交易などに、自ら手を出すことは無いそうだよ。
一方で、大商人達は、常に新しい商機は逃したくないと考えているらしくて。
有望な商機となる見込みが少しでもあれば、血気盛んな若者に出資して新航路の開拓を支援をしてるんだって。
二件に一件戻って来れば良い、十件に一件大儲け出来れば良いくらいの思惑でね。
大商人にとって、目の前の男は捨て駒のようなもんだね。
帰って来なくても仕方がない、儲けが出ればめっけものくらいの。
おいらから見たら無謀以外の何物でもないけど、それでも出資を受けて船出する若者は結構いるらしい。
自分なら大丈夫だとでも思っているのかな?
「俺な、丁稚奉公の年季が明けたその日に、この大陸の噂を聞いたんだよ。
こんな上手いタイミングで儲け話が転がり込んでくるなんて。
そんなの、そうそうあるもんじゃないだろう。
それで思ったんだ、これは天啓だとな。
俺なら絶対に上手くいくと思って、出資を募ったんだ。」
ここにもタロウの同類が居たよ…。何だっけ、チューニ病?
何の根拠も無く、自分は特別な存在だと思い込む心の病だっけ…。
もしかして、タロウの故郷『にっぽん』って国もオードゥラ大陸にあるんじゃないの?
この男の話とタロウの話に共通点が多いよ。
妙な心の病が流行っていたり、パンの木やトレントが無かったり。
この男、幼少の頃、『前金』という名の『借金』のカタに、『丁稚奉公』と呼ばれる『奴隷』働きに出されたそうなの。
朝から晩まで年中無休で働かされて給金は無いそうだよ。
年に一回、年の始めに、三日の休みと気休め程度の小遣い銭を貰えるだけだって。
前借金を完済し、晴れて自由な身となったその日に、立ち寄った飯屋でこの大陸の噂を耳にしたらしいよ。
幼い頃から読み書き算術と商売のイロハは叩き込まれていたので、商売そのものは何とかなると思ったそうなんだ。
後は無事にこの大陸に辿り着くことと、首尾良く儲けのタネを確保する事だけど。
それは、この男が『天啓』と呼ぶ根拠のない思い込みで、絶対に上手くいくと確信したんだって。
こいつ、駆け出しの商人って言ってたけど、まだ商人になれてないし…。
チューニ病を患った単なる『勇者』じゃないか。
**********
だいたい事情は呑み込めたよ。
自称商人の癖して、二つの大陸の間の銀貨の交換比率もロクに調べないでやって来て。
あげく、航海スケジュールも大きく狂ったもんだから。
利益を上げるどころか、奴隷落ちの危機に瀕して焦っている訳だ。
「ねえ、ひまわり会から砂糖を仕入れると赤字になるなら。
タダで仕入れる手段があるよ、合法的に。
もし、その気があるのなら、教えてあげるけど。」
おいら、思ったの。こいつに少しお灸を据えてやろうと。
『天啓』だなんて、人生を舐めているとしか思えないもん。
「それは、本当か?
本当に、『砂糖』がタダで手に入るのか?
嫌だぞ、押し込み強盗しろとか言われても。」
「嫌だな、そんな事は言わないよ。
『合法的に』って言ったじゃん。
おいら、これでも女王だよ。
犯罪を唆す訳ないじゃない。」
「でも、自分でサトウキビから砂糖まで作るとなると何年かかることやら…。
正直言って、船乗り達を遊ばせておく資金の余裕は余りないんだ。
水と食料を調達する資金の残りを考えると…。
この町に留まれるのは、あと十日が良い所かと。」
「そうだね、頑張れば一日に二万壺くらい『砂糖』が手に入るかな?
十日あれば、二十万壺だね。
ニイチャンの船にそれだけ乗せることが出来るかな?」
トレント一体から採集される『シュガーポット』はバラツキが大きくて、二千~四千個採集できるんだ。
二千個としても、一日十体狩れば十日で二十万個採集できるよね。死ななければ…。
まっ、身をもって知ってもらおうじゃないか。
砂糖の精製所なんて探しても無駄なことと、安く仕入れるのは無理だってことを。
冒険者が命懸けで採集してきてくれるんだもんね。
「壺ってのは、あの不思議な壺のことか?
軽いのに丈夫で。
壺本体と蓋の部分が完全に一体化している。
どうやって作ったのか全く分からない、あの壺。
あの壺で一日二万分もの砂糖がタダで手に入るってか?
俺を、からかっているんじゃ無いでだろうな。」
「からかってなんかいないよ。
ニイチャンが死ぬ気で頑張れば、それくらいは手に入るよ。
もちろん、全ての『砂糖』に共通のあの形でだよ。」
「やる、俺、やるぜ。
このままじゃ、身の破滅なんだ。
命懸けで頑張ってやるぜ。」
こいつ、本当に迂闊だね。
『死ぬ気で頑張れば』って言葉を、良く使われる例えだと思っているよ。
文字通り、命懸けになるとは思ってもいないみたい…。
そんな訳で、おいら、この男に『シュガーポット』の採集をさせてみることにしたよ。
ちょうど、おいらもトレントの狩場に行く用事があったからね。
こいつのせいで、日課のトレント狩りも、放置されてるトレント本体の回収も出来なかったもの。
と、その前に。
「ねえ、ニイチャン、『にっぽん』って国を聞いたこと無いかな?
何でも、空を飛ぶ乗り物や、馬無しでも走る鉄製の車があるそうだけど。」
気になったので尋ねてみたよ。
「『にっぽん』なんて国は聞いたことが無いぜ。
少なくともオードゥラ大陸にはそんな国はねえな。
どこで聞いたか知らねえが、空を飛ぶ乗り物なんてある訳ねえだろう。
そんな与太話を信じてるのかよ。
女王陛下と言ったところで、まだまだ、お子様だな。」
ムッ、こいつ、無礼な奴だな…。
でも、タロウの故郷はオードゥラ大陸じゃないみたい。
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