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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第514話 的外れなことをコソコソ嗅ぎ回っているみたいだけど…

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 入国管理事務所で騒ぎを起こした厄介な商人をトシゾー団長に託し。
 おいら達は、タロウに任せた冒険者ギルド『ひまわり会』へ向かったの。
 先ずは、ギルド本部に併設された販売所のストックヤードに『トレントの木炭』を補充し。
 それから、ギルドが経営する風呂屋に足を延ばしたんだけど…。

「相変わらず、凄い繁盛っぷりだね…。
 まだ、営業時間前でしょう?」

「そうだな、俺もここへ来たのは二ヶ月振りだが…。
 以前より、客足が増えているような気がするな。」

 まだ夕方にもなってないのに、ギルドが経営する風呂屋の入り口前から路上に行列が出来ていたの。
 それ自体は以前からなんだけど、その行列が目に見えて長くなってるんだ。

 その行列を横目に風呂屋の通用口に向かって歩いて行くと…。

「なあ、俺、何処の港に行っても必ず姉ちゃんが居る店に寄るんだが…。
 一年くらい前からかな、この店に寄った後は妙に体調が良いんだ。
 まあ、この店はどの姉ちゃんもサービスが抜群に良いからな。
 良い気分で店を出るもんで、そう感じるだけかも知れないけどよ。」

「何、おまえもか?
 いや、俺もなんだよ。
 この店で遊んだ後は妙に体の調子が良いんだ。
 まあ、長い航海で色々溜まってたから。
 スッキリさせてもらったおかげだろうと思っているんだが。」

「いや、俺、実はよ…。
 前の航海の時に、この港の前に寄った港でな…。
 つい誘惑に負けて、裏路地で格安な姉ちゃんを摘まんじまって。
 航海の途中で、体中に赤い発疹が出て…。
 ヤバい土産をもらっちまったと思っていたんだ。
 それがこの店で遊んだ後、ケロッと治っちまったんだが。
 ヤバい土産ってのは気のせいで…。
 あの赤い発疹は、船で食ったサバあたっただけだったのかな。」

「気のせいに決まってんだろう。
 こういう店で姉ちゃんと遊んだ後で。
 土産をもらって、具合を悪くしたって話は良く聞くが。
 体の具合が良くなったなんて話は、聞いたことがねえぜ。」

「まあ、そうだよな。
 体調が良くなったと感じるのは。
 溜まってたものを吐き出して、体が軽くなったせいだろう。」

 並んでいる男達の会話からそんな声が漏れ聞こえてきたの。
 どうやら、ここに並んでいる連中には、あの『水』の効用を気付かれてはいないみたいだね。
 船乗り達は、商人のように躍起になって儲け話を探している訳じゃないからね。

 とは言うものの、体の調子が良くなったと感じている人はいるようだし。
 念のため、支配人のノネット姉ちゃんには注意しておいた方が良いかもしれないね。

 おいらが、そんな事を考えていると…。

「あの野郎、とんでもないことを言ってやがる。
 ヤバい病気をもらったと思うなら、うちの店に来るんじゃねえよ。
 泡姫の姉さん方にうつったら困るじゃねえか。」

 おいらの隣を歩くタロウは、男たちの会話を聞いて憤慨してたよ。
 
       **********

 本店の通用口から倉庫へ入り、『妖精の泉』の水を詰めた大樽と『トレントの木炭』を積み上げていると。
 支配人のノネット姉ちゃんが、事務所側の扉から姿を現し。

「マロン様、有り難うございます。
 女王陛下に、荷運びの真似などさせてしまい申し訳ございません。
 タロウ君、ダメじゃない。
 『水』の運搬はタロウ君の仕事なんだから、陛下のお手を煩わせたら。」

 おいらに詫びると同時に、タロウを叱っていたよ。

「馬鹿言うな、ノネット姉さんが五十樽も必要だと言うからマロンに頼んだんじゃないか。
 一日に運べるのはせいぜい十樽だ、五十樽も運べる訳ないだろうが。」

「何言っているの、タロウ君が二ヶ月も遊び惚けているから色々と足りなくなったんじゃない。
 その間、私は大変だったんだからね、お店が大繁盛で。
 二ヶ月、たっぷり遊んできた分、きりきり働きなさいよ。」

 元々、この倉庫にはかなりの量の備蓄がなされていて、毎日タロウが少しずつ補充する形になっていたんだ。
 『妖精の泉』の水も、『トレントの木炭』もね。
 想定外に二ヶ月も留守をする事になったから、在庫が底を突きかけちゃって。
 タロウは昨晩、一気に補充して欲しいとノネット姉ちゃんから頼まれたらしい。

「気にしないで良いよ。
 どうせ、入国管理事務所へも運ばないといけなかったからね。
 それにしても、随分と繁盛しているみたいじゃない。
 店の前の待ち行列がまた一段と長くなっていたよ。」

「そうなんですよ。
 マロン様やタロウ君が留守にしている間に、新しいお客さんが随分と増えましてね。
 何でも、オードゥラ大陸とか言う場所から、新たに交易船が来るようになったとか。
 この二ヶ月の間に、大きな船が何隻も入港したようで港も大混雑でしたよ。
 その大きな船の船乗り達がこぞってやって来たものですから。」

 ノネット姉ちゃんの話によると。
 従来通り、この大陸の各地から交易に来ている船乗りさんのお客も増えていることに加え。
 オードゥラ大陸からの船に乗って来た船乗りさんが大挙してやって来たので、大忙しになったそうなの。
 ノネット姉ちゃん、支配人として風呂屋の経営をする傍らで、自らもお客さんを取っているのだけど。
 ひっきりなしに指名が入るものだから、休む間も無いほど忙しかったと言ってたよ。
 今、三号店の店長を任せているマルグリットさんが経営を手伝ってくれたので。
 それで何とか、仕事が回ったと言ってたよ。

 きっと、ノネット姉ちゃんが言うオードゥラ大陸ってのが、さっきの商人の出身地ヌル王国がある大陸だね。

「ねえ、ノネット姉ちゃん。
 さっき入国管理事務所に『妖精の泉』の水のことを嗅ぎ付けた商人がいたんだ。
 他国にこの『水』のことが知られるとヤバそうなので、商人の身柄は確保したんだけど。
 ノネット姉ちゃんも、他言しないように気を付けてね。
 マルグリットさんも、この『水』のことを知っているから、口止めしておいてもらえるかな。
 今まで、この『水』のことを尋ねてきたお客さんは居なかったかな?」

 おいらは、ここに来る前に入国管理事務所であった出来事をノネット姉ちゃんに説明し。
 改めて、『妖精の泉』の水について秘密を漏らさないように注意したの。
 この店のお客さんの中にもここに来ると体調が良くなると言っていた人がいたので、気取られることが無いようにって。

「今のところ、この『水』について聞かれた事はありませんね。
 マロン様のご指示は、しかと心に留めておきます
 そう言えば、最近、プレイの最中に無粋な事を訊くお客が増えていて…。
 炭焼き小屋は何処にあるのだとか、砂糖の精製は何処でしているか知らないかとか。
 『ここは殿方を夢の世界に誘う場所、浮世の話は無粋ですよ』とお答えすることにしているのですが。」

 他にもサトウキビ畑を探してるとか、トレントの苗木は何処で手に入るのかなんて尋ねて来る人もいるらしい。
 寝物語にそんな話をするなんて、オードゥラ大陸の連中はなんて無粋なんだとノネット姉ちゃんは愚痴っていたよ。

 因みに、ノネット姉ちゃんは、他の泡姫さんからもそんなことを尋ねられて困ったという報告を受けているみたい。
 正直に知らないと言っても、しつこく尋ねて来るお客さんが居るんだって。

 実際、この王都の誰に尋ねても、『知らない』って返事が返って来ると思うよ。
 おいらだって、砂糖の精製をしている所なんて知らないし。
 サトウキビなんて言葉に至っては、『何それ?』としか言いようがないよ。
 畑と言うからには植物なんだろうけど、そんな畑、少なくともこの国には一ヶ所も無いと思う。

 トレントの炭焼き小屋は、何処かにあるかもしれないけど…。
 あったとしても、この国全部で数か所、細々とやっているところばかりのはず。
 だからこそ、もの凄い貴重品で、ムチャクチャ高価なんだから。

 トレントの苗木を手に入れたいなんて命知らずは、およそこの大陸には存在しないと思う。
 それができるのは、アルトくらいだよ…。

 オードゥラ大陸の連中はどんだけ無知なんだろう、アホじゃないか。 
 
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