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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第511話 トレントの狩場へ出かけたら

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 トアール国から戻ってしばらくは、目が回るほど忙しかったよ。
 当初一ヶ月の予定の休暇が倍の二ヶ月になっちゃったからね。
 執務室にある机の上には、おいらの決裁を待つ書類がうずたかく積み上げられてた。

 もっと深刻だったのは、ギルドの倉庫に保管しているトレントの木炭が底を突きかけていたこと。
 今や、トレントの木炭は、王都の重要な交易品になっているからね。
 一月の休暇を取るに当たって、十分な備蓄をしていておいたんだけど。
 流石に、二ヶ月となると厳しかったみたい。
 ギルドのお姉さんの言葉では、一時的に販売量を制限して欠品になるのを防いでいたみたい。

 幸い、休暇中も欠かさずトレント狩りをしていたんで、『積載庫』の中に備蓄があったけど。
 殆ど空になった倉庫を満たすのには、全然足りなかったよ。
 
 一方で、冒険者に開放しているトレントの狩場は、おいらが留守にした事で大変なことになってた。
 未回収で放置されたトレント本体がその辺中に転がっていて、足元が危ないったらありゃしない。
 トレント本体はとても重くて隅に退かすことも出来ないので、冒険者達は場所を移動しながら狩りをしてたって。

 それでも感心なことに、この町の冒険者達は真面目に狩りを続けていたとみられ。
 最近、王都の新たな交易品になりつつある『ハチミツ』、『砂糖』、『メイプルシロップ』が品薄になることは無かったみたい。
 冒険者達を更生させるために、研修を施し、王都のすぐ横にトレントの狩場を設けた訳だけど。 
 トレント狩りで一財産築く冒険者が現れると、みんな、こぞってトレント狩りに勤しむようになったんだ。
 そのため、三種類の甘味料は今までの何十倍も供給されるようになって。
 宰相なんか、甘味料が値崩れするんじゃないかと心配していたの。

 ところが、幸いにしてそうならなかったんだ。
 従来、数少ない真面目な冒険者が細々とトレントを狩っていたんだけど。
 その頃は地産地消で、冒険者は最寄りの町の商店に卸し、地元の人向けにしか販売してなかったの。
 そんな状態で流通量が何十倍も増えたら、ドンと値崩れするんだろうけど。

 幸い、この王都は港町。
 タロウのギルド『ひまわり会』に狩場の管理を一括で任せると。
 大量に入荷できることを武器に、ひまわり会は港を訪れる他国の商人向けに販売を始めたんだ。

 どんな国でも、トレントが生息するような物騒なところに住む人なんている訳なくて。
 トレントの狩場のすぐ近くにある町や村なんて有り得ないの。
 なので、冒険者は結構な時間を掛けて狩りに出かける必要があるし、持ち帰れる量にも限界があるんだ。
 そもそも、トレントを安全に狩れる冒険者がそんなにいる訳じゃないしね。

 ぶっちゃけ、この王都みたいな場所は他には無いんだ。
 楽勝でトレントを狩れる冒険者が揃っていて、町に隣接してトレントの狩場があるなんてね。

 なので、甘味料三品は他国の商人から歓迎されて、飛ぶように売れたんだって。
 おかげで、値崩れするのを防ぐことが来たの。
 今では、王都の新たな交易品になりつつあるよ。

    **********

 そんな訳で、トアール国から帰って間もなくのこと。
 おいらは、タロウを伴なって、トレントの狩場を訪れたんだ。
 もちろん目的は、放置されているはずの大量のトレント本体の回収と…。

「マロン悪いな、一国の女王様を運搬係に使っちまって。
 流石に『妖精の泉』の水を大樽に百樽以上なんて運ぶことは出来ないからな。」

「かまわないよ。
 その半分はおいらがギルドに委託した入国管理事務所で使う分だから。
 まさか、二月も留守にする事になるとは予想しなかったから。
 置いていった分で、何とか間に合って良かったよ。」

 タロウとの会話の通り、トレントの狩場の奥にある『妖精の泉』の水を汲むためなんだ。
 万病に効くと言う『妖精の泉』の水。
 おいらは、『ひまわり会』に委託して、港でこの国に入国する全ての人にそれを飲ませているの。
 港町である王都に、他国から質の悪い流行り病を持ち込ませないためね。

 これも大量に備蓄しておいたのだけど、二ヶ月留守にしたために底を突くところだったの。
 これが足りなくなって、変な病気が流行っていたら目も当てられなかったよ。

「まあ、それもあるが…。
 相変わらず、ギルドの風呂屋が大繁盛のようでな。
 『妖精の泉』の水も、『ゴムの実』の皮も、『トレントの木炭』も。
 全部が全部、無くなりかけているらしいよ。
 アルト姐さんが帰る前に、『ゴムの実』の皮を大量に買い付けておいて良かったぜ。
 マロン、悪いが帰り掛けに風呂屋によって預けておいた『トレントの木炭』も出してもらえるか。」

 どうやら、支配人を任せているノネット姉ちゃんからせっつかれたらしい、早く届けてくれって。

「もちろん、かまわないよ。
 どうせ、水が入った大樽を届けに行くんだし。
 タロウから預かった『トレントの木炭』だからね。」

 タロウとそんな会話を交わしながら、おいら達はトレントの狩場に放置されたトレント本体を回収し。
 その後、おいら、オラン、タロウ、それにシフォン姉ちゃんしか立ち入れない『妖精の泉』に向かったよ。

 無事にトレント本体の回収と泉の水の採集を終えて、おいら達はギルドの買取所に立ち寄ったの。

「あああ! タロウ君、お帰りなさい!
 休暇を取ると言って出て行ったきり、二ヶ月も音沙汰無しなんですもの。
 私達、寂しかったんですよ。
 今までいったい何処ほっつき歩いていたんですか?」

 買取所のカウンターに座っていたギルドのお姉さんが声を掛けて来たよ。
 タロウを前にして嬉しいような、責めるような、複雑な表情をしてたよ。
 おいら達、数日前に帰って来たんだけど。
 そのお姉さんは、タロウが帰って来たことを知らなかったみたい。
 買取所には、タロウの家に下宿しているお姉さんは居ないのかな。

 カウンターのお姉さんの声を聞きつけて…。

「何々、タロウ君帰って来たの。
 今晩、タロウ君の家に行っても良いよね?
 シフォンお姉さまやカヌレは、二月もタロウ君を独占したんだら。
 今晩は、ここに居るみんなのお相手をしてもらっても良いでしょう。」

 奥の事務所にいたお姉さん達が出て来て、仕事が終わったら皆でタロウの家に行くって言ってたよ。
 今晩は眠らせないとか…。

「こら、マロンの前でなんてことを言っているんだ。
 子供に悪い影響がある様な事を吹き込むと。
 俺が、アルト姐さんにお仕置きされるんだからな。」

「あっ、女王様もいらしたんだ。
 タロウ君、ごめんなさい。
 カウンターの影に隠れて見えなくて…。」

 小っちゃくて悪かったね、どうせ、カウンターまで背が届いていませんよ…。

「ところで、俺が留守中、何も問題は無かったか?」

 話題を変えるように、タロウが問い掛けると。

「そうだ! タロウ君が帰ってきたら報告しようと思ってたの!
 誰か、この森に侵入しようとした者がいてね。
 塀をよじ登ろうとした痕跡があるの。
 それと、買取りにやって来た冒険者から聞いたのだけど…。
 この森のことをコソコソと嗅ぎ回っている人がいるみたい。」

 お姉さんの一人が思い出したように報告したの。
 他にも、門をこじ開けようとした形跡もあるんだって。

 ちなみにこの狩場は、周囲を石造りの塀で囲ってあって出入口は堅固な門が一ヶ所あるだけなの。
 実は、塀も、門も、ここが『ひまわり会』の管理区域だと知らしめるだけの意味しか無いんだ。
 本当の侵入対策は、アルトが張った『結界』で許可のある人しか入れないの。

 許可した人が操れば、馬車を入れることもできて。
 アルトが許可した『ひまわり会』のお姉さんが馬車で、王都から冒険者を連れて来るんだ。
 馬車は、『冒険者登録』をしている冒険者なら誰でも無料で乗車できるの。
 毎日、定時運行しているんだけど、冒険者登録をしてないと何人も乗車する事は出来ないよ。

 でも逆に言えば、『冒険者登録』さえしてあれば、誰でもここに入ることが出来るのに。
 一体誰が、どんな目的でこの狩場に侵入しようと言うのだろう?

「ああ、それ、私も聞いたわ。
 最近ここで、私に粉をかけてくる冒険者が居るんだけど…。
 その人が言ってたの。
 酒場で、外国の商人らしき人からちょくちょく聞かれるらしいの。
 この町の冒険者は、『砂糖』やら、『ハチミツ』やらを何処で採集して来るのかって。」

 その冒険者の話では、商人がしつこく聞いて来るものだから、王都のすぐ近くに狩場があると教えてらしいよ。
 冒険者の間では周知の事だから、話してもどうってことは無いと思っていたらしい。
 馬車の乗れば狩場の中まで連れて行ってくれるのに、わざわざ忍び込もうとする輩が居るとは思わなかったって。

 外国の商人ね…。
 正規のルートを通さないで、安く甘味料を手に入れようとでも考えているのかな?
 
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