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第十六章 里帰り、あの人達は…

第503話 みんな、偉くなったね

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 エロスキー子爵の『ラリッパ草』栽培に端を発する一連の事件が粗方落ち着いたので。
 次は、今回の事件の功労者に対する褒賞を贈ることになったんだ。

 その内容はと言うと…。

 王都の広場で王様が退位することを宣言してから数日後のこと。
 カズヤ殿下は、ライム姉ちゃんやハテノ領騎士団の面々を集めたんだ。
 今回の件の褒賞をどうするか相談するためにね。

 その場で…。

「はっ? 辺境伯で御座いますか?
 隣接するシタニアール国の貴族はその様な爵位で御座いますが…。
 我が国にそのような爵位は存在しなかったと。
 それに、今回の件で功績があったのは、騎士達で御座います。
 私に昇爵を賜る程の働きは無かったかと存じます。」

 いの一番で、辺境伯の爵位を与えると言われたライム姉ちゃん。
 昇爵してもらえる心当たりがないって顔をして、返答してたんだ。

「何を仰せられる、ハテノ卿。
 エロスキー子爵の摘発に動けたのは、ハテノ卿の告発状があればこそです。
 市井の民からの通報ならば、とても貴族を摘発することは出来ませんでしたぞ。
 働きがないと申されますが、摘発の際に快く騎士を貸して下さったではないですか。
 あの時、ハテノ卿の協力が無ければ、ワイバーン撃退は叶わなかったでしょう。
 今回の件、ハテノ卿の功績は大きいですぞ。」

 昇爵を辞退しようかと言う雰囲気のライム姉ちゃんに、モカさんが勲功を讃えてたよ。

「まこと、ハテノ卿は奥ゆかしいですな。
 ハテノ領の領主が男爵だと言うことが、そもそもおかしいのです。
 国内有数の所領の広さと経済力を持つのですからな。
 歴代の領主が、宮廷に干渉したくない、また、干渉されたくないと考え。
 敢えて、男爵位に甘んじていたことは存じておりますが。
 今回の昇爵は、何が何でも受けて戴かないと困るのです。」

 ハテノ男爵家は代々、引き籠り体質で中央の政に関心が無かったから、高い爵位を欲しなかったそうなの。
 かつて、ダイヤモンド鉱山が全盛期だった頃、ハテノ男爵家の経済力は王家を凌ぐほどだったらしいから。
 財力に加え高い地位など持っていると、王家から警戒されるだろうし。
 ハテノ男爵を旗頭として、王家に反旗を翻そうなんて輩が寄って来るかも知れない。
 逆に、高い爵位なんて持ってると、宮廷で面倒な役職を押し付けられるかも知れないしね。
 そんな、面倒なことに巻き込まれたくないので、昇爵の話があっても辞退していたらしいの。

 今回も、ライム姉ちゃん、「また、面倒なことを。」とでも言いたそうな顔をしてたよ。

「はあ、当家は男爵のままで何も不満は無いのですが。
 それでは、何か問題があるのでしょうか?」

「ええ、ハテノ卿が男爵のままでは、後に並ぶ騎士達に褒賞が出せないではないですか。
 例えば、騎士団長のエクレア嬢には子爵位を叙爵する予定となっています。
 男爵家の家臣が、子爵と言う訳には参りますまい。」

 ライム姉ちゃんの疑問に、宰相はクッころさんを子爵にする予定があることを告げたんだ。
 今回、ワイバーン撃退に活躍した騎士八人を全員貴族に叙するという大盤振る舞いだったよ。
 
「正直、モカから報告を受けて驚いているのです。
 そこに並ぶ騎士八名が、全員がワイバーンを単独で退治したそうではないですか。
 陛下を護りながら、たった八名で五十を超えるワイバーンを退治するなんぞ。
 国が抱える騎士でも不可能ですぞ。
 その功績だけで、もっと高い爵位を与えても良いくらいです。
 とは言え、貴族籍を有するのは、エクレア嬢とペンネ家の三姉妹だけとのこと。
 平民に叙爵するのは、男爵位が精一杯でしてな…。」

「皆さんの功績が認められ、貴族に叙されるのは喜ばしいことですが。
 当家に貴族八名を相応に遇するだけの余裕は御座いません。
 それは、皆さんを王家が引き抜くということで御座いましょうか。」

 今、復興途上のハテノ領にはまだまだ金銭的な余裕は無いし。
 治安維持の要である騎士を八人も引き抜かれるのはとても困ることなんだ。
 
 すると今度はクッころさんが言ったの。

「そもそも、爵位を賜ると言うことは、王家に仕えることになるのでは?
 私は騎士になりたいと言う夢を叶えてくれたハテノ男爵に忠誠を誓った身ですから。
 主君を変える気は御座いませんが。」

 クッころさんは「騎士を夢見る乙女の会」なんて妙ちくりんな集まりを主宰していたからね。
 モカさんから、「騎士になりたいなんて子供みたいな事を言ってないで早く嫁に行け」と常々言われたそうなんだ。
 そんなクッころさんの夢を叶えてくれたのが、ライム姉ちゃんとアルトだから殊更に忠誠心が強いんだ。

「二人とも、心配することは無いぞ。
 今回、貴族家を八十九も取り潰しておるのでな。
 知行地が大分減って、宮廷の予算に大分余裕が出来た。
 今回叙爵する八名には爵位に応じた知行地を与えることにする。
 また、男爵家では殆ど無かろうが。
 公・侯爵家では家臣が貴族であることも間々あるし。
 王宮で無役の者が、職を求めて貴族に仕えることも認めておる。
 八名の騎士は今まで通り、ハテノ卿に仕えるが良い。」

 宰相が二人の不安を払拭するように説明したの。
 貴族として遇する分の費用は知行地から出るから。
 ライム姉ちゃんは今まで通りの俸禄を支払えば良いって。

      **********

 そこで、宰相に変わってカズヤ殿下が言ったんだ。

「宰相から説明があった通り、騎士八名に叙爵する関係で。
 ハテノ卿には、昇爵を受け入れてもらわねば困る。
 子爵が男爵家に仕える訳にも行かんからな。
 して、先程尋ねられた辺境伯の新設であるが…。
 ハテノ領に南西部辺境地域の守護を託すこととする。
 爵位の上では伯爵だが、隣国に倣って侯爵待遇とし。
 また、独自の判断で騎士団を組織する権限を与える。」

 シタニアール国では、辺境伯に国境守護の責任を負わせる代わりに、自由に騎士団を組織する権限と侯爵並みの待遇を与えているそうだよ。

 今、ハテノ男爵領は、ダイヤモンド鉱山の復興と共に騎士団の増強に迫られているらしいの。
 ダイヤモンド鉱山自体の警備もそうだけど、街道の往来が増えているので巡回警備を増やす必要があったりして。
 でも、通常、領地の騎士団を増員しようと思うと王宮の許可が必要になるんだって。
 以前モカさんに言われてたけど、男爵領ではこれ以上の騎士団の増員は難しいらしいよ。

 でも、新設する辺境伯は、王宮の承諾なしで独自に騎士団の規模を決められる権限を持つんだって。
 これからは臨機応変に騎士の増員が出来るってことだね。
 それに、南西部辺境地域の守護を託すと言っても、今までもしていたことなんだよね。
 今までは領地を護る必要から自発的にしていたことが、正式にお役目となるの。

 そして。

「辺境守護の職責に対する報酬として。
 伯爵相当の知行地を与えると共に、この王都に屋敷を下賜することとする。
 下賜する屋敷も決まっておるぞ、五十年前ハテノ家が手放した屋敷だ。
 今回取り潰した伯爵家が買い取って使っておったので、すぐにでも使えるぞ。」

 今まで、王宮は辺境守護に関してハテノ男爵家にただ働きさせていたんだけど。
 正式に職務とする事により、適正な報酬を支払うことにしたんだって。
 これも、取り潰した貴族家に与えていた知行地を転用するらしいの。
 しかも、お家が傾いて来た時に真っ先に手放したと言う別邸がタダで帰って来たよ。

 八十九家も取り潰して私財を没収したからね。
 ライム姉ちゃんやクッころさん達へ褒賞を与えても、大分お釣りがくるそうだよ。
 因みに、八人の騎士にも王都の屋敷が下賜されたの。
 ワイバーンを撃退した報酬としては安いモノだと、宰相は言ってた。

       **********

 そして、今日、褒賞授与の式典が催されたの。
 正装したライム姉ちゃんが辺境伯に昇爵された時は、お義父さん、お義母さんが凄く喜んでいたよ。
 やっぱり、国王夫妻の息子が婿に行った先が男爵家ということを気にしていたのかな。

 ライム姉ちゃんに続いて、クッころさん、ペンネ三姉妹が子爵を叙爵したんだけど。
 その時は、会場は平然としていたの。この四人は元々名門貴族家の生まれだったから。

 ただね…。

「カズミ・ド・ツチヤ。
 ワイバーン撃退及びその際の国王陛下護衛に関する特別な功労を称え、子爵に叙する。」

 宰相から、カズミ姉ちゃんの叙爵の理由と爵位が告げられ。
 カズヤ陛下の前に歩み出たカズミ姉ちゃんを目にして、式典の参列者にどよめきが起こったよ。
 聞きなれない家名に、カズヤ殿下そっくりの黒髪だものね。
 加えて、平民の出自の他の三人が男爵なのに、カズミ姉ちゃんだけが子爵だから。

 ワイバーンの襲撃があった際に、カズヤ陛下を庇いながら戦ったこととか。
 それ以前に、魔物の襲撃を受けた際に、一人で退治して多大な生命の欠片を献上したとか。
 宰相は爵位が一つ上の理由として真実を述べてたけど、誰も信用してなかったと思うよ。

 みんな、カズミ姉ちゃんが国王陛下と特別な関係に有ると考えたと思う。
 それを口に出すような、迂闊な人はいないけどね。

      **********

 今年一年、この作品を読んで頂けた皆様に感謝申し上げます。
 今年の投稿は今日までとさせて頂きます。
 新年は七日より投稿する予定にしております。

 本当に有り難うございました。
 皆さま、良いお年をお迎えください。
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